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第1話 混乱の中で

次の瞬間、目の前に化け物がいた。

気色の悪いカラスのような化け物が私の目の前にいたのだ。

さっきまで画面上で相手をしていたモンスター『フレスヴェルグ』に似ている。

相手は瀕死の重傷で、それでも必死に攻撃を仕掛けてきた。

さっきゲーム内で付けた傷だ。


訳がわからない。


何故自分が狙われている?


そもそも俺は部屋の中にいたはずで、こんなに深く不気味な森は見たことすらない。

そう、この魔の森『月影に落ちた水面』なんて現実にあるはずがない。

MMORPG12連世界の”赤の世界”にある森なんて。


私の身に起こったあらゆる事が理解の外だ。


だから私は、歯向かって来る死に損ないの頭をつかんで握りつぶした。


驚きに言葉も出なかった。


何故、冷静にモンスターの頭を握りつぶすなんてことができたのだろう?


いや、今考えるべきことはあの呪文をもう一回使ってはどうかということだ。


もしかしたら、元に戻るかもしれない。

いや、それでこんな状況になったのだから、それを使えば元通りになるはずだ。

確信と言うより、すがるような気持ちで、『奇異なる奇怪な移界書』を取り出しページをめくる。

一度覚えた魔術は別に魔道書を見ずとも使えると言うのに、違和感も覚えずに。


「が......aa?gい......gうaっ」


人間世界において、発声されるべきでない呻き声が私から漏れる。

ぐらり、と頭が揺れた。

何かおぞましいものが頭の中で暴れ狂っているような感触だ。

まるで、脳の中に悪い虫でも寄生したかのような。

本能で理解した。


―これは、拒否反応だと。

だとするのなら、納得がいく。


書を見るのに拒否反応が起きたのなら、当然魔術の言葉も頭が拒否反応を起こして私から零れ落ちてしまっているのは、むしろ当然。

そう、理論的であるようで、実は完全に論理を無視した結論を下す。

そもそも、魔道書が何なのかさえ私は知らない。

だから、何故そんなことが起こるか理解できるほうがおかしい。

だから、私はおかしくなってしまった。


とりあえず、そこらへんの樹に腰掛けて状況を整理しよう。


俺は、家でゲームをしていたはずだ。

そして隠しボスが落とした魔道書の呪文を唱えたら、俺はゲームキャラになっていた。

そして、混乱の中で冷静にモンスターを処理した。

今は状況を整理しているところだ。


やはり、おかしい。

今の私には混乱はあっても、恐怖はない。

モンスターが闊歩する魔の森にいるのに、生命の危機を感じて錯乱しないのはおよそ正常な反応とは言い難い。

そして、私―ルシフェレス・ファフニル・イラ―としての記憶は完全に私の中にある。

それどころか、俺の行動はルシフェレス・ファフニル・イラとしてのものだ。

向かってくるモンスターの頭を握りつぶすことは、ルシフェレスにとってはなんでもないことだ。


しかし私は、この世界に来る前の「俺」と、もともとこの世界にいた「私」で人格を分けて考えている。

おかしなことに私は、「俺」だと思いながら「私」として今ここにいる。

もともと接点すらない「俺」と「私」が共存なんてできるものか?

それができているからこそ、今ここにいる私は狂っていないのだろう。

―とんだ狂言回しだ、くだらない。

今の自分の人格がどうなっているかなど、何処の誰が興味を抱くと言うのだ。




そもそも、俺には異形に立ち向かう勇気はない。

異常事態に際して、冷静に判断できる判断力もない。

いきなり家から離されても不安にならない胆力もない。

自分の強さを信じられる精神力もない。


それを言ったら、俺の髪は長くもなかったし銀色でもなかった。

すらりとしたスレンダーな体でもなかった。

はっきり言って、俺はこんな美形悪役貴族っぽい容姿ではなかった。

さすがに、朱に魔方陣が刻まれた瞳はファンタジーすぎる。


状況から見たら、ルシフェレスが魔法で俺の記憶を得ただけのはずだが、感覚的にはゲームをしていた俺の意識がプレイヤーに入ったとしか思えない。

私が俺の記憶を得たにしても、俺の意識が私の意識を浸食したのはありえない。

そこまで私の意識は脆弱なものではなく、俺の意識は脆弱に過ぎる。

そもそも、戦闘をすることができた時点で俺の意識のままということはない。


1人称が俺とは、とてつもなく違和感を感じる。

やはり、私の意識と俺の意識が混ざって、俺の意識が前面に出ている状態か。

しかし、行動そのものは私の―ルシフェレスのものだ。




とりあえず、イラの本家に戻ろう。


戻れば何かわかるかもしれない。


帰るべき家が、前の世界ではなくこちらの世界にあると言う意識がある時点で、いろいろ手遅れな気もするが。



「ん?」


<ギャアアアアアアアアアアアアアアアア>


すさまじい叫び声を上げてモンスター『フレスヴェルグ』が襲い掛かってきた。


相手は3匹。

それも鳥型ですばやく、浮いているため攻撃を当てにくいモンスターだ。


手強いとは言えど、所詮はただ『シャドウ・スラッシュ』で突っ込んでくるだけのモンスター。

恐怖など、あるわけがない。

ただ影の斬撃と名を冠した技を使うだけあって、とてつもない速さを誇る。


何と言ってもレベルは相手のほうが上。

3匹で囲まれて襲われたら死ぬ。

もし急所に攻撃を喰らったらHP全快状態でも即死する。


私は、3方から襲い掛かるうちの一匹に突っ込み手のひらを前に出す。

そして魔法陣を、もう片方の手のひらの上に出す。

直接魔法陣を書かなければいけない低レベルの時期は、遥か昔に過ぎた。

今では、意識するだけで出せる。

それでも相手の鳥の攻撃のほうが早い。


鳥はそのまま突っ込み、くちばしで手を抉り、頭を狙う。

だから私は抉られた手で、鳥の攻撃をそらす。

と、同時に魔法が完成する。


『虚ろなる月の加護』


闇属性強化魔法で攻撃力を強化、ついでに通常攻撃に滅びの属性を付加する。

抉られた手で鳥の頭を動けないようにして、胴体を思い切り殴りつける。

限界まで上げたstrのおかげで一撃で殺せた。

鳥は吹っ飛びながら、滅びの漆黒に侵されぼろぼろと消滅してゆく。


だが、安心などしてられない。

2体がそのまま突っ込んでくるのは、避けようがなく、防御も不可能。


その逆境に際し、ニヤリと笑う。

どうやら私は戦闘狂の資質があるらしい。


まず、鳥のうち一匹をむかい撃つ。

異常な攻撃力を頼りに、突進の勢いごと殴り殺す。

腕が砕けた。


で、残りの一匹の攻撃はどうしようもないので受ける。

とてつもない衝撃が走り、命が削られた感触を感じる。


「ごふっ」


血の味を口の中に感じる。

しかし、血の味に恍惚ともしてられない。


<ギャアアアアアアアアアアアアアアアア>


樹に着地し、恐れなど感じてないかのような突進をただ繰り返す鳥の上に跳躍し、蹴りを思い切り振り下ろす。


<ギ?ギィィィィィィィィ>


戦闘終了。

死にそうなほどのダメージを負ったので、急いでポーションを飲み干す。


怪我などは治ったが体力のような、もっと大事な何かは回復していない。

さすがにゲームとは違い、無限に回復などはできないようだ。

そもそもポーションは劇薬で、多量に摂取すれば死ぬ。

副作用もある。

さすがに疲れた。




鳥の死体を見てみると消えていた。

死体は霧散し、ドロップアイテムだけが残る仕様らしい。

死体剥ぎをしなくてすむのは助かるが、モンスターを倒してもあまり多くの素材は取れないらしい。


アイテムを回収して立ち去る。

ゲーム内では一度に相手にできるモンスターは5体までだが、ここではそんな縛りはない。

視界に納まらないほどの数の敵と戦った記憶もある。


戦いの感触をつかむにも、システムの再確認をするためにもここからは離れたほうが良いだろう。

今の私のレベル上限は200で、ここの敵の最低レベルが200だから命を落とす危険が大きい。


全力で疾走。いや、跳躍して森の出口を目指す。

森自体が深すぎて、ほとんど敵と遭遇しない。


上には恐ろしい気配を放つモンスターが多数存在し、その上馬鹿みたいに大きいモンスターも山ほどいる。

それの全部を回避できるルートを探し、走り抜ける。




それでも、何匹かのモンスターとの戦闘を避けられなかったが出会い頭に強襲し、殲滅した。

今ほどstrを上げまくったことを感謝したことはない。

何より圧倒的な力を持つモンスターを、さらに上級の力で叩き潰すのはこの上ない快楽だ。


「くくく。あはははははははははははははははは」


叩いて、潰して、蹴り壊す。

もはや、森から出ることはもちろん、気配を殺すことも忘れて楽しんでしまった。

アイテムを拾うことも忘れたのは、さすがにどうかと思った。


それでも確実に森の出口に近づいていったのはさすが私だ。




「ふう」


森から出たのは二日後だった。


「一体何をやってたんだろうな?私は」


決まってる。モンスターの殲滅だ。

意味もなく殺しまくった。

モンスターなのだから気にかける必要もないがモンスターは殺すと、どこからともなくぽこぽこと生まれるのでやっぱり意味はない。




しかし、私は二日間も殺し続けた。

そう、殺すこと以外は、ポーションを飲んだだけだ。


ポーションには腹を膨らます効果があるのか、そんなことあるはずがない。

ポーションにはのどを潤す効果があるのか、そんなことあるはずがない。

ポーションは食物や飲み物ではない。


だから、腹を減らすことも、のどが渇くこともなかったのは、私自身の特性だ。

私の記憶をたどってみると、飲み食いをしなくてもよくなったのは160レベルになってからだ。


飲み食いをしなくてもよいのは便利だ。

そして、味を感じることもできる。

食べたものは、魔力になったりなどせず消えるだけだが。


非常に便利な体だ。

この体で過ごしてみると、いかに人間の体が脆く、不便なものであるかわかる。

この体のスペックは二日間で満喫させてもらった。




さて、ここに『転移符・大罪』というものがある。

単純に今いる世界の設定されてる場所に転移できるアイテムだ。

これに設定されている場所は一つだけ、私の所属する大罪の国だけだ。

まあ、説明など要らなかったかもしれないが。


金は有り余るほどに持っているので、このような大貴族しか持ってないようなアイテムでも気軽に使用できる。

私自身が大罪の国最大の家の当主だが。


それはさておき、転移符の使い方は簡単。

「転移」

と唱え、符を破るだけだ。


さて、一度も行ったことのない故郷への帰還だ。

主人公はちょっと調子に乗り過ぎですね。

最強と言うより都合が良過ぎな体ですね、これでは。

さて、私の駄文に付き合ってくださる方はどの位いますか?

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