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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
4章 滅び行く世界
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第33話 緑の世界

「さて、シシュフォスを追いかけたいが…」

「どこにいるのかわからんのう」


悩むのならば3人とも私の嫁にしようと決めたのだが、生憎シシュフォスの居場所はわからない。

彼女を探すのならば――


「他の世界に行く。あいつのことだ、巨大な脅威を見て笑っているに違いない。ここの脅威は消えた。ならば、他の世界に行くしかあるまい」

「むむ、そうは言ってものぅ。他の世界の情報なんぞ入ってきてるわけがなかろう。全部推測ではないのか? その脅威とやらの確信だってないんじゃろ?」


推測、か。

まあ、全てが机上の空論でしかないのは確かだ。

おそらく他の世界には巨大な脅威が発生しているだろうと予測しているが、別にそういう情報が手に入ったわけではない。

言ってしまえば、紅の世界があんなことになったのだから他もそうなっているだろうとの悲観。もしくは【原初の書】に与えられた情報。

そんな頼りないものが根拠だ。


「だが、他の世界に行く必要はある。命を危険にさらすつもりはないが、調査は必要だ」

「それもそうじゃな。知っているのと、知らないのとでは大きく差があるのじゃ」


決まりだ。

マレフィと睦んでいた間に他のメンバーも到着しつつある。

これから我々は他の世界へ調査に赴く。




「さて、来たか」


揃ったメンバーを見渡す。

どいつもこいつも戦い足りないって顔だ。

主に雷帝だけだが。

雷帝には何のダメージもないように見える。

愚者の翼には元々ダメージは入っていなかった。


「これより他の世界の調査に赴く」


拒絶は許さない。

雷帝と愚者の翼に命令する。


「お待ちください」


そこに声が差し込まれた。


「貴様は――、その気配絶ちから推測するに…ラクスリア家の者か。何用だ?」

「は。イラ様につきましてはご機嫌麗しゅう――」


相変わらず大した気配絶ちだ。

暗殺や情報収集に特化した結果、闇に潜む術を得たか。

半径数mに入ってくるまで全く気付かなかった。

これで実力は下の方。怖いね、とても。


「貴様も大罪の7家の人間なら、己が本分のみを第一とせよ。同じことを2度言わせるつもりか?」

「は、申し訳ありませんでした。ラクスリア様がイラ様とのご会談をお望みです」


会談、ね?

話すべきことは多かろうが――


「生憎と私は一々大罪の国に戻ってゆっくりと会談する暇はない」

「は、その件につきましては、こちらで処理いたします。具体的には、今ここで通信を行います」


ほう、通信か。

私が知っているものは極短時間でしか使えないはずだが、ラクスリア家秘蔵の道具を使ってきたか。

ならば私に反対する理由はない。


「良いだろう、繋げ」

「は、準備は直ぐに終わりますのでお待ちを」


いや、ゆっくりやってもらって構わない。

私も少しやることがある。


「『愚者の翼』尾の世界へ行け! 『雷帝』は焔の世界だ! 二人とも情報収集に努めろ。両名には送声符を持たせる。通話に出ない場合は死亡したとみなす。情報収集くらいはこなしてみせろ」


二人を先に異世界に送り出す。

大罪の国の情報網の全てを握るラクスリアとの会話を聞かせたくない。

こんなところで大声で話しておいて今更、と感じるかもしれない。

が、可能性は狩れるだけ狩るに限る。

情報収集に使える時間も長いほうがいい。


「了解」

「へ、了解っとォ。ぶっ飛ばされないうちにいくとすっかァ」


一人は言葉少なに、もう一人はボヤキを混ぜながら出発していく。

2人の情報収集能力に期待はしていない。

世界を揺るがすような大事件だけ調べてもらえれば良い。



丁度あちらの準備も終わったようだ。


「お久しぶりですね、イラ。早速ですが、本題に入らせていただきます。これを維持するのも楽ではないので」

「良いだろう、聞け。なに、気にするな。同じ大罪の7家当主だ。無礼講で行こう」


てっきりスクリーンが映されるものと思ったが、声だけだ。

はっきり言ってしょぼいが、機能はそれだけで十分。

ただ目の前の女を見る限り、それでも負担は大きいようだ。

それも当然。

莫大な資金がいる転移符と同程度に金をかけて作られる送声符でさえ、一言二言が限界なのだから。

携帯機能の再現は想像を絶する程に難しい。


「では、あの山は討伐されましたか?」

「ああ、討伐された。アレによる被害はもう起こらない」


山とは、邪神だ。巨大すぎたので他に形容できなかったのだろう。変に修飾語くっつけて名称を長くもできない。

実際に討伐したのは『勇者』だが、聞く必要があれば聞くだろう。

された、と言ったのを女狐が聞き逃すはずがない。

そして、新しい災害が起こるかもしれないというのは既に知らせてある。

わざわざ今ここで危険性を指摘するまでもない。

だから、アレそのものは終わったという事実のみを言った。

ラクスリアの負担を減らすためにも、情報は極限まで絞り込んで、それでも必要なものはきっちりと話しておかねばならない。


「『破滅』はどうなりましたか?」

「彼女も倒された。神々も全滅した。他は知らん」


そっけないが、言葉は飾らない。

エリスは倒されたものの、志を同じくする第2第3のエリスが出てこないとも限らない。

心当たりがないが。


「影響は?」

「無い」


彼女が何かしていた可能性もある。

が、私はそんなもの知らない。

そして、わずかに開いた“死滅狂衰の門”の影響は無視できるほどに小さい。

シシュフォスがそうした可能性もある。

しかし、それは完全に蛇足だ。

とりあえず、もう私は彼女たちについてラクスリアに言うべきことはない。


「予定は?」

「他の世界の調査だ。まずは緑の世界」


これが予定。

他に言うべきことはない。


「後はその子に、では」


そう言い残して返事も聞かずに切られた。

当然、私は無礼であるとも思わなかった。

通信にはリスクがあるので、できるだけ短くする。

感心を覚えこそすれ、憤慨を覚える訳がない。


「さて、追加事項を聞こうか」


かなり消耗している彼女に同情を抱くこともなく詰問する。

今の通信による消耗で、まともに立てなくなっただろう。

立ち上がろうとするのを制して、そのまま話させる。


「イラ様に寝そべったまま話しかけるわけには――」

「良い。私が許可する。そのまま話せ」


とは言っても、消耗した体で健気に立ち上がろうとする。

私はできないことを要求するつもりはない。

それよりも、今は彼女が持っているラクスリアの伝言を聞くほうが重要だ。


「は、ではこのまま失礼して。特別な“送声符”をお持ちいたしました。これは他世界への通信を可能とする符です。消耗するのは送る側なので安心してお持ちいただけるかと思います」

「ほう、これが。緊急時の情報交換手段が欲しかったのだが、諦めていたところだ。ラクスリアめ、良い仕事をする」


すぐに地面に落ちそうな手から、符を受け取る。

願わくば、これが使われることのないように。

これが使われるとしたら、大罪の国が危機に陥っている時だろうから。


「帰るための手伝いは必要か?」

「いえ、イラ様の御手を煩わせるまでもありません。帰還手段は用意してありますので、イラ様が私ごときを気に止める必要はございません」


「そうか。達者でな」

「は、ありがとうございます……ありがとうございます」


泣いている。

それほど当主に気遣われたのが嬉しいか?

大罪の国では当主は神様扱いだからな。特に私は。



「で、シシュフォスのことは言わずともよいのかの?」

「…言う必要も時間もない」


半分嘘だ。

言った方が良いのは検討するまでもない。


「なぜ隠した? 負けたのを言うのが嫌だったか?」

「それもある。だが、ラクスリアが無粋な真似をしてくる恐れがあったからな」


敗北を告白するのを躊躇しない男はいないだろう。

しかし、それよりも問題はラクスリア。

人質などの妙な真似を試みる危険がある。

あいつにそれは逆効果だ。




さあ、緑の世界へ急ごう。

あそこが落とされているとなると大変だ。

水鏡の国や審判の国などより、余程付き合いの深い国がある。

彼らにとって、国という概念はないだろうが。


緑の世界にはドワーフやエルフという武具に精通した亜人がいる。

彼らには武具を作るときによく世話になった。

モンスターが落とすこともあるが、それは確率が低いので期待できない。

私としては恩を返すのはやぶさかではないし、彼らには質の良い武具を作り続けてもらわねば困る。

何せ人間の作る武具といったら、粗雑なものがほとんど。

それに比べ彼らは素材さえ集めてくれば伝説級の武具すら作ってくれる。


武具は使えば壊れるのだから、腕の良い職人は1人でも多く必要だ。

彼らに救うことに関して、ここまで後手に回ったのが悔やまれる。

致命的な事態に陥っていないと良いのだが。


さて、いくらか話をしたこともある彼らは無事だろうか。

そんな思いと共に“門”をくぐる。




「な、なんじゃアレは?」

「……」


私の後ろには口が開いたまま閉じれないマレフィとリリスがいる。

目をまんまるく開けて、これ以上なく驚いたと全身で表現している。

私も普通の精神状態であれば、2人の可愛さも堪能できただろうが――


「…とんでもない、な」

「え、えーとぉ。アレ、どれだけでかいんじゃ?」

「…でっかい」


それぞれの言葉で感嘆する。

もはや巨大という言葉ですら表現できないほどの巨大さ。


「アレにたどり着くまでは、さて、何日かかるか…」

「む? マレフィたちならそこまで時間は掛からんじゃろう。本気を出せば100kmや200kmなどちょろいものじゃ」


それが遠近法の怖いところだ。

遠近法とは、近いものは大きく、遠いものは小さく見える現象というだけなのだが。

遠いものが桁外れに大きかったとすれば、どうだ?

それも緑の世界は汚染物質に汚染されておらず、空気は澄み切っている。

そんな中であれば、遠いものが近くにあるように思えてしまう。


「違うさ。地面を見てみろ。この世界には深い森はあっても、山岳はない。アレは余りにも巨大すぎて近くに見えているだけだ。おそらく1万kmは離れている」

「そんなにもか!? ううむ、不思議じゃ」


この世界は球状ではなく、平坦だ。

だからどんなに遠くであろうと見える。地平線に隠れるようなことはない。


「アレの全長は数kmくらいか?」

「いや、マレフィにはスケールが違いすぎて何もかも全くわからん。アレの射程距離は何kmくらいあるのじゃ?」


やれやれ、まさかこんなことになっているとは。

しかし不幸中の幸いだ。

生活圏が巨大兵器の存在する場所ほど深いはずがない。

懸念していたエルフやドワーフたちの全滅はどうやらありそうにない。


「100kmは射程距離を持っていそうだ。さて近づくのにも、いや距離を詰めるのも苦労しそうだ。どうしたものやら」

「あー。マレフィに聞かれてもなぁ。ま、ルシフェの好きにすると良い。どんなことでも付き合ってやる」


これからどうするか、それが問題だ。

この距離だと妨害なしでも一日二日では済まない。

この世界に何日も関わっている暇はないのだが。


「…誰か見ているものがいる」

「む、本当じゃ。というより、どうして気付かなかったのじゃ? こんなにあからさまだというのに」


アレを見て呆気にとられていたからだろう。

それで警戒を解いてしまうとは、我ながら情けない。


「で、何の用だ? エルフ共。話があるのなら、ひざまついて頭を垂れろ」


下手に出て得することは何もない。

なら、最初から思い切り上から見てやろう。

この私であれば許される。


「我々森の民はあなたの僕ではありません」


エルフは自らのことを森の民と称する。

ドワーフであれば土の民であるが。

まあ、両名とも私の支配下にないことは事実だ。


「そうか。なら、私が助ける義理はないな?」

「…それは、あまりにも酷すぎませんか?」


素直だな、思わず苦笑が漏れてしまう。

人間だったらこうはいかない。

戦争の国で詭弁を弄する人間の厄介さには、こりている。


「君たちが滅ぼされると困るのは事実ではある。が、私は目的のためなら溺れる人間を見捨てることができる人間だ」

「貴方はそういう人間でしたね。我々にできることなら何でもすることを約束します。ですので、力を貸してください」


何でもする、ね。

これがエルフだ。

人間が同じ約束をするといった場合、初めから踏み倒す気で頼んでいる。

もしくは片手間にできる程度のこと――例えば感謝する、くらいしかやらない。

これは経験則だ。

何でもするからと言うので魔物を倒してやったら、感謝の証の像を建てるので村の宝を持っていくのは許して欲しいと言ってきた。

もちろん後で秘宝は報酬として奪ってやったが。

確か、あの村は”異宝の境界”という名前だったか。

まあ――


「君たちなら、その言葉を信用してもいい。エルフは約束を反故にはしない種族だから。で、アレを倒して欲しいということだろう? 来たばかりの我々には情報がない。だから話せ、お前らの持つ情報を」

「は、はい。ありがとうございます。では――」


最初に言っておくと、エルフのもつ情報も大したことがなかった。

一番の朗報は、死亡したのはアレとの戦いに挑んだ戦士だけだそうだ。

私にとって最も必要な職人や施設は無事だったようだ。

今はまだ射程距離圏内にないというだけだが。

しかし都合が悪いことにアレはこちらに向かって侵攻している。

とてつもなくゆっくりと、しかし確実に。

村が射程圏内に入ったら最後、原型をとどめなくなるまで砲撃が繰り返される。


ルシフェレスの言う人間とは貴族、それも他国のです。ルシフェレスは農民や市民とは関わりを持っていません。そんなわけで、作中の偏見を持ちました。

以前に書いたと思いますが、作中の地球は(地球ではありませんが)縦に長く横に短い平面構造です。宇宙はなく、星空は絵でしかありません。それが12個で12連世界。ちょっとしたおさらいでした。

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