第28話 勇者による勇者のための邪神の倒し方
僕はアマテラス。
異名は『勇者』なのですが、そう呼ばれるのは好きではありません。
...僕自身を見てもらえていないような気がするから。
勇者という運命は預言者と名乗る人から聞きました。
その人はフードをかぶった神秘的な人でした。
素顔を覗こうとしてみたことが何度かありましたが、いつも影になっていて見えませんでした。
本名すら謎の人です。
とにかく、その預言者と名乗る人に従って“星の丘―ヴァイス・スター―”に行きました。
勇者として人々を守る力を手に入れるために。
そこで僕は黒い人に出会ったのです。
その人も名前を教えてくれませんでした。
黒い人は滅茶苦茶でした。
いきなり剣をよこしたと思ったら、殺気を放った上にかかってこいなどと。
勝手についてきたヘレネスさんも、殺気を受けただけで死にそうになっていました。
あ、この後ちゃんとヘレネスさんは立ち直れました。
僕はヘレネスさんを守るために必死になって剣を拾って黒い人に一撃を放ちました。
不思議なことにその人はよけませんでした。
何故かと聞いてもはぐらかされるばかり。
よくわからないうちに、その人は剣を残して消えてしまいました。
その剣には今でもお世話になっています。
それからはその”光滅剣―ライト・ノヴァ―”を使って人助けをしていました。
当然その内容には戦闘も多く含まれていたので、パーティのレベルも飛躍的に上がりました。
現在の僕のパーティは僕は95レベル、なぜか僕についてきてくれた貴族の令嬢イアフ・ヘレネスさんが78レベル、幼馴染のイリィ・ テイルシアが112レベル、妹のロシュリー・ フェセトが97レベルという具合になっています。
僕たちはまだまだ冒険者としては駆け出しです。
一人前となるには100レベルになることが条件と言われていますから。
僕たちの物語はまだまだ始まったばかり。
これからも頑張っていこうと思います。
「お兄ちゃーん! ご飯できたよー」
ああ、ロシュリーが呼んでいます。
もう朝ごはんの時間ですか。
皆も起き始めたようです。
「おはよう、ロシュリー、イリィ。それと、ヘレネスさんもおはようございます」
挨拶します。
やはり、挨拶がないと一日が始まった気がしませんから。
「おはよー。お兄ちゃん」
「はよ、アマテラス」
「おはようございます、勇者様。それと、私のことはイアフとお呼びくださいと…...」
みんなも挨拶を返してくれる。
ヘレネスさんはいつも僕のことを勇者と呼ぶ。
止めて欲しいけれど何度か言っているうちに諦めてしまった。
僕も貴族のヘレネスさんを呼び捨てで呼ぶことができないから、あいこかなと思っていますし。
今日も今日とて、和やかに食事が進みます。
そういえば、昨日も僕が誰と寝るか喧嘩していました。
野宿だから男が近くにいたほうが安心できるのでしょうが、男の人と女の人が近くで寝るのは良くないと思うのでいつも丁重に断っています。
……ロシュリーとイリィの方が強いですし。
もらってから愛用しているライト・ノヴァにはステータスアップ効果はないようです。
そこは少し残念なのですが、どんな硬い装甲でも紙のように切り裂ける攻撃力は重宝します。
そのおかげで僕は強い敵を倒したり出来ています。
それなら、もっとレベルは上がっていてもいいと思うのですけど……
けれど、この武器のおかげで街を襲うモンスターを退治してこれたのです。
冒険者協会からの報酬は適正なのですけど、人から直接受けるクエストは実入りが少ないのが現実です。
悪いときには朽ちた武器を渡されて報酬だと言われることもあります。
だから人から直接クエストを受ける冒険者はほとんどいません。
そのためにギルドがあるのですから。
けど僕は困っている人を見捨ててはおけないので、そういった割に合わないクエストも多く受けてしまいます。
赤字ばかりで、このパーティの財布をにぎるイリィには申し訳ないです。
ヘレネスさんの好意で、装備は良いものを使えますが。
男としては、情けない限りです。
あまり反省をしていても仕方ないので、クエストに精を出すことにしましょう!
皆も仲良く談笑しているようです。
そうやって和んでいると――
「お願いじゃ! 助けてくれ」
いきなり泣きつかれてしまいました。
泣きついてきたのは、えっと、小さい女の子。
横にはお人形が付いています。
現実味がないほどに美しく、まるで妖気を放っているよう。
……迷子かな?
「えっと、君の名前は? お母さんとはぐれちゃったのかな?」
取り敢えず、そう聞いてみる。
「お兄ちゃん、それはないよ」
「アマテラス、馬鹿じゃないの?」
「勇者様、それはちょっと」
皆に否定されてしまった。
何がいけなかったんだろう?
「詳しい話を聞かせてもらおうかしら。その前にアンタと、横にいる奴の名前もね」
横にいる奴? イリィ、何を…あれは人形じゃ……
あれ? 生きているのですか。
しゃべらないから、人形かと思ってしまいました。
そっちの彼女も幼いながらも非現実的に美しい――まるで人形のように。
「マレフィの名はマレフィ。『魔女』マレフィキウム・ヘクセ・ウィッチクラフトじゃ。で、こいつは『吸血神祖』リリス・ツァバト・ルマニア。主にその剣をくれてやった『最強』ルシフェレス・ファフニル・イラの仲間じゃ。今回はお主たちの力を借りたくて、ここまで来た」
聞いたことがあります。
200レベルを達成した化け物のうちの3人。
敵国のことはほとんど知りませんが、彼女たちの名前くらいは知っています。
世界征服を企む魔王だという噂も。
この”光滅剣―ライト・ノヴァ―”はそんな人から託されたものだったのですか。
「それは都合が良すぎるのではありませんか? 武器を渡したから協力しろなどとは」
「いいえ、ヘレネスさん。あの人は僕を信じてこれを託してくれました。僕はあの人を信じたい。僕に協力させようとするからには何か大きな理由があるはずです」
僕に向けたあの殺気、今思い出しても震えが止まらない。
そんな人が僕に頼み事をするのだ。
何か重大な事件が起きたに違いない。
「主ら、気付いておらぬのか?」
マレフィさんは怪訝な表情をする。
何かおかしなことでもあったのだろうか。
皆の方を振り向いてみるも、首を振られる。
誰もおかしなことを分かっていないようだ。
だから聞いてみることにする。
「何かおかしなことでもあったのですか?」
「む、この空気。これは――? いや、今はどうでも良いことじゃったな」
なにやら悩んでいる様子。
何かあったのだろうか?
「えっと......」
「あちらの空を見てみよ」
見てみる。
黒く染まっている?
これは......雲かな?
「あれは邪神が放つ瘴気じゃ」
「邪神?」
雲じゃないのですか。
それにしても、遠いです。
邪神なんてモンスターがいるなんて聞いたことがありません。
けど、空を黒く染めるなんてまるで御伽話の魔王ですね。
「奴を倒さねば世界は滅ぶ。そう、ルシフェは言っておった」
「世界が......」
そんな大変なことになっているのですか。
僕としてはなんとかしたいのですが、まずはみんなの意見を伺ってみないと――
「誰がそんなこと信じられるのよ?」
「そうだよ、いきなりそんなことを言われても対応のしようがないよ」
「それに、あなたは闇人でしょう。敵国の人間の言葉を信じられる訳がありません」
あれ?
皆は否定的だ。
でも、僕はこの子が嘘をついているようには見えない。
ここは僕がフォローしてあげないと。
「皆、信じてあげようよ。今こうしている間にも大変なことになっているかもしれないんですよ」
「ちょっと、アマテラス。その手で何回ただ働きさせられてると思ってるのよ?」
うぐ、それを言われるときつい。
非常事態だとモンスター退治をさせられて、終わったら村にはお金がないから払えないと言われたことは1度や2度の話じゃない。
でも、仕方ありません。
最初に報酬を決めなかったこちらに非はあります。
今度こそは本当の緊急事態でしょうし。
「でも、イリィ。今回は本当に大変そうだよ。助けてあげないと」
「そのセリフは何度目よ? いい加減に学んで欲しいものだわ」
「お兄ちゃん、ちょっとは人を疑うことを覚えようよ」
「その人は、闇人なのですよ。今までとは訳が違います。信用できるわけがありません」
皆、この子を助けるのは反対のようです。
困った人を助けるのに、敵国の人間かどうかなんて些細なことなのに。
なんで分かってくれないんだろう。
「あー。ちょっと、いいかの? どう見ても黒い空は主ら側の領土に出現しておるじゃろ。放っておいてよいのか?」
もう一度見てみると、確かにこっちの領土に黒い空がありました。
これは!?
一刻も早く行かなければ。
「皆さん。この子が信用できるかはともかくとして、あそこに黒い空があることは事実です。行きましょう」
皆に懇願する。
あれを止められるのは、きっと僕しかいない。
なにせ僕に剣をくれた人でさえ止められないのだから。
「やれやれ、アマテラスは昔から言い出したら私の言うことなど聞かなかったわね。いいわよ、アンタの馬鹿に付き合ってやろうじゃない」
「生まれた時から一緒だよ、お兄ちゃん」
「あの時私は勇者様に一生ついていこうと決めましたから」
皆、ありがとうございます。
「マレフィさん、安心してください。邪神は僕たちが倒してみせます」
「うむ。心強いばかりじゃ。途中まではマレフィが転移で運んでやる。しかし、こちら側の国には疎くての。歩いて一日はかかる場所にしか運べんのじゃ」
「わかりました。時間を短縮できるだけでもありがたいです。よろしくお願いします」
僕たちはマレフィさんの力を借りて、黒い空の近くの国に転移しました。
これからは歩きです。
できるだけ早く向かわないと。
たった一日の強行軍は順調でした。
僕たちのパーティとマレフィさんたちとは仲良くなれなかったけど。
食事に誘っても、全員に反対されてしまったけど。
「主の頭に詰まっているのは詰め物か何かかの?」なんて言われてしまったけど。
何も、皆までじと目で「...馬鹿?」とか言うことないと思うんだ。
...とにかく! 邪神が肉眼で確認できるところまで近づきました。
「「「大きい」」」
それしか言いようがないと思います。
全員が唖然とした表情です。
地面に目を向けると、ある物体に気付く。
「皆さん、見てください。人です、助けなければ」
それは倒れている人だった。
起こしてみると、顔色は最悪に悪い。
「ふむ、瘴気じゃな。ここは既に普通の人間がいられる場所ではない。早く瘴気を処理しなければ死ぬな」
「何ですって!? なら、こんなところに放置してはおけない。運ばなきゃ」
そんなところに長く居たら、この人は死んでしまう。
一刻も早くここから遠ざけなければ命が危ない。
「待て、運ぶつもりかの? そんなことは無理じゃよ。軽ーく調べてみたが、100人以上おるぞ。どこぞの国家が派遣した兵隊であろう」
「でも、このままにしておくわけには」
このままだと死んでしまいそうだ。
そうなる前に早く助けを。
何か手段は...
「無理じゃと言うておるじゃろ。助けたかったら、邪神を倒す他ない。行くぞ」
「...そうですか。なら急ぎましょう」
運ぶのが無理なら早く邪神を倒さなければなりません。
ここからは無駄話をする暇もありません。
とにかく早く!
急げる限り急いで向かう。
皆さんは何も言わずに合わせてくれました。
声が聞こえる。
この声は、あの黒い人――ルシフェレスさんの声。
もう1つは誰のでしょうか?
「ルシフェレスさん」
呼びかけます。
ルシフェレスさんはもはやボロボロで疲労困憊、立ち上がることさえ難しそうです。
「来たか『勇者』。どうやら私はこれまでのようだ。後は君に倒す」
それだけ言って倒れてしまいました。
「ええ、わかりました。邪神は必ずや僕が倒してみせます」
聞こえていないかもしれないけど、宣言します。
安心してもらいたいから。
僕は浮いてる女の人に視線を移します。
その間にマレフィさんは他の人を連れて転移してしまいました。
この場に残ったのは僕たちと女の人と邪神だけ。
この女の人の正体はなんなのでしょうか?
今回は『勇者』の一人称で混乱させてしまいましたか?
演出の関係でルシフェレスから視点を転換することは今後も行いますので、分かりづらかったら申し訳ありません。努力はしているのですが。
感想にその旨が書き込んであったら、無粋でしょうが冒頭に『勇者』sideと書いておきます。
閉話休題
勇者の設定を覚えていますか? 勇者のレベルはパーティの平均レベル+2になるので、未だに低いままです。 本当だったら150レベルくらいにはなっているでしょうに。
また、勇者のお付き3人娘は重要ではないので覚えずとも、もっと言えば区別がつかなくともストーリーには問題なくついていけるようにします。
結構後書きが長くなってしまいましたが、これでおしまい。




