第27話 邪神降臨
「これは!?」
「ここまで伝わってくるとは、とてつもないのぅ」
「……すごい」
「…」
くたばっている1人を除いて、私たちは遠方のとある場所を見る。
空の一点が黒く染まっている。
邪気、だ。
可視化するほどの邪気。
これほどまでの邪気は、邪神以外に考えられない。
このような事態を防ぐために御神体を破壊して回っていたのというのに。
まあ、大罪の国とは遠く離れているのが幸いか。
汚染を取り除くすべはないから。
「さて、『愚者の翼』は――」
「到着」
早速来たか。
「妨害はあったか?」
「皆無」
やはり、私のところに来ていた神以外が邪神を召喚していたのか。
私だけに神を派遣してくるとは、注目されたものだ。
私よりも多くの仕事を渡していた二人がここまで早く到着したとなると、それ以外に考えられない。
とはいえ、邪神出現は予想していなかったわけではない。
「『愚者の翼』、行くぞ。リリスとマレフィは来るな」
「そんな! マレフィも連れていって」
「....私はついてく」
悲しそうな顔をされる。
心苦しいが、連れてはいけない。
「駄目だ。そんなことは許さない」
「そんなこと言わないでくれ」
「…いや」
引き下がらない。
私を心配して離れたくないようだ。
純粋にずっと付いていきたいというのもあるのかな?
「リリス、マレフィ」
「ルシフェ…」
「…あうぅ」
にらむと2人とも引き下がった。
すまないと思うが、仕方がない。
悲しそうな顔が胸に痛いな。
「行くぞ、『愚者の翼』。『雷帝』は引きずってこい」
「了解」
この距離なら、2日はかかるか。
「さて、着いたか」
いろいろとすっ飛ばして、邪神を肉眼で確認できるところまで来た。
2日間と言っても、愚者の翼は必要最小限以下しか話さないし、雷帝は突っかかってくるだけ。
雷帝を何回か瀕死寸前にまで追い込んだことも含めて、ここで述べる意味は薄いだろう。
「あれが邪神だ。凄まじいものだな?」
「おいおい。あんなのと戦うのかよォ。さすがにアレは打つ手がねェんじゃ?」
「巨大」
何が凄まじいかというと、まずスケールだ。
一見すると山のように見える。
そこから触手がうじゃうじゃと出ている。
「アレを倒すのが可能か不可能か、私は知らんよ。しかし、逃げるのは許さん」
「ひでェ」
「了解」
できればこの気色悪い邪神の始末は2人に任せたいところだが、2人では無理か。
ここまで巨大ならば、攻撃の効果も薄いだろう。
まずは2人をけしかけて、様子を見る。
「行け」
「はィはィ」
「了解」
睨みつけると『雷帝』が進み出る。
さて、どうなるか。
『ライトニング・フォール』
雷帝の雷が触手を薙ぎ払う。
『愚者は空飛ぶ夢を見る』
そこにすかさず愚者の翼が魔法を本体を貫く。
邪神は大きく震え、ぶちゃりと膿が破裂する。
弾け飛んだ邪神の欠片は、まさしく汚濁としか呼べない醜悪な肉片としか形容できない。
醜悪な肉片は瘴気を垂れ流す。
世界を汚される速度が早まる。
攻撃は逆効果か!?
これでは、倒す手段がない。
どころか、億が一にも倒してしまえばこの世界に瘴気が満ちる可能性すらある。
どうすれば―
「絶望しましたか? ルシフェレス」
「エリスか。とんでもないものを呼び覚ましてくれたな」
宙に姿を現すエリス。
ニヤニヤと勝ち誇っている。
私は苦い顔でそれを見る。
「ええ。世界を滅ぼすためですもの。私も一生懸命に微力を尽くすというものです」
「尽くして欲しくなかったな。実を言うと、私はこういう――その、アレだ――、なんというか汚らしいものが苦手なのだよ」
まあ、この世界にグロ耐性のある人などほんの一握りだろうが。
そもそもそんなものに縁などない。
ネットが無いということは、意外な弊害を生み出してしまったようだ。
...吐きたい。
「それは良かったですわ。私は人の嫌がる姿を見るのが大好きなのです」
「最悪な趣味をしているね」
分かっていたとはいえ、やはりエリスは良い性格をしている。
今この瞬間にでも殺してしまいたい。
「ありがとうございます。そんなわけであなたがそこで何もできないでいる様を見るのは、とてもとても気分が良いのですよ。ええ、何度お礼をしても足りないほどに」
「手が出せれば、顔でも剥がしてやりたいところだ」
宙に浮かぶエリスは幻だ。
邪神の瘴気でわかりにくくなっているが、そんなことは見ればわかる。
だからこそエリスは遠慮なくニヤニヤ笑っていられる。
本体を攻撃される恐れがないから。
「残念でしたわね。私は遠く離れたところから、あなたたちを見ています」
「そうか。今すぐやめろ」
やめろと言われてやめる馬鹿もいないだろうが。
まあ、言うのはタダだ。
「お断りします。で、あちらで一生懸命戦っている方々を手伝いはしないのですか?」
「しないよ。私は邪神を観察するのに忙しいんだ」
見る限り、攻撃は効いていない。
触手は潰される速度より速くその数を増やす。
愚者の翼だけは余裕で避けている。
触手の速度が変わっていないのは救いだな。
「相変わらず薄情ですね」
「攻略法もわからないのに、加勢してどうなると?」
あ、雷帝が殴られている。
あの吹き飛び方からすると、攻撃力はそれほどでもないか。
邪神が異常なのは耐久力だけか。
とはいえ、付け入る隙はない。
「かばわれるのは、うれしいものですよ」
「なら、敵を倒すことはできないな。考慮にも値しない」
とりあえず、愚者の翼の限界が来るか邪神への対策が分かるまでは手を出さない。
見る限り邪神に知能はないようだが、代わりに急所もなさそうだ。
一撃で倒すのは流石に無理だな。
「人と人との関係は理性で語れるものではないと思いますわよ」
「それこそ知ったことではない」
奴らとの関係など利害関係だけで十分だ。
世の中の大抵の人間関係は利害関係で語れる。
自分は利害で判断しても、相手にそれで判断されると裏切られたと言う人間は多いが。
その典型は、目の前にいるエリスだな。
「いいのですか? そんな悠長なことを言っていて」
「いいんだよ。それに、彼らにも味わって欲しかったところだ」
悠長、ね。
何も考えずに突撃することが仲間思いとでも言うのか?
そもそも、仲間なんてものを信用できる人間がいるか?
「何を?」
「憎しみを、憤怒を、激情を」
戯言だけどね。
けど、それで魔法の威力は上がる。
感情は負か正かに関わらず力を与えてくれる。
「なぜ?」
「それがわからないから、お前は単なる魔力タンクにしかなれなかったんだよ」
魔法に効果がなくても何も思わない人間に、戦闘は向かない。
現にあの2人は狂うほどの憤怒に身を焼かれているだろう。
「どういうことです?」
「魔法とは、意思だ」
全てはこの一言に集約される。
伝統も、系統も、修行も、それを補助するための道具に過ぎない。
魔法に必要なのは、思いだけだ。
燃料があっても、大きく燃やすことができなければ意味がない。
「意思?」
「そう、想い。魔法とは己が意思の発露そのもの。だからこそ、使えば使うほど、思い入れがあるほどに威力が上がる」
魔力があることが前提ではある。
けれど最低限の条件さえクリアしてしまえば、後は意思の強さ次第。
相性ですら、意思の結果でしかない。
火は水に消されるから、火属性は水属性に不利。
そう思われてるから、そうなるというだけのこと。
実際の物理現象なんて関係がない。
「それが激情と何の関係が?」
「わからないか? 意思の発露である魔法が効かないというのは屈辱なのだよ。そう、私の魔法を相殺してくれたあの男、『通りすがり』。奴は絶対に殺す! 世界が滅びようとも、絶対に! だ!」
思い出すだけで憤怒が私の心を焦がす。
どんな屈辱を味わおうと、いつか絶対に奴を滅ぼす!
おっと、今は関係なかった。
「怖い怖い。私に殺意を向けられているわけでもないのに、寒気がしてきます。けど、安心しました」
「何がだ?」
何を納得した?
魔法の本質を理解できなかったからこそ、高みに至れなかった奴が。
はっきり言ってこの会話に意味は無く、あっては困る。
私は相手を煙に巻こうと思っているのであって、奴の能力を伸ばす手伝いをするのはごめんだ。
もっとも、こんな会話は以前にもしたことがあるが。
なにせ、仲間だったのだから。
雑談くらいはしたさ。
「あなたはすっかり腑抜けになってしまっていました。魔王戦前の近づいた者を皆殺しにでもしそうなほどの殺意を、先程のあなたは全然持っていなかった。今だから言いますけど、最初は別人かと思いましたよ」
「は、魔王戦前は魔王戦前だ。心境どころか状況にすら大きな違いがあるのでね」
寿命が尽きる寸前だったときと比べられてもね。
あのときは余裕がなかった。
今もそれほどないが。
それにしても、以前の私はそこまで危険人物だったのか。
相手を怖がらせることのないように、頭の片隅にはとどめておこう。
「まあ、それはそうですね。あなたは魔王との戦いで200レベルになったのでしたね。で、魔法とはそんなに感情に左右されるものなのですか?」
「感情とは少し違う。言うなれば、思い入れだ」
感情でも攻撃力はあがる。
しかし、思い入れに比べればそれほどでもない。
自分の魔法に対する自負、と言い換えてもいいが。
「で、その思い入れが私にはないというわけですか」
「わかってるじゃないか」
お前には頼みにする魔法がない。
決定的に誇りが足りない。
お前は戦いを生きがいにできる人間ではない。
「で、あなたはお仲間に屈辱の味を堪能させている間に何かしたのですか? というか、存在そのものを忘れていませんでしたか?」
話をもとに戻されたか。
困ったな、その話題を振られると苦笑いしてしまう。
もちろん、忘れていたわけではない。
しっかりと戦闘の様子は観察させてもらっていた。
だが、正直言って有効な手段は見つからない。
触手をいくら砕いたって、山は小さくならない。
2人には命を削って戦ってもらっているというのに、ふがいないことだ。
「まさか、忘れるはずがない。それに、どうやら私たちでも邪神の足止めくらいはできるようだ」
「ええ、それは間違いではありません。けれど、それに意味はありません。邪神はただそこに存在するだけで世界を汚染していくのですから」
足止めくらいなら、できる。
それも邪神の気まぐれに過ぎないかもしれないけど。
けど、邪気がここにとどまるのなら――
「少しくらいは世界の滅びまでの時間を伸ばせないか?」
「無理ですよ」
足止めしても意味はない、か。
予想もしていたけど。
止まっていようが動いていようが、世界に瘴気が充満するまでの時間は変わらないか。
それでも、万が一邪神が討伐された暁には被害はここ周辺のみに留まる。
「そうか」
「そうです」
頷くと、頷き返される。
何をやっているんだろうな? 私は。
雷帝は満身創痍。
愚者の翼は目に見える重傷はないものの、魔力が尽きかけている。
「貴様ら、私と代われ! その間に少しでも回復しろ」
「あらあら、そんなことをしてなんの意味があるのかしら?」
嘲るように笑うエリスに対してこう答える。
「たとえ無駄でも、やらずにいられないことがあるのさ」
『虚ろなる月の加護』
邪神に突っ込む。
やはり、でかい!
いざ対峙すると、頂上が見えない。
その中で触手をさばいていく。
かわして、殴って、またかわす。
それを何回も続ける。
回避自体は容易いが、触手の数が減った気がしない。
1秒に3本くらいの速度で、殴り潰しているのだが。
この数は厄介すぎる。
そして、終わりがない。
『虚ろなる月の加護』
『虚ろなる月の加護』
『虚ろなる月の加護』
効果が切れるたびにかけ直す。
しかし、思っていたよりも消耗が激しい。
『虚ろなる月の加護』
『虚ろなる月の加護』
……….
朝日が昇ってきたか!
段々触手をかわしきれなくなってきた。
このあたりが限界か。
「『愚者の翼』、『雷帝』、代われ!」
7割方回復した2人と交代する。
このままでは、長くは保たない。
交代で邪神の足止めを行うが、私にも限界がある。
.........
「よく保つものですね。もう2日程になります」
「ほっとけ。貴様もよくよく暇な奴だな」
二日間、エリスはずっと幻を通して私たちを見ていた。
見られる私は適当にエリスに返事しながら回復に専念する。
今は私が休む番だ。
邪神は未だ健在。
ダメージをまるで受けた様子がないのが堪えるね。
「あなたたちが苦んでいる様子を見るのはとても楽しいですから」
「最悪な奴だ」
吐き捨てる。
もう動きたくもないほど疲れた。
口を開くのでさえ億劫。
「ふふ。あなたはもう限界です。せいぜいあがいて、死になさい」
「それは、どうかな?」
ある気配を感じる。
私がしていたのは時間稼ぎだ。
「何ですって?」
「ほうら、救世主が来た。正しくは『勇者』が」
顎をしゃくってみせる。
今回は戦闘です。全く俺tueeeできていません。
甘々回は当分先かな?
ちなみに邪神は人の想念により方向性を与えられたエネルギー体という設定。
実在する神を呼び出されたわけではありませんが、負のエネルギーそのものと呼べるコレのほうが厄介だったり。




