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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
4章 滅び行く世界
29/57

第26話 マレフィの恋心

砂糖成分過多です。苦手な人は閲覧注意。

「さて、ルシフェはいきなり現れたやつと話し始めたが、マレフィたちはどうするかの?」

「…….」


リリスはしゃべらない。

普段から何を話せばいいのかわからないので、ほとんどセリフを発しないのだ。

当然、世間話など出来るはずもない。


「リリス、何かしゃべって欲しいんじゃが」

「………?」


首をかしげるだけのリリスに、肩をすくめるマレフィ。

リリスとは話が続かん。




「こんにちは。少し話をしませんか? 小さな『魔女』さん」


空から声が響く。


「む、『破滅』か? わざわざ声を転送するなど、ご苦労なことじゃな。久しく会っておらなんだが、息災か?」

「ええ。元気いっぱいよ? あなたの彼が私の心臓を貫いてくれたおかげでね」


空から降ってくる声とにこやかに会話するマレフィはなんとも言い難い空気を生み出している。

そこはかとなく人形とお話する女の子のような微笑ましさもまた存在するが。


「そうか、それは良かったのじゃ」

「相変わらず、食えない奴ですね。でも、私はあなたを嫌ったりしないわ。だって、あなたはとても可哀想なんですもの」


眉をひそめる。

マレフィがかわいそうな奴じゃと?

氷と炎の2属性魔法を極めた『魔女』マレフィキウム・ヘクセ・ウィッチクラフトが、かわいそうな奴じゃと?

ふざけるでない、弱者!


マレフィは空中を睨みつける。


「なんじゃと? は、誰からも愛してもらえずに年を食った可哀想な姫君よりもよっぽど幸せ者じゃと思っておったのじゃがな」

「ふふ、そのとおりね。本当に、そのとおり。でも、好きな人に愛してもらえないあなたは私と同類でしょう?」


むかついたので、揶揄してやる。

生まれにグチグチ文句を言うとる嫉妬ババアめ。

どうせ好きな人なんて実の父親とかじゃろ、この良い年したファザコン。

そのまま行き遅れてしまえ。


「私がルシフェに愛してもらえていない….じゃと?」


殺気を込めて睨みつける。

マレフィはルシフェの特別な存在じゃ。

愛してもらえていないはずがない。


「ええ。だって、そうでしょう? あなたは『最強』の都合のいい駒でしかないんだもの」

「違う。ルシフェはマレフィにキスしてくれた」


マレフィがルシフェの駒であるはずがなかろう。

今ルシフェが向けてくれる感情が、ただの駒に対するもののはずがないのじゃ。

ルシフェの行動がそれを示してくれた。


「へぇ? あのルシフェレスが、ね。どうせ、ほっぺたとかじゃないのかしら? 唇にキスを受けられるのはリリスでしょう」

「たしかにほっぺじゃったし、リリスはキスを受けられるかもしれん。じゃが、ルシフェは私のことも….」


図星。

それでも、キスされたのがほっぺだったとしてもルシフェはマレフィに特別な感情を抱いておる。

前はそんなことさえしてくれなかったのじゃから。

そして、知っている限りにおいてリリスはキスをしてもらえていない。

してもらえたのはマレフィだけ。

だから、ルシフェはマレフィ達2人のことを…


「違いますよ。あの人は2人を同時に愛せるほど器用な人ではないでしょう? むしろ、あの人はそういう優柔不断を嫌う」

「…ルシフェの懐はそんなに狭くはない」


ルシフェは典型的な革命家だ。

女を何人も囲えるだけの器量は持っておる。

マレフィだってそれに反対はせぬ。

リリスに独り占めされるくらいならその方が…

じゃが一方で、ルシフェは優柔不断を嫌う。

そんな理由で二度と会えなくなってしまったら?

否、けじめを付けるためにマレフィを殺そうとしたら?

それだけは嫌じゃ。

好きな人に刃を向けられるのは嫌じゃ。

リリスのことを愛するのはいいから、マレフィのことも愛して欲しい。


「あら、優柔不断を嫌うということに反論はないのですね。あなたは利用され捨てられ、一人ぼっちで死んでいくかわいそうな女の子です。『魔女』マレフィキウム・ヘクセ・ウィッチクラフト」

「貴様こそ、無視されて、利用されて1人ぼっちで孤独に死んでいく可哀想な女の子ではないか? いや、お前は女の子という年ではなかったな。『破滅』エリス・アレストラ・ネロ」


言い返すことはできんかった。けれど何か言わずにはおれずに相手のことを貶める。

確かにルシフェは魔王戦の後、魔力タンクとしての用が済んだ仲間を捨てた。

実際は解散の体をとっていたのじゃが。

そのためルシフェレスは一人でさすらっていた。


「そうね、だから私たちは同類なのよ。でも、あなたには希望があるわ」

「…希望、じゃと?」


怪しすぎることこの上ない。

こいつが言うことは全てマレフィを都合のいいように動かすための詭弁でしかない。

そんなことは分かっておる。

…理屈の上では、分かってはおる。

けれど、耳を塞ぐことができようか?


「そう、希望。あなたには好きな人に愛してもらえる最後の手段が残されている。私はダメだったけれど、ね。だからこそあなたには希望をつかんで欲しい」

「….どうしろと?」


すがりつかずにいられない。

マレフィは2度とルシフェに捨てられとうない。


「リリスを殺すのよ」

「リリスを?」


確かに1対1ならリリスは殺せる。

殺せるのと殺すのは話が別じゃが。


「そう、リリスさえいなければルシフェレスはあなたを愛する他ない。そうでしょう?」

「そんなことをしたら、ルシフェが悲しむ」


そんなことができる訳がない。

リリスを失ったらどれだけ悲しむことか――

いや、そんなことより、それはルシフェに対する敵対行為じゃ。


「あなたが癒してあげればいい。失恋から始まる恋もあるわ」

「やっぱりダメじゃ。ルシフェを悲しませるなんて、そんなことマレフィには――」


ルシフェには悲しんで欲しくない。

それ以上に、敵意を向けられたくない。

あの時に向けられた不要物を見る視線―あれだけでも心が挫けたのに、敵意を向けられたらどうなってしまうのだろう?


「諦めるの?」

「!?」


電撃が走った。

そんなことを言わないで。

泣きそうになってしまうから。

でも、考えてしまう――

そんなことは、できぬ。

できぬが――


「このままルシフェに愛してもらえず死ぬの? そんな人生でいいのかしら? ルシフェレスに見向きもされない人生で?」

「うう….ううううう」


それは、イヤじゃ。

そんな人生はイヤじゃ。

そんなのは、悲しすぎる――


「嫌でしょう? なら、リリスを殺さないと」

「それは….」


殺すしか、ない? リリスを。


「さあ、リリスを殺しなさい!! 愛を得るために!」

「…やっぱりダメじゃよ」


でも、無理じゃ。


「何故? そうしないと、あなたは―」

「ダメなんじゃよ。そんなことをすればルシフェはマレフィを殺す。もう2度とルシフェに悪意を向けられたくはないんじゃ――2度と」


そう、そんなことをすれば結果は目に見えている。

ルシフェは誰が相手であろうと、敵対者は殺す。

無関心という悪意を向けられただけでマレフィの心は折れた。

なら、敵意という悪意を向けられたら?

イヤ!!!

考えたくない!


「そんなことはありません。ルシフェレスがあなたを殺せる訳がないでしょう」

「は、苦しくなって適当をほざいてきよるか。ルシフェのことならお主よりは知っておるよ。リリスを殺した人間を、ルシフェはただではおかない」


は、焦ってきよったな。

もう何を言っておるのかも分からんじゃろ? 『破滅』。

マレフィは貴様を徹底的に貶める。

それ以外のことから目を背けられるから。


「何故?」

「リリスは世界を救うのに必要らしいからの。そのリリスを殺した人間は問答無用で抹殺対象になる」


今は、こいつに大層な口ぶりで己の不甲斐なさを知らしめてやろう。

そのほうが気が楽だ。


「リリスの代わりをあなたが務めればいい話でしょう?」

「それは無理じゃ。マレフィの代わりはいる。ルシフェの代わりもな。しかし、リリスの代わりだけは存在しないんじゃよ」


リリスの代役は、言うまでもなく無理なのがわからんのか?

秘術なんてものが使えるのはリリスだけじゃ。

アレは奇跡の御子じゃ。

奇跡の再現など、誰にだって出来やせん。


「なら、諦めるのですか!?」

「そうとも限らん。ルシフェは幼いリリスに手を出す気はないようじゃし。それに、世界を守った後はマレフィと一緒になってくれると誓ってくれた」


そう、まだチャンスはある。

最もやってはいけないのは、焦ってルシフェに敵対するような愚行を犯さないこと。

そして、ルシフェは破る約束は選ぶ。

マレフィとの約束をそう簡単には反故にしたりせん。


「ああ、そういうことですか。ルシフェレスが適当に言った一言にすがりついて、現状に耐えているのですか」

「そうかもしれんの」


けど、お前がリリスを殺させるために話しかけてきたのはお見通しなんじゃよ。

そそのかされたりはせぬ。

お前の言葉について、反論以外は何も考えてやらんよ。


「あなたには失望しました。前は、もう少し積極的に未来を切り開こうとしていたのに。今では頼りない希望にしがみついて、涙を飲み耐えしのいでいる。そんな主体性を失ったあなたなど見たくありませんでした」

「そうかの。それなら話しかけてかなかったらいいだけじゃろ。声を届けるためだけにどんな手間をかけたのは知らぬが、無駄じゃったな」


ふふん、哀れじゃな。

どんなことを言っても、もはやお主の化けの皮は剥がれておる。

マレフィは貴様の無様を楽しむだけじゃ。


「そのようです。揃いも揃ってあなた方は堕落しています。やはり、人間は醜い。そんな人間を生んだ世界も存在する価値などない」

「そうかの。しかし、それはお主の意見じゃ。この世界はマレフィがルシフェといっしょにいるために必要なのでな。全力で守らせてもらう」


堕落している、ね。

人間が醜悪なのは、別に同意してやっても良い。

じゃが、マレフィが紡ぐのは貴様が不快に思う言葉じゃ。

こういう馴れ合いは大っキライじゃろうて。

ああ、人間というのは確かに醜い。


「なら、私は世界を破壊するために全力を尽くさせていただきます。『魔女』マレフィキウム・ヘクセ・ウィッチクラフト」

「止めさせてもらうぞ。『破滅』エリス・アレストラ・ネロ」


ふふん。

今回はお主の負けじゃ。

愉快じゃ、愉快じゃ。

マレフィの中の愉快でない部分など、マレフィは知らぬ。


「では、ごきげんよう。また逢いましょう?」

「ふむ、また今度。さよならじゃ」


勝者の余裕たっぷりでサヨナラする。

それきり空から声は響かない。




丁度ルシフェと闇神の話も終わったようじゃ。

マレフィはルシフェのもとに駆け付ける。

エリスに植え付けられたモヤモヤした心が消えないから。

論争に勝ったとはいえ、リリスを脅威に思わない訳がない。


「ルシフェ。マレフィは主にとって大切か?」

「大切だよ」


即答される。

それでも、不安は消えない。

言葉ではなんとでも言えるから。


「本当か?」

「本当だ」


何度言われても、そうそう信じることはできぬ。

マレフィは長年生きた中で、何度も人間に裏切られてきたのじゃから。

ルシフェは別と分かってはいても、感情では別なのじゃ。

なにより、ルシフェが特別視しておるのはマレフィではなくリリス。


「なら、証拠をみせてくれんかの?」

「証拠?」


ルシフェは怪訝な顔をする。

当然じゃな。

このようなことを言い出したのは初めてなのじゃから。

前は余裕一杯で接しておれたのに。


「お願いじゃ。マレフィはルシフェの特別でいたいんじゃ」


よもや、マレフィがこんなことを思うようになるとは、の。

前は、ルシフェが変わる前は不安に思うことはなかった。

ルシフェはシシュフォスに憧れのようなモノを抱いておっただけじゃった。

それは恋心とは違う、どちらかというと家族愛のようなもの。

だから、安心していられた。


けど、今は違う。

ルシフェは恋を少しずつ理解していって。

そして、その相手になるのはシシュフォスの消えた今やリリスじゃ。

約束のことを考慮にいれても、最も近いのはリリス。

マレフィでは、ない。

マレフィではないのじゃ。


「何故そんなことを今言う? 何か吹き込まれたか」

「そうかもしれぬ。けど、マレフィの思いは本物じゃよ」


普段だったら、恥ずかしくてこんなことは言えぬ。

でも、今はそれどころではない。

マレフィが選ばれるとしたら、まだリリスが何も知らない今しかない。


「本物、ね―。その猜疑心はエリスにでも植え付けられたんだろう?」

「そうじゃ。けど、マレフィはルシフェと一緒にいたい!」


なぜ分かってくれぬのじゃ?

マレフィは、マレフィはただルシフェと一緒にいたいだけじゃのに。

一緒にいる証拠が欲しいのに。

分かっては、くれぬのか?

マレフィを理解できるのはルシフェだけなのに。


「なら、どんな証拠が欲しい?」

「え?」


どんな証拠、じゃと?

マレフィはルシフェが好いてくれているのが分かれば何でも―


…….ひゃ!?

ち、近づいてくる。


だ、抱きしめられた?


恥ずかしいけど、ルシフェの腕の中はとても幸せで――

不安を忘れられた。


「言葉? 口では何とでも言える。行動? たとえキスしても、好きでもない相手とだってやるような輩が多くいる以上、証拠とは呼べない。お前は何が欲しい? いいよ。何でもあげる。マレフィになら、何だってしてやる」


耳元で囁かれる。

そんなことをされたら、頭が沸騰してしまう――


「…なら、もう少しだけこのままでいさせて」


それだけ、か細い声でも答えられた。

きっと、この温もりがあれば不安なんてなくなる。


抱きしめられる力が強くなった。

…信じても、いいんじゃよな? ルシフェ――




「は、そんな幼い幼女を抱きしめて悦に浸るなんざ、とんだ変態野郎になったもんだなァ?『最強』」

「黙れ。お前こそ、御神体の破壊は終わったのか?」


幸せを感じていると、『雷帝』の声が響いた。

頭越しにルシフェが答える。


マレフィは横槍を入れてきた雷帝を恨めしく思いつつも、ルシフェの腕の中から出ようとしない。

というか、この幸せから抜け出せる気がせぬ。

それにしても、リリスでさえ横でじっとしていて横槍を入れてこんかったというのに雷帝は。


「終わったに決まってんだろォ? どこかのロリコンやろうとはなァ、違うんだよ」

「ほう、ロリコンとは不届きな奴もいたものだ。妨害はあったか?」


ルシフェ本人のことじゃと思うのじゃがな。

涼しい顔で受け流しよる。

機嫌が良いみたいじゃ。

いつもなら、無視か粛清しておった。


「ねェよ。オレ様は拍子抜けしちまったぜェ。とっとと次の任務よこせよ」

「『愚者の翼』が来るまで待て」


全く興味のない声で、明後日の方をむきながら答えるルシフェ。

イライラと頭を掻き毟る雷帝。

異様な光景じゃろうなぁ。


「できるかよォ。なんなら、てめェが相手でもいいんだぜ。『魔女』相手に、んなことする変態なんざ楽勝だからなァ」

「ああ、そう。その力はエリス相手に振るえ」


ルシフェは相手にしない。

けど、マレフィはあの舐めた態度は我慢できん。

馬鹿者にお灸を据えてやろう。


「随分と、舐めた口を聞く雑魚じゃ。氷漬けになってしまえ『氷結・エターナルフォースブリザード』」


マレフィはルシフェの腕の中で身をよじり、魔法を放つ。


「は、お前の方がやる気になったとはなァ。ええ、『魔女』。だが、ぬるい! 男に抱かれて、気色悪く笑ってる奴なんざオレ様の相手じゃねェ」


雷帝は腕を交差させて防御する。

そして、手の中に魔法を生み出す。


『ライジング・フォー…


耐えきった雷帝は魔法を繰り出そうとする。


「この間抜けが。 『宝玉・雷』」


そこにすかさずルシフェが宝玉を撃ち込む。

魔法が放たれる前に、宝玉が爆発する。


雷属性の宝玉は、雷属性の雷帝が受けるダメージが最も低い。

それ以外の属性であれば、死んでいた。


ボロ雑巾が爆風で吹き飛ばされる。


「ごぼっ…..」


血を吐く。

雷帝は痙攣して起き上がれない。

そんなことはどうでもよい。


「ルシフェ…何故マレフィに手を貸したのじゃ?」

「マレフィだから…かな?」


ルシフェが力を貸してくれたのは、マレフィだから?

前は仲間内で戦闘が発生しても関与しなかったのに、今回は力を貸してくれた。

それはとてもうれしいことで、安心できた。


今回は甘々な話です。次は戦闘に入ります。

砂糖は好きですか? 次の甘々回はもっと砂糖を増せるよう頑張ります。


ちなみに、魔王戦後の解散はマレフィのトラウマになっています。

無関心な視線が相当こらえたようで。

少し好意的に接してやるだけでころっと堕ちました。


彼女が欲しい。モニターの向こう側の。

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