第20話 罠
「で、こうなるか。やはり、足かせは背負いたくはないな?」
「ふ、『最強』よ。ここに足を踏み入れたあなたの敗北です。おとなしく私様に殺されなさい」
素直に王に会わせると言ったので、ついて行ったらこれだ。
やけに案内がおべっかを使うと思った。
この状況では、私は3大国に話を付けにいかない訳にはいかない。
大罪の国のイラ家当主として。
それこそが足かせ。
「先に来ていたとはね『光神』、そして―」
「ええ、あなたが来る前に審判の国の王と話させてもらいました。そして、ここには神が後3人。あなたに勝ち目はありません」
前にも言われたな、それ。
ただ、今の私は両腕使えないしな。
しかし、この状況は三つ巴であって2対1ではない。
ただ目の前の2組みが話し合って、片方が1組みを潰すまでもう片方は傍観すると決めただけ。
審判の国は漁夫の利を狙ってどちらに攻撃してくるものか、分かったものじゃない。
「後3人?もう一人が見えないようだが?」
「いますよ。あなたの後ろに」
いきなり現れてリリスを人質に取られた。
まずいな、秘術発動に時間のかかるリリスには打つ手がない。
私やマレフィにも助けることはできない。
「神ともあろう者が人質を取るのかい?」
「神である私様は、何をしても許されるのです」
都合のいいことを言う。
けど、気に食わないな。
私なら、善悪など関係なしに効果的な行為を行う。
神だからなどという言い訳はしない。
「『最強』、まずは話を聞いてあげればどうかな?私にも少し話したいことがあるのでね」
審判の国の王が横槍を入れてきた。
いくら謁見の間と言っても、王がいるにはこの場は危険すぎるだろうに。
わざわざドヤ顔をするためだけにここにいるのか?
「ふむ、君がそういうのなら話を聞こうか」
「エリス様が貴方から頂きたいものがあると、おっしゃっているのです」
やれやれ、心当たりがありすぎて困る。
それに、王の横にいる『審判』も警戒しなくてはならない。
基本は護衛に全力を注ぐだろうが―
「おやおや、エリスが私を頼ってくるとは」
「エリス様が貴方を頼るわけではありません。貴方から搾取するだけです。エリス様がお望みの品物は“明けの明星”です」
とりあえず、軽口で受け流しておく。
それにしても“明けの明星”ね。
確かに、あれは7人の神の魔力を全て注ぎ込めば使用可能だろう。
しかしあれを求めるということは、エリスは龍でも倒すつもりか?
「“明けの明星”か。あれは私が魔王を倒すために使ったものだ。その意味をお前はわかっているのか?」
「私様が知っている必要はありません。ただ、エリス様が知っていればいい」
「おっと、私を忘れないで欲しいものだな?私は君の大罪の国と同盟を組みたいのだよ。条件は―
一、貴国の他国への敵対行動の禁止
二、貴国の王権の譲渡
三、貴国の武装の解除
四、当国への要求権の廃棄
これを履行してもらおうか?『最強』」
私が押されていると思って、でしゃばってきたな審判の国の王。
ふざけている。
この私を罠に嵌めたと甘く見ている。
そんな貴様らに贈る言葉はたった一つだ。
「この私を見くびるな」
王宮の外で魔力が爆発的に高まる。
弱者共の注意は外に。
驚いて思わず視線を向けたな。
一方、神の注意は私に集まった。
神は私が注意をそらさせている間に何かをするつもりだと警戒したらしい。
大当りだ!
思い切り足を振り下ろす。
確か、震脚とか言ったかな?
その一撃は、王宮そのものにヒビを入れた。
そう、この一撃は王宮を破壊する一撃!
ヒビは拡大し、床は崩落する。
その中でも、神々は冷静を失わない。
『秩序』にも注意を割けるほどの余裕がある。
私が攻撃しても、たやすくカウンターを喰らってしまうだろうことは想像に固くない。
私は崩落する中、マレフィを持って突っ切り離れる。
もちろん遠距離戦で有利なのは、圧倒的に神々だ。
そして、相変わらずリリスは人質になっている。
けどね、お前らは重要なことを忘れている。
私が王宮を破壊してどうするつもりなのかを必死に考えているんだろう?
『秩序』も警戒しなくてはいけないしな。
それがお前らの限界だ。
所詮神の力に覚醒したと言っても、お前らは人間を辞められてはいないんだよ―
だから、ここまで考えが及ばない。
そう、お前らが忘れていることは―
―外で起きた魔力の爆発的な高まり!
そして、もう一つ考えが及んでいないこと。
前提条件に誤りがあったらどうだ?
その前提条件とは、リリスが人質になっていること!
捕まっているそれは―
―偽物だ。
リリスに化けさせた『水人―ウォーティ―』をスライム状に変化させ、逆に拘束する。
捕まえている者から、捕まえられた者へ。
一瞬で神の立場は逆になる。
ほんの2秒すら拘束できないだろうが、それで十分。
外にいるリリスの秘術を当てるには、ね。
外で起きた爆発的な魔力の高まりは、リリスが秘術を発動させようとした時のもの。
たっぷりと時間をかけ、その秘術は牙を剥く。
『聖刻召喚・炎龍の顎』
炎の龍が王宮を喰らい、後には何も残らなかった。
王宮が焼滅した。
マレフィと一緒にリリスと合流する。
神々の方は、偽リリスを拘束していた奴しか殺せなかったか。
しかし、『光神』以外は無事では済まなかった様子。
私に注目していたことが仇となったな。
審判の国の王は『秩序』に助けられたようだ。
私への対策のために連れてきて正解だったようだな。
距離は神々の方が近くにいて、王たちは反対側。
『光神』が口を開く。
「『金神』がやられましたか。まさか、あの状況を予想していたとは。ここは退くしかありませんか」
神々が姿を消す―
次の瞬間、『光神』がマレフィの後ろに現れた!
予想していた私は全力で蹴りを入れる。
さすがに転移を一瞬で行うことは無理なようだな。
空間の歪みがはっきりと見えた。
「マレフィ!」
「応よ!」
『氷結・エターナルフォースブリザード』
「ぐ、ここまでも―」
『光盾』
マレフィの魔法は光の盾に防がれ、ほとんどダメージを与えられなかった。
しかし、まだ私は魔法を使ってはいない。
『破滅する冥王の嘆き』
一撃必殺を盾の内側から蹴りで叩き込む。
『光神』は腹にまともに喰らい、吹き飛んでゆく。
「ぐ………….ごぼっ」
骨を折る感触があった。
しかし、さすがに神は一撃では殺せない。
2撃目を打つ前に、奴は転移した。
「逃がしたか。蹴りで吹き飛ばしてしまったのは失敗だったかな?」
うそぶいてみるも、手が使えなかったから蹴りを使ったのだ。
ああすればよかった、とか言う話ではない。
「そうじゃの。できれば殺しておきたかったところじゃ」
やれやれといったふうに頭を振るマレフィ。
……お前の魔法はあっさりと防がれたが、衝撃を受けている様子はないな。
「….ルシフェ。何か来るよ」
何かじゃなくて、審判の国の王様御一行だ。
相変わらず、リリスは他人のことに興味がないらしい。
「まさか彼らを撃退してしまうとは、驚きましたね」
嫌味な喋り方だ。
思えば最初から、その喋り方は気に食わなかった。
そんなことにすら気がつかないほど、追い詰められてはいたが。
とはいえ、無茶を押し付けられるところだったんだ。
今度は、こちらが無茶を押し付けてみようか。
「ああ、そうだ。君の提案なら受けようか。ただし、貴国と当国の立場は逆で」
「はは、あまりいじめないでくれよ。あれは冗談さ。さて、同盟の条件を話し合おうか」
白々しいやつだ。
しかし、その目はまだ私を侮っている。
その傲慢な目で見つめられるのは、不快だ。
「冗談?冗談か。冗談を言ったというのか。そんな国は信用に値しないな。同盟条件はお互いへの干渉無用ということにしよう」
「はは。そう目くじらを立てないでくれよ。器が小さいぞ」
本当に不快な奴。
まともに交渉をするのはヤメだ。
「貴国を保護できるほどの器が無くて悪いね。君たちとはまともに関わりたくないから、相互不干渉の条件を強行させてもらう」
「それはあんまりだよ。そういう態度をとられると、こちらも強硬手段に頼らざるを得ないのだけど」
「どちらが有利だと思っている?」
「もちろん、ホームグラウンドであるこちらさ」
「それは、私の代わりがいなかったらの話だ。極端な話、君と私が同士討ちになっても瓦解するのは審判の国の方だ。王が一介の戦士に殺されて、国が維持できるとでも?」
「はは。またまた面白い話をするね。『最強』の代わりなどいるはずがないじゃないか。それに比べて、王族に必要なのは血筋だ」
「私ほど強い人間はいなくても、他国と渡り合うには問題ないさ。そして、君には致命的な欠陥がある。どんなに強がろうと、命の危機を避けたいと思う脆弱な心は隠しきれない」
「仮にそうでも、この状況で私を殺せると?」
「出来るさ」
ざらざらと、袖口から宝玉を落とす。
ここに来る前から用意していたものだ。
この量なら、ここら一帯を吹き飛ばすには余りある。
「な…..何だ!?そのおびだたしいまでの宝玉は」
その問いには、笑顔で答えよう。
唇の端を釣り上げた、狂った笑みで。
「どうする?この位置でこの数の宝玉が爆発したら、お前は確実に死ぬ」
「く、狂っているぞ!貴様。そ、そんなことをしたら、お前まで巻き添えだ。心中する気か!?」
「そんなことはないさ。私なら生き残れるかもしれない。私の生存率はせいぜい1割といったところかな?」
「死ぬかもしれないのだぞ!?いや、お前がまともに魔法を喰らっていたら誘爆して吹き飛んでいたんだぞ!?」
「そんなことを一々気にするようでは、命がいくつあっても足りないぞ?」
「や、やめろぉ。やめてくれぇ!わかった!貴様の条件を飲む。審判の国は大罪の国に干渉しない!」
「ふ、いいだろう。条件が飲まれたなら、私に異存はない。こんな国はさっさと去ってしまおう」
「とっとと出て行け!この…..化け物が!」
耳に心地いいな。
そう、私は化け物なのだよ。
「ああ、そうだ」
「な、何だ?この化け物め。まだ何かあるというのか?」
「これを渡しておく。裏切ったら、お前は殺す」
「ひぃ」
「”弓鎌・セインヘイル”、”辣刀・カキデル”、”整盾・レーファシリア”。せいぜい後生大事にとっておけ」
「ひぃぃ」
3つの武器を“次元の鍵”から放り投げる。
王からは、もはや悲鳴しか出ない。
やれやれ、漁夫の利を狙ったのだろうが、その結果はこれか。
舞台は王宮とはいえ、王本人が出てくるべきではなかった。
歩いて去っていく。
ある程度離れたところで、後ろを向く。
王の近くではやり辛いこともあるだろう。
「いつまで、着いてくる気かな?」
「…..」
「………..」
「……………..」
出てこない。
これでは、私がイタい奴のようではないか。
バレバレなのに、往生際の悪い。
「マレフィ」
「応とも。そこじゃ、『氷舞・フリーズクロス』」
舞うように走った氷の軌跡は、尾行していた5人を氷漬けにした。
しかし、さすがはファンタジー。
氷漬けになっても、5人とも死んでないな。
ただ、尾行していたのは6人。
「『最強』、あなたにはここで死んでもらいます」
「『秩序』か。王の護衛はいいのかね?」
で、見事にマレフィの魔法を防いだ男が一人。
勇ましいことに殺害宣言までしてくれた。
「あなたさえ死ねば、先程の契約は無効になる」
「そんなことで一度結ばれた契約が無効になりはしない。君は無駄死にだ」
「そんなことはありません。あなたさえいなければ、このようなことにはならなかった」
「そうかもしれない。しかし、事実はそれだけで人の心を縛るものだ。君が私を殺しても、君の王は私を裏切れない」
「ご託は聞き飽きました。あなたは殺す。この審判の国に対して舐めた真似をしてくれた礼は十分にさせてもらう」
「できるとでも思っているのか?舐められたものだ」
「貴様が5体満足であれば、私如きでは敵わないだろう。しかし、今あなたは両腕を使えず、武器も持てない。今のあなたは、恐るるに足りない」
「マレフィ、リリス、下がれ。今からこの愚か者に世の道理というものを分からせてやろう」
「!?よかろう。マレフィは下がっておるから存分に腕を振るえ」
「….うん、わかった」
よし、分かってくれたか。
ニヤリと口の端を上げ、『秩序』と向き合う。
「行きます」
「来い、愚か者」
『万物は滅びゆく』
「がはっ」
血を吐いて、膝を付く。
何をされたのかわからなかった。
そもそも、どのタイミングで攻撃が発動したのか、そして当てられたのかが全くわからない。
ダメージを食らったことだけしかわからない。
一体どんな攻撃を仕掛けられたのか?
「これが私の攻撃です。立てませんか?そのままでいれば楽に死ねます。抵抗せずに大人しく殺されてください」
「それは断らせてもらおうか。ダメージでまともに立てないが、今度はこちらの攻撃の番だな?」
「いいえ。あなたはそのまま死ぬのです。さあ、受けなさい」
「いいや、攻撃はさせてもらう」
「まともに歩くこともできないあなたに何ができると言うのです!?」
「私を誰だと思っている?」
『人は地獄にてさえず―
ごぼっ」
『秩序』の腹から刃が生える。
「私がいつ、一人で戦うといったのかね?大方、1対1なら望みもあるからと暴走したのだろうが、二人のことを忘れたのは致命的だったな」
「ぐ、卑怯な」
刃を持つのはマレフィ。
隙を付いて、後ろから刺した。
「そもそも相手が弱っているときに限って強気にでるような輩に対して、1対1で正々堂々と戦う必要なんてないだろう。私は単なる囮だ」
「そ、そんな。あなたは孤高の戦士と聞いていたのに」
「ああ、それは魔王戦の話じゃよ。とある事情で、全員戦闘不能での。ルシフェ一人でやるしかなかったんじゃ」
「そういうことだ。私は使えるものならなんでも使うさ。ポーションは置いていってやるから、自力で戻れよ」
「私を殺さないのか?」
「いや、同盟相手をそんなにポンポン殺せんじゃろ」
「さらばだ、『秩序』。貴様は己が本分を忘れるな」
「お、おのれ。『最強』、そして『魔女』。貴様らは絶対に殺してやる」
「おお、怖い怖い。さっさと退散することにしようかの」
今回は戦いです。
ssということで結構あっさりとした戦いを心がけていますが、どうでしょう?
主人公は効果的な手段ならなんでも使います。
1対1なんて、特別な理由がない限りやりません。
それはマレフィも分かっているので、手を出しました。
もちろん、今回の3つの武器も色違い。




