第19話 交渉
私は勇者に“光滅剣ライト・ノヴァ”を託すことに成功した。
世界を救う可能性の一欠片を生み出したというわけだ。
あの武器であればこの私を殺すことすら可能だろうが―
だが、まだ足りない。
もっと可能性を。
世界を守ろうとする意思に力を配り歩いて行こう。
「次は戦争の国だ」
「うむ、今日中に3大国を回るつもりかの?」
「そのつもりだ」
「さすがに急ぎすぎじゃと思うんじゃがの」
「それくらいがちょうどいいのさ」
「過労死するぞ」
「200レベルはそんなことで死なない」
「無茶するのぅ」
「出来るのだから、無理ではないさ」
やれやれといった具合のマレフィと、両腕がないのに休む気のない私。
恒例のマレフィとのおしゃべりを済ませて『転移』する。
「さて、やってきたな。戦争の国」
「あいかわらずの荘厳な王宮じゃな。成金趣味の水鏡の国とは大違いじゃ」
「貴方がたは、『最強』、『魔女』、『吸血神祖』様ですね。王がお待ちしております。どうぞこちらへ」
水鏡の国と違って、話がわかる。
私を待っていた男も良い身なりをした賢そうな人物だ。
この国の王は口だけで世の中を渡っていくタイプだった。
ゲームからの情報によると、中々に強かな男だそうなので私も覚悟しておかなければならない。
「なかなかに良い奴じゃの。こうも簡単に行くとは思わんかったわ」
「そうだな。各地に被害が出ているとはいえ、こうも対応が早いとは」
カモが来た、と思っている可能性もあるが。
何を奪られるか、分かったものじゃない。
「でも、マレフィの出番はなさそうじゃな」
「そうだな、国の話だからな」
ふう、とわざとらしいため息をつきながら言うマレフィ。
リリスの方は相変わらず大人しく私の服の裾をつかんで付いてくる。
「やれやれ、ではマレフィはルシフェの横で大人しくしておることにしよう。リリスも何も言われずとも大人しくしておることじゃし、の」
今度はマレフィが抱きついてきた。
軽いうえに魔法で飛んでいるので、邪魔にはならない。
とりあえず、この2人には好きにさせておく。
「着きました。こちらで王が待っております」
「ご苦労」
労ってやってから、おもむろに扉を開ける。
このようなところで気後れするような脆弱な精神は持ち合わせていない。
「久方振りだな『最強』。そちらの『魔女』、『吸血神祖』とは初めてだったか」
「そうだな、君に会うのは何もできなかった頃の『戦争』を預かりに来た時以来だ」
そこにいるのは、落ち着いた雰囲気の小奇麗な身なりをした男だ。
派手さではなく、質に重点を置いた王宮はこの男を象徴しているようだ。
「借りに来た時、ではないかね?彼女は役に立っただろう」
「その言い方は適切ではないね。役に立つよう育てたのは私だ。その言い方だと、まるで彼女自身が役に立ったようじゃないか。私がそうさせただけで、彼女自身に寄与するところは何もない」
「まだ認めていないのかね?彼女は自分の力のみで強くなったのだよ。君に頼ったことなど何もない。そして、その力で君を手伝ったのだよ」
道理に合わないことを、当然正しいもののように話される。
恩は一方的に売ったのであって、売られた覚えはない。
そんなふうに話されたら勘違いしてしまいそうになる。
リアクションのわざとらしいまでの大きさも、演出のひとつか。
「戯言だな。『戦争』は一人では何もできない弱虫だ。それでいて、異名の元となる戦争を引き起こしたのだから、大したものだよ。しかし、君に恩を返してもらうことなど諦めている」
「対価を気にしているのかね?気にすることはない。世界を救うために協力したのだから、私は対価など求めない。そして、世界を救ったのは間違いなく貴方だ。ただ、私の『戦争』が居なければ成し得なかったことは忘れないで欲しいが」
「やはり、こうなるか。国家に義を求めることほど、滑稽なことはないな」
「ほう。私が恩を認めないために適当なことを言っていると?」
「自分で分かっていて言うのだから、君の恥知らずさには負けるよ」
「言いがかりを言っているのは君の方ではないかね?」
「君に恩を返してもらおうとは思わないよ。さすがに、それは私でも不可能だろうから」
「何を言っているかはわからないが、賞賛なら甘んじて受けよう」
「…過去はすべて水に流して話そうか。話が進みそうにない」
首をすくめてみせる。
話が進まないこの流れは、切り飛ばして捨ててしまおう。
やはり、口先でこの男に勝つのは無理なようだ。
条件は圧倒的に有利でも、のらりくらりとかわされる。
「ふむ、いいだろう。私は君に何の対価も求めてはいないからね」
「君の態度に関して何も言うことはないが、覚えておけ」
ま、この話だったら乗るだろう。
さすがに言いがかりで、この私に恩を着せることなど出来はしない。
「何をかな?」
「私の言葉は大罪の国の総意だ。この場において、私の権限は王と同等だ」
「私も王だよ。しかし君がそういうのなら、心して話そうか」
腕を広げて、魔力を開放する。
好きなときに相手に圧迫感を与えられる魔力開放は便利だ。
こんな気配を向けられたら、緊張せざるを得ないだろう。
相手は、あまり気後れしていないようだが。
「提案だ。我々と同盟を組め」
「同盟?なぜだね?」
「脈絡なく現れる化け物により、各地に被害が出ているのは承知のとおりだ。それに乗じて光人の軍勢が攻めてくるだろう。それに対する軍事同盟を結びたい」
「光人の軍勢を私たちに押し付けようとする気かな?」
「違うな。光人の軍勢のいくらかを私たちが引き受けようというのだよ。君たちに倒れられてしまっては困る。奴らの数は圧倒的だ」
「信用できないな。機に乗じようとしているのは君たちではないかな?君たちと戦争するのは望むところではない。できれば、光人とさえ争いたくないのだよ。我々戦争の国は戦争の悲惨さをよく知っている。」
「濡れ衣を着せようとするのはやめてもらいたい。我々大罪の国は地理的条件から侵攻などできない。そして、君たちがいくら戦争の悲惨さを知っていようと戦争は起こる。君たちが起こす」
「悲しいが、国民を守るためには戦争という手段をとるのも仕方ないことなのだよ。しかし、私としては君たちの心変わりを心配しないわけにはいかなくてね」
睨み合う。
化け狸と竜の睨み合いだ。
私と彼の間に殺気が満ちていく。
「地理的条件をどうやったら変えられると?で、ごねて何を要求するつもりだ?」
「ごねてなどいないよ。ただ、同盟を組むのなら印となるものが必要なのではないか、と思っただけだよ」
「ああ、そういうことか。何かよこせと言うわけだな。他人の要求を聞き流し、自分の要求だけを通そうとする。君の面の皮の厚さには、ほとほと呆れる」
「驚きだね。この私ごときが『最強』に褒められるとは」
「……いいだろう。元々私もそのつもりだった。国家同士の契約には楔が必要だ」
「それに関しては私も同感だよ。私は誠実に対応しているのに、皆が私を裏切る」
「君の性根の悪さについていけなくなっただけだろう?」
「非道いことを言うね。これは中傷だ。中傷だぞ?傷ついた。私は酷く傷ついたよ。とても辛い。私としては加害者の誠意を見たいところだが?」
「ここは君の流儀に従っておこう。すなわち、君が壊れるほどに傷ついても私は一向に構わな。そもそも君に傷つくような心があるか疑問だがね」
「ひどい誤解だ。とても、とても傷ついたよ。賠償を要求したい」
「下らない話はおしまいだ」
言い切って私は3つの武器を“次元の鍵”より引き釣り出す。
「この場で武器を出すとは正気かね?私の王宮で武器を出した償いは、後日何かで補っていただきたい」
「右から“蛇鎌・ドレスヘイル”、“癖刀・クスデル”、“偏盾・ラーフィンデル”だ。楔としては、これ以上はないだろう」
「おお、これが契約の証か。喜んで受け取ろう。しかし私は、誠意を見せてもらってはいないよ?賠償も受け取っていない」
「これで契約は成立だ。我々は共同して光人と戦う。一応、そちらも契約の証を出してもらおうか」
「それは、誠意を見せてもらってからだね」
「いいだろう….“やれ”」
私は手を振り上げ、合図する。
次の瞬間、座っている王の首元に銀色の牙が突きつけられる。
牙は、背もたれから伸びている。
水銀のような質感のそれは、スライムを連想させる。
任意に色を消せる驚異のステルス・スライムだ。
「これは…?」
「『水人―ウォーティ―』という生体兵器だ。我がイラ家の開発した制御可能な化け物、“化物部隊―モンスター・トループ―”の一員だ。能力は色と形を自在に変えられることだよ」
「交渉の場で私を人質にとって、君は一体何を考えている?」
「誠意を見せたのさ。飽きもせずに、要求ばかりをしてくる輩には丁度いいだろう」
「これは脅迫では?」
「さすがに命を握られては震えるか?しかし、お互い様だと答えておこう。こちらが譲歩しなければいくらでも粘るというのもまた、脅迫だ。時間を奪うというのも、緩やかな殺人行為でしかない」
「同じ問題か?」
「問題さ。さて、君たちは契約の証として、大罪の国に何を渡すのかな?それと、その牙は単なる脅しだ。その牙が届く前に、君の背後に張り付いている本体が串刺しにする。君の護衛が牙を砕こうとも、無駄でしかない」
「ぐ、命を握られてはしょうがないですね。誰しも命を握られては、反抗などできません。仕方ありませんね、命を握られては」
「そんなに言わずとも、外道なのはわかっているさ。しかし、外道に対峙するときは外道でなくてはならない」
ち、すぐに気を取り戻したか。
しかし、この状況では遺憾の意を示すことしか出来まい。
それにしても、こいつのそれはいささか過剰な気もするが。
「善良なる私は、外道な君には震えるばかりだよ。これで許してしてもらえるかな?この戦争の国のみで取れる貴重な鉱石で作られた王の紋章入りの印籠だ。奪っていくといい」
「確かに頂戴した。契約は完了だ。私は行く」
ウォーティを戻らせる。
銀色の状態にして私に巻き付かせることで、きっちりと連れて帰るのを証明する。
「少し待ってくれ。君は戦争についてどう考えているのかい?」
「試練、それ以外にあるか?」
「我々は試練に打ち勝てるのかな?」
「打ち勝てるのか、ではない。打ち勝つのだ。それ以外に生き残る道などない」
「それには力が必要だろう?」
「力と意思、この二つがなければ生き残ることはできない」
「しかし、我らの方に意思はあっても力は無い。君のところは両方持っているのだろうがね?」
「つまり?」
「私には武器が足りない。君にもらった分を含めても。光人との戦争があるからね」
「私は血を流していない、と言いたいのか?確かにそれはフェアではないな。いいだろう。“獄刀・ヘイトレス”、“無刀・ネイムレス”を預ける」
「預ける?もらえるのではないのかな」
「それこそ有り得ないな。それへの魔力は既に補給済みだが、君は“それ”に魔力を補給する術を知らないだろう。そして、それは来たるべき光人との戦争に使う予定だった切り札だったのだぞ」
「これは、それほどまでの刀なのかい?」
「そう、凄まじい力を誰でも使えるようにする武器だ。打てるのは一発、そして恐ろしいほどの反動を覚悟しなければならないがな」
「それほど貴重なものだとは。有り難くいただくよ」
「くれぐれも、“それ”は心して使えよ。それを渡しては大罪の国も後がない」
「了解だとも。ああ、君は忙しいのではないのかい?遠慮することはない。この場で転移符を使ってくれ」
「….ああ。そうさせてもらおうか。『転移』」
おっと、1つ言い忘れたことがあった。
「結局最後まで震えていた魔法使いは君の差し金だろう?あまり人をこそこそと狙うものではない」
言い切った瞬間に、この場から私は消えた。
「で、ルシフェよ。何故、大罪の国に寄った?この後すぐに審判の国に行くんじゃろ?」
「あいつは魔方陣から行き先を知りかねんからな。ちょっとした用心だよ」
「でも、マレフィの魔法を使うと無駄に警戒させるから次の国にも転移符で行くんじゃろ?贅沢なことじゃな」
「そう言うな。いくら警戒しすぎても、しすぎるということはないさ」
「それもそうじゃな。なんせお主は、虎の子の二振りの刀まで取られたものなぁ。あの武器5つと印籠では割に合わんこと、この上ないじゃろ」
「目的は達成した。あの二振りは余計な出費だったとは思うがな。奴の言葉に反応してしまった私の落ち度だ。大罪の国が必要としていたのは停戦条約だったから、最低限の目的は達したよ」
ケタケタと笑うマレフィに対して苦々しい顔で答える。
目的を達成できたとしても、負けたことには変わりない。
「停戦条約じゃと?協力体制を整えに行ったのではないのかの?」
「それこそ、こちらが利用されて終わりだ。大罪の国は政治に疎い。さすがに3大国は敵に回せないから、根回しをしておいたのさ」
「それでもあの2振りを手に入れたことで、戦争の国が調子に乗ったらどうするつもりじゃ?」
「乗れないさ。光人の脅威がある。それに他人からもらった使い捨ての武器を主軸に据えることはできないさ」
「じゃ、大罪の国での光人との戦争はどうするのかの?あれは切り札と言うておったじゃろ」
「数が足りなくなるかもな。その分は君に働いてもらうさ」
「くく。そういうことか、お主も悪じゃの。確かに、あの刀は“切り札”じゃ。ところで、水鏡の国では王が精神崩壊、平和の国では虎の子をかすめ取られ、次の審判の国では何が起こるんじゃろうな?」
「そんなことは決まっている」
「何が起こると言うんじゃ?」
「私が同盟を組むのさ」
「それもそうか。なら、審判の国へ“れっつ・ごー”じゃ」
今回は交渉の話になります。
交渉スキルがないので脅迫に及んだ主人公。
世界を救おうとしていても、これでは正義を標榜することはできませんね。
普通ならここは、王様の言うことを何でも聞く場面でしょうが....
しかし、それでは大罪の国の地位が低くなってしまいます。
ちなみに、最初に出した3つの武器は水鏡の国で出した武器の色違いだったりします。




