第18話 主人公という人間
さて、これから私に会いに行くのは光人だ。
そう、この紅の世界を二分する我々闇人の仇敵。
彼らへの敵愾心は遺伝子に刻み込まれている。
それでも世界を守る礎となるなら、敵に力を貸すことを惜しむ気はない。
しかし、もっと彼の事を早く思い出すべきだった。
彼の弱さでは、すでに死んでいてもおかしくない。
しかし、そうとは限らない。
ご都合主義的展開というものを考えれば、生きているはず。
逆説的に言って、物語に関係ない事は起こらない。
しかしそれも、無駄な情報を“世界”が与える訳がないとの憶測によるものだ。
ところで、ここで“12連幻想世界”というゲームの2つのレベルアップシステムを紹介しておこう。
しかしこの2つ目のシステムが今まで登場してこなかったのは、偶然ではない。
それが適用されるのは、lunaticモードの主人公だけだからだ。
で、私はheaven,normalモードの主人公なわけだから普通にレベルアップする。
既にカンストしているから、上がらないけど。
そのレベルシステムとは、仲間の平均レベル+2となること。
もともと、lunaticは周回特典をフルに利用することが前提となるモード。
レベルを上げるアイテムで最初から仲間を最大レベルにまで上げておかねば、雑魚モンスターとさえまともには戦えない。
廃人が第1ステージを特典無しでクリア出来たと、攻略サイトに動画が貼られていたが。
しかし、いかに廃人と言え周回特典で持ち越せるlunaticモード主人公以外に装備が不可能な武器“光滅剣―ライト・ノヴァ―”を使わなければ、それ以降のステージはクリアできなかったようだ。
敵ボスの回復力が、こちらの総メンバーの攻撃力を上回ってしまう。
“ライト・ノヴァ”は凄まじいダメージ増幅器なのだ。
それはこのゲームの酷さの具合も暗示しているが、今は置いておこう。
ちなみに私は彼を主人公とするストーリーを知らない。
何一つとして知らない。
それはおそらく“世界”の思し召しとかいうやつだろう。
彼が居るとしたら、おそらくはリヒト法国。
光人の国は例外なく敵国とはいえ、大罪の国には光人の伝承はいくつも残っている。
その伝承によれば、『勇者』はリヒト法国の“星の丘―ヴァイス・スター―”で覚醒するらしい。
そこに行けば、会えるだろう。
勇者になろうとする彼に。
しかし、そこに行くには敵国に侵入しなければならない。
さて、どうする?
「ルシフェ、どこかに行きたいのならマレフィが連れていってやろうかの?」
「無理だ。お前の“転移”も移動先に行ったことがなければ使えないだろう。私が行きたいのはリヒト法国のヴァイス・スターだぞ」
もちろん敵国行きの“転移符”など持っている訳がない。
本当に、どうやって行ったものやら。
「そこなら行ったことがあるぞ?」
「….何だと?」
敵国に侵入する機会など、そうは無いはずだが。
「ヴァイス・スターなら少し用事があっての。そんなわけでマレフィはルシフェをそこに連れていくことができるのじゃ。崇めても良いぞ?」
「そうか。それは都合がいいな。さっさと連れて行け」
これもまた逆説で考えれば、移動手段が用意されていない筈もなかったか。
情報だけくれても行けませんでは、話にならない。
そこらへんはしっかりとお膳立てしてくれているようだ。
「うう。少しは付き合ってくれてもいいんじゃないかの?では」
『鏡像転移』
「さて、ここにヴァイス・スターへの道がつながったぞ。褒めろ、褒めろ。にゅふふふふふふふ」
「…..行くぞ」
無視して進んだ。
「さて、ここが“ヴァイス・スター”。立ち込める光の魔力が尋常ではない」
「当たり前じゃよ。ここはパワースポット。特定の魔力が吹き貯まる場所じゃ」
この場所なら、勇者が覚醒するというのも頷ける。
ただし、この光の魔力は受け止めることができなければ毒にしかならない。
常人なら空気を吸っただけで魔力中毒を起こし、数分で死に至るだろう。
「リリスとマレフィはここで待ってろ。一人で会いに行く」
「何!?逢い引きか?逢い引きなのか?そんなことをしなくても、どんなプレイでもマレフィは相手をするぞ」
ものすごく慌てた様子で、詰問される。
小さい体に胸元をつかまれ、引き寄せられる。
なぜそんなに必死なんだ?
「相手は男だぞ。それに、前に言ったとおり今の私にそんなことをしている余裕はない。大人しくしていなければ置いていく」
「ひゃう!マレフィが悪かったからそんなこと言わないで。見捨てないで」
哀れなほどに狼狽してすがりついてくる。
そんな無様な様子を見せるくらいなら、初めからしなければ良いのに。
「まあ、いいさ。大人しくしていろよ」
「うむ。おとなしくしておる」
「…..行ってらっしゃい」
中心で周りを見渡すと、この“ヴァイス・スター”に人影はない。
周りを警備している兵はいるが、中には誰もいない。
警備の兵に気づかれた様子もない。
さて―
なにやら、ここによくわからない気配が近づいてくる。
これが勇者か?
神龍に近い気配かと思えば、雑魚レベルの気配になったりする。
とてつもなく、ブレているのか?
本当に、おかしな気配だ。
違和感がありすぎて殺したくなる。
勇者が警備と接触したか。
さて、どうなることやら。
「ここから先は聖地“星の丘―ヴァイス・スター―”だ。冒険者風情が足を踏み入れてよい場所ではない!さっさと立ち去れ」
「待ってください。僕はヴァイス・スターに行かなければならないんです。お願いします、僕を入れてください」
土下座しそうなほどの勢いで頼み込んでいる。
そうするくらいなら賄賂を渡した方が早い、などと思ってしまう自分は悪だろうか。
「貴様の事情など知ったことか!農民上がりの冒険者が調子に乗るなよ、この身の程知らずが!」
「そこを何とかお願いします!僕は何としてでもヴァイス・スターに行かなければならないんです!」
まだ頼み込んでいる。
根負けでも狙っているのか?
私の趣味ではないな。
「貴様のごとき平民を入れるわけにはいかん!どうしても、と言うなら何か渡すものがあるんじゃないのか?」
「渡すもの、ですか?ええっと、僕があなたの荷物を持っているということはないはずですが」
直接的に賄賂を要求してきたか。
それにしても彼は察しが悪すぎる。
しかし、私があの雑魚護衛と同じ発想をしてしまうとは。
殺してしまおうか?
いや、さすがに動機が酷すぎる。
止めておこう。
「察しの悪いガキめ!金だよ、金。ここを通りたければ金を出しな!」
「お金、ですか?しかしここには通行料などなかったはずでは?」
警備は単なるクズだが、彼もなかなかにウザイやつだ。
主人公という人間は、実際に前にするとこんなものなのかな?
悪を知らない純粋培養された人間か?
「わっかんねぇ愚図だな。てめぇはよぉ!さっさと金を払えば、見逃してやるって言ってんだよ!さっさと金を出しな」
「し、しかし、それは悪いことなのでは?」
グズグズしている。
さっさと倒すか、金を払えばいいのに。
純朴というか、何というか。
「うるせぇ!黙ってりゃ誰にもわかりゃしねぇよ!金を出すか、立ち去るか、さっさと選べ、このガキ!」
「僕はヴァイス・スターに行かなければならないんだ。そして、悪いことをしたくもない。だから、ここを通してくれ!」
……..だから?
一貫して金は払わないけど通せ、と言ってるようにしか思えない。
というか、賄賂も犯罪だが立ち入り禁止区域への侵入も犯罪だ。
ちなみに、ここに人気はない。
誰も好き好んで毒ガス発生地帯に近寄ろうとする人間はいない。
あの兵士も、ここの護衛は押し付けられた仕事だろう。
なんとなく機嫌が悪そうなのも、多分そのせいだろう。
「んだと!?あまりうるさいことを言うとぶちのめしちまうぞ」
「分かってくれ!僕はヴァイス・スターへ行かなければならないんだ。お願いだからここを通してくれ」
ループしてきたな。
というか、この長々とした会話は1行でまとめられそうだ。
「てめぇの事情なんぞ知るか!もう、ぶちのめしてやる!」
「なぜこんなに言っても分かってくれないんだ!?僕は貴方とは戦いたくはないんだ。ここを通してくれ」
おお、護衛がやる気だ。
多分、ぶちのめされるのは護衛の方だな。
「お待ちなさい!そこの平民、名を何と言いまして?」
む、なんか貴族っぽい女が出てきた。
あの勇者の女かな?
「ああん?俺の名前はジェヒュー・ハンクだ!それがどう、し、た…..のですか?」
これは笑える。
顔を真っ赤にして凄んだかと思えば、次の瞬間顔を真っ青にして震えている。
「ジェヒュー・ハンクね、覚えたわ。で、ここの地区の担当者は誰だったかしら?」
「ひぃい。ごめんなさい。ここは通しますので、どうかお情けを。ま、まさか貴族様だとは思わず」
やはりあの女、貴族か。
そんなに美しくもないな。
人外じみたリリスやマレフィと比べるのは酷すぎるか。
「ふん。あなたなんかがどうなろうと、どうでもいいわ。それより勇者様、どうして私を置いていったりなどしたのです?」
「ひぃぃ」
「う、男としてヘレネスさんの権力には頼りたくなかったんです。先走ってしまったようですね、すみません」
とにもかくにも、護衛は突破できたようだ。
権力で無理を通すのと、犯罪はどう違うんだろうね?
あの女は勇者様に惚れ込んでいるようだけど、善悪の区別なんてついていないだろう。
「それでも私に声をかけてくだされば….」
「大丈夫ですよ。それに彼も通してくれるみたいですし」
もしかして、彼は自分で説得したと思っているのか?
女の権力で好き勝手しただけだろうに。
「それに、私のことはイアフとお呼びください、といつも言っておりますのに」
「う、それは勘弁してください。女の人の名前を呼び捨てなんてできません」
「もう、あなたなら構いませんのに。それに、妹のロシュリーさんや幼馴染のイリィは名前を呼び捨てているではありませんか」
「あ、早く行きましょう。予言では、ここで僕は勇者となれるはずです」
「ちょっと!?待ってください」
ふむ、こちらに入ってくる。
女の方は“解魔薬”を飲んだか。
それを飲めば、この場でも生命活動に支障は出ない。
「それにしても、ここに来ることで何が起こると言うんだろう?」
「それより、注意してください勇者様。貴方は解魔薬を飲んではいないのです。いくらあの予言者の言うことでも、ここで死んでしまう可能性もあるのですよ!?」
「そんな心配は要らない」
私は2人の前に姿を現す。
「「貴方は!?」」
2人とも、良い反応を返してくれる。
気配を隠していたかいがあったというものだ。
「私のことなどどうでも良いだろう?重要なのはこの”星の丘―ヴァイス・スター―”で君が生きているということだよ、勇者様」
「僕の名前はアマテラスです。勇者と呼ばれるのはあまり好きではありません」
勇者が女を手で遮って答える。
女は傍観する姿勢だ。
「そう、洗礼を受けたものは勇者となる。君は洗礼を受け、勇者となったのだよ」
「僕が….一体いつの間に?」
「このヴァイス・スターに生身で入るというのはそういうことなのだよ」
「そう….なんですか」
「しかし君には受けてもらわねばならない試練がある」
「試練…..僕がそれを受けることによって、人々が救われるというなら受けます」
「それは君次第さ」
次元の鍵より、一本の剣を引き出す。
「”光滅剣ライト・ノヴァ”と言う」
「それは…..」
息を呑み込む音が私にまで聞こえる。
この剣を見て怯えないのは、もはや生命のくくりから外れている。
“それ”を勇者の前に突き刺す。
「それを使って私に1撃当ててみろ、それが試験だ。出来なければ、殺す。そこの女共々」
「そんな!?僕だけならともかく、ヘレネスさんも?」
「嫌なら、私に一撃当てることだ」
「ぐ…..」
殺気を放つ。
先程まで抑えていた気配を全力で開放する。
勇者は指一本動かせず、女は死にかけている。
「所詮、この程度か?勇者といえど、こんなものなのか。それなら仕方ない。女を殺す」
「待ってくれ。ヘレネスさんは、殺させない。殺すなら、僕を」
「潰れたカエルのような有様の女をかばうか?しかし、君も指一本動かせない身では何もできんぞ」
「ヘレネスさんは殺させない。絶対に!」
「口先だけでは、何も変えられない。女は死ぬ。今ここで私に殺される」
「ヘレネスさんは殺させない。殺させるものかぁあああああああああ!」
勇者は雄叫びを上げて剣を取る。
そうだ、来い。
それでこそ、それでこそ勇者だ。
勇者が勇者たる由縁を、この『最強』に見せてみろ!
「おおおおおおおおおおおおおおおおお」
私は動かない。
勇者の決死の一撃は私の胸を軽く切る。
傷は、浅い。
「なぜ?なぜ立ったままだったんだ?貴方なら僕をたやすく殺せただろうに」
「これは試験だと言ったろう?」
「そう…なのですか?」
「それに、避けるには君の攻撃は惜しかったものでね。それは選別だ、有意義に使え」
「これを、僕に。ありがとうございます、名も知らぬ人」
「私は行く。良く生きよ、勇者よ」
去っていく。
実を言うと、片腕はまだ再生すらしておらず、もう一方は“ライト・ノヴァ”を持ったせいで使用不可能に。
戦闘不能ではないけど、戦おうと思ったら足を使うしかなかった。
だから戦わなかった。
あの二人は気づいていなかったようだけど。
傷は負ったが、目的は果たした。
この作品での正義の味方の位置づけはこんなものです。
光滅剣ライト・ノヴァを得た勇者は、ルシフェレスよりもずっと強い攻撃能力を得ました。
この世界で勇者はどのように生きるのでしょうね?




