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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
3章 前哨戦
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第10話 予兆

鎌の回収作業を終えた私たちは先へ進む。


次の部屋にあったのは不気味なアーチ。


魔術的文様が施されている。

見る”存在”全てに根源的な恐怖を与える文様だ。

精神の弱いものなら、これを見ただけで発狂する。


リリスは何も感じていないようだ。

たまにコイツのように感受性の低い者はいる。

感受性の低さは魔術への耐性とも言い換えられる。

あくまで効き目が比較的薄いと言うだけだが。


辺りを見渡せば、部屋の形も妙に歪で気持ち悪い。

生理的嫌悪をもたらすような、グニャグニャとした曲線で部屋は構成されている。


明らかに進んできた部屋と、この部屋は雰囲気が違う。


断言できる。

これからの部屋は何か、おぞましい”なにか”が作り上げた魔境だ。


そして、なぜかこの部屋は破壊できない気がする。

こんなにも脆そうな外見なのに、硬そうに思えてしまう。

少なくとも、破壊してみようと言う気にはなれない。


これは、魔術的文様で私の心に構造物破壊不可の概念を焼き付けたか?


私の持つ魔術に関する知識では、これに抵抗することさえできやしない。


だから私がこのアーチをくぐるのを止めるのは、私自身でさえ不可能だ。


ああ、アーチが近づいてくる。

いや、私がアーチに近づいているのか?


今、私は歩いている?

止まっている?

それとも歩かされている?

この部屋自体が動いてる?



ああ。



どうにもならない。


何もわからない。


アーチの真下に来た。



くぐった。





―ドクン―


これは?


世界が変わった。

明らかに、皮膚で感じ取れるまでに世界を覆う魔力の質が変質した。


「気をしっかり持てよ、リリス。どうやら私たちは何かおかしな世界に来てしまったようだ」

「うん」


わかりきったことを言う。

何かしゃべっていないと、おかしくなってしまいそうな気がする。


ぎゅっと袖を握られた。

さすがに、リリスでもこの世界の雰囲気は怖いか。


粘りつくような魔力を掻き分けながら、前に進む。


黒い空に、白い地面。

こんな精神を嬲るような世界は見たことがない。

悪夢的過ぎて、現実感には酷く欠ける。




逃げ帰ると言う選択肢は、この世に存在する全ての生命がとらなくてはいけない選択肢だ。

それほど、ここは魂にとって毒そのものと言える世界。

私達も早く逃げなければならない。


維持を張るにしても得体の知れない場所に飛び込むよりは、一度帰って調べてから再突入するほうが利口だ。


しかしそんな考えは浮かばなかった。

普段なら、こんなときには一刻も早く逃げていたのに。


雰囲気に飲み込まれたと言うことではない。

そんな生易しい常識的なことでは、あるはずがない。



ここから出ると言うことは”考えられない”のだ。


もはやこの世界では”逃げる”と言う概念そのものがない。


よって、逃げ出そうと思うこと自体ができない。


ただそれだけの話だった。


そう。

誰も、理解、できない、そんな、話。



だから私達にできるのは足を前に進めることだけ。

それでさえ自分の意思でやっているのかはわからない。


私は、誰だ?

ぐるぐると、その疑問だけが頭の中を回る。


決まっている。

この不安定な世界で唯一つ確かなのは、私はルシフェレス・ファフニル・イラだと言うことだけだ。

他の何は譲ってもそれだけは譲れない。


この意思が私のものではなくとも、私が『最強』だ。



夢遊病者のように足を進めていく。

足を進めるごとに瘴気が私を浸食していくかのようだ。


だんだん夢と現実の境がはっきりしなくなってきた。

妙にぼんやりと現実感がなくなり、代わりに何かが侵入してきた。


何も考えられない。


歩く。




そこには林があった。


 黒い林・シュヴァルツの母


空には月が浮かんでいた。


 白い月・ヴァイスの鏡


そして、ウロボロスの祭殿。


それらは一度も聞いたことがない言葉だった。

しかし、生まれる前から知っていた。


なんとも不思議なことに月を見上げながら林の中を歩いていると、まるで母に抱かれているような心地がする。

.......私は、母など知らない。




私たちは祭殿の奥へと進み、【原初の書】を手に取る。


「ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん」


この書を読むためには呪文を捧げて書の内容を召還しなくてはならない。

この書にかかれる内容は現世には存在し得ないことも含まれている。

呪文に至っては、現世にあってはならない呪文だ。

おそらく、ここを出るころには私の頭から呪文は削除されているはず。


この中にはこの世以外も含めた、あらゆる知識が詰まっている。

しかし、この世の全てを知ることのできる人間はいない、化け物ですら。

単純に容量の問題なのだ。

世界の全てを知るためには世界になる必要がある。

無論それは最低限度の条件だ。


だから、この書を読んで得られる知識はその人の一生を決めてしまう程度のものでしかない。

そして得られる情報は”世界”が、その人にと望んだ情報だ。

だからこれは運命への反逆の牙でなく、予定調和でしかない。

運命を変える力とはなりえない。


先ほど情報と言ったが、ある意味でその呼び方は正確ではない。

与えられるのは言語や図ではなく、いわゆる概念と言ったものだ。

だからこそ他人に説明するのは困難になる。

何しろ漠然としすぎていて、相手から見ればわざとはぐらかしているようにしか見えない。


だがそれで十分だ。

人の行動を縛るのには、漠然としたイメージ程度で十分。






概念を刷り込まれた私はいつの間にかアーチの前に帰っていた。


歩いて帰ってきたのか、ここに飛ばされたのかさえ、わからない。


わからない。




唯一つわかることは、私は世界の調停役に選ばれてしまったと言うことだ。

人々が自分の世界を守れるように、その舞台を整えるために私は生まれてきた。

英雄に槍を、守り手に盾を与えることが我が宿命。


それは果たさねばなるまい。


そう、世界が滅ぶ前に。




だが、私のバグは世界にとって予定調和なのか?





私にはどうすることもできない。

そこは、世界の運命に託しておこう。


そんなことよりも、早くここを出てしまいたい。

まだあの世界の気持ち悪い感触が残っている。


振り払うように歩いてゆく。

さっさとこの遺跡を出てしまいたい。


それはリリスも同じようで、早足の私に必死についてくる。


二人とも無言で遺跡から出た。


「やれやれ。酷い目にあったもんだ」

「うん。怖かった」


やれやれ、あの空間はやはり怖かったか。

私も人のことは言えないが、リリスが普通の人間のようで安心した。

あそこに適応できるのは、世界の中に生まれなかった化け物だけだ。



そして、あの世界にいたことで自我が希薄になっている。

リリスはどうなった?


「私のことはわかるか?」

「わかるよ、ルシフェ。私の大切な人」


うれしいことを言ってくれる。

これは完全に本心からの言葉だ。

この子の思考能力はまだ回復していない様子だから。


「で、君の名前は?」

「え........?誰だろう」


忘れたか。

仕方の無いことだが、リリスが私のことを項も大切に思ってるのを再確認するのは、意外にうれしいものだ。


「君の名前はリリスだよ、私の大切な人」

「大切?私が、ルシフェにとって?......うれしい」


花が咲くような微笑を浮かべた。

とてもかわいらしい。


「何か心に、おかしなところは無いかな?」

「え、と。たぶん、無いよ?」


おかしな不安などが心に根付いていないようなら大丈夫だな。

雰囲気もいつもと変わりない。


「吸血鬼の神祖なら大丈夫だろうけど、アニマが溶解して、ソウマやハクが濁ったりしてないか一応気をつけておいて。神祖なら自浄作用が働くだろうけど」

「ルシフェ、アニマって何?」


.....何だろう?

言われてみれば、何を言っているのか自分でもよくわからない。

けれどそれは、どちらかと言うとそれが身近にありすぎて例えが出て来ない感触に似ている。

確かに自分の中ではしっかり理解できているのに、いざ話すとなると全然駄目だ。


「私にもよくわからない。けど、リリスのことは私がしっかり見てるから、異常があったらわかるよ」

「いつも私のことを見てくれてるの?うれしいな。ルシフェがそういうんだったら、私は気にしないことにする」


そうだな、気にしても悪いものを呼び寄せるだけ。

私が見ていて、その上でこの子が無関心であるなら、あの世界の影響はあまり受けないだろう。


「さて、どうしようか?」

「え?」


リリスに会った後のことを考えてなかった。

滅びも予兆ですら、今から出始めるだろう。

予兆が出てからでなくては、準備にも支障が出る。


そういうものだ。

滅びの原因がわかっていても、実際に被害で出ていなくては誰も協力しようなどとは思わない。

だから被害が出るまで待つ。

さらに被害が出れば、何処で起こっているかも探しやすい。


だから今はあまりやることがない。

下手に誰かに警告して、犯人として祭り上げられるのはごめんだ。

迫害される預言者の運命をたどるなど、割に合わない。


だから空いた時間はリリスのために使ってやろう。


「何がしたい?」

「ルシフェと一緒に居たい」


そういうことじゃないんだけど。

まあ、いいや。

そういえば、やっておきたいことを忘れていた。


「なら、一緒に会いに行く?漆黒の領域をこの世に現出させてしまった呪われたお姫様の下へ」

「うん。レシフェと一緒なら何処までも」


この子はそういう子だった。

だからこそ心から信頼できる。

私には本当に信用できる人間は何人も居ない。

仲間だって、お姫様を初めとする国の重鎮が多い。

私だって、大罪の国の権力者だ。

一番大切なものは仲間だとか、そういうことは軽々しく口にしていいような立場じゃない。


むしろ、国のために仲間を生贄に捧げるのが国家に対する義務と言うものだ。

漆黒の領域を現出させてしまったお姫様は、それに従った。

どんな偶然か、生贄に捧げられた私たちは生きているけれど。


けど、そういうスタンスをはっきりさせている相手は仲間が何より大事とか言う人間よりわかりやすい。

正義漢など、スタンスがぶれすぎて信用することはできない。

感情で動く人間と協力することはそのまま、爆弾を抱え込むことを意味する。

その点、彼女は信用できる。


「さて、元気にしているかな?『冥界』プルートゥ・エリュシア・ハデスは」

「知らない。私は、ルシフェが元気ならそれでいいよ」


やれやれ。

リリスが私にしか興味がないのは、変わらないか。

この子には裏切られる心配はなくとも、後ろから刺される危険性はあるな。


「さて、ポーターを探すか」

「ポーターはこっちだよ。魔力は私のを使って」





さて、道中の描写をすっ飛ばして王宮の前だ。

もちろんアポなんてものとってない。

突然、王族に訪問するなんてどうかしていると思うかもしれない。

しかし私に常識ある行動を求めるほうがどうかしている。


「止まれ!ここから先は水鏡の国の王宮である!身分を証明せよ」


門を守る兵士か。

仕事熱心なことだ。

しかしレベルは100に届かず、装備も貧弱。

それ以前に門を守るのはたったの1人。

それで何を守ろうと言うのかな?


この兵士不足の元凶は漆黒の領域だ。

漆黒の領域のせいでこの国の治安は悪化している。

漆黒の領域により、この国は衰弱している。

それは衰弱した獲物を狙って逆に食い殺される様な、どうしようもない馬鹿どもを相手にしなければならない、と言うことを意味する。

だからその馬鹿を恐れて滞った商業の再興のために、兵をあちらこちらに出して馬鹿を潰して治安を必死に維持して起死回生を図っている。

盗賊など惨たらしく死ねばいい。

代わりに王宮を守る兵士はこのざまだ。



おそらくこいつは新人だな。

王宮の門『ドロップ・ゲート』の前に新人を立たせざるを得ないとは、さすがの私も同情する。

無能とは、なんとも辛いことだ。


しかし、この私を知らないとは。

少しからかってやろうか。


「ほう。たかが1兵士ごときが私に止まれと?身の程を知れ。わたしはプルートゥに会いに来たのだ。貴様を頭を地面にすり潰して迎えるのが当然であろうが」

「何だと!?このやろう。それに姫様の名前を敬称も付けずに呼ぶとは許せん!この場で叩き切ってくれる!」


へぇ、プルートゥはずいぶんと慕われているな。

ま、私はこの”水鏡の国”に何かしてやったとは思われてない。

対してプルートゥは国のために苦渋の決断を下した英雄だ。

漆黒の領域を作ったのは彼女なのだから、愚かな民衆は姫様を売国奴とでも罵っていればよいものを。


けど、叩き切る、ね。


「やれるものならやってもらおうかな?その前に君の脆弱な命が吹き消されていなかったらの話だけれど」

「この。そう言うんならやってやろうじゃ......グハッ」


私が挑発してみると、愚かにも乗ってきた。

そんなんじゃ、戦場では生き残れない。

何時いかなるときも冷静に、戦場の鉄則だ。

戦場では冷静さを失ったやつと、弱いやつから死んでいく。


本当に殺してしまおうかな、と思っているといきなり人影が落ちてきた。

人影は兵士の上に落ち、頭を叩き落して土下座させた。

上に乗ったままの状態で平伏される。


「申し訳ありません、イラ様。このたびの兵士の教育不足についてはどうかご容赦をお願いします。それにしても、お人が悪い。事前にあなたのご来訪を知らせておいてくだされば、歓待の用意ができましたのに」


兵士を土下座させた人影はそのまま膝を付き、まるで王族に対するような恭しさで接してくる。

こいつに免じて兵士のことは忘れてやるとするか。

その兵士は、押し潰されて虫の息にになっているが。


「しかし、お前が来るとはな?『水鏡』。驚いたよ。お前は確か、この水鏡の国の王の親衛隊長ではなかったかな?」

「そのとおりです。私がここに来たのは王の勅命です。あなた様を迎えに行くように、と。それで、こちらの兵の無礼は許していただけるので?」


『水鏡』のレベルは160だな。

親衛隊長を務めるには十分なレベルだ。


大げさな身振りをくわえながら、私は話す。

それにしても、親衛隊長だというのにまるで蛇ににらまれた蛙だな。

震えがこちらにまで伝わってきそうだ。

それでも、流暢に話しているあたり見所がある。


「ああ、それはもうどうでもいいよ。プルートゥのところに案内してくれるかな?」

「は。姫様に用があると言うことですが、今日は昔話でも?」


「それは違う。友人のよしみでちょっとした忠告と、頼み事をしにきただけだ」

「そうですか。内容をお聞きしても?」


「後で姫様にでも聞くんだな」


『水鏡』の後に従って歩く。

それにしても貧相な王宮だ。

売れるものは全て売ったと聞いた話は本当らしい。


よくわからない話を書いてみました。

ここで、主人公は12連世界が滅びるという史実の知識を得ます。

ふふ、作者はこの話を理解して書いていますが、ディスプレイの前のあなたは理解できますか?

やれるものならやってみてください。

できたら、拍手を送りましょう。


この話の前半は、伏線と言葉にできない何かで構成されています。

後半は、日常?

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