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十二連世界の『最強』  作者: Red_stone
3章 前哨戦
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第8話 狂い独楽

会議を終えた私はそのまま始まりの地へと向かった。

始まりの地とは異世界へ通じる門の前にある国だ。


始まりの地では光人と闇人の争いはご法度であり、住み分けができている。

その他にも、この世界の人間ではない亜人とのハーフもいる。

また、他の世界との交易が行われている唯一の国でもある。


治めるのはレベル200「大地母神」マグナ・マテル・マザー。

神と名の付くだけあって、闇人と光人を同時に治めると言うありえないことをやってのけている人物。

彼女は何処の世界出身なのかさえわかっていない程、謎の支配者。

建国したのは彼女であるため、1000年以上生きている計算になる。




他の世界へ行きたければ、この地へ来て煩雑な手続きをしなければならない。

ただし、私は別だ。

魔王を倒した有名人であり、紛れもない闇人である私はこの地に引き止めておくほうが厄介事が増えると判断されたのか手続きは免除されている。

レベル200に法だの云々を言ってもしょうがないと言うのもある。


さて、『大地母神』に挨拶でもしておくか。

一刻も早く最狂の彼女に会いに行きたいが、数少ない200レベルの一人だ。

人間を同種の生物だとは感じられない私にとって、数少ない同類。

挨拶を欠かすような真似をするわけにもいかないだろう。

手続きは彼女に会っておいた方が簡単でもあるしな。




ここでも私は特別扱い。

すぐに『大地母神』のところまで通してもらえた。


「久しぶりだな、『大地母神』。国の調子はどうだ?」


「問題ありませんよ、『最強』。あなたも元気そうで何よりです。用は?」


相変わらず質素な部屋だ。

作業用の執務室とはいえ、実用一点張りなのはどうかと思う。

そこも『大地母神』らしいが。

まあ、国の全てを司る『大地母神』に暇などあろうはずもない。

現に今でも話しながら仕事をしている。

1000年も生きているのに忙しいことだ。


「相変わらず忙しいことだな。”門”を使いに来た」


「そうですか。では手配しておきます。さようなら」


愛想も何もあったものではないな。

もう少し話に乗ってきてくれてもいいのに。

まあ、そう言うならさっさと去ろうか。


「やれやれ。邪魔者はさっさと立ち去ろうかね」


「気をつけなさい。近々歴史は大きな転換点を迎えることになるでしょう」


転換点だと?

こいつがどのような魔法を使うのかは知らんが、気をつけておこう。

せっかくの忠告なのだから。

しかし歴史か、面白いことになりそうな予感がするな。




ん?

なにやら騒ぎが起きているな。

せっかくのいい気分が台無しだ。


両者ともに黙らせてやる。


「調子に乗んじゃねぇ!この差別主義者の白野郎が!」


「何だと!?豆粒ドワーフめ。アリみたいにつぶしてやろうか!?」


ふむ、光人とドワーフの争いか。

確かにドワーフは子供くらいの身長しかないが、武具を作るのは得意な種族だ。

その分、戦闘は不得手だがプライドは高い。


基本、光人の奴らは光人以外を劣った種族だと思っている。

その中でも穢れた種族が闇人だとか。

そういえば私も、世界を滅ぼす魔王とか言われて襲撃されたこともあったな。


ま、光人と協力的な関係にある種族はまず存在しない。

差別主義者などそんなものだ。

それでも、やつらの勢力は圧倒的に多いから厄介だ。


「こんなところで何をしている?」


一瞬で人ごみの中に現れて、視線を向ける。

二人とも武器を取り出した状態で固まっている。


「ちっ。覚えてろよ!」


光人が逃げ出していく。

なんとも逃げ足の速いことだが、賢明な判断だ。

争いは日常茶飯事とはいえ、ここは光人が少ないからリンチに遭う。

逆に光人が多ければリンチしていただろうが。


「ち。獲物を横取りしやがって」


ま、この状況じゃ助けてやったともいえないか。

本人は無事でなくとも、他のやつがアレを血祭りに上げていただろう。


やれやれ、こんな事態が起こらないように住み分けをしているのに。

『大地母神』の意思を踏みにじるような奴らばかりだ。

そもそもドワーフを初めとする異世界の種族はここに滞在するためにはアイテムが必要なのだから、少しくらい我慢してさっさと帰ればいいのに。

弱いのだから。


「どうせ行商にでも来たのだろう?さっさと済ませたらどうだ。私は光人を見つけたので少しいじめてやっただけだよ」


「ち。行商そのものは終わってんだよ。今は世界移動の手続きを待っているところだよ」


手続きはかなり時間を要する。

他の世界への配慮ではなく、門の防衛のために。

遥か昔に門に攻撃した馬鹿がいたそうだが、門には傷一つ付かなかったらしい。

それでもここまでの警備をするんだから、『大地母神』も念の入ったことだ。

ま、私ならアレくらいの防衛は突破できるのだがな。


「そうか、まあ観光でも楽しみたまえ。光人のいないところでな。長老によろしく言っておいてくれ」


「この町にはもう見るところなんざねぇよ。いや待て、長老だと?人間が長老に会ってるはずなんてねぇ。ああ、そうか。お前は.....。ああ、わかった伝えておく。考えてみりゃ、アンタがここにいてもおかしなところはないな?『最強』」


私も有名だな。

まあドワーフとは高ランクの武器を作ってもらっている、いわゆるお得意様の関係だ。

行商に来る人間なら知ってなければおかしい。

プライドは高いが、話ができないと言うわけではないから、ドワーフはいろいろな種族と良い関係を持っている。

光人だけはそんなことをしなくてもやっていけ、なおかつ異種族嫌いなものだから国交を持っているのはこの始まりの地くらいのものだ。


「ふ、君も喧嘩する相手は選ぶことだな。死にたくはないだろう?」


「は。だからあいつに喧嘩を売ってやったんじゃねぇか。馬鹿か?」


それもそうだ。

今から自殺すれすれのようなことをやりに行くものだから口が滑ったな。


「気にするな。お互い死地に突っ込む真似はしたくないものだな?」


「お、おう」


さて、死地に行こうか。

ふがいない俺を殺して、真の私になるために。





「さて、ずいぶんと久しぶりな気がするな。鋼の世界」


門を通った後に私を迎えた光景は、無限に機械の残骸が続いていく機械の墓場だ。

もちろんこの中には、機械を構成要素とする魔物が潜んでいる。

手強い魔物は奥に進まなければ会えないが、ここにはとてつもない殺気が満ちている。



思い出す、機工終焉竜との戦いを。

あのときの戦いはメンバー全員がそろって死に掛けたが何とか倒すことができた。

.......避ける余地はあったとはいえ、全方位攻撃はないだろう。

さらに自己再生能力も持つおかげで、再生を凌駕する破壊のために特攻のような真似をしなければならなかった。


奇しくもその戦術は自己進化能力をも無意味にできた。

何故死人が出なかったのかは今でも不思議だ。

それともそれは神の意思かな?


もう修復は終えているだろう、機工終焉竜を完全に消滅させることはできなかった。

破片が残っていれば周囲の廃材を取り込んで、さらに進化した化け物になっているはずだ。

私たちは構成部品をいくつか盗めただけだった。

懐かしいな。


懐かしい。この殺気も。

門の前にいる魔物がここまでの強さを誇るわけがない。

どうやって嗅ぎつけたか知らんが、私がここに来る事を知っていたらしいな。



「出てこいよ。『賽の河原』シシュフォス・エフィラ・サンテス!」

「あらあら。見つけられちゃいました?」


「当たり前だろう。殺気を隠そうともせずに隠れていたつもりだったのか?」

「ふふ。ちょっとしたお茶目です」


「変わらないな。そういうところは」

「あなたは、変わりましたか?気のせいか、とても弱く見えます」


言い終わらないうちに仕掛けてきた。

予想は付いていたので、ガードする。

ただのパンチが、まるで爆弾のように炸裂する。

腕を折られた。

そんなことは気にもかけずにカウンターで蹴りを繰り出す。

あっさりと避けられた。


「やはり、あなたはとても弱くなってしまったようですね。以前のあなたなら、私のこぶしを受ける前に私の顔を殴り潰していたでしょうに」

「君と同レベルになったのだから、ちょうどいいのではないかな?だからこそ君と遊びに来たのだよ」


すでに腕は治った。

200レベルならば弱い自己再生能力くらいは備えていて当然。

欠損ならともかく、骨折など直すのに一秒すらかからない。


「そうですか。貴方がそう言うのならばそういう事にしておきましょうか。踊りましょう?死のダンスを」

「エスコート役は私か。案内先は冥府でいいかな?」


「ふふ、ちょうど行ってみたかったところです。しかし、少しでも曲に乗り遅れると冥府に堕ちるのはあなたになりますよ」

「ああ。わかっているとも」


様子見は終わりだ。

殺し合いを開始する。

両者ともに徒手空拳で、舞うように拳を繰り出していく。

先ほどしたように防御するなんてへまはしない。


避けて、攻撃を繰り出して避けられて、避ける。

相手に攻撃を打ち込むまで何度も何度も何度も何度も何度も繰り返す。


「ふふふ、楽しいですわね!何時まで私を躍らせてくれますか?」

「君が踊れなくなるまで付き合おう!」


二人でダンスを続ける。

ただの一撃すら当てられない当たらない戦いは、両者の精神力のみを削り続ける。

体力の損耗もあるが、精神力のそれに比べたら考慮する必要もない。


「楽しいですわね」

「ああ。楽しいな!」


そんなことなど知ったことではないとばかりにダンスを踊り続ける私と彼女。

一瞬の油断も、ミスをすることすら許されない戦いにおいて楽しむなど狂人のやることだ。

しかしそこに至らねば上を目指すことなどできはしない。


「さあ、私はまだまだ踊れます!あなたはどうです?『最強』!!」

「踊れるさ!まだまだ躍らせてくれるのだろう?『最狂』!!」


これからは声を出す余裕すらなく殺し合いを演じる。

精神が削れていくかのようだ。

しかし、それは精神を一本の針のように収束させていくと言うことでもある。

先に神経が削り切られた方が死ぬ。

これはそういう戦いだ。




数時間後


戦いは引きも押しもせず完璧に拮抗していた。

舞を演じ続ける二人は疲れなど感じないかのように拳を繰り出し、踊り続ける。

顔には笑みが刻み込まれている。

戦場は1ミリたりとも移動していない。


わずかに最狂がふらついた。

その隙を逃がさず、拳を叩き込む。


「きゃあ」


吹き飛ばす。


「がはっ!?」


蹴りを叩き込まれた。

先に打ち込んだのは私なのに、とてつもないパワーだ。


「ぐぐ。君はもう限界だろう?おとなしく殺されると言うのはどうだ?」


楽しかった。

だが、もう演劇の幕を下ろす時間だ。

何かとても大切なものを失った気がする。

が、その代わりにこの世界で生きていく意思と力を手に入れた。


「ふふふ。冗談ではありません。まだ私は戦えます。まだ、私は生きています」


生きている、か。

それは死ぬまで戦いをやめないと言うことか。


いいだろう。

貴様を殺さずにおく事は礼儀に反する。

負けて生かされると言うのは、死ぬことよりも屈辱だと言う人間は確かに存在する。

彼女に恥をかかせるわけにはいかない。


「いいだろう。まだ決着は付いていない」

「げほっ、かはっ、ぐ。まだです。行けます!」


ふらついている。

ダメージは明らかに『最狂』の方が深刻。

けど、どうせ死ぬのなら、私が殺されるのだったら。


「最後は華々しくいこうか。葬送曲は派手なほうが好みだろう?」

「いいですわね。死ぬときはしみったれた曲より陽気な曲で送り出して欲しいものです」


二人の魔力が高まっていく。

密着しての肉弾戦では魔法を使うことが隙となるため使えなかった。

だから魔力は余るほどにある。


最後まで精神を磨き続ける。

最高の技を放つために。

お互いを殺すために。


『ブラック・アウト』

『ホワイト・アウト』


巨大な黒い力と白い力がぶつかった。


爆発。


彼女は消し飛んだ。




勝ったのは私、ルシフェレス・ファフニル・イラだ。


勝った。


何故だろうな。涙が止まらない。

少し前までは、彼女のことなどアイドルのように遠い存在だと思っていたのに、今は数年のときを共に過ごした仲間だと思っている。

悲しいな、仲間を失うことは。




そういえば、彼女と会ったのは雨の日だった。

当主になって旅をし始めたばかりの私は、偶然入った酒場で彼女と会った。

何故か意気投合し、一緒に旅をすることになった。


下心は抱いてなかった。

それだけ戦闘しか教えられなかった私は、人間とは程遠かった。

そういえば、私の使う一人称は彼女を真似したものだった。

それより以前は”自分”という一人称を使っていた。

どこの軍人だ?私は。




仲間と言うものを私に教えてくれたのは彼女だった。

彼女はいろいろなことを教えてくれた。

戦いに関して教わることなどなかったが、人間的なことは全て彼女に教えてもらったと言っても過言ではない。

イラの教育は強くなることが全て、心を育むことはしない。



もしかしたら初恋だったかもしれない。



レーションのようなものしか食べたことのない私が初めて食べたおいしいと思える彼女の料理。

人の手の暖かさ。

意味のない会話。

隣に人がいると言うこと。



最終決戦では彼女を殺せなかった。

実力の話ではなく、下らない感情に惑わされて。

それは手加減したと言うこと。

殺していたら二度と会えなかった。

だから八方塞がりでも、彼女とうまくやっていけるような何か方法を探していた。


そんなものはなかった。




だから私のわがままで昔を取り戻すために彼女と会った。

そして、彼女を殺した。


彼女を殺したことを後悔しているわけではない。

彼女は生かしたことを憎しみはしても、感謝はしない。

これが私と彼女の結末で、戦うことが生きることだった彼女とはこういう形での終わりしかありえなかったのだろうと思う。


「さようなら、シシュフォス。今の私を育ててくれたのはあなただ。たぶん、初恋だった」


もう鋼の世界に用はない。

そして、シシュフォスも居ない。

寂しいな。

そうだ、仲間に会いに行こう。



門をくぐった。

何かが動いた気がした。

周囲数kmにおいて地上のあらゆるものが砕けて門のみが存在する世界で。


悲しい気持ちを味わってもらえたかな?

そんな感じの第8話。


寄り道はしたものの、主人公は無事決闘できた様子。

これで、主人公はヒーローにありがちな甘い考えを全て捨てます。


次は真ヒロイン登場。

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