私の……………。
短編でGLです。
「郁美の馬鹿やろう、糞やろう………バーか。バーカ」
高校の屋上。夕暮れの空を見上げながら、郁美の悪口を言いまくる。
……ッッ……ウ……ッ……
なんで……だろ?
涙が溢れてくるよ、止まらないよ。
ウェック………ヒック……
私の唯一無二の親友……………郁美。
人付き合いが苦手な私の、高校に入って始めて出来た大切な親友。
話しが出来る程度の友達は何人か居たけれど、
彼女はそれらとは全く比べものにならないくらい、
私の大切な人だった。私の全てと言っても過言では無かった。
段々と日が暮れていき、夕焼けは私を鮮やかなオレンジ色へと染めあげてく。
「…ヒック……バーカ。い…くみ………」
私は裏切られた。彼女に 、彼女は私の嫌いな人と共に私の悪口を言ってた。
可笑しいな、私、アイツが嫌いだってちゃんと郁美に言ってたハズなのにさ。
「…………和葉ってさ…マジでうざくない?あんな奴と居て楽しいの?郁美?」
「私?つまらないに決まってるでしょ?毎日が退屈よ。でも、あの子私を好いてるから、利用するのには丁度良いわ」
「それに私はあの子を友達だなんて思って無いから」
聞こえてしまっていた会話。
聞きたく無かった会話。
………郁美……私のことそんな風に思ってたんだね?
………私なんか……友達ですら無いんだ?
「い……く…み……」
ただ、ただ、ひたすらに和葉の目からは涙がこぼれ落ちている。
他の人と喧嘩した時なんかは、いつも郁美は私の傍に居てくれたな。
………たい……会い……たい…会いたいよ…郁美。
友達に………戻りたい。
だけど、私は知ってしまった。
彼女が私と居るとつまんないと思ってること、退屈してること………それから私なんか友達だとは思って無いってことまで。
「………………」
口から言葉が出ることは無かった。
それでもなお、涙は流れ続けている。
放課後、忘れ物をしたから先行ってていいよ……
と言い残し、教室に一旦戻ってから下駄箱で靴を履きかえようとしてると、
昇降口の方から嫌いなアイツと郁美の声が聞こえて来た。
靴を履きかえようとしていた所だったから、
上履きも靴も何も履いていない、靴下のままで私はそのまま屋上へと
駆け出した。
そしてーーーーー今に至る。
やっぱり……人なんか信じ無ければよかった。
こんなにも苦しいのなら、聞いていたことに後悔するなら、
いっそ……最初から出会わなければよかったのに。
そう思えるくらいに………私は………あなたに出会えて………
変われた……のに。
あなたが現れなければ、このまま人を信じることなんて無かったハズなのに。
「バーカ〜〜〜ぁぁぁ〜〜いぐ〜み〜〜〜」
遠くの山にまで届くかもしれない、それくらいにまで
声を張り上げ、力の限り叫ぶ。
ガチャ………リ………。
屋上のドアがゆっくりと………静かに音を立てながら開いた。
和葉はそれに気づいていない。
「ば〜〜〜か〜いくみ〜〜っっ」
叫びと共に和葉が泣いているのが分かる。
あんなにも声を震わせている。
あんなにも涙を流している。
《そうか……私が傷つけたんだね……ゴメンネ?カズハ?》
でも仕方ないよ…カズハ………。
だって私に貴女の傍にいる資格なんてーーー無いのだから。
これ以上は………堪えられない。
私を見て微笑む君。いくみ……郁美と何度も私を呼ぶ。
その愛らしい顔、その真っすぐな瞳。
……気づいてしまったから…………。
……アナタガ……スキダト。
貴女を傷つけたく無いと綺麗事を並べているけれど、
本当に傷つきたく無いのは私自身で、
心の底から泣きたいのは私の方だ。
好きな人を泣かせて、何が嬉しいんだ?
何が楽しいんだ?
そんな気持ちなんて微塵も無い。
あるのはただ、後悔と絶望のみ。
……コウスルシカ………コウスルシカ…ホカニ……カンガエツカナカッタ…ンダヨ?
コウスルシカ……デキナカッタ。
当然だ。女の私が彼女に告白出来る訳が無い。
彼女が…もし…私を拒んだらと……それが何度も何度も何度も何度も……
脳裏に浮かびあがって…………。
ただ好きだと。その一言を伝えただけでも、
貴女の傍に居られ無くなると思うだけで、
苦しくて、怖くて、震えてしまいそうだ。
それ以前に、こんな気持ちを隠してまで貴女の傍に居たいと思うなんて、
私にそんな資格なんてあるのだろうか?
誰かに相談したいと思っても、これは普通の恋では無いのだから。
そうーーーー私は可笑しいのだから。
相談なんて、出来やしない。そもそも、誰に言えというのだ?
私の、この気持ちを知っても、なお私は可笑しくなんて無いと、
そう思ってくれる人が居るとでも言うのだろうか?
私が………男に生まれればよかったんだ、もしそうなら、
こんな苦しいを思いすることは無かったのに。
もうーーーー無理なんだ。
こんなにも近くに君が居るのに、
触ることすら出来ないなんて、
抱きしめたいと、キスしたいと、
胸のずっと奥で君を見る度、激しく鳴り続けてる心音も、
全部………全部……かき消してしまいたい。
無理矢理に抱きしめることだって、キスすることだって、
やろうとさえすれば、何だって出来るーーーけど、
私は………貴女を……傷つけたく無くて、
このまま、貴女に触れずに、ただこの日々が続き
生殺し状態のままならば、私はいっそ、貴女に嫌われる道を選ぶよ。
《サヨナラ………ワタシノ…ダイスキダッタヒト……》
「………和葉」
風が吹く、夕暮れの屋上で君の名を呼ぶ。
すると、君がゆっくりと振り返って、
泣きそうな………いや、もう泣いてるんだけど、
そんな顔を必死に隠して一言、ただ一言だけ
「バカ」
と言った。
ああ………バカの一言でさえ…こんなにも愛おしく感じるなんて、
だけど、駄目だ。君にこの気持ちをぶつけたら駄目なんだ。
そのうちに、必死に我慢をしていても和葉の目からは大量の涙が溢れてくる。
愛おしいよ、狂わしいくらいに。和葉。
だけどね、駄目なんだ。このままじゃ、君に嫌われないと…………。
諦めがつかないじゃない。
「馬鹿って何?聞こえてたんでしょ?私は貴女を友達だとは思ってない」
嘘だーーーっ。だけど………貴女は友達じゃない。
もっとずっと愛おしい。私を狂わせる存在なのだから。
「…………私は……大切な友達だと思ってた」
ああ……和葉……ゴメン…ネ…私は……ソンナアナタヲ……スキニナッテシマッタカラ。
もう……「友達」には戻れないのかも知れない。
「………そう。でも私はそうだとは思ってないし、貴女が大切なんてーーーーー」
ポタ……ポタ……ポタ…ポタ
コンクリートに水が落ちる。
水が落ちた部分だけ色が変わる。
な……に?雨……かな?
アレ?違う……見たいだ。
だとしたら、だとしたら、一体、コレは何だろう?
え…………?
和葉が何故と顔をしかめる。
《何で、郁美は泣いてるの?》
彼女は私を友達だとは思ってないと、
そう言ったのに、何で?どうして泣いてるの?
どうして?どう……し…て?
「どうして……郁美は泣いてるの?」
え?ないてる?ワタシ……ガ?ソウイッタノ?………カズハ。
ナイテナンカナ……イ……ア…レ?
ナンカ……ツメタイヨ。ミズ?
どんどん……郁美の涙は溢れていく。
ナニ………コレ…?ワタシハ……カナシクナンカ……ナイ……
はずは無い。
必死に和葉への気持ちを隠していた郁美だったが、
どうやらもう限界のようだ
「………………き」
そっと囁くように言った郁美の呟きは、風に掻き消されてしまい、
和葉には聞こえることは無かった。
溢れて、溢れて、気持ちが止まらなくなり、
ようやく郁美の口から出た言葉。
「え………?」
今、郁美は何と言ったのだろうか?
和葉には声は届くことは無かったが、
ずっと郁美を見ていた和葉には唇の動きで、
郁美が何かを喋った。ということは分かったようだ。
ねぇ……?今、もしかしたら好きって言ったの?
もしそうならーーー私は……………。
「………き………郁美が私を友達だと思って無くても良い。それでも私は貴女の傍に居たい。貴女がーーー好きだから」
………泣いてるけど、笑ってもいる。そんな曖昧な表情だけれども、
何処か、前を向いてる気がした。
初めて貴女に会った時も、その笑顔をもう一度見たくて、話しかけたんだっけ?
懐かしいな………それに、
今……好きって言わ無かった?
そんなの……聞き逃してる訳が……無いでしょ?
「和葉、ごめんね。私も……貴女にずっと…ずっと伝えたかった」
………郁美に好きだと言ってしまった。
だけど……このまま、何もしないでお別れしちゃうより何倍もマシ。
ああ、神様………願うならば…どうか…両思いでありますように。
私は郁美の言葉を心して待った。彼女の口から発っせられたのは、
「和葉が好きだよ」
私が1番待ち望んでいたその言葉だった。
「郁美ッ………ッッ」
凄く、凄く嬉しいハズなのに……どうして……涙が出るんだろ?
きっと………嬉し泣きってやつだよね?
「和葉…………」
郁美が私を優しく抱きしめてくれる。
って、郁美も泣いてるし……。きっと、嬉し泣き……………だよね?
郁美の腕………暖かいよ……柔らかいよ……
ッーーーーーー。
嬉しい………よ。
「和葉………私、ちゃんと……好きだから」
「うん」
「愛してるから」
「うん」
そして…………。
「ごめんね」
「う……………ん…ッッ…」
ごめんねと共に落ちて来た郁美の唇。
柔らかい。そして、甘い
大好きな人が初めてでよかったよ。
これから先も貴女に捧げます。私の全てを。
唇が離されて、二人で見合って笑い合った。
さっきまで、色々と悩んでいたけれども、もう迷わないからね?
《どうか……これからも………笑いあっていけますように》
再びキスをして、 もう一度見合ってから……二人同時に囁いた言葉は……
「「大好きです」」
〜END〜