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いぬたま  作者: よしき
6/6

6・学校へ行こう



ピピピピピ…。

けたたましい目覚ましの音に仕方なく目を開ける。

やわらかな朝の光の中、ボーッとしたまま部屋を眺めた。

ベッド脇にひいてある布団は乱れたままその主を失ったままだ。

そして元々片付いていない部屋が、よりいっそう乱雑さを増している。

そーいえば、なんか…昨日色々あったような…。

なんかこう…思い出したくないような事が…。

と、体に感じる妙な感触に視線を自分に戻す。

右横に女の子、胸元にキツネ、左腕にはサルがしがみついている。


「おわっ!」


一瞬、何事かと慌てて飛び起きる。

キツネはコロコロと部屋を転がっていった。


「あふ…おはようございます…。」


右横に潜り込んでいた女の子、ヒバリは大あくびをしながら目を擦っている。

左腕のアイは何事も無かったように、しがみついたまま寝息を立てる。

…ああ、そうだ…。

昨日から神様のとこの下っ端3人が同居する事になったんだ。

うぅ…思い出したくもなかったのに。

それで物置部屋が片付いてなくて、居候どもが俺の部屋に転がり込んできてたんだった。

部屋が狭いので、3人で2つの布団ってのは可哀相だったかと思ったりもしたが。

っつぅか、布団ひいてやったのに何で俺のベットに入り込んでるんだよ。


「いや〜、ベッドって寝やすくて良いですね〜。」


貴重なご感想ありがとう、ヒバリ。

キツネがクルンと宙返りをすると、ポンと人の姿になる。


「お、おはようございますっ、良治様。」


顔を赤くしたサラが深々と頭を下げ挨拶する。

うんうん、礼儀正しい子だ。

で、何で顔が赤いんだ?


「あっ、あの、私朝食のお手伝いをしてきます…。」


パタパタと急ぎ足で走り去ってしまう。

それを見ていたヒバリがニヤリと笑う。


「良治様、何やらかしたんですか?」

「するか!あほ。」

「薫様に振られて欲求不満とか?」

「…。」


こいつ絞め殺したろか…。

普通の女の子ならともかく、寝たりして気が抜けると動物に戻ってしまう女の子に対して何をしろと言うんだ。

しかも幼女に!

修行をすればヒバリのように人の姿のままでいられるらしいのだが、最近見習いになったばかりのサラとアイには難しいようだ。

なんだか、神様の世話係見習いってのも色々とあるんだな。


「ん?…あれ?」

「どうしました?」

「いや、着替えたいんだがアイが俺の腕を放してくれなくて…。」

「どれどれ。」


いつまでもぶら下がっているアイの小さな手を引き剥がそうとしているのだが、強烈な握力でなかなかその手が離れてくれない。

ヒバリも手を貸してくれてはいるのだがこれがなかなか…。

と、突然腕を握る力が強くなる。


「いたたっ!アイ結構力あるぞ。」

「そういえば、サルだかチンパンジーだかは握力が200キロぐらいあるとか…。」

「腕が千切れるわい!」

「大変!アイちゃん!目をさまして!」

「あだだだだっ!!折れるっっ!!!早くなんとか…。」

「アイちゃん!アイちゃん!!」

「んぎゃ〜〜!!!おれ…る…!!!!」








「ゴメン…良治…。」


俺とヒバリに怒られたアイはシュンとなっている。

ま、でも悪気があってしたわけじゃないしな。


「あ…まぁ、次は寝ぼけないように。」


頭をクシュクシュと撫でてやると、ニパッと笑う。

なんか犬みたいで可愛いぞ。

サルだけどな。


「良治様、そろそろお時間では…。」


遠慮がちにサラが言う。

この子はどうも遠慮がち、というか怖がってるように見える。

まぁ、昨日半裸で抱きついてしまった前科もあるしな…。

もうちょっと優しく対応してあげなきゃならないかな?

出来るだけ笑顔を作りながら答える。


「ありがとう、サラ。」

「そ、そそ…そんな、とんでもないです。」


あー、こりゃゆっくり慣れてもらうしかないのかな…。


「さ、良治様。とっとと学校行きますよ。」


と、ヒバリ。

コイツは慣れすぎだ。

ヒバリは2人に先輩っぽく言い聞かせる。


「じゃ、私達が学校へ行っている間、お母様の言う事をよく聞いて大人しくしててくださいね。」

「そうそう、俺達が…って!!何でヒバリまで学校に行こうとしてるんだよ!!」

「ヒバリちゃん!お母様、だなんて水臭い。本当のお母さんだと思っても良いのよ。」

「あぁ、もう!混乱するから母さんは黙ってて!」


母さんは涙目で何やら訴えているが、ほっておく事にした。


「でも私、良治様のお世話をしないと…。」

「お世話ならアイもしたいぞ!!」

「あっ、わ、わ、私も…。」

「世話なんかいらねぇ!!第一にみんなは生徒じゃないから学校に行けないって。」

「んじゃ、変化して行けば」

「どこの世界に学校に動物連れて登校する奴がいるんだよ。」

「でも…。」

「でもじゃない!世話なんか必要ないから。」


ヒバリが俺の頭の上を指差す。


「でも、耳とシッポが。」

「…。」


…。

わすれてたぁぁぁ!!!!

朝からドタバタしてたからすっかり忘れてた。

よく考えたらこんな格好で学校いけないじゃん!


「ヒバリ、昨日の術みたいにみんなに納得してもらえないのか?」

「いや…私達の力じゃまだそこまでは。」

「誤魔化せないんじゃ休むしか…。」


するとヒバリがポンと手を叩く。


「良治様、私に良い案が。」


いや、そのニヤッと笑うの怖いんだけど…。

仕方ない、聞くだけ聞いてやるか。











「オッス!良治。」


肩をポンと叩いたのは沢井遊さわいゆう

良く言っても、悪く言っても悪友としか言いようがない奴だ。


「ん、おはよう。」

「ちょっと、聞いてくれよ。さっきさ、電車が揺れた時に女の子に抱き付かれちゃってさ。それがメチャメチャ可愛いんだよ!!これってロマンの始まりじゃね?トキメキメモリアルって感じじゃね?青春ストライクで、俺始まったんじゃね?どうよ?どうよ?」

「…。」

「なんだよ、つめてぇなぁ〜。このっ、このぉっ。」


とか俺のわき腹をグリグリしてくる。

ま、こんな感じで頭が腐ってる奴だ。

まともに相手してたら俺の精神状態まで疑われてしまいそうだ。


「良治様、バレてないですよ。作戦バッチリです。」

「…こいつはバカだ。参考にならん。」


ヒバリは小鳥の姿で俺の肩に止まっている。

コレも異常な姿だと思うのだが、教室についても誰も突っ込まない。

みんなが遊と同じくバカなのか、俺がアレだと思われているのか…。

知りたいけど、怖くて知りたくもない…。


「おっと良治君、独り言ですか?それとも僕に言いたい事でもあるんですか?さぁ君のその熱いパッションをぶつけたまえ!君のリビドーを迸らせたまえ!!」


とか言いながらポーズを決めている。

誰か、マジでこいつを何とかして下さい。

しっかし…。

クラスにほとんどの人間が入ってきているにも関わらず、誰にもバレてないみたいだ。

まさかこんな作戦が上手くゆくとは…。

ちなみに作戦というのは。

・頭にニット帽かぶる。

・シッポはケツが膨らまないように股間に挟む。

・以上!

…いや、コレを作戦と呼んでいいのだろうか…。

なんか時間の問題のような気が…。


「…おはよう。」


その声にピクッと体が反応する。

遅れ気味に薫が登校してきたのだ。


「薫、その、おはよう。」

「…お、おはよう…。」


一瞬昨日の事が頭を過ぎり、気まずいムードが流れる。

半裸で幼女、しかも複数とジャレてた所を目撃されているからなぁ…。

必死に言い訳を考えていると、バカの横槍が。


「あやぁ〜、何ですかこの空気は。何やら怪しい匂いがしますよ〜。青春しちゃったんですか?熱いパトスを迸らせちゃったんですか?アチチでパヤパヤですかぁ?」

「「うるさい!!」」


バキッ!

俺と薫の強烈な一撃を喰らって、遊は撃沈する。

そんな事よりも昨日の誤解を解かないと。


「薫!後で…その、話があるから。」

「っ!…う、うん。」


よっしゃぁ!なんとかなるかも!

ちょっと希望の光が見えてきた。

あとは完璧に誤解を解いてだ、それから…。


「な、な、な、な、なに…?」


薫が俺を指差して、顔を赤くする。

ん?なんだ??

指されているのは俺の股間の辺りだ。

見ると喜んだ尻尾がワサワサ動いている。

見た目には股間がモリモリ動いていた。


「なっ!?!?」

「りょ…良治の変態ぃっっっ!!!!!」


バチーン!!!

崩れ落ちながら思った。

うっ…やっぱりこうゆう運命なのか、俺?











昼休み、俺は屋上に避難していた。

もう、今までの事は思い出したくない…。

朝の事がすでに学校中の噂になっているのだ。


A子「ねぇ、聞いた?相田君の話し。」

B子「知ってる知ってる!なんか凄いんだって!」

C子「何?何?」

A子「3組の相田君のアソコが動いたんだって!」

B子「ズボンの上から分かるくらい!!」

A子「しかも、こうビクンビクンって!」

C子「ヤダー!それって…それって!!」

B子「それを朝からクラスの女子に見せつけたらしくて。」

C子「イヤー!!変態!!」

A子「しかもそのアソコが○○で○○○みたいで、変な液が出て○○しちゃったんだって!!」

C子「ヤダー!!あたし、もう男の子に触りたくない〜。○○されちゃう〜!」


ってそれ、せめて俺の聞こえない所で言ってくれよ…。

もう学校来れない…。

ってかやっぱ来るんじゃなかった。

クソ!青春の儚さに涙が止まりゃしねぇよ…。

さめざめとないていると、傍らでポンとヒバリが変化する。


「あらら、また泣いているんですか?良治様。」

「何が良い案だ、この野郎!」

「ま、仕方ないじゃないですか。」

「仕方なくねぇだろ!俺もう学校来れねぇよ!」

「う〜ん、じゃぁ仕方ないですね。もう少し良治様で遊んでみたかったんですが。」

「俺で遊ぶな!!」

「最後の手を使いましょう。」

「最後の手?」

「はい。日本人の好きなお涙頂戴モノでいきます。」


なんかまた、自身満々のヒバリに一抹の不安を覚えた。









俺はヒバリに説得されクラスに戻った。

ヒソヒソ声が背中に刺さる。

針のむしろだ…。

席についても誰も話し掛けようともしない。

というか、珍獣を見つめるように遠巻きの見物人が増殖していく。

クソ!早く来てくれヒバリ。


「話は聞かせてもらったぜ、良治。お前のアレがナニしちゃってるんだてな。うひゃひゃひゃひゃっ!」


ゴツッ。

唯一話し掛けてきた遊を右の裏拳で沈黙させる。

まったく、どいつもこいつも…。


「…良治。」

「えーん、えーん!」


入り口からヒバリを連れた薫が現われる。

ヒバリは大泣きしながら薫にてを引かれている。


「この子、良治の親戚の子なんだって?」

「えっ?!そ、それは…。」

「お兄ちゃん!!!」


俺の台詞を遮るようにヒバリが飛びついてくる。


「私に合わせて演技してくださいよ。」

「あ、スマン…。」


ヒソヒソ声で打ち合わせをしながら、なんとか演技に戻る。


「ど、どうしたんだ?遠い親戚のヒバリちゃん。お、お兄ちゃんの学校に来ちゃダメだって言っただろう。」

「だってヒバリ寂しかったんだもん!」

「ああ、ゴメン、ゴメン。お兄ちゃんが悪かったよ。」

「良治、この子…親戚の子だったんだ?」

「あ、ああ。母さんの伯父さんの娘の腹違いの弟の妹の…つまり遠い親戚で、つい最近両親を亡くしたからウチで預かる事になって。」

「そう、そうだったんだ。」

「うん、そうそう…いてっ。」

「台詞が棒読みすぎです!」


小さな声で怒りながらヒバリが俺のスネを蹴る。

俺にこんな演技力を求めるなよ。


「お兄ちゃん!ナデナデさせて。」

「ま、またかい?ししし、仕方ないなぁ。」


俺はしゃがむとニットを取る。

とチョコンと耳が現われる。


「うふふ、カルディナだぁ。」

「まったく、ヒバリはウチの愛犬だったカルディナが好きだなぁ。」

「良治その耳って?」

「カルディナが死んじゃって寂しかったからお兄ちゃんにカルディナになってもらったの。」

「まったくまいったよ。シッポまで付けられちゃってさ。ヒバリちゃんは本当にカルディナを好きだったからなぁ。」


ズボンをずらすとシッポがチョロンと出てくる。

ヒバリはそれもナデナデしてくれる。


「でもねヒバリちゃん。このシッポの所為でお兄ちゃん困ってるんだ。」

「どうしたの?」

「お兄ちゃん変態さんと間違えられちゃって…。」

「私も良治がコスプレにでも走ったのかと。」


器用にもヒバリは涙を溢れる寸前で止めながら、立ち上がり大きな声で訴える。


「みんな酷いよ。お兄ちゃんはヒバリが寂しくない為に一生懸命やってくれたのに。お兄ちゃんは変態じゃないもん!とっても優しいだけなんだもん!!」

「…。」


ヒバリの迫真の演技に皆はシュンとなる。

なるほど、これがお涙頂戴作戦か。

すると薫が近づきヒバリを撫でてやる。


「ゴメンねヒバリちゃん。私、良治の事誤解してたね。ヒバリちゃんの為に頑張ってただけだったんだね。」

「お姉ちゃん…。」


よっしゃ。いい具合に薫の誤解が解けてる。

このままクラスメートも巻き込めれば…。

と突然、遊が俺に抱きついてくる。


「良治よ!お前を真性の変態だと思ってしまった俺を許してくれ!!前々から怪しいと思ってて、素直に納得してしまった俺の心の方が汚れていたよ!!」


いや、抱きついて泣くこたぁねぇだろ。

つか、お前俺をそんな風に思ってたのかよ…。

うわぁ、鼻水汚いっての!


「みんな、良治はヒバリちゃんの為にコスプレしてたんだ。皆も誤解を解いて良治のコスプレを応援してやろうぜ!ヒバリちゃんの為にさ!」

「おぉー!!」


遊の一言に妙な団結が生まれる。

コスプレ応援してもらっても嬉しくないのだが…。

ガラガラ。

開かれた扉の向こうには涙を流しながら立っている校長先生が何故かいた。


「話は聞かせてもらいました。健気な少女の為に友達に笑われてもコスプレし続けるその勇気。そしてそれを守ろうとする皆の思いやり。私は感動の涙を止める事が出来ません!今回の件は校則違反にはしません。さぁ、相田君。どんどんコスプレして下さい!!」

「さすが校長話が分かる!みんな聞いたか!これで良治は学校公認のコスプレイヤーだ!俺達も頑張って応援してやろうぜ!!」

「おぉーっ!!!」


クラス全員がこぶしを突き上げ叫んだ。

何だ?この団結は?

ま、まぁこの姿を何とか誤魔化せたから良いのだけど…。

なんか嬉しくないなぁ。

…。

つか、俺、学校公認のコスプレ犬男ですか…。

嗚呼、普通の生活がドンドン遠のいてゆくような。

ヒバリはコッソリとブイサインをしている。

そのヒバリを、良かったね、と言いながら薫が撫でていた。

ま、コイツのおかげで薫と仲直り出来たし。

悪くないかな、こうゆうの。




ご無沙汰です。

今回は良治君が学校で変態です。

まぁ、彼の不幸は今に始まった事じゃないですから。

にしても、自分で書いておいてなんですが、良治とヒバリは結構良いコンビだなぁ、と。

会話がポンポン出てきて大変楽です(笑)

ただ個人的にはサラが気に入っているので、掘り下げて書いてみたいなぁ、とか思ってます。

ま、ストーリー的には始まったばかりなので、追々ゆっくりと書いてみたいですね。

次回までまた少し間が空くと思いますが。

見捨てないでね(^^;)

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