5・もう一騒動
ヒバリ
自分で「バカンス」と言ったのは上手い言い方だと思った。
あのいい加減男の面倒を見なくても良いのだ。
最高じゃないですか!
知るほどに良治様の人柄も優しくて、何とかやってゆけそうだし。
後から入ってきた2人ともなんとかなるだろう。
むしろ、後輩として色々とやってもらおうかな?
などと考えて、ヒバリはホクホクした笑顔を浮かべる。
でもね…本当は…。
そう、本当は何処かの山の主様の所にでも奉公に行きたかったのだ。
お庭の手入れ役や厨房でも構わない。
安定した職場で、静かに自分の仕事に専念し、昇進を目指す。
そしてゆくゆくはどこかの主様に見初められたら…なんて考えてた事もあったのだ。
それが今では、転勤、連戦、出張続きの動物霊の神様のお世話係り。
確かに爬虫類霊専門や九十九神専門よりはマシだといえる。
でもね、仕える相手が天青様でなければの話だったのだ。
スケジュールは守らない、遅刻間違え当たり前。
仕事も適当で、たまにサボって何処かで遊んでいるほうが多いくらいだ。
一度、某山の主様が怒鳴り込んできた事があった。
女房に手出しするなと言われ、何故か私が謝り倒したのだ。
もうああゆうのは勘弁して欲しい…。
本当にいい加減な神様。
でも、だからこそ、このバカンスを楽しまねば、と思う。
あぁ、いっそ良治様が治らないでずっとこのままなら最高なんだけどな…。
そんな腹黒い事を考えてたりする。
ヒバリなりの処世術なんですよ。
アイ
良治はいい!
良治はやっぱり、あったかい。
さっきの抱きついた感触を思い出しニコニコとしてしまう。
今までにあった色々な事を全て忘れさせてくれた。
縄張り争いでとうちゃんが死んだ事も。
新しいボスにかあちゃんが追い出された事も。
自分が死んでしまった事も。
全部、そんな事もあった、という気にさせてくれる。
そうだ、今だ。
今が大事だと思っている。
良治がいて、アイがいる。
それが純粋に嬉しかった。
それに友達も出来た。
まだ話はしてないけど、きっと友達になれる。
良治がいるなら、なんでもできる。
なんでも楽しい。
「アイちゃん、お風呂入りませんか?」
ヒバリが微笑みながら話し掛けてきた。
「お…ふろ?」
「あー、つまり体を綺麗にして」
「ああ、おんせんか?アイしってるぞ。」
「ちょっと…違うけど。ま、いいか。一緒に行こうよ。」
アイは大きく頷く。
ヒバリは良い奴だ。
親切で、大好きになったぞ。
「おんせんはお湯に入るんだぞ。」
「うん、お風呂も一緒で、服を脱いでお湯に入って、体を綺麗にするところで。ちょっ!!!」
「ん?どうした?」
「まだ、服脱いじゃ」
「あっ!良治だ!!!」
大好きな気持ちは止められない。
アイは上着を放り投げ、平坦な胸を晒しながら良治に突撃した。
サラ
落ち着いて、落ち着いて…。
大丈夫、落ち着けばきっと。
根拠の無い自信が虚しく感じられる。
さっきはちゃんと言えなかった。
良治様に助けて頂いた事。
そして、こうしてまたお会いできて嬉しかったと。
嗚呼、良治様の顔を、言葉を交わす事を、考えただけで倒れてしまいそう…。
胸がドキドキしていた。
頬がカッと熱くなって、何も言えなくなってしまいそう。
それにしても。
久し振りに出会えた良治様の顔を思い出す。
やはり素敵な方です…。
子供の頃、あの腕にギュッとされた時から密かに思っていた。
見習として人の姿を与えられた所為でしょうか?
あの時よりも、もっと優しくて素敵な方だと感じられる。
胸がドキドキして壊れてしまいそうなくらい…。
落ち着いて、私。
そう念じる。
良治様のお母様に頼まれてお風呂場に服を持ってゆくだけ。
服を置いて、一声かければそれで良い。
もしも時間が許すのならば、さっき言えなかった言葉もお伝えしたい。
それで、お話しをする事ができるのならばこれ以上はもう…。
それ以上をチラッと考えて、また顔が火照ってくる。
ダメダメ!
ただ、着替えをお渡しするだけなんだから。
落ち着いて。
落ち着いて私…。
と、ドアノブに手を掛けようとしたところで、いきなりそれは開いた。
「母さん、着替えが」
「きゃっ!」
上半身裸の良治様に抱きとめられる形になってしまう。
破裂したドキドキで、サラは一瞬でのぼせてしまった。
薫
さっきはちょっと言い過ぎたかな…。
大体、いきなり触りまくるなんて無しでしょ!
い、いや別に了解を取れば良いとか、そうゆうんじゃなくて!
ああ、その、つまり、少しは言い訳を聞いてあげないのも可哀相かなって。
なにやらおかしな事を言ってたような気もするし。
そう言えばあの娘誰だろう?
妹はいないし、親戚の子とかかなぁ?
まぁ、べ、別に誰でも良いけどさ…。
第一に今は別にあいつに会いに行くわけじゃないし!
おばさんがキンピラくれるって言うから行くだけで。
おばさんのキンピラ好きだから行くだけ!
もしもね、もしもたまたまあいつに会ったなら話の一つでも聞いてあげても良いかなとかは思ってるよ。
そんなのはオマケで、どーでも良いけどさ。
コスプレしようが、少女と戯れ様が別に私には関係ない…。
そういえば何でコスプレしてたんだろう?!
アキバ系とかソッチが趣味とか?!
あーやだやだ…。
って何考えてるんだろう、私。
はぁ…。
もう、サッと行ってキンピラ貰って、そのまま帰っちゃえば良いんだ。
言いたい事あるなら、そのうちあっちから言ってくるでしょ。
うん、そうだ。
さて、勝手知ったる馴染みの家だ。
とっとと用を済ませよう。
良治
それにしても。
今日は次から次から色々な事が…。
「はぁぁぁ…。」
ドッと深い溜め息が出てしまう。
耳とシッポは変わらず存在感を示すようにプルプルいっている。
ヒバリだけでなく、サラとアイの面倒も見なければならない羽目に。
どうして次から次へと…。
…でも。
と思い直す。
その報酬で惚れ薬、ってのは結構オイシイかもしれん!
薫に使って効果が現われれば、「良治好きスキッ!!」な〜んておいしい事も。
うん、在り得るわけだ。ぐふふ…。
うひゃ〜たまんねぇ〜!!!
どうするよ!おい!?
もしかしたら、○○とか○○○な事まで…。
あ〜ヤバ、想像しただけで鼻血出そう…。
ってか、出てもーた…。
いかん、いかん。
バカな妄想はいい加減にして、どうやって薫に惚れ薬を飲ませるかを考えねば。
っと、着替え持ってくんの忘れてるし。
バスタオルを腰に巻いてドアを開ける。
「母さん、着替えが」
「きゃっ!」
勢いよく何かとぶつかった。
慌ててみるとサラが真っ赤な顔をして立っている。
と、次の瞬間サラがカクンと崩れ落ちた。
「わーたったたた!」
咄嗟に両腕で抱えるが、予想外な重さで一緒になって崩れ落ちてしまう。
と、そこに突撃してくる赤い弾丸が。
「りょーじー!!!」
「あらら、アイちゃん?!…って、サラちゃんどうしたんですか??!!」
半裸で背中に抱きつくアイ。
押し倒されたサラを見てビックリしているヒバリ。
鼻血を出しながら、バスタオル一丁でサラを押し倒している良治。
そこへ、お約束のようにキンピラを持って台所から出て来た薫。
「…な…なに…。」
「か、薫!?」
気まずい沈黙の後。
ハラリ…。
運悪くも、腰に巻いていたバスタオルが落ちてしまった。
そりゃもう、モロ見え。
「良治のバカァァァァァ!!!!」
バチィィン!!
強烈な一撃を残して薫は走り去ってしまう。
混乱してるヒバリと、はしゃぐアイ、グッタリしたままのサラ。
自失呆然と涙を流す良治。
…もうダメだ…。
マジで、立ち直れない…。
あっ、とヒバリが声をあげる。
なんだよ、慰めの言葉でも言うのか?
「そういえば今日2回目の修羅場ですよ、良治様!凄いですね〜。」
…コイツいつか殺す…。
微妙に微エロ方向に行ってるような(^^;)
まぁ、良治は変態ってことで話は進めようと思ってますが(笑)
ちなみに物語内ではここまでで4時間くらいしか時間が経過してません。どんだけ長い話になるんだ、こりゃ…。
ま、ノンビリ、ダラダラ連載ですが、引き続きよろしくです。