4・新たな災難?
「あら、良治様。まだ泣いてるんですか?しょうがない人ですね。」
ヒバリが腕組しながらヤレヤレと呟く。
片思いの幼馴染に痴漢行為(俺の意思に反しての行為だと強く訴えるが)を働いてキラわれ、その上で元気百倍な奴がいたらお目にかかってみたいもんだ。
「まぁ、まぁ。仕方ないですよ。嬉しくてカルディナがちょっとはしゃいじゃっただけじゃないですか。」
ポンポン、と俺の頭を撫でてニッコリと笑う。
ちょっとはしゃいだって…。
ちょっとさっきの事を反芻してみる。
〜俺(精神はカルディナ)、薫の体を触りまくり。
薫「良治のバカ!!!」しかも涙目。
薫、逃げるように走って退場。〜
まんま変態じゃねぇかよ!
「お触り大好き変態痴漢ボーイ」決定じゃないか!!
あーダメだ。マジ落ち込んできた。
ヒバリはもう一回ヤレヤレと溜め息をつくと、思い出したように言う。
「そうそう、良治様のお母様に夕ゴハンだから呼んできて欲しいと言われてました。」
「…あ、そう。夕ゴハンか…。」
「はい、冷めないうちに頂きましょうよ。」
…。
「ちょっと待て!お前ウチの親と何話ししてんだよ!!」
ヒバリを居候させる事をまだ何も言ってないのだ。
犬耳シッポ付きになった上に、これ以上誤魔化しようの無い出来事だっていうのに。
「何を?って…ご挨拶して、良治様の事をお話して…。」
「俺の事だと?」
「はい、随分可愛らしい姿になられましたよ、と。」
「言ったのか…。」
「はい。ありのままを。包み隠さず。」
ヒバリは、素直な正直者の私を褒めて下さい、みたいな顔をしている。
…。
これっぽっちも言い訳するひまも無く。
犬男になってしまい。
幼女と居候する事に。
変態コスプレロリぺド男、なんて言葉が頭をよぎる。
あぁ…もう家族にも見放されたかもしれねぇ…。
さらに落ち込む俺にヒバリはニッコリと微笑む。
「良治様、大丈夫ですよ。」
「大丈夫って…なにが?」
「…ま、とにかく大丈夫ですから。」
怪しげな笑みを浮かべるヒバリの手招きに誘われて、仕方なく食卓へ向かった。
「いや〜そうですか〜。神様も大変ですな〜。」
「お父さん、お供え用のオハギをお出ししたほうが良いかしら?」
「おぉ、母さん気が利くね〜。どうです?オハギはお嫌いですか?」
「とんでもない、大好物だよ。」
「そりゃ良かった!母さん、早くお出しして!」
「はいはい。」
食卓の場はメチャメチャ明るかった。
酔っ払って機嫌のいい父さんと、つられて笑っている母さん。
父さんにビールを注いでもらっているのは天青だ。
「えっと…どーゆー事??」
「天青様の術で、今回の出来事を納得してもらってるんです。」
ヒバリは得意げに説明する。
「ま、簡単な術ですし、元々この辺りの人は迷信深いので問題ないんですよ。」
「なるほどね…。」
肩の荷が下りてホッと溜め息をつく。
…いや、下りてない!
この姿が一番の問題じゃないか!
天青はそんな俺に気が付くとヒラヒラと手を振る。
「おぉ良治!ゴハン冷めちまうぞ。」
「いや、その前にこの姿をなんとか」
「似合ってるからいいじゃねぇかよ。ねぇお父さん?」
「まったくもってそうですな。折角神様がして下さったんだ。ありがたいじゃないか。なぁ、母さん?」
「ええ、そうよね。」
3人そろってニコニコと褒め称える。
…ありがたくねぇ、っつうの!
天青は俺をチョイチョイと呼び寄せる。
「なんだよ?」
「お前に良い物をやるよ。」
と小声で言うと、小さな小壜を手渡す。
「元に戻る薬か?」
「いや。それより良い物だ。」
「???」
「惚れ薬。ま、お詫びのしるしだと思っとけ。」
って、何か買収されてるような気がするが…。
いや、待てよ。
コレを薫に使えば…うひひひひ…。
もしかして、もしかするかもしれない!
逆転ホームラン間違い無しじゃねぇかよ!!!
「ヒバリには内緒だぞ。」
意味が分からんが、取り合えずOKサインで答えとく。
「ま、そんな訳でこいつらの面倒頼んだぜ、良治!」
いささか不本意とはいえ、色々と手を回してもらってるんだ。
ヒバリの面倒くらいなんとか…。
…こいつら??
テーブルを見回すとテーブルの向こう側でヒバリがから揚げと格闘している。
さらにその横に茶パツで髪の長い女の子がモソモソとゴハンを食べている。
さらに、さらにその横では手づかみで魚を食べている短髪赤毛の女の子までいるじゃないか。
「ちょっ…、えぇ〜〜?!?!」
「おう、紹介しとくな。おいサラ。」
髪の長い女の子が顔を上げる。
見たところ14,5歳といったところだろうか。
キリっとした和服が良く似合っている。
「あの、その節はお世話になりました。サラで御座います。」
「その節??」
「お前が昔助けたんだとよ。」
「おじいちゃんとこで良治がキツネの子供を拾ってきた事があっただろ。」
その父さんの言葉に、ぼんやりと思い出してくる。
「そっか。あの時のキツネか。」
「はい。見習として召し上げられる前に、良治様に御礼を申し上げたいと天青様にお願いしまして、こちらへ参りました。」
サラは深々と頭を下げる。
俺も何となくつられて頭を下げてしまう。
凄くおしとやかで礼儀正しいじゃないか。
「さて、でもう一人がアイだ。」
呼ばれた赤毛の女の子は口から魚の尻尾を垂らしながら振り返る。
見た目はヒバリと同じくらいの10才前後のチビッコなのだが。
食べ方、動き、存在、全てに「野性的な」と前置きしてもいいくらいの溢れ出るヤンチャっぷりが見て取れる。
「アイ、良治だぞ。」
天青が俺を指す。
「…良治…なのか?本当に良治なのか?」
「そ、そうだけど…。」
「良治、会いたかった!!」
突然跳躍したアイはテーブルを飛び越えて俺に突撃してきた。
「うわっ!!な、なんだ!?おいっ!!」
「アイもな、お前が助けたサルなんだ。」
「そうそう、あれは良治が10才の頃だったかね、母さん?」
「あら9才の時ですよ。泣きながら、可哀相だ、って怪我をしたお猿さんをつれて帰ってきて。」
「そうか、9才か。あの時は大変だったなぁ〜。」
「お前、色々と助けすぎだろ。」
天青が笑う。
アイをなんとか引き剥がし、天青を睨む。
「ほっとけ…。」
「ま、そうゆうの好きだぜ、俺は。」
「うるせぇよ。」
「で、だ。2人とも俺のところで見習をする予定だったんだが。ま、俺も色々と忙しくてな。暫く預かってくれな。」
「ちょっと、勝手に決めるな」
「そりゃもう、神様にお願いされたとあっては断れないですな。いいな、良治!しっかり面倒見るんだぞ!」
母さんも、ウンウンと頷く。
両親の中ではもう決定事項になっているようだ。
…コレも術でどうにかしてるんじゃねぇだろうな?
「さて、そんじゃ俺はこれで失礼するぜ。」
「ちょっ!元にもど」
「そのうち何とかしてやるよ。んじゃな!」
天青は爽やかな笑みを残してポワンと消えた。
そのうち…ね。
その前に、だ。
よほど気に入ったのか、まだから揚げを食べ続けているヒバリ。
目が合うと照れくさそうに頬を染めるサラ。
何故か俺の左腕にぶら下がっているアイ。
娘が出来たみたいだ、とはしゃぐ両親。
なんか問題を押し付けられただけのような気がするのだが…。
惚れ薬で買収されたのは、ちょっと早まったかな?
勢いでキャラが増えました。
後悔してないし、反省もしてない(笑)
ノンビリ更新ですが見捨てないでね(^^;)