第九話 こうして私は適当に生きていく
予約したつもりが…
「どうすんの!?全然着かないどころか視界に入りすらしないんだけど!」
私は少し離れた所を飛んでいる風に向かって大声を上げる。
「―――――!―――!?―――!」
「えぇ!?なんだって!?もっと大きな声で!」
「し――ない―しょ!こん――酷く―るとは思――無かった―――ら!」
こんなに酷くなるとは思わなかった。
果たして何が酷くなったのか……。
それはもちろん天候だ。
台風がもたらす風雨を遥かに凌駕する雨と風の強さ、そして、時折響きわたる雷鳴が飛行日和とは正反対のコンディションであることを嫌でも教えてくれる。
「くっ……前が見えない……」
激しい雨と分厚い雲のせいで、視界が悪く、昼間にも関わらず夜のように真っ暗だ。
などと考えているうちに、音のみだった雷は光を伴って海面に落ち始めた。
「風!高度を下げよう!こんなに雲に近づいたら雷の直撃を食らいかねない!」
どうやら風にしっかりと伝わった様で、彼女は頷いて高度を下げて行った。
雷が発生する原理や正体は有名なので、詳しい説明は割愛するが、雷鳴を轟かせている雲は例えるならば高圧電源だ。
もしその電源に誤って触れたらどうなるだろうか?
答えは『良くて感電、悪くて感電“死”する』である。
もちろん私たちは妖怪なので、感電“死”する確率は低いとは思うが、用心に越したことはない。
海面スレスレまで降りていく風の後ろ姿は激しく風向きを変える暴風に弄ばれてフラフラと頼りない。
かく言う私も、この暴風には勝てず、ずっとフラフラしているのだが……。
「できるだけ早く抜けたほうがいいのかな?……いや、危険だし…でも、早く嵐を抜けたいし…どうしよう?」
私は亜音速飛行をやるかどうか迷っていた。
昨日一回だけしか試していないが失敗しているうえ、この嵐を抜ける前に風でたたき落とされる可能性もある。
「いや……止めよう。逆に危ないし…」
私は大人しく普通に飛んでいく事にした。
―――――
――――
―――
――
「訳がわからないよ……」
思わずそう口走ってしまった。
あのあと、それほど長くない間大陸を目指して飛んでいると、急に空が晴れ、太陽がさんさんと降り注ぎ始めた。
………が。
「……なにこれ!?あっつ!」
雨水でびしょびしょだった振り袖が10分少々で乾いてしまう程強烈な太陽光線が私達2人に突き刺さる。
身体中から汗が吹き出し、まるでサウナの中に居るような感覚だ。
「ちょっと!風!大丈夫なの?」
私は“暑い”で済んでいるが、風はそうでは無いようだ。
「……………ん?大丈夫……」
飛び方は危なっかしく、目は虚ろ、更に呼び掛けに対しての反応も直ぐに返って来ない。
「限界か……」
この天候、風の様子を見ると、『熱中症』という病気が頭に浮かぶ。
対処法は………日陰に運んで、服を緩める等の体温を下げる処置をする事。
しかし、ここは海の上日陰なんか存在しない。
海水に突っ込むなら別だが、海面では三角形の背びれが行ったり来たりしている。
能力を使って洞窟に帰る事を考え始めた時……見えた。
「ん?………陸!?やった…陸だ!よっしゃ!あそこまでたどり着けば!…」
私はヨタヨタと飛ぶ風を抱えて、安全かつ急いで陸に向かった。
―――――
――――
―――
――
「ふぅ…はぁはぁ…」
幾ら体格が違うからと言って、風を抱えて飛ぶだけでこれほどまで息切れを起こすとは……。
人妖大戦で稜と戦った時も然り、どうやら私は体力に難があるようだ。
後で何かトレーニングでもしようか…。
「で、大陸に着いたけど、初めから躓いていて、これから大丈夫かな…」
私は同じ木陰に入り、横になって休んでいる風を横目で見た。
近くの綺麗な小川から汲んだ水を飲ませたからか、顔色も随分良くなっている。
「多分中国の辺りに居るはずだけど、今は中国史の中でも伝説の時代だからな……何も無いかも知れないな」
日が傾いて空は茜色に染まっている。
今日はここで野宿する事になりそうだ。
そのまま横になろうとして、とある事に気が付いた。
「待てよ?こんなところで無防備に野宿って危険じゃない?えーっと……効き目があるかは分からないけど、この辺りに結界を張って……………っと。よし!これで妖怪は入って来れないな。よっぽど強いのが来ない限り安心出来る」
そう呟いて私は風の隣に寝そべると、そのまま丸まって眠りに落ちた。
この時の私は“人間”に対する対策を打つという考えがすっかり抜けていた。
―――――
――――
―――
――
「お姉ちゃん!!」
「うわっ!」
気持ち良く寝ていたら、耳元で大きな声を出されて目が覚めた。
私の耳は集音性能がいいので、大きい音は苦手なのだ。
事実、先程の大声のせいで、酷い耳鳴りと頭痛に襲われている。
「な……なに?いきなりそんな大声出さないで……」
頭痛を通り越して目眩までしてきた……。
「なに?じゃないよ!なんで直ぐに起きてくれないの?ここはどこなの?」
風は不安そうに辺りを見回しながら私に質問を吹っかけた。
「どこって…大陸でしょ?昨日着いた時には風も辛うじて意識があったと思うけど…?」
「そこは覚えてる!木陰に寝かされた辺りまではボンヤリとだけど、覚えてるよ!」
「じゃあ、何が分からないのさ……」
私は要領を得ない風の話に少しイライラし始めていた。
やっと目眩が治まって来て、周りに気を払う余裕が出来て来る。
「じゃあ、周りを見てみてよ!」
風は切羽詰まった声で私に周りを見るよう促したが、その必要は無かった。
何故なら目眩から完全に解放された私の頭は自分達が居る場所の景色を完璧に認識していたからだ。
金、銀、数多の宝石類。
全部で一体幾らになるのか想像もつかない量のそれらが惜しみなく使われている部屋。
部屋にいくつも置かれている家具等の調度品だけではなく、光とりの窓の格子などにも美しい彫刻と伴に施されている。
「……どこ?」
こんな場所を私は知らないので、首を傾げるしかなかった。
「――――――?――。―――」
「――――――」
首をかしげていると、数人分の足音か近づいてきた。
その声はハッキリと聞こえるのだが、意味が全く解らない。
なんだか、音の雰囲気がテレビなんかでたまに流れる中国語にそっくりだ。
まあ、中国の辺りを目指して来たから、当然と言えば当然だけど…。
「――。――――?―――――」
遂に足音の主達が部屋に入って来て私達に何かを言った。
「ね、ねえ…お姉ちゃん。何て言ってるの?」
「ごめん……解んない…」
姉妹揃って解らない言語に戸惑っていると、相手の言語の意味が解っていないのは、あちらも同じのようで、動揺が広がって行く。
「その言語!あなた達も、月からいらしたのですか!?」
動揺し続ける人の壁の後ろから意味が理解できる言葉が掛けられた。
その声を聞いた途端、入り口を塞ぐように立っていた人の壁がスッと左右に割れ、一斉に頭を下げた。
「―――――」
壁の向こうに居た男が頭を下げている人たちに何かを言うと、その人たちは一礼して直ぐに部屋から出ていった。
「さて、先程の質問の答えですが……どうなのですか?」
周りに誰も居なくなった事を確認すると、再び私達に向き直り問い掛けてきた。
「……いえ、私たちは月から来たわけではありません」
「そうか……私を迎えに来てくれた訳では無いのか……」
月の民がこの人を迎えに?一体どういう事だ?
「あの……失礼ですが、貴方は一体?」
「ああ…失礼した。私の名は桀この夏王朝二代目の王です。気軽に桀と読んで下さい」
夏!?あの伝説の王朝の!
まさか本当に存在するとは……。
「何故月の事を?」
「私はここの出身ですが、祖父が度々そう言っていたのですよ。『必ず迎えに来てくれる』とね」
祖父と父は、月の迎えを待たずに別の迎えが来てしまいましたけど。…と桀は哀しそうに微笑んだ。
「それは……何というか、お気の毒に……」
「いえいえ、お気に入りなさらず。ところで……」
私のテンションが下がりかけた所で、桀は風に視線を移した。
「随分とお美しいお姉様ですね。お名前を伺っても宜しいですか?」
「…………」
風は桀をじっと見つめたままで、反応しない。
「お〜い。大丈夫?」
「……!な、なに?お姉ちゃん」
目の前で手を振ってやると、風は桀が来てから初めて喋った。
しかし、今までの会話は全く耳に入っていなかったようだ。
「ほら風!名前を聞かれたよ!ちゃんと答えないと失礼だよ」
「え?あ、はい。ふ、風です。不束者ですが、宜しくお願いします」
「……それは結婚の挨拶でしょ?あと、私は涼花です」
「涼花さんがお姉様だったのですか。失礼しました」
「いえいえ、自分でも気付いてることなのでお気にならさず。それと、1つお願いがあるのです。私達は訳あって、あまりその名前を使いたくは無いのです。ですから、ここだけで使える新しい名前を付けてはいただけ無いでしょうか?」
「……分かりました。では、即席ですが、涼花さんが末良。風さんが末喜というのは如何ですか?」
末喜?何処かで聞いた事が有るような…。
「はい!素敵なお名前です!ありがとうございます!」
末喜と言う名前に聞き覚えがあり、首を捻っていると、風が笑顔でお礼を言っていた。
「それでは末良さん、末喜さん。時間の許す限りここに居て戴いてよろしいので、ごゆっくり。……あ!後でこの国の言葉をお教えしますので」
そういって桀は部屋から出ていった。
「カッコいい……」
「はぁ!?いきなりどうしたの!?一目惚れ!?」
「はふぅ…」
あ、ダメだ……恋する乙女の顔になってる……。
これはまさか……。
「ごゆっくりって言われたけど、この後どこに向かう?」
「…………いる」
「え?」
「ずっとここにいる」
「………」
やっぱりか……。
仕方ない……しばらくここに滞在したら、風をだけここに残して私だけで旅を続けるか……。
―――――
――――
―――
――
「お姉ちゃん。買い物行こう?」
「ウン……」
「珍しい形の飴を売ってるらしいよ」
「……ウン」
ここに滞在し始めて1週間ほど経ったある日、風が私を買い物に誘ってくれた。
私の発言が短文と言うより、もはや単語なのには理由が有る。
別に機嫌が悪いとか、そんなくだらない理由ではなく、単語でしか話せないのだ。
この1週間の内に、風は言葉を殆ど覚え、会話に苦労する事は無くなっていたが、私は違った。
ここに来て、私の言語能力の無さが唸りを上げたのだ。
1週間で会話が出来るようになった風を基準にするのはおかしいが、それに比べて私が出来るのは、“肯定”と“否定”あと、数個の単語を言えるだけ……。
風にお願いして、敢えて中国語で話しかけてもらっているが、あまり成果は上がっていないという訳だ。
別に月語(日本語)で話せばいいのだが、せっかく言葉を学ぶ機会が与えられたのならば、覚えておきたいと思ったのだ。
「じゃあ、行こっか」
「……ウン」
相手が言いたい事は何となく判るんだけどな…。
でも、1ヶ月もすればまともになるよね?
振りとかじゃなくてリアルに…。
―――――
――――
―――
――
「フウ、ワタシ、ソロソロ、デテイコウ、オモウ」
「やっぱりね。そう言うと思ったよ……私は、もうしばらくここに居る」
私が(1ヶ月掛かってやっと)片言の中国語で風に旅の再開を伝えると、彼女は直ぐに月語(日本語)でここに残ると言った。
日本語で返事をしてくれたのは、真面目な話しをする私に対する優しさだろう。
「そっか……じゃ、私だけで行くね」
「無理にでも連れて行こうとか思わないの?」
「いや、そういう応えが返って来ることは予想してたからね…。私からは、桀さんと仲良くやりなさい。って事だけだよ」
1週間程前からだろうか…皆が眠りにいた深夜に、風は部屋を抜け出してどこかに行くようになったのは……。
まあ…どこに行っているかは、言わずもがな。
「きっ気づいてたの?////」
「ふふっ……まあね。……とにかく、そういう事だから、急だけど明日出発しようと思って」
「本当に急だね………ちょっと心配だけど、お姉ちゃんなら大丈夫だよね?」
「心配ないよ。私がそんなに弱い訳ではないって知ってるでしょ?」
「いや、そこじゃなくて……」
風はなにか言いたげだったが、何も言わずに目を逸らした。
一体私に何の心配が要ると言うのだろうか?
―――――
――――
―――
――
太陽が空の天辺に近づき、強い太陽光線が降り注ぐ晴れた午後。
「ずっと居て戴いて宜しかったのですが……」
「いえ、世界を隅から隅まで見て回りたいので…ご厚意は有り難いのですが、やはり行きたいと思います」
「そうですか……。これは路銀にしてください」
「い、いえ!そんな…」
「いえ、どうか受け取って下さい。これは私からではなく、彼女からですから」
桀は隣に寄り添うように立っている風の肩に手を置き、そう言った。
「………そうですか。それでは有り難く頂戴致します」
私は敢えて風に何も言わなかったが、私が言いたい事を理解しているようで、風は笑顔だった。
「重っ!」
差し出された巾着袋を受け取ると、その見た目にそぐわない重さが私の手にかかった。
この国は既に貨幣経済が浸透しており、買い物をする時は、貨幣が一杯に詰まった同じ大きさの巾着を持ち歩いたが、こんなに重くは無かった。
「これは……」
すぐに中を確認すると、ギッシリと詰められた金貨がこぼれ出た。
「彼女はこの国の貨幣を詰めていたのですが、この国の貨幣は他では使えませんからね。それはすべて純粋な金ですから、他の地でも通用すると思います」
「流石にこれは……」
金の価値はイマイチわからないが、これだけあれば、人間が慎ましく一生を過ごすのには十分な気がする。
こんな量を私なんかに渡してしまって良いのだろうか…。
「それ以上は何も言わずに持って行って下さい」
――やっぱり、受け取れません。
私がそう言うより先に桀が袋を再び返そうとする私を制した。
「………分かりました」
私は素直に巾着を袖の中にしまった。
「それでは、お世話になりました」
「気を付けてくださいね」
「私が居なくてもちゃんと朝、一人で起きてね」
え!?昨日言ってた不安ってソレ!?
うわ…妹に起こされないと起きない私、超恥ずかしいじゃん…。
「じゃ、また何処かで…」
私は恥ずかしさから逃げるように、走ってその場を後にした。
―――――
――――
―――
――
街から十分に離れ、人目が無いことを確認して、久しぶりに耳と尻尾を晒し、空へ舞い上がった。
「さて…どっちに行こうかな?」
一度日本に帰るか、西に向かうか……悩みどころだ。
「一先ず西かな?」
フィーリングで行き先を決め、そちらに向かって飛んで行こうとした。
………が、
「バランス取りづら!」
袖に入れた巾着の重みで真っ直ぐ飛ぶ事が出来ない。
ヨタヨタと飛びながら、荷物を入れるリュックが欲しいな……と思ってしまった。
「後で何とかしようかなっとと!……やっぱり、今すぐ何とかしたい」
私のスピードはお年寄りの歩行速度並みで超安全運転だ。
「はぁ…一体何日かかるんだろう……」
あ!…ちょっと待てよ?
袖に入れないで、抱えてたらもっと飛びやすくなるんじゃないか?
「それだ!流石は私。頭良い♪」
早速巾着を胸に抱えて、改めて西に向かって飛んだ。
「HAHAHA!コレなら一時間で到着しちまうぜ!…行き先がはっきり決まってないけど。っと、その前にせっかくだからあそこに行ってみよう」
私は進路を南寄りに取り直し、一路エベレストを目指した。
エベレスト登頂は(ほかの山でもそうだが)プロでも命を落とすことがしばしばで、素人が単独で登るのは自殺行為――というよりも完全に自殺だ。
しかしそれは人間の場合。
そんな枠を超えた存在である妖怪の私にとって、エベレスト程度の山なぞその辺りの丘と大差ない…はずだ。
後になると度々人間が登るので、今のうちの登っておかないとこの格好では登れなくなってしまう。
「うわぁ…やっぱり高いなぁ」
山の麓に到着し、上を見上げるが雲に隠れて山頂は見えない。
「よし!一日で登りきる!」
何ともムチャクチャな計画だが、さっきも言ったとおり私は妖怪なのだ。
多分コレくらいは楽勝だろう。
まあ、登ると言っても飛んで行くのだか…。
「コレってもしかして生物発登頂に成るんじゃない?フフフ…記録には残らないけど、歴史的な偉業だよね」
私は山頂に立っている自分の姿を妄想して不気味な含み笑いをしていた。
「それにしても、何だか肌寒くなってきたな…」
登り始めて一時間くらい経っただろうか。
肌寒さを感じるようになってきた。
「こういう時に妖力って便利だよね」
私はそう言って妖力を薄く伸ばして自分の身体に纏った。
こうする事により、保温性が増すのだと、以前知った。
そうこうしているうちに、雲がどんどん近づいて来ている。
ソレを抜ければ、頂上が見えると青い空がみえる。
「あ、やっぱり避けとこ」
雲の中を突っ切るつもりだったが、思い直して隙間を縫う様にして飛んだ。
雲の中を通るとびしょ濡れになるという話を聞いたことがあるからだ。
「真っ白だ…」
分厚い雲を抜けると、雪が積もり真っ白な山肌が目に飛び込んできた。
太陽の光を反射して雪焼けしそうだ。
雲の上まで来たのに山頂はやっと見えるかどうかといった状態。
「よし!行こう!」
気合を入れ直し、再び山頂を目指した。
それにしても、真っ白の雪原の上を基本的な色合いが白い私が低空で飛んでいると、雪原に映る黒い影と、振袖の紅葉模様が独りでに動いているように見えて、ちょっとした怪談になるのではないか。
例えば…
============
―――雪山を登る呪われた影(仮)
「なあなあ!俺面白い話聞いちゃったからさ、ちょっと聞いてくれよ」
「仕方ないな…」
「あのな、エベレストってあるだろ?あの山ってさ、毎年すごい数の死者が出てるんだよ。それでさ、その死因っていうのが、滑落事故とか凍死とか…色々あるんだけどさ、何せ雪山だからさ、死体が見つからない事が良くあるんだってさ。それで、とある有名登山家が実際に経験した話なんだけれどさ、何回目かのエベレスト登山で、何日もかけて八合目付近に来た時だったかな?向こうの地面に黒い影が映っていたんだよ。だけど、どこにも人影はないんだ。おかしいな?と思って空を見上げると、紅葉柄の布切れみたいなものが空を舞っているんだよ。最初は山を吹き降ろす風がほかの登山家が捨てたゴミを舞いあげたのかな?位に軽く思ってたんだって。でもその布切れ、風に吹かれて飛んでいくどころか、風の向きに逆らって、山頂に向かってゆーっくり飛んで行くんだってさ。それでその登山家は不思議に思って後を追ったそうだ。しかし、もうすぐ山頂と言ったところで布切れは突然消えてしまったらしい。慌てて布切れが消えた辺に行ったんだけども何もなくてさ、幻でも見たのかとその時は山頂に行かずに山を降りたんだって。そして、麓のホテルでしばらく体を休めていたある日の朝刊に…“あるモノ”が見つかったって記事が載ってたんだって。…それは、エベレストの山頂付近で紅葉柄の振袖を着た少女の凍死体が雪の――」
============
「ギャァァァァア!自分で作っておいてなんだけど、縁起でもない話だ!自分を殺してるし」
自分の考えた怪談のオチの恐ろしさの余り、山中に響きわたるような悲鳴を上げてしまった。
「しかも今ちょうど山頂付近だし…」
今の状態でさっきの話のオチは怖すぎる…というか実現しそうで怖い。
「で、でもでも!私は飛べるからそんな目の前で雪崩が起きない限りは…」
ズズッ…ドドドドドッ
「…アレ?フラグ立った?」
余計なことを言ったからなのかどうかはわからないが、丁度近く(山頂に行くためには通行必須)の崖から大量の雪が降り注ぎ、私の視界は一瞬でも白一色に塗りつぶされてしまった。
目が覚めると、山頂が随分と遠ざかっており、かなりの距離を流されたことがすぐに分かった。
…が
「甘かった…。山をナメてた罰なのかな?これじゃあまるで人柱だよ…」
私は、不幸中の幸いで顔だけはなんとか地上に出ていたのだが、何とも滑稽な姿を晒していた。
「ふんぐぐぐぅ~!ハァ…ダメだ全然動けない」
妖力を纏っているので凍死はありえないし、人外なのでしばらく食べなくてもへっちゃらな私は、脱出する方法をゆっくりと考えていた。
―――――
――――
―――
――
「まさか一週間もかかるとは…」
自分の体温で雪が溶けるのを待つ作戦をとった私は、現在私は絶賛野宿の準備中だ。
「よいしょっ…と。こんなもんかな?……狐火!」
私は、そこらを歩き回って集めてきた枝を一ヶ所に纏めて、久しぶり(約100年ぶり)に妖力を使い火をつけた。
ずっと霊力を使い続けてたから、どうなっているか分からなかったが、私のイメージ力はまだまだ健在のようだ。
パチパチと火の点いた枝が弾ける音が暗闇に吸い込まれていく。
私は袖からある荷物を取り出した。
――妖力の結晶。
100年前に私が作ったそれは、七色の光を辺りに散らしている。
私の妖力は何処から来て居るのだろう…100年もの間眠っていたにも関わらず、私の妖力は衰えて居なかった。
勿論、眠っていたのだから、結晶を使う事は出来なかった。
「うーん?わかんないや」
私は直ぐに考える事を諦め、結晶を袖にしまった。
「ふぁ〜ぁ…寝よ寝よ」
私は大きな欠伸をして、その場に丸まった。
☆★☆★☆★☆★☆★☆★
とある場所のとあるハイテンションな人物の独り…言?
「そろそろ誰か女でも引っ掛けにいきますかぁ!今回の目標はぁ!カワイ娘ちゃん100人ゲットでぃーす!」
「あら?あらあら?それはそれは楽しそうですね。私というものがありながら、この前新しい女を連れたきたかと思えば…。また性懲りも無くですか?この前のオシオキが効いていないようですね…いいでしょう。今日の夜は前回の10倍を覚悟してくださいね?」
「ち、ちょっと待て。落ち着くんだ!私はお前の夫である前に弟なんだぞ!?ほら、自分の弟を信用――」
「出来る訳がないでしょ♪」
「に…」
「…に?」
「逃げるが勝ちぃぃぃ!」
「ああ…行ってしまいましたね。結局はオシオキされるのに…フフフ」