第九話 呼ばれた先は…
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月に移り住んだとき、都の外に人型の兎が住んでいることを初めて知ったとき、私も依姫もすごく驚いた。
生き物が月にいるだけでも驚きなのに、この兎達は私たちとほとんど変わらないようだ。
見た目的な違いと言えば、耳と尻尾がある事ぐらいだろうか。
幼かった私と依姫は、当時は大人に、
『涼花は地上で用事があってしばらく来れないらしい。あの子が帰ってきたときに、君たち二人が泣いているとあの子も困るだろう?だから、ほら。新しい友達を作ってあの子に紹介してあげよう』
常常そう言われてきた。
今思えば、とんだ子供騙しを信じたものだと思うが、当時の私たちはすっかり信じきって、話に聞いていた月の兎と友達になろうと考えた。
その時一緒に兎のもとに向かった永琳の表情がやけに暗かったのを覚えている。
結論から言うと、友達になんかなれなかった。
彼らは異常に臆病だったのだ。
こちらの姿が見えるとすぐに逃げ出してしまい、話しかけることもできなかった。
それから50年もかけて、彼らと会話を出来る程度の親交を深めてきたのだ。
そんな彼らを訓練して、軍隊を作る。
依姫が突然そのように宣言した時は、熱でもあるのでは無いかと思った。
臆病の代名詞のような月の兎が兵士として使える訳が無いからだ。
依姫は何か考えがあるのか、やる気に満ちあふれている。
「一体どうするつもりなの?」
「お姉様。私は守護神に力を借りようと考えているよ」
「あなた!まさかあの方を!?」
「……私に降ろして、ウサギたちの説得に当たろうと考えてる」
「でも………」
「いずれ地上人は月に攻めてくる。その時に月の都を守る為には兎の力は絶対に必要。そのためにもあの方の力が必要なの!」
「…………でも、あの方をここに呼び出すなんて、私…」
「それは私も怖いよ。だけどさ、都を守るためだもの。そんな事言ってられないよ」
悲しそうに笑った依姫をみると、何も言えなくなってしまった。
「お姉様も念のため、一緒に来て…」
「…分かったわ」
私は頷くと、依姫の後に続いた。
―――――
――――
―――
――
初め私たちは、直接勧誘をしたが、当然『恐いから』と言われ、失敗。
人参で釣る作戦――給与の他に人参の支給も提案したところ、若干の反応は見られたが、やはり失敗。
「しかたないな…」
依姫は私に目配せしながらそう言った。
私も小さく頷き返す。
それを見て、既に依姫は兎達を前に神降ろしを始めている。
それの繋ぎに…と、私はこれからのことを説明することにした。
「それでは、これから月の守護神においでいただき、直々に貴方達の安全を祈願していただきましょう。依姫は神降ろしの巫女。彼女に味方する者を必ず守って下さるでしょう」
わたしが言葉を終えると、兎達の興味が依姫に向いた。
「……」
「何か言いなさいよ!何をしているか分からないじゃない!」
依姫が無言で呼び出そうとしたので、慌てて止めた。
無言でやると、それらしさが欠けてしまうような気がする。
「しまった。……コホン。月の守護神よ!ここに顕現したまえ!」
…………何も起こらない。
しばらく沈黙が続き、気まずい空気が流れ始めた時、依姫の身体が白い光に包まれた。
依姫は満面の笑みを浮かべている。
「来た………」
兎達からはどよめきの声が上がっている。
依姫の姿でとは言え、100年ぶりに彼女の遺志に会えると思うと、私も嬉しかった。
もし、私たちを覚えていなくても―――
「ちょっ!えぇ!?何事ぉぉお!?」
「「「…………」」」
依姫のすぐ横に現れた人物の姿を見て、皆言葉を失った。
当然、現れた人物が神らしからぬ雰囲気だからだ。
(ちょっと!何で本人が直接来れるのよ!?あなたを依代にするんじゃなかったの?)
(そんなの分からないわよ!こんな事初めてだし…)
神は巫女からの呼び掛けがあった場合、自らの意志で依姫に力貸すか否かを判断し、力の一部をを与えくれるだけのはずだ。
それに、涼花はもう……。
その辺に詳しいはずの依姫は頭を抱えてしまっていて、使い物にならなそうだった。
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「ちょっ!えぇ!?何事ぉぉお!?」
光に包まれた後も私の絶叫は止まず、辺りに響きわたっってた。
「「「…………」」」
光が止んで、周りが良く見えるようになった私の目に映ったのは、………兎?
頭にウサ耳をつけた、物凄い数の人達。
ここにはコスプレ大会か何かの会場だろうか?
その人達の目は例外なく私に向いている。
しかし、その目はまるで何かに失望したかのような感情が宿っている。
(すいません!涼花様!)
「ん?」
横から小声で誰かが話し掛けてきた。
兎ばかりしか居ないと思ったが、視界の外に普通に人間がいた。
と言うよりも、知り合いがいた。
「豊姫、何か雰囲気変わった?そして、なぜ様付?」
(今はいいですから!とにかく、威厳たっぷりに「我が巫女の願いは聞き入れた。依姫に仇を為すものには罰を与え、恩を為すものには守護を与える」と言う意義の言葉を仰って下さい!)
依姫は何故か頭を抱えて悶えているし、意味が分からない妙なお願いだし、ツッコミどころが多いが、豊姫の願いでは断れない。
私は姿を“葵”に変えて一芝居打つことにする。
「「「――――!?」」」
私が姿を変えると、兎達に驚きが広がっていった。
どうせなら口調も変えてみようか。
「兎達よ!巫女の願い然と聞き入れた!我が巫女に仇を為すものは我に仇を為すものとし、その者に重き罰を与えん!恩を為すものには我を重んじる者として、守護を与えようぞ!」
うーん…これが精一杯!
私は顔には出さないが、自分の中で最高の芝居が出来たと思った。
兎からも「おぉ……」と感嘆の声があがっている。
「涼花様もこのように仰っていらっしゃるわ。これでどうかしら?」
いつの間にか復活していた依姫が兎達にそう問い掛けた。
「「「やります!!」」」
兎からはやる気に溢れる声が沸き上がった。
それを聞いた依姫は満足そうに微笑むと、詳細は後日伝える旨を話し、私の手を取って歩き出した。
―――――
――――
―――
――
「なんだったの?あれ」
私は依姫に手を引かれてたどり着いたのは、月の都。
かつて地上にあった街の写しのような街の中の、以前護衛をしていた屋敷と全く同じ屋敷。
その一室で“涼花”の姿に戻った私と豊姫、依姫が向かい合って座っていた。
「先程は突然お呼びだし申し上げた上、私達の無礼をお許し下さい!」
私の質問を無視して、突然依姫が畳に両手をつき、深々と頭をさげた。
「え!?何で謝ってんの?」
突然の事に驚きを隠せない。
いや、確かに突然月に来てしまった原因が依姫だったなら、少し位は謝ってもらいたいけどね?
そんな土下座までしなくても良いと思うんだ。
「いえ、記憶に無いかと存じ上げますが、生前のあなた様と親しかった間柄。その時の癖が出てしまい無礼を働いたのは私です。しかし、あなた様が亡くなって100年間。一度も信仰を疑った事はありません!どうかお許しを!」
終には豊姫まで頭を下げ始めた。
「いや、別に怒ってはいないし、私は死んでないし、何でそんなに畏まってるの?」
今までのツッコミどころに一気に突っ込んだら疲れた……。
「「へ?死んでない?」」
豊姫と依姫は驚きに染まった顔を同時に上げた。
「勝手に殺さないでくれるかな?それについては謝ってほしいかも」
「あ、ご、ごめんなさい。じゃあ、私達のこと、覚えてるの?」
私がジト目を豊姫に向けると、彼女は戸惑いながら、謝罪の言葉を述べた。
「勿論!忘れるわけないよ。…で、信仰とか、100年ってなに?」
私は気になったところに触れた。
「いや、100年間は100年間だよ。100年間の間に私達の見た目も成長してるでしょ?」
「いや、100年も生きれるわけないでしょ……」
「それができるのよね〜。月の都の現時点の平均寿命は移住してから死んだ人が居ないから分からない位よ」
豊姫は誇らしげに胸を張った。
……なぜ豊姫が誇らしげなのか全く判らないが…。
「へぇ……。で、信仰ってなに?」
「へ?そりゃあ月で最も有名な守護神だからね」
は?私が月の守護神!?
Why?
「……なんで?」
「そりゃ、勿論地上を離れる時に宇宙センターに傾れ込んできた妖怪を1人で食い止めて居たのを皆が見ていたからよ。立派な社が有るけど……見ていく?」
「いや……今度にするよ。今度用事があるときは何か別な手段で呼んでね。今日は地上に妹を置いてきたし、もう帰るよ」
あまりのことに頭が痛くなってきたし…。
「え!?妹?」
「じゃあ、またね。――転送」
風の存在について言及されそうになったが、無理やり話を終わらせて自分を地上に転送した。
―――――
――――
―――
――
「……ただいま」
「お姉様!どこに行ってたの?」
洞窟に再び姿を現すと、風が不安気な声をかけてきた。
「いや……ちょっと月に」
「え?なんで?」
「いや……神だから?らしい…」
“神”という単語を聞いたとたん、風が少しだけ後退りした。
「え……なんで距離をとったの?」
可愛い妹に嫌われた!?
だとしたら、ショックが大きすぎて死にそう……。
「あ…いや、お姉様を嫌いになったとかじゃなくて、神の力が怖いと言うか、近づきづらいと言うか…」
おねーさん超ショーック!
新しく手に入れた力のせいで妹に恐がられてる!
内心、神力はかなり使えそうだとか思っていたが…妹の為だと言って泣く泣く能力で封じることにした。
「風が居るところでは完全に封じ込めておくようにするよ……。でも、出来れば慣れて欲しいな」
「うん…頑張ってみるよ……」
風は申し訳なさそうに尻尾と耳を伏せた。
「で、これからどうする?」
神話の中で私の興味がある出来事何かない――というか、今後何があるか知らないので、ぶっちゃけ暇だ。
「ん〜そうだね……この水溜まりの向こう側が気になる!」
「水溜まり?……ああ、海のことか?良いんじゃないかな?水平線の向こう側には何が有るんだろうね?」
私自身、此処が日本だとすると、大陸がどうなっているか気になる所だ。
もしかしたら、歴史の目撃者になれるかもしれない。
「よし!それじゃあ早速行きますか!……おっと!その前に…」
気合いを入れて立ち上がり、大陸に向けて飛び立とうとした時、あることを思い出した。
「あ、あれ?どうしたの?」
私の「行きますか!」発言によって、外に飛び出していた風が慌てて戻ってきた。
「ちょっと待ってて。忘れ物をね………と」
私は奥の方で散らばっていた結晶を集めて、左右の袖の中に放り込んで行った。
「これで全部かな?……よし!それじゃあ、改めて行きますか!」
「えぇ!?お姉様!置いていかないでぇ〜!」
風の脇をすり抜け、青い海の向こうに見える水平線に向かって一直線に飛びだす。
後ろから追い掛けて来る風の声を聞いて、“お姉様”は止めて貰おうと思った。
―――――
――――
―――
――
「ねえ、ここどこ?」
「…………」
陸を離れて早一時間。
雲一つない快晴の中、私は大量の汗を掻いていた。
別に気温が高いとかそういう事ではなく、むしろ背中が寒い位だ。
「ねえ!お姉ちゃん!」
「…………………」
風は反応しない私に痺れを切らしたのか、私のに手を掛けると、前後に揺すり始めた。
私はガックンガックンなりながら、ああ、やっぱり“お姉ちゃん”って響き良いな……“お姉様”って、まるで語尾が“ですの!”の風紀委員みたいだったから、ちょっと嫌だったんだよね…と考えていた。
「お姉ちゃんが『私に着いてこい!』みたいなノリで飛び出して行ったから着いてきたけど、なにこれ?全方向真っ青だよ!陸の“り”の字も無いよ!私達、迷ったよね!?現在位置が分からなくなってるよね!?」
「いやぁー…ちょっと?」
「ちょっと?……じゃなーい!そもそも、道に迷うのに程度なんて関係ないし、万が一あったとしてもこれはちょっとのレベルじゃないから!」
「大丈夫だよ。地球は丸いんだから、ずっと真っ直ぐ進めば、いづれ何処かの陸にたどり着くって。……多分」
「多分って……。ねえ、今日は一先ず帰ろうよ。ちゃんと計画してから来ようよ」
む……仕方がないか。
あれ?そもそも、今思えば飛んでいた方向って東じゃないかな?
大陸に行くなら西だよね?
初めから間違ってたのか……。
「そうだね。一回帰ろうか。はい。」
「?」
私は手を風に差し出した。
風は意味が分からないのか首を傾げている。
「ほら、手を握って!放さない!」
「え?あ、うん。」
風がしっかり手を握った事を確認して、私は洞窟に跳ぶ。
「よし!それじゃあ、帰るよ――転送!」
―――――
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―――
――
「―――で、帰って来たけど、計画をどうする?今日は間違って反対に飛んじゃったけど、今日の反対の方には大陸があるよ」
「へぇ……」
あ、全然信用されてないや。
これはなんとしても信用を取り戻さなくては!
「今度は大丈夫だって!それに計画って言っても…何かあるの?」
「う……まあ、特にはない…かな?」
お?このまま押し切れるか?
「じゃあ、飛んでみてから決めれば?悪く無いんじゃない?」
「うん…まあ、いい…のかな?」
意味としては無計画と変わらないのだが、言い方を変えただけでアッサリ許可が出た。
私は心の中でガッツポーズをした。
「それじゃ、出発は明日ってことで。私はその辺を散歩してくるから、お留守番よろしくー」
私は一方的に話を終わらせると、私はイザナギ達の国づくりの様子を見に行くのだった。
―――――
――――
―――
――
「………で、何事?」
私は上空から地上を見下ろして、その異常な光景に思わず疑問を投げ掛けずにはいられなかった。
私の視線の先には縄文杉もビックリの太さをもつ巨大な柱。
その根元で倒れている女性と、胴体を真っ二つにされた赤ん坊。
そして……血が滴る太刀を手に、倒れ伏せる女性を見下ろすイザナギの姿。
イザナギの背中はどこか寂しそうで、肩は哀しみに震えていた。
「ああ……イザナミさんが迦具土神の火傷で亡くなったのか…」
一度お話をしたかったのだが……。
残念だが、私は黄泉の国までわざわざ会いには行かない。
イザナギですら失敗するのだから、私が行くだけ無駄だろう。
「……本当にやる事無くなっちゃったな。そうだ!」
速さを極めよう。
イメージとしては………そう!エネルギーを爆発させて亜音速を目指す!
「そうと決まれば早速………って!生身でやると死ぬか。じゃあ、霊力で身体を保護して……と。よし!それじゃあ、改めて………」
私は身体を地面に水平にし、足の裏に霊力を集める。
妖力の方がエネルギーはあるが、イザナギの近くで使うのは得策ではない。
「―――発射!」
足の裏に集めていた霊力を一気に爆発させると、予想以上の初速で私はぶっ飛んで行った。
…………海面に向けて。
―――ボッッ!!
私は、水しぶき一つ上げずに海の底を目指して顔面から入水していた。
もし、これが高飛び込みの大会であったら、会場から拍手が上がっていたに違いない。
「……ガハッ!ゴホッゴホッ!し、死ぬ……これは相当練習が必要だ……」
慌てて水面に浮かび上がってきた私の顔はかなり赤かったに違いない。
なにせ、強化していたのにも関わらず、入水時にかなり痛かったのだ。
万が一強化していなかった場合を考えたくはない……。
「さむっ!……はあ、帰ろう。転送」
―――――
――――
―――
――
「ただいま……」
「お帰り。早かったね………って!どうしたの?顔は真っ赤だし、びしょ濡れだし…」
「いや、ちょっと高得点を叩き出して来た」
「どういう意味?」
「そんな感じのことが起きたってこと」
だから、あまり気にしないで。と、風に告げて奥に引っ込む。
「うぅ〜〜。予想外に寒い!」
海水を含んで重くなった振袖を脱ぐため、帯を解き床に落とすと、帯が発したとは思えない程重々しい音を立てた。
「何処かに干さないと…」
まわりを見回すが、そのような都合の良い場所は存在しない。
仕方がないので、地面に広げて干しておくことにした。
「それにしても変な振袖だよね……」
私は、帯、首輪と共に床に広げた振袖を見てそうつぶやいた。
以前からおかしな物だとは思っていたが、改めて見ると更に奇抜なものに見えてきた。
「そしてこの身体……」
私は何も身につけていない状態の身体を見下ろした。
ほとんど起伏は無く、肌は陶磁器のように白く透き通っている。
バスに乗って、小学生だと言えば疑いは持たれないだろう。
今思えば、風の方が身体にメリハリがあり、身長も20㎝は高いので、初対面の人からすれば、風の方が姉に見えるに違いない。
「でも、だからこそ私はこの振袖を着れるのかもしれないな……」
万が一風がこれを着たとすると、間違いではないが何かがおかしい。
「お姉ちゃん?もう暗くなってきたし、明日は早く出るから、もう寝よ?」
素っ裸で顎に手をあて、一人頷いていると、風がやってきた。
「なんでわざわざ干してるの?」
私の格好ではなく、何故か濡れた服を乾かしていることに突っ込んで来た。
「なんでって……濡れちゃったから…」
「いや、濡れても乾かす必要はないでしょ?だって、一回消して作り直せば良いでしょ?」
……は?
消して作り直す?どうやって?そもそも、コレって消えるの!?
今まで一々洗濯してたのに……。
「???」
「……え!?なんでそんなに不思議そうな顔してるの?………もしかして、知らなかったの?私達が化けた時に来てる着物は妖力で出来てるから、自分の意志で自由にできるんだよ?……ほら!」
そういうと、風はその場でクルリと一回転した。
すると、風の青かった着物は一瞬で赤くなった。
「どうかな?ん〜……やっぱり青が一番しっくり来るかな」
風は振袖の袖を摘んで色が変わった事をアピールしながら、その色を見てそう呟く。
彼女はどうやら青い色が好きな様で、赤い振袖はお気に召さないようだ。
「―――っと……お姉ちゃんもできるはずだよ?」
もう一度クルリと回転して再び青い振袖に戻ると、お姉ちゃんもやってみたら?と地面に広がって所々汚れている白い振袖を指差した。
「それもイメージ?」
「もちろん!ついでに模様も変えてみたら?」
模様か……確かに純白の振袖を着ていると、私の体に白以外の色がほとんど無い。
常々思っていたが、この色彩はどうも目によろしくない。
見ていてチカチカするし、何しろ目立つ。
妖怪の私が目立つのは本当にまずくて、妖怪だからでは無かったが、一度目立つのが原因で誘拐にも遭っている。
なので、これを機に地味な柄に変えるのが良いだろう。
しかし……
「どんな柄が良いかな?」
高校生時代にファッションセンスが壊滅的だった私にこの髪の毛の色と合う新しい振袖の柄なぞ決められる訳が無い。
だから、ここは風のセンスに賭けるしかない!
私の頭には残念ながら、紅白色と白黒(悲しい)色しか浮かばない。
「えーっと……淡い桃色に桜の花柄にして薄い紫色帯で締めたら?」
風は私のセンスの何倍もいい物を持っていた。
「じゃ、それに決定〜」
淡い桃色に桜をイメージする。
しかし、イメージが固まるに連れて、どうもひと工夫加えたくなってきた。
そこで、桜の花に少しだけ緑の葉を付けてみた。
「…………よし!どう?」
「う、う〜ん…」
作り出した振袖を広げて柄を確認すると、風に微妙な顔をされた。
風が考えてくれただけあって、柄は大変良いと思う。
しかし、どこを間違えたのか、肩と袖が離れてしまい、太い紐で繋がっており、腰の下はミニスカートになっていた。
「ま、いっか……」
それとなくアニメキャラのような服だが、コレに関しては別にどうでも良いっちゃどうでも良いので、このまま袖を通し、寝ることにした。
―――――
――――
―――
――
昨日作り直した新しい振袖の袖には私が作り出した七色に輝く結晶、首輪は着けずに袖にしまって準備は万端だ。
いつの間にか、首輪を着ける事に違和感を感じなっていたが、昨日の夢のせいでその異常性に改めて気が付き、着けるのがためらわれたのだ。
「うわ……今にも降り出しそうな空だ…これでもいくの?」
「もっちろん!雨が降る前に大陸に着けば良いし!」
私はどす黒い雲が広がる空を見上げて、大陸行きを中止したくなったのだが、風は行く気満々で止める気は無さそうだ。
大陸までどれ程かかるのかすら分からないハズなのに、なぜ『降る前に到着すればいい』と言い放つ事が出来るのか私には理解できない。
「いっくよーー!」
風は私の脇を通り過ぎて曇天の空に飛び出して行った。
「はぁ……多分濡れるけど、仕方がないか……」
無理だとは分かっていても、大陸到着まで降らない事を願いつつ、私も後を追って空に飛び出した。
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大学に入ってやっと落ち着いてきました。
今後も執筆を頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。