第七話 ユメ
筆が進まなくなってきました・・・。
ストックがあるので、更新が止まることは無いと思うので、心配しないでください。
ただ、クオリティが・・・
私は何をしているのだろう……。
稜は?あの程度では倒しきれていない。
「――――――!!」
早く起きないと……。
1人でも良いから助けないと……。
「――――きろ!!」
でも、どこにも力が入らないよ……。
私を助けようとしてくれたのは誰だろう………。
スパァァァン!
「起きろ!高梨!」
誰かの怒号と伴に頭に衝撃が走った。
ゆっくりと顔を上げると、どこかで見たような顔が……。
「…………誰?」
ズパァァァァン!
今度はさっきよりもかなり強く教科書が振り下ろされた。
それと同時に周りから押し殺したような笑い声が聞こえる。
「顔を洗って目を覚ましてこいっ!」
その怒鳴り声によって、私は部屋から追い出された。
とにかく顔を洗わないと……。
「あれ?なんでここに水道があるって判ったんだろう?」
あの部屋を出たあと、私の足は自然とこの場所に向かっていた。
それに、さっき頭を叩いたのが教科書だって何でわかったんだろう。
頭に靄がかかったようにぼんやりしていて、思い出せない。
顔を洗ってから、正面に取り付けられた鏡をボーっと見つめながら考えていると、チャイムが鳴って廊下が騒がしくなった。
「おう、葵!予想通り寝ちまったな?」
突然後ろから肩を叩かれ、身体が強張る程に驚いた。
突然肩を叩かれた事にではなく、ここまで近づかれるまで気付かなかった事にだ。
「ん?お前、大丈夫か?」
固まってしまった私の顔を心配そうに覗き込むこの男の顔もどこかで見た気がする。
「あー……いや……」
「なんだ?その『誰だ?コイツ』みたいな顔は!お前の大親友の晴紀様の名前が出ない程に寝呆けるって、どんだけ爆睡してたんだよ」
ハハハと笑っているのは晴紀という名前らしい。
晴紀か……何か思い出しそうだな……。
晴紀…晴紀……どっかで聞いたら名前だな……。
……………あ。
確か……高校の……!
たった今思い出した。
ここは私が通っていた高校だ!
どうりで見たことがあるわけだ。
「いや〜ごめんごめん。私、随分寝呆けてるみたいだね」
「…………『私』?」
晴紀が怪訝そうな顔をした。
ヤバ!涼花に慣れてたから、一人称がおかしくなってる。
「あれ?一人称までおかしくなるなんて、ボケボケもいいところだな。ハハハ」
咄嗟に寝呆けているせいにしたが、大丈夫だろうか……。
「本当によぉ!一瞬お前が何かに目覚めたかと思っちまったぜ!」
んな訳ないだろーと相槌を打ちながら、先程まで見ていた――居眠りのものにしては壮大すぎる夢について考えていた。
―――――
――――
―――
――
「――でさぁー……なあ、聞いてるか?」
「…………ん?ああ、聞いてるよ」
昼休みに入って、晴紀と学食に来ている。
食べながらも、俺は夢の事を考えていた。
そちらの思考に集中しすぎて晴紀の話を全く聞いて居なかった。
「お前、やっぱり変だぞ?ずっと上の空だし。早退したほうが良いんじゃないか?いや、しろ!担任には俺から伝えておくから。ほら!」
「いや、でも……」
「一度や二度早退したところで何も言われないさ。心配すんな」
そう言って、晴紀は俺を学食から連れ出すと、あっという間に早退の旨を担任に伝えて来てしまった。
担任はすぐに了承したらしい。
「じゃっ、ちゃんと帰って休めよ!」
その5分後には、俺は校門の外にいた。
正直、激しい運動をしたあとのように疲れているので、大人しく帰って早めに休むことにしよう。
「今日は近道をして早く帰るか」
俺は歩く方向を変え、色が剥がれ、少しだけ傾いた鳥居を潜り抜け、石段を登り始めた。
ところで、古くて長い階段にはよくある話だが、この神社の階段は登るたびに段数が変わってしまうという噂が昔からあり、俺も遊び仲間に聞かされていた。
今思えば、明らかにハッタリだとわかるが、当時の俺は本気にしてしまい、しばらくここに近付けなくなった記憶がある。
階段の段数がかわる程度で何が起こる訳でも無いのに、なぜそこまで怖いと感じたのかは自分にも分からない。
「なんで!…この階段は!こんなにっ…長いんだ!」
階段を登りきり、神社の境内にたどり着く頃には息が完全にあがっていた。
この階段を上るのは苦痛以外の何モノでもないが、ここを通れば家に着く時間は格段に早くなる。
隙間から雑草が生えてしまい、荒れた石畳の先にあるのは建っているのが不思議なくらいにボロボロの神社。
ご利益や祭られている神どころか名前すらわからない。
そんな神社に参拝する者はおらず、通るたびに覗いていく賽銭箱はいつも空っぽだ。
「どれどれ…………」
……今日も見事に何も入っていない。
この荒れた神社を見ていると、あの壮大な夢の夢さ加減に思わず笑いが出でしまう。
妖怪?月に移住?能力?
なんてアホな夢を見たのだろうかと。
妖怪なんてものがこの世界にいたら、どこの神社も寺院も妖怪退治に追われているに違いない。
例え妖怪退治に追われなくとも、荒れた神社なんてものが出来るはずがないだろう。
賽銭箱を覗いて含み笑いをしているのを他人に見られると、不審者ですぐさま通報されそうだが、ここに人が来ることは少ないから誰かに見られる心配はない。
一通り笑い終えると、俺は神社の脇を通り抜け、裏手の林に入って行く。
ここを抜ければ家はすぐそこだ。
―――――
――――
―――
――
「ただいまー」
家の中に向かって大声で呼び掛ける。
「………………」
しかし、応える声はない。
別に独り暮らしという訳ではなく、玄関も鍵が掛かっていなかったので、家には必ず誰かが居るはずだ。
「誰も居ないのか?」
再び声をかけるが返事はない。
鍵を掛け忘れてどこかに出かけてしまったのだろうか……。
「なんと不用心な……」
近頃は鍵を掛けていても空き巣が入ると言うのに…。
「…なんか腹減ったな。冷蔵庫に何かないかな?」
俺は靴を適当に脱ぎ捨てると、台所に直行する。
「命の源、冷蔵庫オーープン!」
別に冷蔵庫が食料を生産している訳では無いので、命の源は別にあるだろというツッコミが聞こえる気がするが、腹ペコの俺にそんな事は関係ない。
朝の残り物と思われるご飯と漬物を取り出し、ご飯を温めなおしているうちに、カバンを部屋に放り込む。
「いただきます!」
きちんと食べ物に感謝をしながら漬物とご飯を口に放り込み、咀嚼する。
「…なんだこりゃ?」
何度口を動かしても味だけが全くしない。
まるで味覚を失ってしまったかのように。
慌てて他のもの――テーブルの上に出しっぱなしになっていた煎餅の袋をひっ掴み、その中の一つを口にいれた。
すると、香ばしい醤油の香りが口いっぱいに広がった。
「うん、味がわかる。俺がおかしい訳じゃないな」
結局、味がしなかった原因は分からず、気味が悪くなったのでご飯と漬物は手を付けずに片付けた。
当然お腹は満たされなかったが、仕方がないので晩飯に期待を寄せ、部屋に入り、眠りに就くことにした。
今日1日ゆっくりと休めば、この身体にのしかかるダルさも取れるだろう。
制服すら脱がず、すぐに布団を被って眠りに落ちた。
―――――
――――
―――
――
ゆっくりと意識が覚醒していく。
窓の外に見える空は、赤と紺のグラデーションが掛かっている。
「いま……何時だ?」
寝起きでぼんやりした状態で枕元の時計に手を伸ばす。
時計の針が差すのは5と9。
「17時45分か…………」
確か1時位に帰ってきたから、5時間位寝てたのか?
多分晴紀から体調を訊ねるメールが来ているだろう。
制服のポケットをまさぐって携帯を取出し、開く。
「アレ?来てない……」
アイツからメールが来ないなんて珍しいが、そんな事もあるだろうと携帯を閉じようとした。
「ん?………5:48!?朝!?」
携帯の時計は5:48となっている。
デジタル表示の時計において、午後5時48分は一般的に17:48と表示され、携帯の時計も例外ではない。
「ありゃ……晩飯を食い損ねた…。誰か起こしてくれれば良いのに……」
俺は、寝ている家族を起こさないように静かに部屋を出て、晩飯の残りを食べに台所に向かった。
―――――
――――
―――
――
「…………」
俺は、冷蔵庫の前で固まっている。
今起きていることの意味が理解できない。
冷蔵庫の中身は空。
寝る前に食べた漬物の残りも、その時はあった牛乳のパックも、何もない。
それどころか、使用感が全くなく、このまま家電量販店に売られていてもおかしくない状態だ。
食器棚の食器も同じく使われた形跡がまったく無い。
それ以前に、早朝だというのにこの家には人の気配がまったく無い。
親の部屋と弟の健吾の部屋を除くが…誰も居ない。
玄関には、俺が帰ってきて脱ぎ捨てたスニーカーが一足だけ………。
「……ハハハ…まさかな……」
家を飛び出して町内の家のインターホンを鳴らして回るが、全て反応が無い。
ならば、と近所のコンビニを目指した。
そこならば、必ず店員が居るはずだ。
走っていると、コンビニの明かりが見えてきた。
「良かった!誰か居る!」
誰かが居ることを確信して、自動ドアに突っ込む。
……が、その前に足を止めた。
明かりが灯る店内のレジカウンターに、人影は無かったのだ。
ゆっくりと店内に足を踏み入れる。
「すいません!誰か居ませんか!」
その呼び掛けに応える声はやはり無い。
俺は怖くなって家へと逃げ帰るのだった。
―――――
――――
―――
――
俺は自分の部屋に籠もって頭を抱えていた。
「どうなって……るんだ……」
誰も居ない……。
もしかして、自分が忘れているだけで、町内で旅行に行く日だっただろうか。
「そうだ!携帯で晴紀に連絡を…」
あいつのいえはこの町内じゃないから、もしかしたらつながるかもしれないという期待を胸に、制服のポケットをまさぐり、取り出す。
電話帳から番号をすぐさま呼び出し、相手の迷惑など微塵も考えずに発信ボタンを押した。
プルルルルル…プルルルルル――――
…出ない。
コール音だけがやけに大きく聞こえる。
手が震え、呼吸が荒くなり、汗が吹き出す。
「頼む…一生のお願いだ。出てくれ!」
プルルル……
「どうした?こんな時間に」
永遠にも感じたコールの末、やっと晴紀が電話口に出た。
早朝だったため、かなり眠そうな声だが、それに気がつく余裕が今の俺には無い。
「は、晴紀!お前、今どこにいる?じ、実は誰もいないんだ!」
「は?なんだ?急に…お前、寝ぼけてんのか?特に用事がないなら切るぞ」
「ちょっと待ってくれ!こんな状態で寝ぼけてられるか!誰もいないんだ!」
「は?どういうことだよ?」
「だから、家にも、コンビニにも、町内に俺以外の人影がないんだよ!」
「ふーん。そうなのか」
「そうなのか…って、お前」
「やっぱりお前、寝ぼけてるだろ」
「いや、だから―――」
「だからじゃないだろ。妖怪君」
―――これは夢なんだから―――
―――――
――――
―――
――
「―――ッ!ハァ…ハァ…」
突然目が覚めた。
波の音と、潮の香がしている。
さっきの悪夢は何だったんだろうか……。
元の私の生活そのものだったが、後半はとんでもなく恐ろしかった。
思い出しただけで体が震えだしてしまう。
辺りを見回すと、私が埋めた結晶が散らばっている。
どうやらあの洞窟のようだ。
怪我は治っているが、妖力は無に等しいので、結晶で回復しておく。
そういえば、私を助けてくれたのは誰だろう?
あの時は視界がハッキリしなくて、あんまり良く見えなかったんだよね。
もう居なくなってしまったのだろうか……。
結晶の封印を解いて妖力を補給し終えた私はすぐに真の姿?――である“涼花”の姿になった。
その時、なにやら嫌な空気と一緒に、途切れ途切れの声が潮風にのって聞こえて来た。
「何と―――……禍――――配を感じ―――――……――――外にもしぶ――――残っ――――は…」
誰が誰に話し掛けて居るのだろうか?
一方的に話している気がする……。
「イザナ――――こ――に降り――――たな国―――――――して――時に…」
イザナ?国?
イザナと言う響きは何処かで聞いたことがある気がする……。
声の主が一体誰なのかが気になり、岩の影から入り口の様子を伺った。
そこに見えるのは、瓦礫の上に乗って外を見つめている誰かと、その目線の先に居る人物。
声の主は後者のようだ。
ここに来ると、話がある程度ハッキリ聞こえる。
まだ話は続いているようだ。
「この国は清――物にするの―!こ――上穢れの素を放置して――創りに影響を及ぼ――ねない――な。早い――に浄化―――貰う!」
声の主は腰から太刀を抜いた。
明らかに切り捨てるつもりだ。
しかし、瓦礫の上の人物は身動ぎ一つしない。
そうこうしているうちに、声の主は太刀を振り上げ、間合いまで入って来ていた。
このままではあっという間に首を切り落とされてしまう。
「―――っ!転送!」
ガッ!!
咄嗟に2人の間に割り込んで太刀を弾き飛ばした。
あと数瞬遅ければ、蒼い海が赤く染まっていたに違いない。
「―――っ!貴様!何をするか!」
突然現れ、得物を弾き飛ばされたのが気に食わないのだろう、私を睨み付けて来る。
「初対面の相手を貴様呼ばわりするの?非常識も良いところだね」
私は洞窟の入り口を背にして相手を軽く挑発する。
後ろ手で気絶してしまった被害者を瓦礫の向こうに落とすのも忘れない。
「穢れの元が何を……」
ソイツはこちらを随分とバカにしているようだ。
「名も名乗らずに切り掛かるような“卑怯”な奴に言われてもねぇ……」
こちらも負けてはいられないので、“卑怯”を敢えて強調して言ってやった。
「………イザナギだ」
“卑怯”という単語を聞いた途端、眉間に皺を寄せ、渋々といった様子で名を名乗った。
しかし、私は名前を聞いたことを後悔していた。
「……私は…涼花…よ」
名乗り返す声が少しだけ震えてしまった。
イザナギ――神話によると、日本を1から作り上げた創造神の一柱だとか……。
この程度の知識しかないが、喧嘩を売ってはいけない相手だったのは十分過ぎる程分かった。
「では……名を名乗ったところで………浄化する!」
いつの間に回収したのか、イザナギの手には再び太刀が握られており、それを振り上げて突進してきた。
「――ッ!」
無駄だと判りながらも、反射で腕を交差させ、防御体勢を取りつつ能力で動きを封じるよう試みをする。
「―――ぐっ!?」
喉からひねり出したようなおかしな声がすぐ近くで聞こえて来た。
交差させ、防御体勢を取っていた腕を下ろすと、刀を振り下ろしかけたた状態で固まっているイザナギ姿が目の前にあった。
「あれ?……効いてる?」
私の頭を目がけて振り下ろされたと思われる刀が中途半端な位置で止まっている。
稜には全く効かなかったのに……。
まあ、効いたんだから良いのか。
「さて……動けない状態になってしまいましたが……どうしますか?続ける場合、ずっと私のターンですよ?」
あたかも余裕があるかのような笑顔を浮かべ、固まっているイザナギの手から再び太刀を奪い取った。
目だけは辛うじて動いているようだが、それ以外はピクリともしない。
その目も私が持つ太刀に固定されてしまっている。
「ああ……そのままじゃ返事が出来ないですね」
能力を解除してイザナギの答えを聞こうとする。
「…クッ!?貴様太刀を―――」
ヒュンッ!
「―――ッ!」
封印を解いた途端、太刀を奪い返そうと飛び掛かって来たので、その太刀を鼻先に突き付けてやる。
「…正直、貴方を此処で切り捨てるのは簡単です…」
虚勢を張り、突き付けた切っ先をさらに近付ける。
「……が。貴方が居なくなるのは、今後の為に良くない…勿論、私たちにも。どうでしょう?今後、私は貴方の国づくりとやらを邪魔する気はありません。ですから、貴方も私に関わらないというのは。悪いハナシでは無いかと…」
言葉は控えめに、しかし、断る事が出来ないように威圧的に条件を提示する。
このような状況に追い込まれてしまったイザナギは小さく頷く事しか出来ない。
「あ、私じゃなくても、何もしてない相手に手を出したらダメですよ。分かってますね?」
再びイザナギがコクコクと頷くのを確認して、最後に一言だけ言ってから太刀を返す。
「そうですか。誇り高い貴方が約束を破る訳ないですからね。太刀をお返しします。」
このように釘を差しておけば、こちらから仕掛けない限り何もして来ないだろう。
なにせ、こちらに干渉すると言うことは自分が“誇り高い”という事を否定する事になってしまうからだ。
「それでは、国づくりを頑張ってください」
太刀を受け取り、渋い顔をしてからこちらに背をむけ、飛び去ろうとしたイザナギに笑顔で手を振った。
「……さて、次はアッチだな」
私はイザナギの背中が見えなくなってから、再び洞窟に戻って行った。
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「何だったんだ……?以前私に突然攻撃してきた奴には劣るが強い……。しかも、色々な気配が混ざっていた…」
「イザナギ、どうかしましたか?」
イザナミが不思議そうにこちらを見ていた。
「いや、何でもない。さっきはすまなかったな。続けるとしようか」
涼花とか言う者の事が気になりつつも、私は突き立てた柱の周りを歩くのだった。
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洞窟に戻り、瓦礫を乗り越えようとした時、地面でのびている人がいた。
「ありゃ……まだ寝てるよ…」
イザナギとこの人の間に入って気絶していたこの人をこちら側に落としたが、落ちた衝撃でも起きなかったのか……。
それにしても、誰なんだろうか……。
何故かは分からないが、他人のような気はしない。
うつ伏せに倒れているので顔は分からないが、短めの金髪は美しく輝いている。
服装は青い振袖だが、私の物と違って裾がしっかりと足元まである。
振袖の青と髪の毛は金色とが絶妙なバランスで成り立っているが、若干の違和感を感じざるを得ない。
いや、違和感と言うと語弊があるが、正しくは新鮮さを感じるといった所だろうか。
「もしもし?大丈夫ですか?」
このまま寝たままで居られると話が全く進まない。
とにかく肩を叩いたり、揺すったりして起きてもらう事にする。
「う………ん〜?」
ユサユサと揺すり続けていると、小さな呻き声が聞こえた。
そして、モゾモゾと動いて寝返りを打った彼女と目が合った。
うつ伏せになって居たときにはわからなかった顔は整っており“綺麗”という言葉がぴったりで、その胸には私の丘とは比べ物にならない大きさの山が2つあった。
「お姉様!お目覚めになったのですね!?」
その人物は私を“お姉様”と呼んで飛び起きた。
私にはこの人に“お姉様”と呼ばれる理由が全く分からず、戸惑ってしまう。
「えっ…と………」
「あ!お分りになりませんか?風ですよ。ほら!」
曖昧な笑みを浮かべて戸惑っている私に気付いたのか名を名乗り、証拠だと言わんばかりに尻尾と耳を出した。
「え?風だったの!?全然分からなかったよ。どうしてここに?」
正直なところ、街の爆発に巻き込まれて、稜を除いて、みんな死んでしまったと思っていた。
だからこそ、風が生きていた事は非常に嬉しかった。
「街で血溜まりに倒れているお姉様を発見したんです。そして、そのまま抱えて逃げようとしたところ、お姉様が洞窟の入り口を塞ぐように仰られ、気付いたらここにいましたので、仰せのとおりに入り口を塞ぎました」
「そっか……。ありがとう助かったよ。あと、口調が堅いからもっと柔らかくして」
「うん……でも、何だか恐れ多いというか……」
私と軽い会話をするのが恐ろしい?
どういう事だろうか……。
『涼花〜!』
「ん?呼んだ?」
「ううん、呼んでないよ?」
あれ?おかしいな……誰かに呼ばれた気がしたんだけれども……。
周りを見回しても私と風以外は誰の気配もない。
しかし、声は続ける。
『あ、しまった。……コホン。月の守護神よ。ここに顕現したまえ!』
月の守護神ってだれ?
とは言えなかった。
「ちょっと!お姉様!?」
「えぇ!?ちょっ!何が――」
私の身体は光に包まれて、目の前がが真っ白に染まった。
お気付きとは思いますが、本小説は毎月10日更新です。
あと、私が読み返して修正を加える可能性があります。
その時は随時、後書きで報告しますが、大筋は変えないつもりなので、改めて読み返していただく必要は有りません。