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東方狐物語  作者:
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第四話 惑いは脱出の事

永琳が研究所に籠もって作っているのは多分宇宙船だろう。


それの開発を始めたと言う事は、(宇宙船開発の直接的理由がどうかは分からないが)妖怪がこの街に攻め込んで来るのは時間の問題と言うことだ。


一度山に戻って妖怪の様子を見て来たいところだが、外に出て行く口実が無い。


更に、妖怪と接触しなければ情報は得られない為、ただ外に出れば良いのではなく、“1人で”と言う制約も付いてしまう。


わたしは永琳特製の首輪の力で強くなっているという設定なので、ひ弱な狐という認識の私を1人で街から出してくれる人はまず居ないだろう。


あれから1週間も考えているのに、全く案が浮かばない。




「困った……」



「え?どうしたの?」




思わず出た言葉に依姫が反応して、顔を上げた。




「ん?いや、なんでもないよ。問題を続けてて」




依姫が再び問題に向かったことを確認して、私は窓に近づき空を見上げた。


今晩は残念ながら厚い雲のせいで月も星も見えなさそうだ。




「失礼します。涼花様。豊成様がお呼びです」




曇り空を見上げていると、この家で働いている、カナエさん(25歳/独身)がいつの間にか後ろにいた。




「――!い、いつも気配を消して後ろに立つのはやめてくださいよ……」




一体いつの間に部屋に入ったのだろうか…何の音もしなかった。




「消しているつもりは無いのですが……申し訳ありません」




「あと、いつも言っていますが、そんなに改まって敬語を使わなくても良いんですよ?」




ここ1週間、この家で働いている人たちから゛様゛と敬称付けで呼ばれるようになってしまった。


なんだか変な気分だ。


皆さん私が一匹のしがない狐(隠しているが、実は妖狐)だと言うことを忘れているのではないだろうか……。




「いえ、申し訳ありませんがそれはできません。何しろ、攫われた豊姫様と依姫様を自らも被害に遭いつつも無傷で送り届けなさったのですから」



敬称を付けて呼ばれる度にやめて貰うようにお願いするのだが、いつも決まってこのように言われてしまう。


本当に落ち着かないから止めて欲しい。


若干諦めてるけど……。




「それに……」




いつもならこれで終わるはずだが、カナエさんは更につなげた。




「お嬢様方の大切な“お友達”にあらせられますので」




カナエさんは豊姫達がいる部屋をチラリと見ながら小声でそういった。




「………そうですか。でも、やっぱり慣れませんね」




ちょっと照れくさい。


その照れを隠すためにまた空を見上げた。




「………豊成様がお待ちですので」




「ああっ!すいません。豊姫、依姫。豊成様に呼ばれたからちょっと行ってくるよ、その問題を解き終わったら休憩にして良いから」




障子を少し開けながら2人に向かって声をかける。




「大丈夫。2人ともちゃんとやってるよ」




返ってきた返事を聞いて、私はカナエさんと一緒に部屋を出た。




「それでは、豊成様の所へ行きましょう」




カナエさんを促して、豊成の部屋に向かおうとしたが……




「お待ち下さい。本日は豊成様はお部屋にいらっしゃいませんので」




カナエさんは全く逆の方向に行こうとしていた。




「こちらです」


カナエさんが歩いていく方向は確か………お手洗い?


豊成が私をお手洗いに呼んでるだろうか……。


どういう状態なのかが全く予想出来ない。




「こちらです」




豊成が便座にハマって助けを求めると言う、滑稽な画を想像しながら歩いていると、カナエさんが立ち止まった。


そこはやはり、予想通りのお手洗い……ではなく、この屋敷で一番大きな部屋。

つまり、大広間だった。




「こちらで“皆さん”お待ちです」




皆さん?誰の事だろうか。


そもそも、どうして呼ばれたのだろうか。


今日は特に何も無い日のはずだけど。




「皆さんをお待たせしていますので…」



障子の前で動こうとしない私をカナエさんが促した。




「あ、そうですね…」




待たせているのは豊成だけではないらしいので、早く部屋に入るべきだろう。


静かに障子を開けて、中に入ってみる。




「お待たせして申し訳ありません」




待たせた事に対する謝罪を延べ、部屋を見渡すと、豊成が上座(簡単にいうと、入り口から最も遠い席)に座っている。


左右の壁際には一列になってたくさんの人が座っている。


ほとんどはこの屋敷で働いている人達だが、顔を見たこともない人物が1人だけ混じっている。


あの人たちは誰なのだろうか……。


私の正体がバレてしまい、捕まえに来たのかも知れない。




「涼花、なにをしているんだ?早く座りなさい」




豊成は自分のすぐ近くにある席を指差しながら、私にそういった。


その位置の席は上座の次に高い場所で、私は座るのを少しためらった。


が、豊成が目線で「いいから早く座れ!」といっていたので、黙ってそこに座った。




「さて、やっと揃ったところで、話を始める」




私が大人しく座ったのを確認して、豊成は広間全体に向かって話しはじめた。




「本日、中央区から通達があった。来月、名家を中心として、月への移住が決定したらしい。理由は穢れだ。皆も知っての通り、穢れ我々の寿命を大幅に縮める。その原因が街の周りに住み着く妖怪だと言うことが分かったらしい。そこで、妖怪が存在しない月面に移住し、穢れから逃れるのが目的だそうだ」




豊成の話に出てきた単語で引っ掛かったものが少しあった。


穢れの原因は妖怪?どういうこと?


“穢れ”と言うものを私は初めて聞いた。


戸惑っている私を置いて話は進んでいく。




「それに伴い、研究室では大型宇宙船の開発が進んでいる。宇宙船の完成と同時に移住を始めるるそうだ。今ある小型の物は貨物用として、先に月に打ち上げるそうだから、各自明日にでも荷物を作るように。最後に中央区の使者の方から重要なお話があるそうだ」



そう言って豊成が示したのは、私の向かい側に座っている青年。


その青年は立ち上がると、私にとってあまり良くない話をし始めた。




「先程ご紹介をあずかりました、中央区防衛部のカヅラです。実は街の周辺の山に住み着いている妖怪達が最近、不審な動きをみせています。どうやらこの街に襲撃をかけるようです。時期はまだハッキリしませんが、近いうちにに攻撃してくるのは確かです。これは、宇宙船の完成時期とも重なります。我々防衛部も応戦の準備を進めていますが、敵の数が多すぎてこちらの戦力が明らかに不足しています。このままでは、最悪、自爆装置を使うことも視野に入れなくてはなりません。そこで、名家の警護をしていらっしゃる方々を中心に志願兵を募っています。戦闘が得意な方は特に大歓迎です。このお話は蓬莱山家の方々にも既にこの旨を伝えており、大変良いお返事を戴きました。綿月家にはそれは腕の良い護衛役の方がいらっしゃるそうで……」




そういってカヅラさんは私の方をチラリと見た。


………なるほど、コイツは中々の直球で私に向かって戦闘に参加しろと言っている。


私はこういう輩のことがハッキリ言って嫌いだ。


それに、同族を殺すのは気が引ける。


しかし、綿月家の面子も有るため、仕方なしに参加の意を伝えようと口を開きかけたが、それよりも先に豊成が言葉を発した。



「申し訳ないが、その人物を参加させる訳にはいかない。この者が座っている位置を見てわかる通り、この屋敷でかなり重要な役割を持っている。屋敷を空けて貰い訳にはいかない」




「………」




非常に強い言い方だった。


カヅラさんも何も言えないでいる。


誰1人として一言も喋らない。




「…なら、私が代わりに参加しましょう」




静寂を破ったのは屋敷の警護隊の隊長。


彼もかなり強いらしい(カナエさん談)。




「……そうですか。それではよろしくお願いします。他にはどなたかいらっしゃいませんか?」




カヅラさんは問いかけるが、誰も応えない。




「ここにいるのは上に立つ者だけなので、その他の者からは後で募りますので、お時間を頂きたい」




「………わかりました」




豊成の提案で、カヅラさんは渋々引き下がった。




「今の話を各自持ち場の者に話して置くように。以上、解散」




豊成が会議を閉じると、皆が一斉に立ち上がって持ち場に帰っていった。


その中でもカヅラさんはいち早く部屋を後にした。


私は未だに座ったまま、皆が出ていくのを待っていた。




「何か用でもあるのか?」




豊成もまた私が立たない理由をしっかりと汲んで座ったまま皆が出ていくのを待っていた。



誰も居なくなった広間で、豊成が先に口を開いた。




「よろしかったのですか?」




「なにがだ?」




「私を戦闘に参加させるのを拒否したことですよ。しかも、私がこの屋敷の重要な役割を担っているとか大嘘ついて……」




「何をいうか。全くもって嘘などでは無いぞ!」




豊成は少し怒ったように言葉を荒げた。




「娘たちの護衛役かつ大切な“友達”なのだろ!?それ以上にこの屋敷で重要な役職は無い!」




豊成の言葉に驚いて、私は目を見開いた。


しかし、すぐに笑いがこみ上げてくる。




「フ…フフッ…それはまた…ククッ…子煩悩なことですね」




「う、うるさいわ!放っておけ!……それに――」




豊成は少し顔を赤くしながら目線を泳がせていたが、急に真面目な顔になり、私の目を真っ直ぐ見つめた。

目には同情の色が浮かんでいる。




「?」




「――それに、同族殺しはしたくないだろう?」




「―――っ!!」




私は耳を疑い、同時混乱した。


豊成が言った事の意味が理解出来ず、数秒間時間が止まったかのように動けなく成ってしまった。


同族――妖怪と私がそういう関係、つまり私が妖怪だと暗に言っているのに気が付き、逃げ出そうとして立ち上がった。




「待つんだ!良いから座れ」




逃げようとする私の腕を豊成が素早く掴んで再び座らせた。




「は、放して!」




私は逃れようとして暴れた。


しかし、能力や妖力は豊成を傷付けてしまうので、勿論使わない。




「落ち着け涼花。今更どうこう言う気はないし、する気もない。お前が今更何か害を成すとは思えないからな」




豊成はゆっくりと、諭すようにそう言った。




「……なぜそう思うのですか?」




私もそのおかげで落ち着きを取り戻す事が出来た。




「何かするつもりならば機会はいくらでもあったからな。私と初めて会ったとき、娘と一緒に攫われた時など何度もな」




「これから行動しようと考えているかもしれませんよ」


「もし、そのように考えているのであったら、そのようなことを言う訳がないな」




「……そう思いますか?」



「そう思うな」




私を真っ直ぐに見つめる豊成は本心からそう思っているようだ。




「そうですか…。では、いつ気がつきましたか?初めから…ではないですよね?」




「そうだな、初対面では妖怪だとは気付かなかった。いくらあの永琳の首輪の力と言っても怪しい事この上なかったがな」




「それでは、なぜ護衛役になる機会をくださったのですか?」




「永琳のことを信用していたからな。あの子が何も言わなかったのだからそこまで危険ではないと判断したまでだ。

正体に気づき始めたのは、あの誘拐事件の後からだな」




「なぜですか?」




「涼花、お前能力持ちだろう?だからだ」




「どうしてそれで?」




「能力を持っているのは、一部の限られた妖怪と少数の人間だけなんだ。その少数の人間は中央区が名前と顔のリストを制作しているから、調べればすぐに誰なのか分かる。それに、娘たちをここまで飛ばしたあの力はお前の能力によるものだろう?皆はその首輪に永琳が気まぐれで付けた機能だと思っているし、永琳自身もそう主張しているがな。極め付けには、この街には決して少なくはない数の防御システムがあって外との境界で穢れ――いや、妖気と言った方が分かりやすいな。それを一定範囲内に少しでも感知すると一匹くらいなら自動で迎撃し、中央区に通報するようになっている。センサーは街の至る所に死角が無いように設置されているから、初めどれだけ上手く隠していてもいずれバレる。妖怪がこの街で生活する為には、それこそ妖力を完全に消滅させるか封印するしかない。これは特殊な能力を使わないとできない芸当だ。他にもまだ沢山あるが、これくらいでどうだ?」




完璧と言って良いくらいに全てを言い当てられた。


私は何も言うことができず、黙って(うつむ)いていた。


黙っている私をみて、豊成は続けた。




「……そうか。実はな、本人にも言っていないことなんだが、豊姫と依姫も能力を持っているらしい。どんな能力かは今のところ全くわからないが、どこかの妖怪のように誰かのためにその能力を使って欲しいな」




私が顔を上げると、笑顔の豊成がいた。




「……笑顔もなかなか怖いですね」




「放っておけ」




その顔を見ていると涙がでそうになったわたしは、憎まれ口をきいて笑った。



―――――


――――


―――


――



大広間を後にした私は、(こら)えきれずに零れてしまった涙を拭いて、豊姫と依姫の部屋に戻ってきていた。




「それじゃあ、月に送るものをまとめなくてはいけないんだな?」



現在、先程の会議の内容を依姫たちに説明中だ。




「その通り。ただし、全部送ったらダメだよ?」




「それくらい分かってるわよ。使うものは残さないとね」




「それじゃあ荷物をまとめようか」



―――――


――――


―――


――



今、この部屋には2人が屋敷中から持ってきた品物がうずたかく積まれている。


因みに私の私物は特には無いので、これらは全て豊姫達の私物のみである。


しかし、この山の中には明らかに必要のない物が混じっている。




「なに?コレ?」




私はその中の1つを指差す。




「ナニって、見てのとおり便座カバーだよ?」




「…………そっか。じゃあコレは?」




………これに突っ込んだらダメだ…。




「見て分からない?それも便座カバーだよ」




……むしろ突っ込みを待っているのか?




「……他には無いの?」




「あるよ。まずは、涼花人形と、夜に使う××××でしょ?五寸釘と人形。それと便座カバー」




クッ……突っ込むべき所が多すぎてどこから突っ込んだら良いか分からない。


誰かを呪うの!?夜に使う××××ってなに!?普通にパジャマって言おうよ!


今の2人のノリに付いていけない…。




「……フゥ。とにかく、五寸釘と人形、あと、便座カバーは必要ないから置いていって」




「そうだね。特に必要性を感じないし」




なんなんだ……この子たちは。


ここまで便座カバーを押して来るなんて……もしや、元ネタを知っている?


いや待て、よく考えるんだ、この世界にCLANNA〇があるわけない。


そもそも、便座カバー=春〇みたいな方程式が成り立つわけないし……。


私は、こういう時はスルーが一番良いと言う事を知っているので、敢えて口に出して突っ込まずに話を続ける。




「コレで全部?」




山の中から便座カバーを全て取り除くと、荷物の量は半分以下になってしまった。


この屋敷にどれほどの便座カバーが隠されているのかが気になるが、今はそれよりも荷造りが先だ。




「じゃあ、荷物をまとめて、この荷札を付けてね」




荷造りが済んだら何処に置いておくんだったか忘れてしまったので、一先ず玄関にでも置いておく事にする。




「よーし!それじゃあ、屋敷の玄関に――転送!」




荷札がしっかりとついているのを確認して、玄関に荷物を転送したのだが……。




「うぎゃぁぁぁ!」




「…………」




その直後、誰かの悲鳴が玄関から聞こえて来た。




「ねえ………涼花?」




豊姫が、こちらをジト目で見てきたが、私の脳内は、どのように言い訳をするかを考えるためにフル回転しているので、そんな事に応える余裕はない。

そうこうしているうちに、キレているのが明らかにわかる大きな足音が近づいてきている。


その足音は部屋の前で止まると、怒りに任せて障子を思い切り滑らせた。




「おいぃぃぃ!涼花ぁぁ!お前、俺を殺す気かぁぁ!」




「あ、いや………あ、あははは……失敗失敗☆」




「失敗失敗☆………じゃない!無闇に物を飛ばすな!というより、屋敷の中で物を飛ばすのを禁止する!それに、荷物は部屋の前の廊下に置いておけば業者が回収していく!」




「潰されてはかなわない」と言い残して 怒り狂った豊成は嵐のように去って行った。




「はあ……調子に乗りすぎたかな?」



私はちょっと反省して、うなだれるのだった。




★☆★☆★☆★☆★☆★☆



「クソ!見つからないのか!?」




何者かが焦ったように大声を張り上げている。


声の質からすると、男のようだ。




「アイツは確実に戦力になる。それも主力としてだ。アイツがいるのと居ないのでは、作戦が大きく変わってくるんだぞ!?」




「も、申し訳ありません。現在、この場所を中心に、捜索範囲を拡大しております」




「ならばお前も何時までもここに居ないで早く捜索に加われ!」




「し、承知いたしました」



怒鳴り散らされていた人物は、一礼すると、慌てて飛び出していった。


その後、男の脇に控えていた人物が初めて発言した。


「お兄様。この戦いは勝てる見込みがあるのでしょうか?」




こちらはどうやら少女のようだ。




「今のままでも十分だ。しかし、アイツが加われば、此方の被害はさらに減り、勝利は確実になるだろう」




「……この戦いに勝ったとして、一体――っ!」




何の意味があるのか?それを聞くことは出来なかった。


振り向いた男の鋭い眼光が少女を射ぬいたからだ。


眼光に射ぬかれた少女は身をすくめて少しだけ後退りした。




「お前はふざけているのか?それとも、本当に分からない程に救えないのか?」




男の声には若干の怒りがこめられ、震えていた。




「今まで、奴らは好き放題山や森を削り、俺たちは追いやられて来たんだ!幸いにもこの辺りは大丈夫だが、俺たちは奪われた住みかを奪い返し、奴らの住みかを逆に奪ってやる!」




少女は初めから思っていた。


兄の頼みだからと言ってこのように参加しているが、本心はこんなことをしたいとは考えていない。


本当ならば、ただ、静かに過ごしたいのだ。


確かに住みかを削られているのは我慢ならない。


しかし、それは人間が居なくなってからでも良いはずだ。


遠くの音を聞く能力がある妖怪によれば、人間は近々月に移り住むらしい。


兄の目的が住みかの奪還ならば、それで十分のハズだ。


勿論、兄にもそう伝えた。


しかし、彼は戦争を人間にふっかけるのを止めなかった。


彼は一体何を考えているのか。


その答えは単純にして最悪。


―――復讐。


今までの復讐のため、人間を皆殺しにしようと考えているのだ。


他の妖怪も、人間に不満を抱くものは多く、兄はたちまち妖怪の軍隊を作り上げてしまった。


中には無理矢理入れられた私のような平和主義の者も居るらしい。


兄の暴挙を顧みて私は小さく溜め息をついた。




「発見したとして、彼女は協力してくれるでしょうか?」




「それは当然だ」



どこに根拠があるのかはわからない自身だが、拒否出来ない状況を作り出す等して仲間に加えるつもりだろう。


そこまで考えて、少女は口を閉ざした。


少女が口を閉ざしたことによってこの空間から一切の音が消えた




「………涼花は一体どこに行ったんだ」




静かになった空間で、男の呟きだけが妙に大きく響いた。




☆★☆★☆★☆★☆★☆★




廊下の所々にはいくつかの大きな荷物が積み上げられている。


今日の夕方に回収に来るそうだ。


荷造りを済ませた屋敷はほぼ何もない状態だ。




「予想以上に片付けが早く済んだみたいだね」



屋敷の中を見回して私はそういった。


そして、暇つぶしに庭に出た私は、建物の間から少しだけ見える山々を見ながら、私というイレギュラーが世界に割り込んだことで、このまま結局何も起こらずに移住完了すればいいなと、心の底から願うのだった。




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