第三話 惑いは護衛の事
ついにこの時が来たか…。
「私達応援してるから頑張って!」
依姫の声援が縁側から届く。
その声に答えるように私は笑顔で彼女たちに手を振る。
「おい、よそ見してると怪我するぜ?お嬢ちゃん。そもそもその服じゃ袖が邪魔だろうに」
「心配してくれてありがとう。お兄さんこそ怪我をしないようにね」
私が対峙しているこの男、多分護衛隊の中でも強い部類に入ると思う。
本気を出されたら、体術のみで戦って勝つのがほぼ不可能なくらいに…。
しかし、この男はどうやら私のことをナメている。
“戦い”を完全に理解している人物はどんな相手も甘く見ることはしない。
相手を見くびっていると、気持ちが緩んで、相手に付け入れられる隙ができてしまう。
つまり、私にも勝てる見込みがある(かもしれない)ということだ。
――という話を何かの漫画で読んだ記憶がある。
それにしても、軽く見られるのはあまりいい気はしない。
これからそのナメた態度を後悔させてやるよ。
まあ、怪我をさせる気は無いけど。
「それでは、そろそろ始めるとするか」
豊成が私たちに声をかける。
今日のギャラリーは豊姫と依姫だけではない。
この屋敷に住んでいる者全てが集まっている。
やはり、狐が人間に勝負を挑んだとあれば気にもなるだろう。
…そう考えると、相手にナメられるのも判らなくもない気がしてきた。
既に私は霊力による強化を済ませているのでいつでも始められる。
「双方準備はいいな?それでは…始め!」
先に動いたのは相手。
素早く間を詰め足を払いに来た。
相手の体勢を崩す作戦のようだ。
「それ!」
向かって来た相手の顔目がけて飛び蹴を放つ。
――が首をひねり、体勢を若干崩しながらも避けられた。
「うぉりゃぁぁ!」
そこから気合いで体をひねり、回し蹴りを後頭部に叩きつけた。
相手は体勢が崩れきった状態から避けるのは不可能だったらしく、きれいに決まった。
蹴られた勢い
「あれ?予想以上にアッサリ」
ギャラリーからは「おぉ〜」という驚きの声や、「あのような裾が短い着物を着ているのに見えない…だと?」などの声が聞こえる。
しかし、豊成は何も言わずにこちらの様子を見ている。
アッサリ決めすぎて怪しまれたかな?
「まだ終わってないぞ」
手応えの無さに戸惑って居ると、地面に突っ伏している男の声が聞こえた。
なんと後頭部に蹴りを受けたにもかかわらず、普通に立ち上がったのだ。
「何で普通に立てるの……」
「俺は打たれ強いんだよ」
打たれ強いって脳震盪も関係あるのかは不明だが、生半可な攻撃では沈まない相手だということはわかった。
仕方ない、急所を狙いに行くか?
「君を見くびっていたようだ。こちらも本気で行かせてもらう」
やっぱりそうなるか……。
だから、初手で沈めたかったんだよな……。
霊力の密度を上げて更に体を強化する。
保つのは後4分位だな…。
「……瞬歩」
私は相手が攻撃しようと構えた瞬間、一瞬にして相手の背後に回りこみ、霊力で強化した手刀を首にたたき込んだ。
「な!?」
一瞬で背後に現れた私に反応して振り向きかけたが、そのまま気を失ってくすれ落ちた。
「いいだろう、君を娘の護衛役に任命する」
「やった!」
思わず笑みがこぼれる。
ちょっと危なかったかも……。
「涼花〜!やったぁ!」
気が付くと、豊姫と依姫が私に抱きついていた。
「涼花って強いんだね!」
「そうでもないよ、一度目に倒したあと、急に攻撃されてれば私が負けてたよ。油断は禁物だって分かってるのにね……」
相手を動けないようにしてしまえば後は埋めるなり吊すなり楽なんだけど。
……………あ
能力で動きを封じればよかったな。
「?どうしたんだ?」
「いや、なんでもないよ」
「じゃあ早速出かけようよ!」
依姫は今すぐ出かけたくて仕方ないようだ。
組み手が終わったので使用人達は持ち場に帰ってしまったようだったが、豊成と依雪さんはまだ残ってこちらを笑顔で見ている。
豊成の笑顔が凶悪で怖い…。
「行って来なさいな。いくら優秀な護衛がついているとはいえ、あまり遠くに行ってはダメよ?」
そんな、優秀だなんて……。
照れるなぁ……。
「涼花君も名家と名高い綿月家の娘に何かあったらただじゃ済まないから、そこのところを意識しておいて」
「具体的にはどのような?」
「ん?まあ、命は無いんじゃない?」
マジすか……。
背中に冷たいものが流れた。
「早くいこうよ!涼花、豊姫!」
こうして箱入り娘2人を連れて街へと出かけるのだった。
―――――
――――
―――
――
街を歩いているだけだが、初めて外に出る2人にとっては楽しくて仕方がないようだ。
「そういえば……」
私が朝の散歩で見つけた公園のベンチに座って休んでいるときに、豊姫が思い出したように私に聞いた。
「結局涼花はどこからきたの?」
「もちろん森だよ」
「どこの?」
「街の外に山があって、そこの森で生まれたの」
「お母さんとか兄弟はいるの?」
「うーん……。母さんとお兄ちゃんの稜、後は妹の風がいるよ」
「じゃあ…帰らないと心配してるんじゃない?」
「ははは……。稜と風は独り立ちして出ていっちゃったし、母さんは『恋を探す』って言い残して旅に出ちゃったから大丈夫だよ」
「そう…なんだ……」
アレ?空気が何だか重く……。
「「……………」」
暗!姉妹そろって暗い!
質問した豊姫だけじゃなく、隣で正しい聞いていた依姫まで黙り込んじゃった。
「あ、あのね?気にしなくていいんだよ?」
「「………」」
「だ、だからこそほら、こうやって友達を探しに来たわけだし、そうじゃなかったら豊姫達と友達になれなかったよ。だから、これからも友達。だよ?」
「あ……うん!友達だよ」
「でも、護衛の方もお願いね。頼りにしてるから」
豊姫と依姫からくらい雰囲気は消え去り、明るい空気が戻ってきた。
「さあ、今度はどこに行こうか?」
私がベンチを立ち上がり、次の行き先を決めようとすると、目の前に何者かが立ちふさがった。
「よう、お嬢ちゃん。今朝はどうも」
「あ〜今朝のアホな人だ」
「今日の朝はお世話になったからねぇ?ちょっとお礼をと思ってね?」
「後ろの2人はお友達かな?」
「!?」
後ろを振り向くと更に4人の男がおり、豊姫と依姫を拘束していた。
「あ、あんたら!白昼堂々こんな公園で……!バカじゃないの?すぐに誰かが気付く!」
朝の男に向き直ると、男はいかにも面白い物を見るような目で私を見ていた。
「うちのお客は金持ちの権力持ちばかりだからな。人払いなんざお手のものなのよぉ」
「兄貴!」
その時、後ろから声がかかった。
「あん?どうした?」
「兄貴、この2人、綿月家のご令嬢だぜ!」
「そりゃ本当か!?」
「ああ、本人が言っているからな」
「ククク……。そいつはとんでもない掘り出し物だ!身代金と売上金で二重に儲かるじゃねぇーか!」
クソ!こいつら人身売買屋だ。
しかも、会話を聞く限り、幼い少女をペド野郎に売る専門のようだ。
本当なら今すぐ能力で動きを封じてフルボッコにしたいところだが、なにせ人数が多い。
これは作戦が必要だ。
そうこうしているうちに、私も取り押さえられてしまった。「よし、トランクに積み込め」
そして、私達3人を乗せた車はどこかに向かって発車した。
「涼花ぁ〜どうなっでるの?」
依姫は恐怖で号泣している。
豊姫は泣いてはいないが無言で震えている。
「大丈夫だよ。私がついて居るから。ひとまず2人は家に帰って貰うからちょっと待ってね」
目を閉じて集中する。
――能力を操る程度の能力発動!
『転じて飛ばす程度の能力』を追加
―――現在の能力
Partition0/『能力を操る程度の能力』
PartitionⅠ/『封じる程度の能力』
PartitionⅡ/『霊力を操る程度の能力』
PartitionⅢ/『転じて飛ばす程度の能力』
「涼花?どうしたの?」
私が急に黙り込んだので不安になったのか目を開けると、依姫の顔がすぐそこにあった。
「よし、準備ができた」
「え?準備って?」
豊姫が聞いてくるが、時間が無いので、無視をして話を進める。
「さあ!今の時間帯に必ず人が居るのは屋敷のどの辺?」
「うーんと…多分お父様の部屋――つまり、昨日涼花が呼ばれた部屋にお母様がいらっしゃるはずだけど」
「わかった。じゃあ、説明をよろしくね」
「え?涼花は――「豊成の部屋に転送!」」
…………。
2人を送り終わり、一息ついたところでとてつもない疲労感が私を襲う。
「ヤバ……めっちゃ疲れた。まあ、仕方ないか…今日だけで結構戦ったし…」
私はそのまま眠りに落ちた。
―――――
――――
―――
――
私は激しい痛みで目が覚めた。
「うぅ………」
「やっと目を覚ましやがった。おい!残りの2人はどうした!」
依姫と豊姫のことか……。
二人ともちゃんと家に着いただろうか…。
「さあね……ガッ!」
私の腹に容赦ない蹴りが入った。
「おいおい、あまり手荒く扱うなよ?大事な商品なんだからな?」
「し、しかし!」
「大丈夫だ。儲けが無くなったのは痛いが、その分コイツを高く売れば問題ない。どうやらコイツはそういう趣味のようだからな」
ソイツは私の首もとを指差してそういった。
どうやら、この首輪を私の趣味だと勘違いしているらしい。
「朝はやられたが、今回は手足を縛ってあるから抵抗出来ないだろ?あん?」
床に転がされている私の脇腹をソイツの爪先がつつく。
「…それはどうかな?」
「なんだとぉ?」
私は素早く狐の姿に戻り、またすぐに人化した。
「な!テメェ妖怪か!」
「いえいえ……ただの迷い狐ですよぉ!!」
「ぐぇ………」
「な!何を!……」
私は蹴や手刀をたたき込み、その場に居た十数人の意識を次々と刈り取っていく。
しかし、全員を仕留める前に1人が外に逃げ出した。
その直後、複数の足音と金属音が聞こえる。
足音からして、10…いや、20はいる。
金属音は主に銃だと思われる。
これではまともに戦う事は出来なそうだ。
幸い、寝てたお陰で、1人を転送することはできそうだ。
「逃げるが勝ちだね。――豊成の部屋に転送!」
…………。
20人の男が銃を手に部屋に傾れ込んで来た時には、少女の姿はなかった。
―――――
――――
―――
――
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綿月家は騒然となっていた。
末端使用人の私にすら詳細が届く程に、だ。
それもそのはず、綿月家の箱入り娘の豊姫様と依姫様が縛られた状態で突然、お父上であらせられる豊成様の自室に現われたのだ。
しかも、護衛役の涼花がいない状態で。
帰ってきた2人は非常に怯えた様子だっだが、起こったことの詳細を話した。
さすがは綿月家のご令嬢である。
2人の話を総合すると、最近巷で噂になっている人さらいに3人まとめて攫われた。
車に乗せられ、どこかに運ばれる途中に涼花の不思議な力でこの屋敷に送られたということらしい。
豊成様はどうなさるおつもりなのか……。
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「まさか複数人で来るとは……」
「そうですね。さすがに涼花さん1人では2人を護りながら抵抗するのは不可能でしょうね……」
「お父様、お母様。涼花はどうなっちゃうの?」
涼花が心配な私と依姫はお父様に恐る恐る聞いてみる。
もう二度と会えません。なんてイヤだ。
「心配はいらないぞ、豊姫。すぐに捜索する」
お父様が捜索の指示を出そうとしたとき、庭に面した障子が勢い良く開いた。
「その必要はありません」
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「おかしいな……」
私は確かに豊成の部屋って言ったはずなのに、なんで屋敷の塀の上に立っていたのだろうか…。
しかも、豊成の部屋から最も遠いところだ。
「……豊姫たち、心配してるだろうな」
私は豊成の部屋に全力疾走中だ。
目当ての部屋まであと少し……。
「――ず花はどうなっちゃうの?」
お!豊姫の声が聞こえた!
無事に送り届けることが出来ていたようだ。
「心配はいらないぞ、豊姫。涼花はすぐに捜索する」
もしかして、私の捜索の話!?
私、ここにいるよ!?
無駄に捜索隊を編成してもらっても困るので、全力で障子に駆け寄り、勢い良く開いた。
「その……必要はありません」
ヤバ……蹴られたところが今になって痛くなってきた。
「涼花!?よかったぁ!」
さらに、身体から急激に力が抜けていく。
「うん………ごめん…ちょっと……」
「うわわ!涼花!?どうしたの!?しっかり!」
―――――
――――
―――
――
「ふぁぁぁ〜……ん?朝か……朝ぁ!?」
私は飛び起き、辺りを見回す。
障子から部屋に差し込む柔らかい光。
隣の布団で仲良く並んで寝ている豊姫と依姫。
明らかに朝だ。
確か、昨日帰ってきたのは夕方だったから、半日寝てたのか?
「太陽の光でも浴びようかな」
布団から這い出て、縁側に出る。
うん、朝日はやっぱり気持ちが良いな。
「あら、久しぶりね」
太陽の光を浴びて背伸びをしていると、後ろから声をかけられた。
「あ、おはよう永琳。久しぶりって、一昨日のきょうじゃない。久しぶりには早すぎるよ」
「いいえ、久しぶりよ。そして“三週間の”眠りからおはよう」
は?なんですって?三週間?
なにそれ……。
『意識不明の重体です』
ってニュースで流れるレベルじゃん。
「三週間の間、私はどのように扱われていたのでしょうか……」
「まあ、栄養補給は点滴だったわね。お風呂は豊姫様達が交代で入れたのよ。自分からやりたいっていって」
「後でお礼を言わないとね」
「フフッ…でも、豊姫様達は助けてもらったお礼だって言ってたわよ?」
「それでもだよ」
私が永琳に微笑んだ時、部屋の中から依姫の切羽詰まった声が聞こえた。
「す、涼花がいない!?豊姫!起きて!涼花が居なくなっちゃったよ!」
「そんな訳ないだろ………え?ホントにいない!?どこに行ったんだ?」
大変大騒ぎになっている。
「放っておくとホントに大騒ぎになるわよ?」
「そうだね、じゃあ、またあとでね。……あ!」
「?どうしたの?」
「今日の授業はなに?」
永琳は質問の内容に驚き、一瞬ポカンとしたが、すぐにクスッと笑って笑顔で応えてくれた。
「そうね……。今日の為に1ヶ月かけて考えた問題があるから、それにしようかしらね…」
そう言い残して永琳はどこかに歩いて行った。
え?永琳が1ヶ月もかけて作った問題!?
できる気がまったくしない。
「ジョークだよね?」
そう願いつつ、私は部屋の障子を開け放った。
「おはよう!2人とも!」
部屋の中で大慌てしていた2人は私を見ると笑顔で走り寄ってきた。
――――――こんな最終回もいいかもしれない…。
………いやいやいや!
あまりにも良いシーンだったから、うっかり終わらせるところだったぜ。
「まさか三週間も寝てるとは思わなかったよ」
「涼花がもう二度と目覚めないんじゃないかって思って不安だったよ……」
「それは絶対に無いから心配ご無用だよ」
「あ……依姫。涼花が目覚めたらお父様のところに連れて行くんじゃなかったか?」
「え?ん〜そうだったっけ?」
呼び出しがかかってるのか……。
この前あっさり捕まったことについてかな?
「怒ってるの?」
「うーん……よくわかんないや」
怖いなぁ……。
正直行きたくない。
「ほら!いこう?」
ああ、そんな笑顔で引っ張らないで……。
―――――
――――
―――
――
「目が覚めたようで何より」
豊姫達に連れられて渋々豊成の前に座っている。
「先日はお見苦しいところをお見せしてしまいました」
「ふむ、確かに…。初めての外出においてまさかの誘拐騒動。更に一度しか仕事をしないで三週間もの療養!」
あ、コレダメだ……。
まさかの計画未完で終了パターンだ。
どーしよーかなぁー?
………何も思いつかない。
このまま策も無く消える結末?
イヤだわー。せめて出来ることやって足掻くだけ足掻いて消えたいわぁ……。
あ!預言者っぽくやってみるかな?
『戦いが近づいている…』みたいな?
あー……訳わかんないし、意味もないな。
「――と言うことで、これからもよろしく頼むよ」
「?なにをですか?」
全然話し聞いてなかった……。
「君は私の話を聞いていたのかね……」
これからの身の振り方を考えていたので聞いていませんでした。
「まあいい。つまりは、2人を屋敷まで送るというあの時の判断は素晴らしいものだったから、これからも護衛役をしっかり頼むということだ」
「へ?」
え?なに?クビじゃないの?
私、生き残った?
「そろそろ豊姫達の勉強の時間だな。しっかりと護衛するんだぞ」
そう言い残して、豊成は部屋を出ていった。
豊成が出ていき、閉まった襖を見つめて放心していると、後ろから肩を叩かれた。
振り向くと、満面の笑みを浮かべた豊姫と依姫の姿が目に映った。
「さ、一緒に行こう?」
2人に手を引かれるが、気が抜けてた私は、立ち上がることが出来ずに前に倒れこんだ。
倒れこんだ私を豊姫と依姫が抱き留めてくれる。
「ク、クビになるかと思った……」
「大丈夫だよ。怒ってないって言ったでしょ?お父様もお母様も、涼花の判断に感心してたんだから」
「豊姫も私も、助けてくれてありがとうって言いたくて目が覚めるのを待っていたんだから」
今、私は猛烈に感動している。
思わず涙が出そうになってしまった。
「確か、今日は永琳が全力で作った問題を解くって言ってたから、早く行かないと終わらないよ?」
なん……だと?
永琳、本気だったのか?
その後、永琳の全力――フェルマーの最終定理の証明がやっと終わった頃、私は初めての数学に恐怖を覚えていた。
―――――
――――
―――
――
授業が終わり、フラフラになった私は永琳に呼ばれて、屋敷の縁側を2人で歩いている。
「しばらくあなたに授業を任せようかしら。近々忙しくなりそうなのよ」
永琳が忙しくなる。
その言葉が私の心に引っ掛かった。
「忙しくなるって……。勉強を教える人が増えたかなにか?」
「違うわよ。研究所の方で大きなプロジェクトが動きだしたの。そのせいで私も研究所に缶詰めになりそうなのよ」
「研究所?永琳って何歳だっけ?」
「今年で13歳よ」
「そんな歳で研究所の研究員なの?」
「そうよ、自慢じゃないけど、私は有望な研究員だから、普段からあちこちで引っ張りだこよ」
自慢じゃない、と言いつつ、若干誇らしげに胸を張った。
ふむ、流石は月の頭脳といったどころか。
流石に子供っぽさが残るが……。
「なに?永琳が缶詰めになるほどのことって。新しい兵器か宇宙船でも作るつもりなのかのな?ははは」
多分これは的を射ているに違いない。
私の勘がそういっていた。
「さあ、どうかしらね。機密事項だから言えないわ」
この時、永琳は、表情を崩さずにはぐらかしたつもりだったろうが、頬が不自然に動いき、目が若干泳いだのを私は見逃さなかった。
「そう……。わかった。こっちは任せて置いて!」
「助かるわ。これが私が予定していた授業の計画表だから、参考にしてちょうだい。」
永琳が差し出した紙を受け取りながら、私は内心、授業をする事はあと何回あるのだろうかと思っていた。




