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東方狐物語  作者:
21/21

第二十話 社会に溶け込むのは難しい

門に番などが居なかったため、予想外にすんなりと入ることができた私たちは、早速どこか住む家を探していた。


今後のことを考えると、適度にボロいほうがいいのだが…。



°

「ご主人様!あれはどうですか!?あれ!」




「……あのさぁ。なんでさっきから立派なお屋敷しか興味を示さないのかなぁ?しかも人が住んでるし!」




「綺麗で大きなおうちのほうがいいじゃないですか」




さっきから落ち着きなくそこいらをチョロチョロし続けている朔は、俺が示す条件にピッタリの空家をことごとく拒否し続けていた。


さらには貴族のものと思われる屋敷を指さしては門番に俺が睨まれるということを繰り返していた。




「あっちならいいんじゃないですか?」




そう言って朔が指したのはまたしても貴族の屋敷。


しかも、今回は運が悪く家主本人と目が合ってしまった。




「…こいっ!」




俺は素早く目をそらすと、朔の襟首を引っ張って元来た道をもどり始めた。




「ご主人様!何をするんですか!離してくださいっ!」




「馬鹿か!貴族に目を付けられてみろ!ここに居られなくなるぞっ!」




朔はぎゃーぎゃ騒ぎながら抵抗しているが、俺は無視して彼女を引きずっていった。


家は門の近くにあったやつにしよう……あれが一番よさそうだ。


眉間にしわを寄せながらしばらく歩いていると、暴れていた朔が急に大人しくなっていた。


どうやら諦めたらしい。


そして、目的の家の前で俺は宣言した。




「今日からここに住みます。異論は認めません」




「……」




…おや?ここで文句の一つや二つ出てくると思っていたんだが…。


そう思って引きずっていた朔を見下ろすと、何だか力なくダラーっとしていた。




「…朔?」




「……」




「やべ…やっちまった」




首が締まって堕ちてしまった朔を今度は優しく抱きかかえて、この家の大家さんに話を付けに向かった。


大家さんに家を借りたい旨を話すと、ちょっとだけ不審そうな顔をしたが、『家賃だけはしっかり払ってくれよ』とだけ言って部屋を貸してくれた。


余計な詮索をされなくて本当に良かった。



―――――


――――


―――


――



何もない部屋に朔を寝かせて暫くゴロゴロして若干つまらなくなってきた頃に、朔が目覚めた。


当然のことながら朔はカンカンに怒っていて、宥めるのに苦労した。




「確かに騒ぎすぎた私も悪いですけども、死にかけるのは御免ですから!」




「それは悪かったって!ほら、買い物に出かけるよ。いいもの買ってあげるから」




「いいもの!?良い物ってなんですか!?」




良い物と聞いたとたん、尻尾をすごい勢いで振りながら朔は俺に詰め寄ってきた。




「まあ、朔が戦うときに役立つものかな?」




朔の機嫌を取る方法が何となく分かったところで、そう言って朔と一緒に通りに出た。




「何処に何があるのかの確認も兼ねて、隅々まで見て回りながら目当てのものを探そうか」




「見て回るんですか!?」




俺が通りの奥の方を見ながらそういうと、朔は尻尾の動きに加えて目までキラキラさせて喜んでいる。




「…楽しそうなのは良いが、おとなしくしてろよ?」




「はーい!」




……大丈夫かな?


まあ、騒いだら騒いだでその時どうにかするとしよう。




「ご主人様!どこから見に行きます?」




「まあ、ここに来た理由を考えると…。すみません」




俺はちょうど近くを通りかかった通行人に話しかけた。




「なんですか?」




「ああ、すみません。私たち、田舎から出てきた退魔士なのですが…。何でも非常に美しい姫がいらっしゃると言う噂を耳にしまして…」




「おお!あの方の噂はそんなところにまで伝わっているのですか!それならこの道をこういって…三つ目の角を曲がれば直ぐに解りますよ」




「わかりました。ありがとうございます」




俺がお礼を言うと、通行人は去っていった。


早速教えてもらったとおりにに通りを進んでいくと、ものすごい人だかりができている屋敷がひとつあった。




「うわぁ…ご主人様。なんですか?あれ」




「まあ、野次馬だろうな。牛車が何台も停ってるから貴族が躍起になってるんだろ。面白そうだからちょっとだけ覗いていこうか」




「まあ、いいんじゃないですか?私も少しは気になりますし」




街を見物するのを楽しみにしている朔は嫌がるものだと思っていたが、以外にも興味をもったようだ。


屋敷の垣根の周りに集まっている野次馬を掻き分けて見やすい場所を確保し、中をのぞき込んだ。


ここからは五人の貴族と簾の向こうに一人分の影が見えた。




「すみません。あちらにいらっしゃる貴族様達はどなたでしょうか?」




俺は偶々隣にいた人にそう訪ねた。




「アンタそんなことも知らないのかい。右から、石作の皇子様・庫持の皇子様・右大臣阿部御主人様・大納言大伴御行様・中納言石上麻呂足様だ。あんな有名人を知らないなんてどんな田舎から出てきたんだい?」




「ハハハ。ちょっと北の方から」




「ほ~…それは大変だったね。…お?何か動きがあったみたいだ」




そう言って隣の人は視線を戻した。


俺も一緒に視線を戻し、人の耳では聞こえないと思われるその小さな話し声に耳を傾けた




「…仕方がありませんね。これほどまで私を想ってくださっている心を無碍にはできません。私がこれから言うものを持ってきてくださった方と一生を共にいたしましょう」




影の人物はそう言って、石作の皇子・庫持の皇子・右大臣阿部御主人・大納言大伴御行・中納言石上麻呂足にそれぞれ「仏の御石の鉢」・「蓬莱の玉の枝」・蓬莱の玉の枝」・「龍の首の珠」・「燕の産んだ子安貝」を持ってくるように言った。


それを聞いた貴族たちは我先にと部屋を後にした。




「ご主人様?」




「ん?どうした?」




「いや、野次馬の人たちが解散し始めてるから私たちもそろそろ…」




「そうだね。そろそろ行こうか」




そう言って俺たちはブラブラと通りを散策し、最後に瓢箪を買いに行った。




「大きめのものが欲しいんだけど、有る?」




俺が店主にそういうと、店主は顔をしかめた。




「アンタ、(ひとえ)に大きいっていってもどれくらいを望んでんだい?それを言ってくんなきゃこっちも何を出せばいいかわかんねーよ」




「じゃあ、普通の二・三倍の大きさのもので」




「そんなにデカイものかい!?あるにゃ有るけど、値が張るよ?お金あんの?」




「そりゃ……あ!」




値が張ると言われて思い出したが、そう言えばお金を持っていない。


金貨を両替しなくては…。




「ご主人様?どうしたの?財布忘れた?」




「いや、大丈夫だよ朔。…すみません、この辺で両替やってるところないですか?」




「ん?それなら向かいがそうだよ」




「ありがとうございます。両替してからまた戻ってきますので。朔は気に入ったのを選んでな」




そう言って俺は向かいの両替屋に向かうと同時に、手の中に金貨を一枚転送した。


両替屋に入り、店番に金貨の両替を頼んだ。


店番は金貨の体積を調べると天秤に乗せ、重さを量り始めた。


何度も分銅を乗せ換え、釣り合ったところでその重さと手帳のようなものを照らし合わせていく。


暫く手帳とにらみ合いをしたあと、こちらの顔をチラリと見てから貨幣が詰まった袋を渡してきた。


袋の重さからするに、なかなかの額になったようだ。


その袋を袖にしまい、瓢箪を買いに戻った。




「朔。気に入ったのはあったか?」




「ご主人様。私はこれがいいです!」




そう言って朔が指したのは花柄のなんとも派手なものだった。


まあ、朔が欲しいんだったらこれでいいんだけどね?


浴衣も買ってあげようかな…?




「じゃあ、これをください。あと、一緒に水を一杯に詰めてください」




「はいよ、これお釣りね」




店主に多めに硬貨を渡すと、お釣りと水が一杯入った瓢箪が帰ってきた。




「よっこいせっと…」




朔は、掛け声をかけながら重くなった瓢箪を背負うと、栓を抜きやすい様に色々な背負い方を試し、遂にある方法に落ち着いたようだ。



ドォォォン!



次は浴衣を…と考えていると、家のある方角から大きな爆発音と土煙が上がった。


途端に通りは騒がしくなり、音がした方向とは逆の方角に向かって人の波が押し寄せてきた。


その人々は口々に『鬼が来た』と言っている。




「ご主人様。今の聞きました?」




「ああ、多分さっき墜落してった奴だろうな」




「どうします?」




「どうするって…行くしか無いんじゃないか?」




ダルイな~とか思いながら、できるだけゆっくりと騒ぎの大きな方に向かった。


誰もが逃げてしまい、閑散とした通りを歩いていくと、特徴的な格好をした一団が大慌てで俺たちを追い抜き、騒ぎの中心に向かっていった。




「ご主人様。今のは?」




「多分陰陽師とかの部類だろうな。あの鬼に敵うような気はしないが…」




「返り討ちですか?」




「ああ、死人が出なけりゃそうとう幸運。大怪我で済めば奇跡のレベルってところだろ」




「……早くいかなくていいんですか?」




「いくよ。殺さない程度にボコボコにしとこうか」



――ボゴォ!



ボコボコにすると言った直後、すぐそこまで見えていた門が爆発して、星熊が飛び込んできた。




「ったく…。雑魚が邪魔をしてくれちゃって…。用があるのは、アンタだけだよ!」




星熊はこちらをを睨み、指さした。


俺は誰のことを指しているのかと、後ろを振り向いた。




「ちっがーう!アンタしかいないだろ!」




「まあ、そうだろうな」




俺がそうのたまうと、星熊は青筋を立てて拳を握り締めた。




「アンタ、私のことバカにしてるだろ。いいさ!二度とそんなふざけたこと出来ないようにしてやるよ!」




大きく振りかぶられた星熊の拳が俺の顔をめがけて迫ってくる。


俺は一歩下がって、門を指さした。




「朔!先に行った退魔師を助けてこい!」




「わかりました!」




「随分と余裕をかましてくれるじゃないっ…!?」




朔が走り出すと同時に、星熊の拳が俺の顔を捉えるかどうかのところまで迫り、止まった。


俺に受け止められ、しっかりと握られた拳はぴくりと見動かない。




「喧嘩っ早いな。いちいち突っかかって来やがって…おとなしく帰れ。迷惑だ」




「…っく!うらぁ!」




顔を一瞬歪めた星熊は、空いている方の手を振りかぶったが、それも俺に止められ、全く攻撃できなくなった。




「自分で帰らないなら力ずくで追い返す。じゃあな」




俺はそう言って星熊をどこか遠くに飛ばした。


来て早々鬼なんかに絡まれるなんて、先が思いやられる…。




「ご主人様!鬼は!?」




「ん?どっか遠くに飛ばしておいた。そっちはどうだ?」




そう聞くと、朔は顔をしかめて首を振った。




「……全滅か?」




「はい…。生きている方は一人も…」




「仕方がないな…。朔、帰ろう」




「え!?亡くなった人たちはどうするんですか?」




踵を返して家に帰ろうとした俺にの腕をつかんで、朔はそう言った。




「そのままにしておくんだ。俺も放置したいわけじゃないけど、今は変に関わってトラブルに巻き込まれるわけにはいかない」




「そう、ですね」




朔はやっぱり気になるようだが、俺の後にしっかりついてきた。


その後、風の噂によると星熊のせいで主要な陰陽師がほとんど逝ったらしい。


おかげで陰陽師の数が不足し、名乗りを上げれば仕事があるとか…。




「はい、これから俺は陰陽師になります」




「そう言えばそんなこと言ってましたね。じゃあ私も?」




「いや、悪いが朔は式神ってことで」




「あ、全然それでいいです。むしろそのほうが…」




「そうか?なら良かった。そうと決まれば早速仕事を受けに行くぞ」




そう言って予め調べておいた陰陽師のたまり場に向かった。


藤原京内にいくつかある集会場の中で一番大きなもの、ついこの前までは多くの陰陽師達で栄えていた場所は、そうであったことが予想できないほどに静まり返っている。




「ご主人様…ここで本当に合ってるんですか?」




「間違い無いはず」




自分が集めた情報の正しさを信じ、集会所の引き戸を開けた。


するとそこにはヨボヨボの爺さん陰陽師が一人、大きなイビキをかいて寝ていた。


俺たちが中に入って引き戸を閉めると、突然カッと目を見開き、バネでもついているのかと思うほどの勢いで飛び起きた。


予想もしない爺さんの行動に、俺と朔は揃って身を強ばらせた。


爺さんは立ち尽くす俺たちに近づいてくると、必要以上の大声で話し始めた。




「依頼かのぅ?スマンの~今は人手が足りなくて精一杯なんじゃ。順番待ちということになるがいいかの?」




「い、いえ…依頼をしにきたのではないです。あの、もうちょっと小さな声で…」




俺は爺さんの大声のせいで耳鳴りを通り越し、頭痛を起こした頭を抑えながらなんとか言葉を発した。


朔は相当効いたのか目を回してフラフラしている。


初めて知ったが、妖獣の弱点は大きな音らしい。




「なに!?依頼ではない…となると、そこのお嬢さんがワシに愛の告白をしにきたのじゃな!?」




何言ってんだ?コイツ…。


そう思って頭痛から解放されたばかりの朔を見ると、爺さんに冷たぁ~い視線を送っていた。


その間も爺さんは、『ワシぁ罪作りな男じゃのぅ』とか、『お嬢さん、ワシがカッコ良過ぎるのはわかるが――』などと戯言を垂れ流し続けていた。


何だかイラっときたので、紙とペンを取り出して粘着性を持たせる式を書き、爺さんの口に叩きつけた。




「ふご!?」




突然口を開けなくなった爺さんはなんとも間抜けな声をだし、大人しくなった。




「俺は葵旅の陰陽師。分かる?そして朔は俺の大切な相棒なの。誰にもやらん!」




「ご主人様…」




「…で、仕事はあんの?」




そう訪ねてから俺は爺さんの口に貼り付けた札を勢い良く引きはがした。




「アイタタ…年寄りは労わるもんじゃて…。ほれ、これに書いてあるのが完了してない依頼じゃ」




爺さんが差し出した本のようなものをめくっていくと、解決してない以来が数十ページ以上もあった。




「祈祷と妖怪の討伐が半々か…。朔、討伐いける?」




「ちょっと見せてください。…えーっと、これなら大丈夫そうです」




「そうか、なんか困ったことがあったら頭の中で俺を呼べよ。じゃあ、全部受けるんで」




「全部!?何を見栄きっとるんじゃ。止めとけ、無理じゃ」




止める爺さんを無視して、本のページを裂き、集会所を後にした。




「これが朔の分の仕事。俺は快気祈祷をパパっと終わらせてくるから。じゃあ、気をつけてな」




「は~い」




そう言って朔は走っていった。


その背中を見えなくなるまで見送り、自分の依頼を見直した。




「えぇーっと…まずは、あっちか」




初めの4・5件の貴族屋敷では、一枚札を渡す程度で済む軽いものだったが、段階を踏むように難しい依頼になっていき、呪い返しをする羽目にもなった。


これ以上の面倒はないだろうと向かった最後の28件目はこれまでとは明らかに様子が違った。


屋敷の前に立っただけで顔をしかめたくなるような、強い邪気を感じる。


無意識のうちに作り置きの破魔札の枚数を数えていたほどだ。




「何か御用でしょうか?」




屋敷を見たまま立ち尽くす俺に使用人らしき男が声をかけてきた。


何だか顔色が良くないような気がする。




「あ、ああ…すいません。私、依頼を受けた陰陽師です」




「そうでしたか、ささっこちらに」




使用人に連れられ、屋敷の主人の前に通された。


まあ貴族らしい肥えた体をしているのだが、やはり彼も顔色が悪く、やつれていた。




「この度は良くぞいらっしゃいました。私の娘の調子がずっと良くならないので、早速見ていただきたいのですが」




「わかりました。でもその前に、この屋敷を覆う邪気は一体なんですか?」




「邪気…ですか。私にはさっぱり…」




「少し屋敷の中を調べさせていただきます。よろしいですか?」




俺は主人の許可を得て、邪気の出所を探って屋敷を歩き回った。


すると、ある部屋から息苦しさを感じる程の邪気が流れ出していた。




「ここは?」




後ろをついて歩いていた主人に聞くと、依頼にあったのお嬢さんの部屋らしい。


主人に確認してからその部屋に足を踏み入れる。


それに続いて部屋に入ろうとした主人には部屋の外から見てもらうようにお願いした。


布団の中で静かに寝息をたてる少女の枕元に置かれているのは小さな仏像。




「なん…だ?これは」




「それは以前ここに立ち寄った法師様が下さった仏様です。娘の病気が少しでも良くなれば、と」




「…邪気が出ている」




禍々しい気を放つ仏像を睨みつけ、破魔札を一枚投げつけた。



――バチィィッ!



しかし、札は効力を発揮する間もなく炭化して崩れてしまった。


それと同時に仏像から発する邪気が爆発し、俺“だけ”に襲いかかってきた。


素早く結界で自分を被ったので特に被害はないが、邪気にすっぽりと覆われてしまい、身動きが取りづらくなってしまった。




「あの…どうかなさいましたか?」




突然動きを止めた俺に屋敷の主人が声をかけてきた。


どうやら邪気が黒い霧のように見えるのは俺だけのようだ。


破壊したほうが早いと感じた俺は、すぐに銃を抜き、仏像に向かって発砲した。


一発、二発、三発…。


妖力などのエネルギーではなく、実弾が命中した仏像は粉々に砕け散り、それと同時に邪気が収まった。




「以上です。後はしばらく様子を見てあげてください。明日あたりには目を覚ますはずですから」




俺はそう言って報酬を受け取り、真っ直ぐ家路についた。


家に帰ると、既に朔が帰ってきており、嬉しそうに今日の成果を教えてくれた。


妖怪退治の方では特に大きな問題が起こることもなく、数は多かったが楽勝だったそうだ。




「よし、後はわざわざ仕事を探しに行く必要はなくなった。多分放っておけば依頼人が直接やってくるから」




「え!?本当ですか?良かった~」




「朔は仕事を探すのがそんなに嫌なのか?」




「いえ…仕事探しはきらいではないのですが、あのお爺さんに会わないで済むと思うと…」




朔は困ったような笑顔を浮かべてそう言った。


正直あの爺さんの押しっぷりは、隣で聞いていた俺も引いたほどだ。




「まあ、大丈夫だろう。こっちからはもう行かない訳だし、向こうから訪ねてこない限り―――」



――ガラッ!



“会うことはない”と断言しようとしたところ、噂の爺さんが引き戸を開けて飛び込んできた。


…なんでここの場所がわかったんだ?




「爺さん、何か用か?」




「ハァ…ハァ……お主ら、あの数の依頼を既に完了したと聞いたが本当か!?」




「まあ、本当のことだな」




「そうか…。……先ほど噂を早くも聞きつけた都中の帰属たちの使者が続々と集会所に押し寄せている。アンタ自分で――」




「おい、爺さん。外が騒がしいんだが?」




「そんなのワシが知るか!自分で確かめろ!」




そう言って爺さんが再び引き戸を開けると、そこには…。




「いたぞ!この家だ!」




この後、俺の家は爺さんの後をつけてきた使者たちのせいで大パニックになった。

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