第十六話 周りの迷惑を考えましょう
葵「おっと、今回の前書き、後書きは俺が乗っ取った」
葵「駄目な作者が最近筆を取ろうとしないから現在強制執筆活動中だ」
葵「で、だ。書かせて居るがこのままいくと---」
???「お茶が入りはしたよ~」
葵「ちょっ!?入って来るなっていっただろ!?」
葵「お前はまだ出たら---」
通信が切断されました
私の耳が頭の上でピコピコしながら、とある音声を拾っている。
「洩矢!アンタの信仰は私の物だ!」
「フッ…アンタは私の鉄輪のサビになるのがオチだよ!」
こうやって妖狐の本性を出していれば、互いに挑発し合う二人の声もクリアに聞こえた。
湖の上空で睨み合う諏訪子と神奈子の事を、私は本殿から眺めているのだが、いくら私に関係が無い戦いだとしても、高みの見物とは行かず、諏訪子にキッチリ仕事を頼まれている。
仕事内容は湖全体に結界を張って、戦いのとばっちりが国に行かないようにする事なのだが…。
「耐えられるかなぁ?」
神々のガチな攻撃を受け止められるかが、正直言って不安だ。
最悪の場合、神力全開放も視野に入れなくてはならないだろう。
そんな事を考えているうちに、諏訪子と神奈子の緊張は高まり、今にも戦いの火蓋が切って落とされそうな状態だ。
「そろそろ始まりそうだな。…そうだ!」
カチッポチポチ……カシャッ!
私はケータイを取り出すと、睨み合う二人を写真に収めた。
「うん。くっきりハッキリ撮れた」
「「でやぁぁぁ!」」
「おっと…始まったみたい」
撮れた写真の高画質さに感動していると、二人分の気合いの声が聞こえてきた。
神奈子はオンバシラを次々と投げつけ、諏訪子はミシャグジを使って攻撃している。
オンバシラはミシャグジを蹴散らし、そのまま空の彼方に飛んでいこうとするが、私の結界に阻まれて湖へと落ちていく。
ところでオンバシラって、どこから湧いて出てるんだろうか?
「一体いつの間に……いや、誰に結界を張らせた!」
「さあ…ね!コレでもくらいな!」
諏訪子がそう言って両手を大きく開くと、高密度の弾幕が形成され、神奈子に殺到する。
それを見た神奈子も負けじと弾幕を張り、戦いは弾幕戦へと移っていた。
弾幕の歴史は既にこの時から始まっていたのだ。
色とりどりの光の球が結界の中を飛び交い、結界が被弾していく。
「うぐぅ……!」
初めて弾幕戦を見た感想等を語って感慨に浸りたかったけど、結界の…維持がッ!
二人分の弾幕を受けている結界は歪な形に歪んで、今にも崩壊しそうだ。
しかも、追い打ちをかけるように諏訪子が鉄輪を投げ始めた。
「二人で組んで壊そうとしてる訳じゃないよねぇ!?うわわ!こ、壊れる!?」
慌てて社上空に飛び上がり、神力を全開にして結界の歪みを無理矢理直していく。
しかし、間に合わない。
歪みを押さえつけると別な部分が歪み、そこを直せばまた他が……。
「ダメだ!手が足りない!…ああっ!」
修復不可能なレベルまで歪んだ結界が、ガラスが割れるような音を立てて崩れ落ちた。
それと同時に中で飛び交っていた弾幕やオンバシラ、しまいには諏訪子の鉄輪までが外に飛び出した。
それを知ってか知らずか、神奈子と諏訪子の戦いは一層激しさを増し、再び結界を張り直す事も出来ない。
このままでは諏訪王国が無くなってしまう!
かくなるうえは……!
「お前ら、国と信仰を纏めて消し飛ばす気かぁぁ!発射ぁぁ!」
私の本気の砲撃が戦闘中の二人を捉えた。
思いがけない方向からの攻撃を食らい、二人は仲良く湖に墜落して行った。
「ヤバッ…やり過ぎた。生きてるかな?」
社から見たかぎりでは、国に被害は無さそうだ。
つまり、私の咄嗟の判断は正しかったと言うことだ(多分)。
「…………」
仕方ない…二人を探しに行くか。
若干面倒だったが、湖の上を旋回して湖面に浮かぶ人影を探した。
「あ……帽子だ」
まず始めに諏訪子が身につけている妙な帽子を見付け、降下して回収した。
「本体の方を見つけ……ん?」
帽子にくっついてる飾りの目玉とやけに視線が合うような……。
……パチクリ
うわ!今、今まばたきしたぞ!?
「………諏訪子の居場所、分かる?」
帽子にそう訊ねると、目線がある方向に向いた。
どうやらその方向に居る、ということらしい。
「キミと諏訪子の関係が凄く気になるよ……」
帽子の視線を辿って、低空で飛んでいくと、直ぐに土佐衛門(諏訪子)を発見することが出来た。
俯せで力なく浮かんでいる諏訪子を拾って社に運び、畳の上に寝かせた。
畳に水のシミが広がっていっているが、気にしてはいけない。
諏訪子の手を胸の上で組んでやり、その上に帽子を乗せた。
「安らかに眠り給え。アーメン」
「死んでないよ!」
諏訪子が飛び起きて何やら叫んでいるが、無視無視。
私は神奈子を探しに行かなくちゃならないんだ。
「神奈子は……っと」
再び湖の上空を何度も旋回して、人影らしきものを探す。
しかし、湖面には戦いの残骸が沢山浮かんでおり、人影らしきものは見つからない。
もしや、これは……。
「今回の事故で、惜しい人を亡くしてしまったようです……」
「勝手に殺すな。生きてるから」
湖に向かって手を合わせ、黙祷を捧げていると、後ろから頭を叩かれた。
振り返ると、神奈子――いや、八坂が腕を組んで空に浮いていた。
「あれ?八坂じゃん。神奈子って八坂のことだったんだ。外見も名前も変わってたから全然分かんなかったよ」
「私も攻撃を食らうまで葵の存在に全く気付かなかった」
「力をかなり抑えてたからね。それに、諏訪子が力全開で威圧してたから、それに紛れたんだと思う。ま、積もる話は諏訪子の社に帰ってからにしようか」
―――――
――――
―――
――
私と神奈子は、社に戻るとすぐに世間話に花を咲かせた。
「いやー久しぶりだね。服装については聞かないでくれ。色々とあったんだ。名前に関しては教えなかっただけで、昔からあったよ」
「…おい、私は蚊帳の外か?」
「へー…そうなんだ?で、なんで戦争しようと思ったの?もしかして、信仰以外の理由もあるんじゃないの~?」
ニヤニヤしながらそう聞くと、神奈子(八坂よりも神奈子と呼んで欲しいらしい)は苦笑しながら頭を掻いた。
「鋭いねぇ。すごい大国を持ってる神がいるって聞いたからさ、どんなもんかなぁ~?っておもったのさ。勿論、一番は信仰だけどね」
「そんな事だろうと――」
「私を空気扱いするなぁぁ!」
神奈子と楽しくお話していると、突然諏訪子がキレ始め、私たちを目がけて鉄輪を投げてきた。
神奈子は難なくよけ、私は咄嗟に銃身で受け止めた。
こんな使い方をしているにも関わらず、傷一つ付かないのは何故だろう?
「危ないなぁ…部屋にもでっかい傷がついたよ?諏訪子の部屋なのに良いの?」
「八坂が避けるから悪い」
「私のせいなのかい!?」
空気扱いされ、不機嫌な諏訪子は無茶苦茶な事を言った。
仕方ないので、話に混ぜてあげることにする。
「何か言いたいことでもあるの?」
「あるよ!いっぱいあるよ!決着についてとか、葵の事についてとか」
「ん?なんだい、もしかして自分が月の神だって言ってないのかい?」
「あ!ちょっ!」
止める前に言われてしまった。
本当に面倒だから隠しておきたかったのに!
「つ、月!?それって…」
あーあ、ほら見ろ面倒ごとに一直線だ。
その後、テンパり始めた諏訪子を落ち着かせる為に費やした、決して短くは無い時間は、無駄以外の何物でもないと断言できるだろう。
「さて、私が月の神であることは私にとって秘密でしかないので、他言無用を厳守。理解?」
「「…わかりました」」
「何か不満でも?」
「「いえ!全くありません!」」
(想定外の)面倒事を処理する羽目になった私は、不機嫌さを微塵も隠さず、神奈子と諏訪子を威圧している。
「よろしい。では、戦いの結果についてだけど、あれはやり直さないとマズイよね」
「良いんじゃない?私の勝ちで」
「ちょっと待ちな。なんでアンタの勝ちなんだい?」
サラリと勝利宣言をした諏訪子に神奈子が突っ掛かった。
それはそうだろう、あの時点ではどう見ても引き――
「洩矢よりも私のほうが完全に優勢だったじゃないか!」
あ、コイツら似た者同士だ、これじゃあ話が進まない。
睨み合い、勝った負けたと無意味な言い争いをしている二人の間に割り込んだ。
「ストーップ!あれは誰がどう見ても二人の引き分け(若しくは私の勝ち)!だからやっぱり再戦してもらうから」
「葵がそう言うなら仕方ないねぇ…オイ、洩矢!表出ろ!」
「言われなくても!」
「待て待て待て!」
互いにメンチを切りながら再び戦闘に突入しようとする二人を慌てて止めた。
コイツら、私がなんで止めたか理解してないのか?
「さっき国が消えかけたでしょ?だから、もっと遠いところでやって来て」
そう一言だけ注意をして、私は二人を送り出した。
―――――
――――
―――
――
諏訪子と神奈子は三日三晩帰って来ず、四日目の朝にやっと諏訪子だけが帰って来た。
諏訪子は、帰ってくると直ぐに押し入れの中に飛び込み、話し掛けても返事を返して来なかった。
そうしている内に、諏訪子とは打って変わって上機嫌の神奈子が帰ってきた。
「やっぱり私の勝ちだったねぇ。聞いておくれよ」
そこから延々神奈子の武勇伝を聞かされ続けた。
その話を要約するとこんな感じだ。
前回と同じように弾幕とミシャグジ、オンバシラで戦っていたらしいが、二日半決着がつかず、焦れた諏訪子が鉄輪を取り出したのが神奈子の勝因らしい。
神奈子曰く“すっごい力”で鉄輪を一瞬で錆に変えられ、固まっていた諏訪子に向かってオンバシラをフルスイングして、決着をつけたそうだ。
「……なんで初戦でやんなかったのさ。そしたら結界が破れる事も無かったんだけど」
「まあ、簡単に言えば“ヤル前に壊れた”ってところだねぇ」
「やっぱり私の結界がマズかったと言うことか……」
いくら全力で張って無かったからといって、神2人の攻撃に負ける様じゃあ月は護れない。
もっと頑丈な結界を作るには能力だけじゃなく、結界式を作らなくては…。
「で、洩矢はどこに行ったんだい?」
私よりも先に逃げ帰ったハズだけど?と八坂は辺りを見回した。
「逃げ帰ってなんか無いッ!」
すると、押し入れが勢い良く開き、目を真っ赤に泣き腫らした諏訪子が飛び出してきた。
そんな顔で言っても…。
「ほら、泣かない泣かない」
「う〜…だってぇ」
やっと出てきた諏訪子を宥めながら、再び神奈子に向き直った。
「これから国民に今後のことを伝えるんでしょ?」
「明日にでもそうしようかと思ってるよ。そうすれば信仰は晴れて私の物だねぇ」
「ふ〜ん…」
果たしてそう上手く行くのかな?
私の記憶だと、確か……
―――――
――――
―――
――
「はぁ!?私を受け入れる事が出来ないって!?何でさ!」
「いえ…諏訪子様がご存命ですので……」
国民を社の前に集めた神奈子は、神の交代を彼らに伝えた。
で、結果がコレである。
私が蔭から見ていたかぎりでは、完全に即答されていた。
「あ〜あ…“ここで承諾して諏訪子に祟られるのが怖い”って顔に思いっきり書いてあるよ…神奈子どうするんだろ」
ここで断られるのは神奈子は予想もしていなかったようで、少し慌てているようだ。
その横で不機嫌そうに立っていた諏訪子は、ざまぁ見ろとでも言いたげに口元を歪めていた。
何というか…邪悪な笑みだった。
「それならば納得のいく条件を考えるまでさ。今日は帰っていいよ」
神奈子は取り繕いながらそう言うと、諏訪子と一緒に社に引き返して行った。
私も身を潜めていた蔭から抜け出し、社に向かった。
社では、神奈子がショックを受け――
「八坂ぁ!私の勝ちだぁ!あんだけ自信があったのに無様だなぁ!」
――ている横で諏訪子が罵詈雑言を浴びせていた。
アレ?私の中の諏訪子像が…。
「ちょっと諏訪子。落ち着いて……神奈子もしっかりして。これからの事を考えないと」
そう神奈子に声をかけると、彼女はゆっくり顔を上げて諏訪子を見据えた。
「そうだね……これからの為にもコイツを始末すれば全てが上手く行く…」
ボーッとした目でオンバシラを振りかぶる神奈子と突然の出来事に固まっている諏訪子の間に割り込んだ。
「ちょっ!ストーッ…ブッ!」
当然そんな事をすれば、オンバシラに捉えられるのは、私な訳で……。
「わ、悪かったよ。どうかしてたんだ、私」
「メッチャ痛い…」
腕に青アザ、頭には巨大なタンコブを載せた私は、結構必死に涙を堪えていた。
腕で頭を庇うのがあと一瞬遅れていたら、撲殺神様カナコちゃんに殺られていたに違いない。
「諏訪子は怪我無い?」
「うん…おかげで助かったよ」
諏訪子は腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまっている。
私は、頭を擦りながら、諏訪子に怪我が無い事を確認し、神奈子を睨み付けた。
「神奈子ってアホなの?悪政強いてた訳でもない土着神を殺したら信仰どころか怨まれるでしょ!」
「うん…そうだよね」
「他に考えとか無かったの!?」
「………」
神奈子は無言で首を横に振った。
つまり、考え付かない…と。
「はぁ……じゃあ、こんなのはどう?」
私は、記憶に残る諏訪大戦の結末を2人に話した。
勿論、私が考えた事にして。
「そうだとしたら、私も助かるるけど……そんなに上手くいくの?」
「やるだけやっといても良いんじゃない?それで失敗したら、別な方法を考えれば良いんだし」
不安そうな諏訪子を元気付け、私の話は終わった。
神奈子は話している最中、ずっと頷いていたので、特に質問は無いようだ。
「それじゃ、今日はもう遅いから、明日試してみてね。私は今日と同じようにどっかから見てるから。じゃ、おやすみ」
私は言いたいことだけを言い切ると、その場にコロリと横たわり、寝息を立てはじめた。
―――――
――――
―――
――
次の日、私が提案した条件を国民が呑んだのを蔭から確認したあと、私は何も告げずに国を離れた。
「地上にも幾つか社を作ろうかな?移動用に」
社を作る場所を考えながら、薄暗い森の中を進んでいく。
諏訪子と神奈子を撃墜してからは神力、妖力を封じ込め霊力だけを出している私は、格好の獲物なのだろう、頻繁に妖怪が襲い掛かってきた。
それを歩調を全く変えずに、拳を一発ずつお見舞いしてお帰り願っていた。
「やっぱり京都は外せないよね。平安京ができるし、となると奈良も外せないな………ん?また来たな」
京都と奈良に社を設置する事を決めたとき、すぐ近くに怪しい気配が集まるのを感じた。
しかし、それは妖怪、神、人間のどの気配でもない。この気配を説明するならば、“神の匂いが微かにする妖怪”と言った所だろうか。
「後ろかぁ!」
ブン!ズブリ…
気配がする方に向かって拳を振りぬくと、何かに腕が埋まった。
薄暗くてよくわからないが、目を凝らしてみると肘から先が暗闇に呑まれている。
闇などという気味の悪い物から、急いで腕を抜こうとするが、まるでコンクリートで固められたように動かない。
それどころか、闇は生き物のようにズブズブと私の腕を呑み込んでいく。
「あ、あれ?動かない!?それどころか……あ、イヤ!来ないで!ダメッ!あぁ…イヤァァァ!」
私の断末魔を最後に、森は物音一つしなくなった。
……………
…………
………
……
パチリと目を開くと、ベッドの天蓋が目に飛び込んで来た。
「知らない天じょ……じゃない、天蓋だ」
体を起こし、辺りを見回すと、豪華な寝室であることがすぐに分かった。
「えっと……森で闇に呑まれた後、どうなったんだっけ?」
全く思い出せない。
抜け落ちた記憶に一体何が――
――ガチャリ
「あ、目が覚めたんですね」
何の前触れもなくドアが開き、洗面器を持ったメイドさんが入ってきた。
「えっと……どちら様で?」
「あ、すいません。私、夢月と言います。この度は姉がご迷惑をおかけしました!」
深々と頭を下げる夢月ちゃんの動きに合わせて、手に持った洗面器も傾き、中身の水が床に零れた。
「はわわわっ!またやっちゃった!」
とんでもないポンコツメイドじゃないか!いや待て…ドジッ娘メイドと言うべきか!?
わたわたと雑巾で床を拭きはじめた夢月ちゃんを見て、私は密かにそう思ってしまった。
「し、失礼しまひた!」
「………」
噛んだ…今度はテンパって噛んだよ…。
「はうぅ〜またお姉ちゃんにお仕置きされる…」
「誰にお仕置きされるって?」
「ひぃ!お姉ちゃん…」
いつの間に部屋に入り込んだのか、純白の羽を生やした少女が夢月ちゃんの後ろに立っていた。
その姿は正しく……。
「天…使?」
天使――その言葉を聞いた途端、夢月ちゃんとそのお姉さんは、全く違う反応をした。
葵(涼花)「ふう。さっきはゴメンネ」
葵「で、さっきの話だけど、このまま行くと三ヶ月もしたらストックが切れちゃうんだよ」
葵「そうなると更新が不定期になっちゃうんだよね」
葵「今、そうならないようにやらせてるけど、もしそうなったらゴメンネ」
葵「じゃっ!またね」