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東方狐物語  作者:
14/21

第十四話 私の社

皆さん、あけましておめでとうございます。


ついに2013年が始まりました。今年も毎月10日更新を目指して頑張りますので、どうかよろしくお願いします。

依姫が街を歩けば、自然と視線が集まってくる。


いつもそうらしいが、今日に限っては胸元に視線が集中している。


しかし、別に胸を見ているわけではない。


私を見ているのだッ!


子狐状態の私は、現在依姫に抱かれて街を移動しているため、道行く人々の目には有名人が珍しい生き物を連れているように映るのだろう。


決して自意識過剰な訳ではない。


ちなみにどうして子狐の姿なのかと言うと、何でも私がフラフラ街を歩いていると、大騒ぎになるらしい。


いや、まあ確かに自分が信じてる神が目の前を歩いていったら誰でも大騒ぎするわな。




「お姉様ー!ただいまー」




そうこうしている内に屋敷に到着してしまったようだ。


声に反応して豊姫が奥の部屋から顔を出した。




「あら?依姫あなた、訓練はどうしたのよ」




「それよりもコレ見てよ!」




依姫は豊姫によく見えるように、私を前に突き出した。


脇を持たれているので、後ろ足が宙に浮いててなかなか怖い。




「あら。涼花じゃない。手紙はしっかり届いたみたいね」




「まあね。でも、あの連絡方法も止めて。重体患者が出たから」




「「え゛…」」




「一回しか使わないつもりだったし、人に当たる確率も天文学的数値だったのに…」




姿を変えて地面に降りながらそう言うと、依姫と豊姫は二人揃って顔を青くしてガタガタと震え出した。


これに、ロケットを食らったのが神様で、頭に穴が空いたことを言ったらどうなっていただろう。




「か、神の頭に穴…」




「あっ!ヤバッ…」




考えただけのつもりだったが、口から出ていたようだ。


それによって二人の状況は悪化し、目が不自然に泳いでいた。




「ま、まあ彼なら許してくれるよ。だから、そんな世界が終わったみたいな顔をしないで」




「「……」」




ダ、ダメだ…聞こえていない。




「そ、そうだ!私の社が有るってこの前言ってたよね?それが見たいなぁ…なーんて…」




「「……うん」」




コレは使い物にならんな。




「じゃあ、謝罪文を書いてよ。後で渡しておくから。それとも本人を連れてくる?」




「「!?(ブンブン)」」




そ、そんな事はしなくてイイッス!直接会ったら一瞬でミンチにされちゃいますから!お手紙を書かせていただきまっす!


とでも言うように激しく首を横に振った。




「今から2人で書くから、出来るまでちょっと待ってて……」




「今から?それじゃあ私は――」




その時、玄関が開き、誰かが入ってきた。




「依姫、豊姫。いるかしら?……あら?」




「――永琳とお話してようかな」



―――――


――――


―――


――



綿月姉妹が謝罪文を作成している部屋の隣室で私とナイスバディになった永琳はお茶をすすりながらおしゃべりを楽しんでいた。




「だからあの娘たちは顔を青くしながら必死に机に向かっているのね?」




「うん。でも、あそこまで切羽詰まって書かなくても良いと思うんだよね。多分彼、謝罪文を受け取ったら感動すると思うよ?」




「大ケガさせられたのにその謝罪文で感動なんか出来るのかしら?」




「普段の扱いが酷いから確実だと思うよ」




「…謝罪文の送り先って神様なのよね?」




「まあ、そういう神様も居るって事だよ」




「そうそう。これをあげるわ」




永琳がポケットから取り出したのは文明の利器、携帯電話だった。




「わ!ケータイだ!くれるの?」




「……ええ。今回来てもらったのはそのためよ」




一瞬だけ永琳が眉をひそめたような気がしたが、ケータイから顔を上げると、何時もの表情だった。




「?あれ?貰っても充電出来ないや」




「そんな事判ってるわよ。だから、電源は特別製になってるわ」




「へー……」



パカッ………パチン



特別製の電源が気になってで電池ボックスのカバーを開けたが、とある物が目に入り、すぐさまカバーを閉じた。




「ふぅ……なに?この携帯危険物は」




「電気が無ければ作ればいいじゃない。そういうことよ」




「でも、流石に核は…」




「ああ…あのマークのこと?あんなの軽い冗談よ。あれはただのエネルギー変換装置よ。あらゆるエネルギーを電気エネルギーに変える…ね。」




あの核のマークって冗談で書いて良かったっけ?




「貴方には冗談が通じるから良いのよ」




心を読まれた!?




「ちなみにそのケータイは専用の衛星回線を使ってるから、混雑して繋がらない事は無いから。で、番号は」




「うん。依姫と豊姫、後は永琳の分が登録されてるね」




「…貴方はどうしてそんなに使いこなせているのかしら?それを見たときも一目で何かが分かったし」




「それは、私が実は未来から来たから。以上!」




「以上って…まあいいわ。説明に困る…いえ、あなた説明が面倒なだけでしょ」




「……」




「図星ね」




無言で目をそらすと、永琳がジト目になってため息をついた。


それにつられて私もお茶に口をつけた。


隣の部屋では、文章に困っているのか姉妹の唸り声が聞こえている。




「あ。そういえば、依姫達から私の神社があるって聞いたんだけど、神体とかどうなってんの?」




「ココだけの話だけど、無いのよ」




「え?それってなんの意味も無いんじゃ…」




御神体がない神社を例えるならば、中身がない饅頭のようなものだ。


それはただの張りぼてであり、いくら見た目がそれらしいとしても、それは神社ではない。


つまり、そんな神社自体にはなんの力もないのだ。




「そうなのよ。あなた、何か丁度いいものをもってないかしら?」




「思いつくのは、私の髪の毛か妖力の結晶くらいかな」




「使えそうなのは髪の毛の方ね。少し貰えるかしら?」




「良いよ。ハサミ有る?」



そう訊ねると、永琳はポケットからハサミを取り出した。


何でそんなものがポケットから普通に出てくるかが気になったが、あまり気にしないことにしておく。


私は、受け取ったハサミで肩の辺りから下の髪の毛を全て切り落とした。



ゴンッ――パシャッ!



大胆にハサミが入れられ、ショートになった私の髪を見て、永琳はフリーズし、湯呑みを取り落とした。


テーブルに落ちた湯呑みは幸運にも割れなかったが、中身のお茶はテーブルに飛び散った。




「ん?どうしたの?」




「あ、あなた。い、一体何をして……」




「何をって、髪を切ったんだよ?こんなもんでいいかな?」




私の後ろに落ちた髪の毛を手早く束ねて机に置いた。




「涼花。手紙が書けたから悪いけど届け…」




「どうしたのよ。早く…」




手紙を書き終わり、パンパンに膨らんだ封筒を持った依姫と後ろから顔を出した豊姫も、私を見てフリーズした。


そんなに私のショートはおかしいだろうか…。




「一房でよかったのになんで全部切り落としちゃうのよ…」




「そんな事?いいじゃない。またすぐ伸びるって」




「それはそうだけど、涼花はやっぱり長髪じゃないと…」




フリーズから解放された依姫がテーブルに着きながらそう言った。




「知り合いに会ったら、みんながこんな反応をすると思うわよ。それじゃあ、これを例の神様によろしく。帰ってきたら社に行きましょうね」




依姫と一緒に座った豊姫が手紙の封筒を差し出した。


どうやら、フリーズ中に依姫が落としたようだ。




「じゃあ、行ってくるから。転送」




跳んだ先は、ゼウスの部屋の前。


私はその扉をノックする。




「はい。どうぞ」




すると、すぐにゼウスの返事が返って来た。


流石は神様、この短時間であの大怪我から復活したようだ。




「ゼウスさんこのお手紙をお届けに来ました。ケガは大丈夫ですか?」




「ええ…一先ずは。しかし、心配してくれるのは涼花さんとアテネ位ですよ」




「そんな事は無いですよ。まあ、これを読んでください」




私は2人が書いた手紙をゼウスに差し出した。




「それでは、私は人をまたせていますので、失礼します」




手紙を読みおわるのを待っても良かったが、リアクションが予想できるし、何より早く社を見たいので、用事が済み次第戻ることにする。


素早く部屋を出て、扉を閉めると月に再び跳んだ。




「お、おかえり…。どうだった?」




再び姿を現した私を見て、依姫がすぐに私に聞いた。




「大丈夫。全然気にしてなかったから」




それを聞いた依姫と豊姫は安心した様で、ホッと胸を撫で下ろした。




「それじゃあ、一安心出来たところで、社に向かいましょうか」




永琳がそう言って立ち上がったので、私達もそれに続いた。


少し歩いたところで、私はあることを思い出し、彼女らに声をかけた。



「あ、そうだ。実は私、三人にまだ言ってないことがあったんだ。実は、私の本当の名前は葵って言うの。黙っててごめんね」




「「「……は?」」」



―――――


――――


―――


――



名前に関して一通り説明を済ませた後、私は狐に姿を変え、永琳の腕の中に納まった。




「それにしても、流石に目立つわね」




豊姫が周りを見ながらそういった。


それもそのはず。


月の権力者の姉妹に加え、月の頭脳と白狐が一緒に街を歩いているのだ。


注目されない訳が無い。




「でも、葵が狐の姿になってくれているのが救いね」




「そうね。もし本物だとバレたら騒ぎ……と言うより、お祭りに成るわね」




豊姫と永琳は周囲の反応を客観的に分析しているが、依姫はさっきから一言も発していない。


何やら難しい顔をして何かを考えている。




「どうしたの?」




そんな依姫の様子が気になった私は、彼女に話し掛けた。




「いや、葵の霊髪を納めるのはいいんだけどさ、社に安置されてるダミーの御神体とどうやってすり替えるの?」




「「あ……」」




「心配要らないんじゃない?堂々とやれば」




依姫の疑問に私と豊姫は言葉を失い、永琳は即座に回答する。




「いや…流石にそれは…」




「どうして?涼花の社なんだから、あなたが歩き回っても何ら問題無いはずよ」




「言いたいことは判るけどさ、そんなことしたら騒ぎになるじゃない。それはどうしても避けたいんだけど」




私は、永琳の案を実行するのを渋った。




「判ってるわよ。そんな面倒は私もイヤよ。だから、貴方は神の使い――式神という設定にしましょう。髪を短く切ったおかげで巫女達を上手く丸め込めると思うわ」




永琳が示した手順はこうだ。


始めに全員で社まで行き、巫女に取り次ぐ。


私は、とにかく『涼花様の使いで霊髪を届けに来た』と言い張り、本殿に霊髪を供える(ダミーの御神体は放置らしい)


ミッションコンプリート


――という流れだったのだが……。




「なぜバレたし……」




「年寄りを甘く見てはいけませんな。私の『神の力を感じる程度の能力』が貴方は涼花様だと断言しておりますゆえ」




社に到着して私達を出迎えたのは、かなり年を召した老いた巫女。


何でも社に仕える巫女の中で一番偉いらしい。


彼女は永琳の話を聞くと、老婆らしい穏やかな雰囲気で私“だけ”を社の本殿に案内してくれた。


そして、本殿に入ると彼女の雰囲気が大きく変わり、今に至る訳だ。




「本日の御用は大方御神体を取り替えにおいでなさったのでしょう。ソレは何の力も持たないただの置物ですからな」




老婆が指差した先には祭壇に乗せられた旅行カバンがあった。


それは月に移住する時に、豊姫達が私にくれた物でもあった。




「涼花様。お願いが有るのですが、よろしいでしょうか」




私が旅行カバンと霊髪を取り替えていると、後ろから老婆の声がかかった。




「何ですか?」




私はカバンを祭壇の下に置き、老婆に向き直った。


老婆はゆっくりと話しだした。




「私の能力は誰にも言わないでいただきたいんです。何せ私は無登録ですので…」




なんだ、そんな事か。と私は思ったが、無登録の能力持ちの彼女にとっては重大な問題なのだろう。




「お安い御用ですよ。でも、無登録はやっぱりまずいんですか?」




「能力は銃刀類のような扱いですから……」




銃刀類か……確かに登録して無いのはまずい。




「安心してください。神として秘密は守りますから」




そう言って私は祭壇に向き直り、納めた髪に願を込める。


込める願いは月の都の平和。


滅多に帰って来れない(来る気が無い)私に代わって月を守ってくれるように切り離された私の一部に願った。


これでしっかりと神社として機能するはずだ。




「それじゃ!」




そう言って私は、老婆の脇を擦り抜け、本殿を飛び出した。


そして、さっき永琳から受け取ったケータイで電話をかけた。




「もしもし、永琳?」




『何かしら?私達はさっきの場所で待ってるわよ』




「あ、ゴメン。何だかここに居ると息苦しいから地上に帰るよ。依姫たちにもよろしく!じゃっ!」




一方的にそう言って通話を切り、神殿の部屋に跳んだ……が。




「や〜っぱりひ〜ま〜だ〜」




やる事は無く、ソファーに座り、だらけている。




「仕方ない…妖術の練習でもしょうかな」




狐が起こす怪異と言われて直ぐに思いつくのは、狐火と幻術だが、正直その2つは今更練習しなくてもできる。


ならばどうするか――他の妖怪の怪異の練習をする。


――カマイタチ


その名の通り、イタチが起こす怪異で、マンガ等では空気の刃のような物を飛ばす技になっていることが多く、飛び道具として有効そうだ。




「それっ!はぁっ!……あれぇ?」




しかし、他種の怪異をそう簡単には扱えず、何度やっても強風を起こす程度しかできない。




「おっかしいな…イメージが悪いのかな?」




一瞬イメージのせいかと思ったが、狐火は似たような精度のイメージで使えるので、そのせいでは無いと思い直した。


かと言って他に思いつくことは無いので、かくなる上は…。




「他種族の怪異を使う訓練、終~了」




諦めた。


述べチャレンジ時間10分。


自分でも飽きっぽすぎるとは思うが、出鼻をくじかれてテンションが下がってしまったのだ。


やる気を失った私は、そのままリビングを後にし、寝室のクローゼットを開け、あるものを取り出した。




「結晶の使い道を模索しよう」




この前しまった妖力の結晶である。


その数十個。


妖力の緊急補充のために濃縮に濃縮を重ねて作ったのだが、ハッキリ言って必要無くなった。


そこで、それ以外に役に立つ使い道が有れば、そっちに使おうと考えたのだ。




「さて、何か特徴は…っと」




結晶を掌に乗せて、よく観察する。


見た目だけを見ると、七色の光を発し、まるで宝石のようだ。


アクセサリーにして売れば大きな収益が得られると思うが、中身が中身なので、それは止めた方が良いだろう。


妖力こそ感じないが、中で渦巻くエネルギーをビシビシ感じる。


ちょっと感覚が鋭い人が見れば、ただの石ではないとすぐにバレてしまう。




「うー…そうだ呪符に組み込むことができれば万が一の時に時間を稼げるかもしれない!」




そうと決まれば、まずは……呪符の開発だね。


私は、部屋の中から習字セットと大量の紙を探し出し、寝室にこもった。


作る呪符に望まれる性能は、強力さのみである。


そうして私の呪符開発という名の引きこもり生活が始まった。

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