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東方狐物語  作者:
12/21

第十二話 プリーズ オープン ザ 天岩戸

単位がヤバイ

天照大神(あまてらすおおみかみ)とは意外にもすぐに親しくなることが出来た。


夜空を照らす神と昼空を照らす神――とはいえ、月は太陽の光を反射して光っている(もっと言えば、太陽があっての月)ので、天照(あまてらす)が高圧的に出るかと思いきや、なかなか友好的だったのだ。


因みに引きこもっていた天照を引き摺りだすまでにこんな事があった。



―――――


――――


―――


――



「へー!で、あそこに引き籠もっちゃったんだぁ…」




「そうなんだよ……お陰でここ2,3日は太陽が全く出てないんだ……。いい加減に月……ほ、星も見飽きてしまってね」




『月を見飽きた』そう口走りそうになった八坂は慌てて言い直したが、声がかなり震えている。


そんなにビビらなくてもいいのに。




「確かに三日連続で月が出てれば飽きも来るよね」




私的にも、全く持ってその通りなので、あっさりと同意する。




「そ、そうか?」




八坂は安心したように“大きな”胸を撫で下ろした。


ソレを見て、私は自分の胸に手を当てて見るが、そこに起伏何て存在しない。


別に絶壁だからどうだ――等と思う質ではないが、何故だか哀しみを感じる。




「………で、引き籠もった理由は何なの?……まさか『働いたら負けだと思う』とか言ってた訳ではないよね?」




未来でも大半の人が知っている天照がそんなニートみたいなこと言ってたら嫌だ…。


万が一言ってたとしても知りたくなかった。




「いや、ソレはさすがに…。アイツだよアイツ!アイツがわざわざ面倒を起こしてくれたんだ」




八坂が顎で指した方向には逆さに吊し上げられている1柱の神が……。




「随分とキツいお仕置きを与えたみたいだね」




「ああ…此処に居る神全員が一発ずつ殴った。……勿論全力で」




「あー顔が随分と腫れてるけど…顔に一発って事?」




「いや?各々が好きな所に一発だ。――因みに私は柱を使って打ち抜いたよ」




何処に一発かは聞かないで置いた方がいいと思ったので、深入りはしない。


ただ、一つだけ言えるのは、性別が変わって無ければ良いなと言うことだけだ。




「それで、どうやって出てきて貰うの?宴会をやるっていってたけど…」




「よくぞ聞いてくれた!この作戦は私が考えた自信作なんだ!宴会をやると賑やかになるだろ?」




「うん、そりゃあテンション上がって当然そうなるね」




「てんしよん?」




「あ、いや。こう…元気になるっていうか」




「ああ、そう言う意味ね。で、そしたら普通は出てくるだろ?」




「うん………うん?」




八坂は満足気に胸を張っている。




「……それで?」




「へ?完璧な作戦だろ?」




随分と短絡的な作戦――いや、もしかしたら好きなのかもしれない。


―――宴会が。




「一つ確認だけど、天照って大人数で賑やかなのが好きなの?」




「いや?どちらかっていうと、一人がいいタイプだな」




「………」




よくもまあ、こんな成功しそうな気が全くしない作戦を、自信満々でやろうとしたもんだ、と言わざるを得ない。


賑やかなのを好まない人をおびき出すのに宴会って…。




「自身に満ち溢れている所悪いんだけど、それじゃあ絶対に成功しないと思う…」




「いやでも…他に出た案といえば……あ!あの岩を破壊する事とか出来るかい!?妖力の有無を確認しがてらさ」




八坂が指差すのは岩穴を塞ぐ大きな岩。




「何で私に頼むの?」




「私達だと束になってもダメでさぁ……今なら月も出てるし、行けるんじゃない?」




「いやいや…そんな数人がかりでやって駄目なのに私一人でなんて出来るわけ無いでしょ…。それに、その理論なら月詠でも行けるでしょ?」




「月詠って誰だ?いやーそもそも神が力を合わせる何て無理なことでさぁ、自分と相対する物を司る神の力と打ち消しあっちゃうんだよねぇ。勿論、一人ずつ挑んでもみたけど、やっぱり駄目だったよ」




八坂は『いや〜ビクともしなかったわ〜』とヘラヘラ笑いながら頭を掻いて笑った。


は?月詠がいない?じゃあ月の神は…あ、ここに居るわ。


ごめん、私のせいで世界が歪んだんだね。




「だったら私一人でも駄目でしょ?」




「さっきも言っただろ?月が出てるし、妖力がなくても多分大丈夫だって!」




「いや、その“月が出てるから”っていう理屈が理解出来ないんだけど…」




「理解できないって……あのねぇ、今ここは月の支配下なんだよ?そこは分かる?」




夜空を見上げると、三日月が輝いている。




「まあ…何となく」




月の光が地上に降り注いでいると言う意味だろう。




「つまり……ああ!面倒だ!良いから一発全力でたたき込んでくれよ!百聞は一見に如かずって言うじゃないか」




八坂は私の肩をがっしりとつかみ、顔をズイと近づけてきた。


すごい形相だ…。




「わ、分かったよ…何も起きなくても知らないよ」




八坂が余りにも私の背中をグイグイと力任せに押すので仕方なく一撃だけ入れることにした。




「出し惜しみ無しの全力ね?」




「全力かぁ……全力ってどのレベルなのかな?神としての全力?それとも、私としての全力?」




「そりゃ妖力の有無の確認を兼ねているんだから、涼花個人としての全力さ!じゃっ!よろしく頼んだよ」




そう言って八坂は数メートル離れた所でこちらを見ている神々の輪に加わっていった。


それを確認した私は神力を右手に、妖力を左手に集めていく。


腕から蓄めきれない力が溢れている。



――ザッ!



右足を半歩引いて衝撃に備えると同時に腕を大岩に向かって突き出す。




「発射ぁぁぁ!」



――ドゴォ!ズザザザ!



左右の掌から神力と妖力のビームが発射され、私は反動で後ろに数メートル押し戻されてしまう。



プシィ……!



「……え?」




私の腕から何かが吹き出した。


濃い鉄の匂いがする赤い液体………。


その事を理解するまでの短い時間の間に吹き出す血の筋は次々と増えていき、白い肌を真っ赤に染め上げていく。


え?なに?なんで血が噴出してんの?




「………はぁ!?」




そこまで考えてやっと状況を理解した私は、掌に集中させていた力をすぐに散らした。


ビームは消え去ったあとに残ったのは、深く抉れた地面と粉々になった大岩、そして腕から流れ続ける血で出来た血溜り……。




「アンタ…」




足元の血だまりを見下ろしていると、何故かボロボロになっている八坂が柱を引き摺って再び近づいて来た。




「妖力を持っていることは認める。で、だ。アンタ…全力禁止」




「は?」




全力を出せと言った人が何を言っているのだろうか。




「いや…そんな疑問に満ちた顔をする前にさ、周りを見てくれ」




八坂に言われてもう一度辺りを見回すと、八坂以外の神が居ないことに初めて気が付いた。




「あれ?他の神は?」




「…飛んでった」




「え!?帰っちゃったの?」




途中で止めたから面白く無かったのだろうか。




「違う!アンタの攻撃の余波で吹き飛ばされたんだよ!とにかく、アンタは全力禁止だ。そもそも、その腕!攻撃の威力に身体が耐え切れていないじゃないか。禁止しなくても使えないんじゃないかい?」




確かに、数秒――たった数秒間力を放っただけで腕は赤く染まり、白い部分は無くなってしまった。


傷自体は深くなかったのか、もう塞がっているようだが、無理に使い続けたらどうなる事やら…。


まさに捨て身の一撃と言う言葉がピッタリの技だ。


ハッキリ言って使いこなせていないのは間違いない。




「まあ、妖力があることはよくわかった。それに、大岩も破壊してくれたし」




「あぁ…そういえば粉々になったね。――で、天照大神は?」




「ああ、それならアンタの一撃食らってノびてたよ。まだ暗いのは時間的に夜だからみたいだねぇ」




八坂は柱を持っているのとは逆の腕を此方に突き出した。


その手には、所々焦げていてボロ布のようなものがぶら下がっていた。




「なに?そのボロ布幼女は。それよりも天照大神を――」




「ボロ布じゃないよ!なんなの!?この扱いは!あんまりだよ!あと、幼女って言うな!」




八坂が突き出したボロ布をスルーして、何処かで倒れていると思われる天照大神を探しに行こうとすると、突然ボロ布がキレ始めた。




「……八坂って幼女の声の腹話術が上手なんだね」




「腹話術じゃないよぉ〜。私が天照なのに…グスン。幼女でもないしぃ…」




ヤバッ!今度は泣き出した!




「天照?彼女とは初対面なのだから、貴方だと判らなくても不思議じゃないだろ?だから、泣き止んで」




八坂に助けを求める視線を送ると、彼女は両手で天照を抱き上げ、優しくそういった。


それにしても……




「うぅ……私がこんなんで、らしくないからじゃないの?」




「まさか!そんな事は有り得ないよ。貴方は威厳に満ち溢れているじゃないか」




なんていう猫かぶりなんだ……さっき襟首を掴んでいた人物と同じとは思えない。


それにしても、会話の流れ的に八坂に抱き上げられているのが天照大神で間違いないようだ。


“抱き上げられている”という表現で判ると思うが、天照の身長は私よりも小さい。


物凄い大人のお姉さんと言う天照のイメージが私の中で音を立てて崩れ落ちていくのがわかる。




「それじゃあ帰っておやつを食よう。ちゃんと用意してあるから」




「やった!」




「……あのさ」




そのままの流れで、私を忘れてどこかに行きそうだったので、一先ず声をかけた。




「ああ!すまない。忘れていた。」




「八坂…忘れていたって、この短時間で…」




「ハハハ!すまないな。それじゃあ、改めて紹介しよう。この子が――」




「“子”じゃない〜!」




「ああ…すまない。この方が、天照大神だ」




「天照です。よろしくお願いします。貴方は?」




元気良く挨拶する様子は正に小学生低学年と言った所だ。


身長と同じく、精神年齢も随分と幼いようだ。




「私は涼花。よろしくね、天照ちゃん」




「“ちゃん”なんてイヤ!そんなの付けないで!」




ちゃん付けで呼ばれたのが余程気に入らなかったのか、膨れてそっぽを向いてしまった。




「あ、あれ?」




「ああ…この子、子供扱いされるのを嫌うんだよ」




そんな気はしていたが、八坂が小声で教えてくれたため、ハッキリ分かった。


この子は大人になろうと背伸びをしている子供であると。




「私が全力で封印した大岩を破壊したのは貴方なの?」




速攻で機嫌が直ったのかなのかは分からないが、天照は幼い子特有のキラキラした瞳でこちらを見ながらちょっと首を傾げた。




「いや、私は……まあ、そんな所かな」




大岩を破壊した人=天照を吹き飛ばした人の為、関係が悪化すると考えた私は、嘘をついて誤魔化そうとしたが、小さい子特有のキラキラ輝く瞳を見たらそんな事出来なかった。




「で、でもね?別にわざとじゃ――」




「すごーい!八坂達が数人がかりでも壊せないような強い封印をかけたのに、1人で壊すなんてすごいすごい!」




八坂に下ろしてもらった天照は私の周りを跳ねて回り、驚きを体で表現し、再び私の前に来ると今度は私の手を握った。


幼い子供特有の先が読めない行動に戸惑う私を気にせず握った手を降りまくる。




「貴方はどこからきたの?あと、貴方は妖怪と神のどっち?貴方からは今までに感じた事がない位強い力の気配がどちらもするの」




「いやぁ流石だねぇ〜」




その問いに答えたのは何故か八坂だった。




「天照。涼花は妖怪であり、神なんだ。聞いたことがあるだろ?彼女は月の神さ」




「え?そうなの?じゃあ、涼花だったら私と遊べるよね?」




「あー…力的な話なら多分大丈夫だけど、私は色々と行かなきゃいけない所があるから時間が無いかも…」




「えー…」




天照は非常に不満そうだが、ここでうっかり遊ぶ約束を取付けてしまうと、ここに永住する羽目になりそうなので、仕方がない事だ。




「じゃあ、時間がある時に遊んでね?」




「うん、分かってるよ。じゃあね」




「うん!またね」




ニパーと笑って手を振る天照に手を振り返し、適当な方向に向かって飛んだ。



―――――


――――


―――


――



「行く当てが無い…」




天照と良い関係を築けたのは良かったが、遊び相手として永住するのは嫌だったので、何も考えずに出て来てしまった。


天照の引きこもり事件の後は……何か見たい事件があった気がするけど、思い出せない。




「う〜ん…またしても暇かも」




「じゃあ私と酒でも飲もうじゃないか」




目的もなく、ただ空に浮かんでいる私に下から声がかかった。




「あれ?八坂じゃない。どうしてここに?」




「勿論アンタを追い掛けてきたのさ。アンタ、特に行き先が決まって無いのにあの子からとにかく逃げたって感じがしたからさ。まあ、あの時その判断をするのは正しいよ。あの子に遊び相手として気に入られると、どこにも行けなくなるからねぇ」




やっぱりか……。




「八坂は天照を放置していいの?」




「ああ、あの子なら『おやつおやつ♪』って言って1人で帰っていったよ」




流石は子供…切り換えが早いな…。




「と、言うことでうちに来なよ」




「それじゃあちょっとだけお邪魔しようかな?」




「よし!それじゃあ行こうか!」



―――――


――――


―――


――



八坂の家はさぞかし立派な社なのだろうと期待していたが、何の事はないただの(かなり小さい)一軒家で、部屋の一つが酒で埋まっていた。


何故過去形なのかと言うと…。




「…いや、確かに暇では無くなったけどさ」




「ぐが〜」




空の酒瓶酒樽徳利に猪口、八坂が『つまみだぁ〜』と言って持ってきたスルメが大量に散らばっており、その真ん中で八坂は酒瓶を抱いてイビキをかいている。


部屋の中は気化したアルコールが充満し、酒に弱い者ならばそれだけで酔える程に酒臭い。




「客を放置して寝るとか…。確実に私の方が呑んでいるハズなんだけどなぁ…」




私よりも早く酔い潰れた八坂が呑み比べを仕掛けてきたのは一時間位前だっただろうか。


『力では勝てないけど呑み比べなら負けないよ!…と言うことで呑み比べをしよう!』って言っていたのに……。




「それにしても、よく呑んだなぁ…。隣の部屋に酒蔵の如くあったのに、もう一滴も無い…」




半分以上私が飲み干して、それでもケロッとしているのだから、私は相当な酒豪なのかもしれない。




「………私も寝よっかな」




そう言いながら、食べかけのスルメを齧る。




「……あー明日からどうしよ…か…な……くー」



―――――


――――


―――


――



「くそ…!まさか捕まるとは…イタタタ!」




長年の逃亡生活の末、時効直前に逮捕された指名手配犯のようなセリフを吐いてしまう状況………そう。




「耳だ!ミ~ミ~!」




天照再来!


しかも、寝ぼけて尻尾と耳を出していた所に丁度やって来たので、私は現在、天照のおもちゃになっていたりする。


慌てて尻尾と耳をしまったら結構本気で泣かれたので、しまう事も出来ない。




「イタイイタイ!引っ張らないで!」




「…嘘吐()いた」




「え?」




「“忙しい”って言ってたのに、八坂とお酒呑んでた!」




「あ、いや、その……」




週末に遊園地連れて行く約束してたけど、仕事で行けなくなったお父さんの気分が今なら分かる。




「今すぐ私と遊んで!じゃなきゃ尻尾の毛を全部むしるから!」




恐っ!?そ、そんなことをされたら……か、考えるだけでも背筋が……。




「わ、分かった。遊んであげるから、毛をむしるのはどうか…」




「天照……随分と……立派な…尻尾…じゃないか。…それを………うげぇ」




「酔っ払いはどっか行ってて!」




昨日の酒が残っているようで、今にも吐きそうになりながらも私にフォローを入れてくれた八坂に向かって、天照は強烈な言葉を浴びせた。




「……で、遊ぶって何をするの?」




どんよりとした空気を纏い、口元を押さえながらフラフラと部屋を出ていった八坂を無視して私と天照は話を続ける。




「何もしない。尻尾の中で寝る。二本じゃ足りないからもっと出して」




「そんな無茶な……」




「やっぱり遊んでくれないんだ……」




「ひぃっ!」




半眼になって尻尾に手をかける天照の姿は悪魔そのものだった。




「やって…みます」




恐怖でガタガタ震えながら、私は目を閉じて手を合わせ、心の中で『尻尾増えろ』と必死で願う。


しかし、集中を妨げるように天照は尻尾を弄ぶ。




「……もういいよ。これで十分」




刺激に耐えながら願を懸けること数分。


やっとの事でお許しを頂き、ホッとする。




「やっぱり尻尾を増やすなんて無理でしょ?」




「…………」




天照は何も言わずに私の尻尾を自分の上に掛けて大人しく寝始めた。




「う〜出すもの出したらスッキリした!」




その時、多分どこかで吐いてきたと思われる八坂が帰って来た。




「あ〜…でも、昨日の記憶が無いわ。何があったっけ?」




「私と呑み比べをしながら世間話をしてた」




「そうだったっけ?どの辺まで話が進んでた?」




「私について聞き始めた所で八坂が倒れた」




「そうだった?じゃあ、昨日の続きをよろしく」




笑顔でその場に胡坐をかいた八坂を見て苦笑しながら、私は昨日の続きを話し始めた。




「確か、100年間寝ていたところまで話したから…」




「何だ?封印でもされてたのかい?」




「何も悪いことをしてないのに、封印なんかされて堪るか!違うよ、寝てただけだって」




「100年間ずっとかい?」




「目が覚めたら100年経ってたね」




「アンタ、良く妖怪としての力が消えなかったねぇ」




神が妖力を持っているのもおかしいけどさと、八坂は顔をしかめた。




「尻尾は二本で全部なんだろ?わかってるとは思うが、妖獣の尻尾の数は妖力量に比例する。言っちゃ悪いが、二尾程度で100年も妖力が保つとは思えないな」




「やっぱりそう思う?私も変だとは思ったけど、答えが出なかったよ」




「ああ……そんな事が出来るのは能力――は無いな。涼花に効くような能力を持った奴なんか居ないだろう。だとすると……再編成か?」




「世界の?」




「ああ、知ってたのかい?その課程で何かがあったのかもしれないな」




「成る程……じゃあ、ちょっと聞いてくるから。転送」




何かを言い掛けた八坂が一瞬見えたが、そのまま神殿の自室のリビングに到着した。




「ふう…こんなにも早く帰る事になるとは…」



バチィィ!



封印をかけたことをすっかり忘れてドアに触れたので、大変痛い思いをしてしまった。


封印にはじかれた指がヒリヒリするが、とにかくドアの封印を全て解いて神殿の中を走る。



「すーずらーんさーん!」




「何かしら?」




「おわっ!?」




走りながら大声で鈴蘭さんを呼ぶと、すぐそこの角から急に姿を現した。


慌てて急停止して鈴蘭さんの目の前に停まると、彼女は私の尻尾を見て不思議そうに首を傾げた。




「今日は聞きたい事が――」




「その子はだれかしら?」




「…は?」




自分の尻尾を振り返ると、未だに天照がしがみついていた。




「…なんでいるの」




「目が覚めたらここにいた」




あー…そう言えば尻尾の中で寝てたっけ。


しかし、今は天照の事は無視して話を進める




「で、今日はこの子の事じゃなくて、私の妖力について何だけども…」




「多分それは私に聞いてもダメよ」




「そうですか…」




「だから……ゼ〜ウ〜ス〜!」




鈴蘭さんは、言葉を切ると、神殿全体に響くような大声でゼウスを呼んだ。




「……何でしょう?あ、涼花さん。先日は大変失礼いたしました」




ゼウスは、鈴蘭さんのように突然現れ、私の顔を見るなり、また謝りだした。




「そんな事は良いからこの子が聞きたい事が有るらしいわよ」




鈴蘭さん…ゼウスの話をどうでもいい扱いするのやめましょうよ。




「何についてですか?」




「私の妖力はおかしな所が沢山有るんです。何か知りませんか?」





「具体的にはどのような?」




「え〜っと、本来同時に持つことが出来ない妖力と神力を両方持っている事とか?」




「他には何かありませんでしたか?」




ゼウスはさらに質問を重ねてきた。




「え……他の神に『100年間も妖力補充無しで妖怪としての存在が消えないのは不思議だ』って言われた事くらいかな?」




「そうですね……それでは、涼花さん。妖力の源は何ですか?」




「それは人間の恐怖…だったはずだけど」




「その通りです。それは再編前後で変化はありません。それでは今度は鈴蘭さん。二尾の妖狐が妖力の補充無しで存在を保てる期間はどの程度ですか?」





「使い方次第だけど、良いところ5年程度ね」




5年!?それじゃあ100年なんてあり得る訳が無い!


それじゃあ……




「……何故100年間の眠りを経て尚、涼花さんと風さんが妖怪としての存在を保っているのか……」




「再編成のどさくさに紛れて私たちの設定をいじったの?」




私は核心を突いているであろう言葉をゼウスにぶつけた。




「風さんは一時的に、涼花さんは根本的に操作しました」




「それはどうして?」




「お恥ずかしいかぎりですが、書き換える部分を間違ったのです。涼花さんの方から処理をしたのですが、変更事項が涼花さんの存在自体に食い込んでしまって修正が出来なくなりました。妖力と神力を両方持てるのもその影響なんです。今まで黙っていてすみませんでした」




本当に済まなそうにゼウスが頭を下げた。


なに?もしかして妖力が減らなくなったの?


どんな永久機関ですか…。




「なに?何の話?」




話を全く理解していない天照が空気を読まずに私の尻尾の中で騒いでいた。

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