ー・四・ー
次の日。
今日は昨日借りた本を元に、部室で調べることになっている。
「おーい、草魔。何かわかったか?」
「いえ、まだ読みきれていません」
しかもその担当の一切が私になっているのは何故だろう?
ちなみに仕事と言うのは、この本の要綱を抜き取ってそれを紙に書き溜めていくという実に面倒な作業である。
「(てか、何で夏樹先輩は何もしていないのだろうか)」
ポンッ!
「うわぁ」
突然先輩の頭上に丸くされた紙くずが当たったのだ。しかもそれに対する先輩のリアクションときたら・・・・・・と、まぁこれ以上語らなくてもお分かりの人はいることだろう。
「おい、夏樹。またお前は一人でサボっているのか。少しは草魔が書いている紙を元に設計図作りを手伝え!」
「はいはい、わかってるって。全く朝彦はいつもうるさいね」
「それ、どういう意味だ?」
うわ、また始まったか。いつものアレ。
だが、しかしー
「はいはい、今日は皆忙しいから喧嘩は後にしような」
珍しく樹先輩が二人の喧嘩に仲裁をしている。
それに対して、当の二人は
「樹が正論を言ってきたぞ」
「何か悪いことが起こる前兆かもしれないぞ!」
「いや、俺は普通に仲裁しただけなんだが・・・・・・」
「『あぁ、そうなんだ』」
・・・・・・
「うわぁー俺、つまらない奴なんだ。そうなんだな、そう思っているんだろ?やっぱりそうか」
いつの間にか自暴自棄になっていた。どうやらあの二人の反応のされ方に多少、気に食わなかったことがあったのだろう。
この妙にいたたまれない空気が私を含む4人の中で流れていた。
「ちょっと、先輩達。さっさと持ち場に戻ってくださいよ。こっちは一人で設計図案を考えている羽目になっているんですから」
植松さんから抗議の声が来た。これによってしばらくの間流れていた重い空気はどこかへ消えてしまった。
『あぁ今、戻るから』
で、何故か私に
「じゃ、頑張って作業を続けておいてくれ。草魔」
と言い残していった。
「(全く・・・・・・少しは私の作業に加担してくれてもいいのになぁ)」
まぁ、そう言おうとした時にはもうすでに、三人の姿はなかった。
そして私は元の作業に戻っていった。
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数時間が経った。
他のチームの部員がこぞってこの部室に戻ってくる。多分もう、今日の作業を切り上げたのだろう。実に羨ましいことだ。
「おっ、草魔じゃないか。何やってんだ?」
突然、後ろから声がした。ピクッと体がかすかに反応し終わった後に振り返ってみると、そこには別のチームの菊田がいた。
「あぁ何だ、菊田か。いきなり声をかけないでよ」
「すまんすまん。この部室には誰もいないだろうと思ったら、お前がいたからさぁー。で、何しているのかと尋ねてみただけだ」
「それを聞いてどうするの?」
「いや、ただ聞くだけだ。それに同じイタリア代表として作品を展示するんだから、他のチームの作品を知っておいて損はないだろ」
「まぁ・・・・・・ね」
「で、お前んとこのチームは何作るんだ?」
「あぁー」
ここで『タイムマシン』なんて言ってもいいのだろうか・・・・・・?でもこの部内では作品に関する黙秘は特にないのだが、今回に至っては今までにチャレンジした事のない、いわば無謀とさえ言えることをやっているわけで。
とにかく言いにくいのだ。
「最先端の便利な道具だよ」
と、とっさに言ってしまった。ま、当たってはいるが・・・・・・。
それに対して
「は?最先端?そんなものがこのご時世にあるのかよ」
「だからそれを自分たちで考えて制作するんだよ」
「あぁー、それは大変そうだな。で、今はどのくらいまでいった?」
「うーん、それの研究段階。じゃあ、菊田のチームは何作るの?」
言うだけ言って話を切り替えてみると、奴は考え込んでしまった。説明しづらいものを作っているのだろうか。
しばらくすると、こう切り出してきた。
「俺らのチームは日本・イタリア・ドイツの技術を混ぜたものだ」
「具体的には?」
「まだそこまでは決まっていない」
「へぇー」
「お互い大変だよな」
「まぁね」
『おーい、菊田。帰るぞー』
ドアの向こうから菊田を呼ぶ男の声がした。多分、小摩木だろう。
「小摩木が呼んでるよ」
「わかってる。あぁーいちいちうるさいよな、アイツ」
その瞬間、奴の顔が険しいものとなった。
「大丈夫?」
「あぁ」
「じゃあ、また明日ね」
「あぁ」
そしてトボトボとおぼつかない足取りで、部室を出て行った。そんなに小摩木のことが嫌なのだろうか。
で、また私は作業に戻る。
ガラッ!!
「ただいま帰ったぞ!」
後ろを振り返ってみると、今度は夏樹先輩たちご一行である。ちなみに植松さんも一緒だ。何かあったのだろうかと、とにかく聞いてみた。
「どうしたんですか?」
先輩たちは
「あぁ、今日はこれ以上作業がはかどらなくてな」
「で、草魔のほうを見に来たってわけだ」
と、このように言い切った。
「あ、でもこれで俺の妹である草魔と一緒に帰れるってわけでもあるぞ!」
「えっ・・・・・・」
いきなりの不意打ちにフリーズをしているとー
バシッ!!
あまりにも一瞬過ぎてわからなかったが、どうやら朝彦先輩が夏樹先輩の背中に蹴りを入れたようだ。
「てめぇーは黙ってろ。このロリコンが」
「んだとぉー」
「ヤルか?」
「上等だぁ」
「あぁーお前ら、喧嘩は外でしろよな」
「『言われなくてもする予定だ』」
樹先輩の仲裁にもこのように二人同時で言い返す。いつも通りだが。
そして二人は外へ出て行った。
出て行く間際にはすでに、何かしらの武器を手に取っていた。
「あぁー、またいつものあれか」
「またですね」
「そういえばあの二人っていつからああいった感じなんですか?」
植松さんが樹先輩に質問を投げかけた。
それに対して先輩は
「あぁ、もう小さい頃から。まぁ、従兄弟同士だしな」
「『えっ・・・・・・』」
他の二人はフリーズしてしまった。
「あれ、言ってなかったっけ?実は夏樹と朝彦は従兄弟同士だよ」
「言ってませんよ!でも何か納得ですね」
「そうか?そう言われてみるとあいつら二人には似たようなところはあるしな」
「へぇー」
一度、頭の中で二人を思い浮かべてみる。確かに言われてみると似通ったところは多々ある。
「ま、そういうことだ」
「あっ、そうだ」
またも植松さんが質問を投げかけた。今度は私にー
「ところで作業はどのくらいまで進んでいるの?」
「あぁ、大体半分くらいかな」
「へぇー、早っ!さすが草魔だね」
「それ、どういう意味?」
「いい意味だよ♪」と樹先輩が付け加えた。
ちなみに彼女はその後、私が読み進めている本を手に取った。そしてページをパラパラと目を通している。
「ん?」
突然、彼女の手が止まった。
それを見たほかの二人は疑問に思いながらも、彼女に聞いてみた。
「どうかしたか?」
「いやですね、この本に書かれてあることがほとんど似ているように見えるんですよ。例えばこの『二世紀前の箱型タイムカプセル』を見てください」
「どれどれ・・・・・・あっ!」
突然ながらも、大きな声を発してしまった。
「これ、よく見ると金具やぜんまいの配列がほとんどその前のものと似てる。どうしてわかったの?植松さん」
「いや、草魔がまとめた紙を元に設計図を考えているうちに、どうもこの二つのタイムマシンは中身の配列が似ているってことが疑問に思って、それを本で実際に確かめてみただけ。まぁ、どんピシャだったけどね」
「すごいぞ。お前」
「そうですか?」
「そうだよ、凄いよ」
「ありがとう」
彼女は少し照れながらもお礼を言った。どうやら褒められることには慣れていないのかもしれない。
「じゃあ、もしかするとこのようなパターンの失敗作が他にもあるかもしれませんね」
「そうだな。でもまぁ、今日はこの辺にしたらどうだ?お前、ずっと働きっ放しだろ。今日はもう家に帰り」
「はい、お言葉に甘えてそうします」
「じゃ、草魔。一緒に帰ろう!」
「うん。ちょっと待ってね」
ほんのちょっとのことが実は偉大な発見の第一歩。
この言葉が似合うぐらいに今日の私達のタイムマシン制作はまた一歩、進んだのだったー