ー・弐・ー
イタリア政府が公認した国立の図書館であるせいか、探すのには大変手間取っている。
現に私達『南チーム』がここで探索を始めてから実に二時間が経過しているからだ。
「朝彦、見つかったかい?」
長時間探している為か、夏樹先輩はそんなことを問いかけてきた。
多分この人の性格上では、この状況に飽きたのだろうな。そう推測する。
「いや、俺のところは全部見たが全然なかったぞ。樹は?」
「あぁ、俺か?俺のところも全然だ」
「そうか・・・・・・。じゃあ、植松や草魔は?」
「はい、私のフロアも全然でした!草魔の方はどう?」
「私も全然。あっ、でも・・・・・・」
口をモジモジとしながらも、思ったことを言った。
周りはじっと『どうかした?』みたく問いかけるような眼差しで見ている。
「いや、ね。受付の人に聞いたらどうかと思って。そしたら、貸し出し状況などもわかるので便利ですが」
・・・・・・
他の四人からは急に、沈黙が流れ始めた。
いずれも皆は、何かを言いたいそうにうつむいていた。
しばらくして
『それを早く言えー!』と、皆に怒鳴られてしまった。
確かに二時間は無駄にしてしまったから。
その後、私は四人からの命令で受付まで行き、そして貸し出し状況を聞きに行くこととなった。
まぁ何せ私は、この図書館では受付の人に対して一番顔が利いているからだろう。
毎日、植松さんと通い詰め(いや、こもっていると言ったほうが正しいかもしれない)ているから。
それなら何故、こういったアクシデントになったかって?
それは上に書いている通り私は、すでに図書館の情報を頭にインプットしたからである。
「はい、こちらは受付ですが何か御用でしょうか?」
今日の受付嬢はこの図書館で屈指の美人だった。
その流れるようにしなやかなミルクティー色のセミロングのストレートに、薄い茶色の眼球、そして極め付けがバランスの取れたスタイルである。
実はこれで純日本人なんて言うのだから驚きである。
「あら、穂乃華ちゃんじゃないの。珍しいわね、ココを利用するのは」
いつ聞いてもうっとりするようなソプラノボイスが、私の耳をかすめた。
「今日はある文献の貸し出し状況について聞きに来ました」
正直言ってこの人の前となるとかなり緊張する。
こう見えても(いやもう、すでにこれまでの行動でわかるが)私は美人には目がないのだ。
「それはどう言った文献かな?」
「タイムマシンに関する参考文献です」
「わかったわ。すぐ、探すからしばらく待ってくださいね」
そう言い残すと、彼女は席を外して小走りで奥の部屋に行った。
多分あそこに、パソコンがあるのだろうと、推察してみた。
それから十分が経過した頃
「おまたせしました。参考文献が一冊だけ見つかったわ」
「本当ですか!?」
実のところタイムマシンに関する文献はかなり前に政府が検閲の対象にしたためか、今では絶版になっているのだ。
しかも国立図書館は新刊を入れるたびにそれを行われるので、正直あったことが奇跡に等しいのだった。
ついでに彼女こと、西本綾奈さんがこう付け足した。
「多分だけど、これが発行されたのが検閲制度が始まる50年前よりも以前のなのかしら」
「えっ、何故ですか?」
「だって言い回しが少し古いし、尚且つ内容が100年以上も前の実験のものが多いしね。それに、こう言った書物って検閲の対象でしょ?引っかからなかったのがすごいわ」
「なるほど」
さすが司書なだけあって、かなりの本を読破しているようだ。
「これ読んで、何するの?」
「えっ?」
「何か目的があって読むんでしょ?大体、そういったものってこうした動機が多いから」
「まぁ」
「ま、図書館司書は利用者のプライバシーを詮索はしないけどね」
そう言って西本さんは笑っていた。
「借りていくんでしょ?」
「えぇ、まぁ」
「何するかは分からないけど、応援しているわ」
「はい、ありがとうございます!」
『おーい、草魔。借りれたか?』
すると入り口付近から、夏樹先輩の声がしてきた。
これに対して私は
「はい、借りれました!」と、応答した。
入り口には他の四人が待っていた。
「夏樹先輩、これ」
本を先輩に渡した。
「おぉ、これか。じゃあ、外に出るか」
こうして図書館を後にした。
外に出るともうすでに、日が地平線の彼方へ消えそうになっていた。
と、いうことは私達は実に三時間くらいはあのだだっ広い図書館で一冊の本を探していたことになる。
「あっ、もうこんな時間だ」
突然、植松さんがそうつぶやいた。
時計を見ると確かに6時は過ぎていたのが見えた。
「ん、どうかしたか?」
それに気づいたのか夏樹先輩が応答する。
「いえ、今日の晩御飯の調理担当が私なのです。でも、今からだと買い足ししても間に合いそうにもないですね」
彼女は笑ってみせていた。
かなり重要な事柄だったのだろう。
が、しかし
「なら早く帰ってもいいぞ!だって俺らも、そろそろ帰るしさ」
「えっ、いいんですか!?ありがとうございます」
植松さんはにんまりと満面の笑みを浮かべていた。
「今日一日で夏樹が初めて部長らしい一言を言ったな」
朝彦先輩はそれを皮肉ったように言い放った。
「えぇー、それならずっと言っているぞ」
どうやらさすがに、ムッ!と腹を立てたようだ。
それに対して
「いや、お前の言動は明らかにそう言っていなかったぞ」
と、言い返していた。
さすが犬猿の仲と、これで言うのだろうか。
もちろんそういった間柄なのだから、お返しには
「そういう朝彦だって今日一日、突っ込みしかしていないじゃないか!」
「んだとぉ!?てめぇーまた、俺に喧嘩売ってんのか、あ゛ぁ?」
「こっちはいつでもいいぞ」
「おぅ言ったな。もう、これで訂正はなしな!後悔するなら今のうちにすることだ」
「後悔なんか死んでもするもんか!かかってこい」
こういったいつものくだらない喧嘩が始まった。
しかも今回は図書館の玄関前で・・・・・・。
他の三人はというと
「あぁーあ、また始まったな」
「そうですね」
「うん」
また、いつもの呆れたような反応を示す。
それほどまでにこの先輩達の喧嘩は実に、くだらないものなのだ。
「じゃあ俺たちは勝手に解散するか」
「そうですね。私は買出しの前にお母さんに電話しないといけませんし」
「おぅ、そういえば植松はそうだったな。じゃ、気をつけて帰れよ。変な人には襲われるなよ」
いや・・・・・・変な人に教われる見込みはないのですが。
今までもそして、これからも。
『先輩さようなら』
「じゃ、行こうか」
「うん」
二人はいつもの帰路をトコトコと、歩いていったーー