表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

椿象

作者: 井越歩夢
掲載日:2026/04/03

夢か、夢なのか。いや夢のようで、夢でない。

そもそも私は今、眠っているのか起きているのか。


そんなまどろむ意識の延長線上にいると思われる

真っ暗な2時15分、21、22、23と秒針の経過するそれ、時計を見た。


そのはずだ。


その時最初に、私の意識に降りてきたのは「椿象」。

まったくもって、なぜなのかと私はこの私に問いたい。

この私に問いかけたい。1秒ごとに問い詰めたい。


多分9月6日金曜日に眠り、多分9月7日土曜日深夜2時、いま16分を確認した。


どうやら夢ではないらしい。暗い部屋の自室の2時16分を、そして秒針が1秒、1秒、刻々と進むのを今度は確実に意識し、確認した。


一人の部屋。


9月になってもまだ夏なのじゃあないかという、そんな感覚の空気感、肌感。湿度の高いそれをみずみずしい感触のそれと言えば、それはそれで気持ちのよいそれであると表現できそうなのだが、明らかにそうでない。


どこか、じったりとねっとりとした感触の、単純的に言うなれば不快感。小難しく言うのなら、まとわりつく蛇のような、異世界であるならスライムのような? まあ、いいでしょう。

そんな想像をしている私を、この私は自身であるようにも思い、俯瞰して見ている別人のようにも思う。


深夜2時18分を知らせた。


夢でないことを確認し、意識を私に向けたとき、またそれがふわりとそれそのものらしくない華麗さをまといながらそこに降りてきた。


それとは「椿象」なのだが、私はとても虫を苦手にしている。


だがしかし、なぜかとても今は冷静だ。机に向かい、一心不乱に文を書き上げていくときと同じ領域にいるかのように心に波が立つこともなく、鼓動が強烈にテンポを上げるということもない、不思議なほどに心静かなものだった。


それは、舞い降りた「椿象」とその背景が真夏の明るさと、突き抜ける光と、「もうそろそろ勘弁してくれないか、太陽よ?」と無理難題をオーバースローで投げつけてしまいたい、そんな気分になる背景の中に見えているからなのだと。


多分深夜2時21分なのじゃあないか?


ん? おかしくないか? 時計を確認しなければならない。そのことに気付いた私は、再び時計を見ようとしたのだが、見たかどうかは定かでない。


まただ、また夢。夢なのか。いや夢のようで、夢でない。そもそも私は今、眠っているのか起きているのか。そこに見えるのは、やはり真夏の明るさと、突き抜ける光と、「もうそろそろ勘弁してくれないか、太陽よ?」という今か夢かのオーバースローを投げかけてくる情景の中、ふわりと舞い降りた「椿象」が見えている。


どうやら状況は私を、私がいるはずである9月7日土曜日深夜2時21分と思われるそこに帰してはくれないようだ。それならば仕方ない。それならば、何方か何方というそれを考えることなく目を閉じよう。次に目を開けるその時に、それはわかることだろうから。


ただなぜか、私はそれに、そこにいる「椿象」にこう言葉を投げかけられた。いや、「椿象」が言葉を投げかけるなど、そんなことがあればそれは、ああ、まだ私は夢の延長線上にいるのか。


理解完了。


私は、真っ暗な自室の中、9月7日土曜日2時15分に夢と夢ではない狭間で晴れた夏の景色の中、ふわりと舞い降りたそれと、その虫と、その「椿象」と対面した。


そして「椿象」は今見えているこれを早急に、忘れる前に、メモでいいから書きとめろと、現実的にあり得ない、しかし夢の中でならあり得るそれを虫の言葉を、虫の知らせを、囁きのような声で急かされるように、さらに急かされるように何度も何度も耳元に投げられている。


そして私は目覚めているのか夢なのか、その意識も認識も不確かな中、おもむろにメモを取っていた。今見ているそれを、いつも通り走り書きする。私がこの私を毎度のように後で見てイライラさせるほど、それは、それは、毎度毎度読めるか読めないかの理解をレーザービームのように突き刺してくる自筆メモを急かされ、急かされ、書きしるす。


9月7日土曜日深夜2時25分。多分。


きっと、私は「椿象」に言われたとおりそれを書き終えたのだろう。舞い降りた「椿象」とその背景が真夏の明るさと、突き抜ける光と、「もうそろそろ勘弁してくれないか、太陽よ?」と無理難題をオーバースローで投げつけてしまいたい、そんな気分になる背景は、0.4453662秒ほどのスピードで、今となっては昔懐かしいブラウン管テレビのスイッチをオフした時のような、ピュゥゥンと中心に向かって白々とした光が収束するように消えていく。


そんな感覚の中、私は時間に相応しい自室の暗闇と、私の意識の暗闇の中にゆらり、ゆらりと落ちていくのを、見ているように感じていた。


9月7日土曜日4時15分。


優しくもケタタマシイそれの音、目覚ましの音に私は起こされることなく、「残念、もう起きている」と無意味に勝ち誇りながらそれを止めた。


残暑厳しい、いや、猛暑がまだ尻尾だけを残し、尻尾だけのくせに猛威を振るうそんな世相であっても、さすがに真夏を過ぎ、秋の入り口にさしかかり始めれば、日の出はそれ相応の時間へと移り変わる。カーテンを開くと窓の外はまだ暗い。


その暗い中にも山際の白み具合は今が明け方であり、それに加えてありがたいことに現実の明け方であることを、詳しく説明することもなく私に理解させてくれる。


それにしてもだ。


私はこの私が、「椿象」に急かされ、さらに急かされ、早急に、忘れる前に、メモでいいから書きとめろと、現実的にあり得ない、しかし夢の中でならあり得るそれを虫の言葉を、虫の知らせを、囁きのような声で急かされるように、さらに急かされるように何度も何度も耳元に投げかけられつつ、その意識も認識も不確かな中おもむろに取ったメモは、いったい何を私に言わんとしていたのだろうか。


暗闇なのか夏の強い日差しの中なのかわからない、狭間の意識から見せられ聞かされたその言葉をおもむろに走り書いたそのメモには何が記されているのだろう。 今、私はこの私の手でそれを持ち、そしてそれを書いただろう頁を開こうとしている。


数頁それをペラペラペラペラとめくっていくと、私がこの私を毎度のように後で見てイライラさせるほど、それは、それは、毎度毎度読めるか読めないかの理解をレーザービームのように突き刺してくる自筆メモが、右から左へと光の如く流れていく。このノートのどのページに書いてあるのか。それを引き当てるのには、少し、少しの時間を要した。


そして4時25分25秒2525。


そのでたらめな字で書かれたメモのページを引き当てた私は、どこかなぜか期待に胸を膨らます感覚を押さえながら、それを目で追い読み取っていった。


「生きているうえでのつながり、良きも悪きも今の私をここに連れて来た。そして私は今、新しいつながり、あの世へのつながりを持つ。カメムシ。」


……まったく。何なのだ、これは。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ