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第24話 『第3シェルターA扉』

 メデュラモン火山の深層。怪しく光る魔石の洞窟の中を四人の決死隊が駆け抜けていた。


「本当にこっちであっているのでしょうかっ」


「リオンさんを信じましょう」


「たしかにあっちの方から霊気を感じる!」


「確かですか!?」


 走りながら指を指し示すナツにフランが切羽詰まった声で聴き返した。


「うん。リオン兄ちゃんから霊気の感じ方を教わったんだ。あっちだと思う!」


 フランたちが焦っているのには理由があった。それは背後から蜥蜴の魔獣の群れが追いかけてきているからだ。


 ナツが一瞬振り返るともうすぐそこまで来ていた。


「じいちゃん急いで!」


「駄目じゃ腰がッ」


 脂汗を浮かべながら走るギムリの背後にナツが回り無理やり背中を押す。


「や、やめてくれいっ。本当に逝っちまう」


「じいちゃん! そうはいっても立ち止まったら骨も残んないよ!」


 ちらりと振り返るとヌルヌルとした体皮の蜥蜴の群れが迫って来ていた。群れの先頭三匹が遂に追いつき、飛び掛かる。


「うわああああああ」


「下がって!」


 フランが柄に手を掛けながら間に割り込む。抜刀と共に走る三重の斬撃。瞬く間に両断される魔獣達。だが次の大蜥蜴が迫って来る。


「しつこい奴らじゃッ」


 ギムリが斧を足元に叩きつけると、地面が鋭く隆起し四本の斬撃が地を走った。岩の刃が躱しきれなかった蜥蜴達の足を切り飛ばす。


 咽返る様な汚臭と共に飛び散る血飛沫。だが群れの魔獣達は、怯むどころかむしろ充満する血の匂いにより興奮し、牙を剥いた。


「駄目じゃ囲まれるぞ」


「どこにも横穴らしいものはありません! 本当にこっちなのですか」


「いや確かに感じるんだよ! 感じるのになんでっ」


「皆さんまずは魔獣を何とかしましょう!! 上からも来てます!」


 ソフィーが指差した先には蜘蛛型の魔獣が天井を這いながら迫って来ていた。


「上の魔獣は頼んだっ、下のはオレに任せて!」


「ナツッ! よせッ」


 束の間、ギムリが横穴に視線を逸らした時、ナツが銀色に輝く短剣を引き抜いて大蜥蜴の群れに駆け出した。魔獣達の死骸の間に立ち目を閉じる。


「オレだって」


 ナツは周囲の霊気を銀の短剣へと集めた。刀身が淡く発光しだす。魔獣達の視線が一気に集まった。


 一拍の間のあと、魔獣達が一斉にナツ目掛けて駆けだす。ギムリが斧を投げ捨てて、ナツに駆け寄る。


 ナツが全力で短剣を魔獣の血溜まりに突き刺した。


 銀獣に汚染され、霊気の歪んだナツが稚拙な練度で呪術を行使する。周囲の霊気が中途半端に集められ変換された。


 だが彼の持つ短剣は銀獣の骨から削りだしたもの。その短剣が凄まじく高い伝導性で、地面に広がる獣血へと霊気を流し込んだ。


 結果として、銀獣の力の一端が顕現した。


 目を焼くような閃光と共に青白い稲妻が暗い洞窟で迸る。魔獣達は激しく感電し、火花が飛び散った。上手くいった確信をナツが持った刹那、それは起こった。


 電撃が洞窟の可燃性の瘴気に火をつけ誘爆が起こったのだ。凄まじい爆炎が四人を呑み込む。


 籠の中の鳥は鳴いていなかった。


 どれくらい時間がたったのか、ナツが最初に感じたのは、カラカラに張り付く様な喉の渇きだった。目も痛い、耳も痛い。音がこもっている気がする。


「大丈夫かナツ。まったくその無茶はリオン殿似じゃな。ほれ水じゃ。ゆっくり飲め」


「んっんぐ……み、みんなは?」


「無事です」


 声の方を振り返ると、フランさんがソフィー姉ちゃんの手を取って起き上がらせているところだった。二人ともケガしてないみたい。


「ご、ごめっ」


「あなたの不用意な行動で皆の命が危険に晒されました。事前にあなたにも伝えたはずですが? この鳥が鳴いていないときは火花を散らすような行動はしないようにと」


「フランっ……この子のお陰で助かったのだし、あんまりそんな―」


「お嬢様、失礼ですが貴方のお命は貴方だけのものではございません。もっとご自身の」


 そうフランさんがソフィー姉ちゃんに詰め寄った時、視界の端から爺ちゃんが拳を振り上げたのが見えた。次の瞬間目の奥で火花が散ったかと思うと、身体が地面に叩きつけられた。


 思わず声を挙げようとしても、頬が痛くて口が開かない。遅れて爺ちゃんに殴られたと気づいた。


「あっがっ」


「魔獣討伐隊に命令無視するような者はいらん。儂がよせと言ったら、止めるのだ」


 い、いたいっ。今謝ろうとしてたのにっ、フランさんに遮られてなければオレが謝ろうとしてたんだ!


「なんで殴るんだよ!! ちょっと危なかったけど、でもオレのおかげでみんな助かったじゃんか!!」


 そう言い放つと、爺ちゃんは黙ってオレの胸倉を掴んだ。


「ナツそれは運が良かっただけじゃ。それではいかんのだ。儂らは魔獣を討伐し、必ず民達の命を救う事が使命なのだぞ。お前は魔法で爆発が起きる可能性を見落としていた。それは経験不足と視野の狭さにある。いずれ一人前になり部下を率いる時までは、焦らず儂らから学べ」


 そう訴える爺ちゃんの言葉は鈍いほおの痛みと共に、オレの中に染み込んだ。


「フラン殿。ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ござらん。じゃが儂らにこれ以上、話をしている時間はないはずじゃ。今は先に進まぬか?」


「……良いでしょう」


「はい! みなさん出発しましょうか。でもここはどこなのでしょうか? 坑道……にしては整いすぎな気もします」


 周囲を見渡すソフィー姉ちゃんに釣られて俺も辺りを見渡すと、たしかに誰かが掘り進めたのかの様に、四隅が綺麗な道になっていた。


 壁の色は灰色ですべすべしている。天井には定期的に白いランプがついていて、明るい。


 上を見ると茶色い土で覆われていた。


「これ爺ちゃんが埋めたの?」


「そうじゃ。あの爆発で地面が崩れわしらはこの坑道に落ちたのじゃ。今は穴から魔獣がおって来られぬよう、儂が塞いでおる。にしても儂はドワーフだから分かるが、この坑道は異常じゃ」


「どう異常なのですか?」


「まずこの正方形に切り揃えられたかのような真っ直ぐな道。そして壁の材質。儂が見たことない材質じゃ」


 興味深げに壁を触る爺ちゃんとは反対にフランさんは刀の柄を掴みながら油断なく周囲を見渡していた。


「ここで立っていても仕方ありません。左と右どちらに向かいましょうか?」


「……ふむ。二手に分かれると言うのも危険じゃな。どうするか」


 みんなが悩んでいる。オレになにかできないのかな。左と右の道を見比べてもどっちもおんなじに見える。そのとき左の道からふっと霊気が流れてくるのを感じた。


「左の方から霊気を感じる!」


「でかしたぞナツ! きっと結界外に繋がっている穴があるのはそっちに違いない」


「行きましょう」


「お、おう!」


 俺達はそうして道を進み始めると、どういう魔法なのか歩く傍から明かりが勝手についていく。後ろの方は明かりが勝手に消えていった。なんか気味悪いな。


「ねえなんかここっ―」


 後ろを歩く爺ちゃんに振り返った途端、地面が大きく揺れ出した。思わずこけかけたオレをソフィー姉ちゃんが支えてくれた。


「なんです!」


「この揺れはまさか噴火したのやもしれませぬ」


「そ、そんな! リオンさんはご無事なのでしょうか!?」


「もしかするとあの魔獣にやられたのかもしれません」


「兄ちゃんが、負けるもんか!」


 そう声を張り上げた瞬間、道の後ろ側の天井から真っ赤なマグマが流れ落ちて来た。


「まずい儂が塞いだ穴から流れ込んできたぞッ、きっとあの魔獣共に襲われた場所はマグマでいっぱいじゃろう。ここも直ぐにそうなる! 走れッ」


 爺ちゃんの怒声にみんなが弾かれたように走り出した。背中が熱くなってきた。振り返るとマグマがどんどん迫ってきている。


「振り返るでないッ、急げっ」


 激しい揺れでもたつく足をなんとか動かし全力疾走していると目の前に、銀色の壁が見えた。壁にバンと手を突き叩くがびくともしない。


「なんですこれは、金属?」


「これ壁じゃないわ。扉よ。真ん中に線がある。左右に押し開きましょう!」


 扉の左側をソフィー姉ちゃんとフランさんが、右側をオレと爺ちゃんで押すもぜんぜんびくともしない。


「どいてください。斬り捨てます」


 フランさんが居合の構えを取り、一閃。火炎が扉を熱し激しい火花が散るも、表面が赤くなるだけで扉は斬れていなかった。


「儂がやる」


 爺ちゃんが斧を振りかぶり、熱で赤くなった部分殴りつけるが斧の刃の方が曲がってしまった。


「なんと頑丈な扉じゃ」


「マグマがっ、みなさん後ろのマグマは私が魔法で壁を作り防ぎます! その間に扉を何とかしてください!」


 ソフィー姉ちゃんが何かつぶやくと床から黒い壁が反り立ち道を塞いだ。凄まじい勢いで流れ込んだマグマが壁にぶつかり、姉ちゃんが思わずよろけながらも壁を抑えて踏ん張っている。


「ちょっちょっとまって、その扉の左に何か書いてある。オレを持ち上げてっ!」


 オレが指さした先に何か書いてあるのを認めたフランさんが、両手で脇を掴み持ち上げた。


「これは……確かに文字の様ですが、ムーンドール語ではないですね」


「オレっなんか見たことがある気がする」


「あなた字が読めるのですか」


「いやまだ兄ちゃんから勉強中で、ムーンドール語も完璧じゃない」


「ムーンドール語も読み書きできない者が、別の言語が読める訳ないじゃないですかっ!」


 フランさんの焦った声におもわず身体がキュッとなる。後ろを振り返るとソフィー姉ちゃんが作った壁が熱で赤くなり始めていた。あ~もう、俺のバカ!! どこで見たんだっけ。


「ナツっ、お主に字を教えているのはリオン殿とアイリーン嬢しかおらんじゃろうがッ! 見たことがあるならそのどちらかに教わったのではないのか!?」


「そ、そうだ! これフェルゼーン語だっ」


「フェルゼーン語? なぜそんな文字がこんな所に……いえ、それよりなんと書いてあるのですか!?」


「えっ!? い、いや~そんなのオレにも分かんないよ!」


「ナツっ、良いから読める所だけ読めッ!」


「ナツくん! お願いっ」


 えぇぇぇ~!? くそっ、こんなことなら戦いの訓練だけじゃなくて、もっと勉強もしとくんだった。兄ちゃんとアイリーン姉ちゃんの言う通りだったよ~。


 目を凝らして何とか思い出そうと頭を捻る。第3……読めない……A扉……ここも読めない。てか下三行全部読めないよ。あっ待って、最後は読める! ここに手を合わせて下さい?


「なんか手を合わせろって書いてある」


「その黒い板じゃないですか。私はあなたを抱きかかえていて手を離せないので、あなたが押してください」


「う、うん」


 鉄扉の隣の黒い板に手を合わせると、なんか板が光りだした。オレの手に沿う様に手の形の線が板に浮かび上がる。


 何回か手のひらを赤い横線が往復した後、なんか良くわからない言葉を板が喋ったかと思うと、ピッと音が鳴り扉が左右に開いた。するとなんと奥にも扉があり今度は上下に開く。そしたらまた扉が奥にあり、今度は左右に開いた。


「なんとこの扉、三重になっていたのか!?」


 だが扉の先は通路ではなく、黒い岩で覆われていた。


「行き止まりだ!」


「どけい! これはただのマグマが固まった火山岩じゃ。これならば」


 ギムリが両手で岩に増えると黒い岩肌がボロボロと崩れ落ちていく。開いた穴から光が差し込み、少しして全てが崩れ去ると夕陽が差し込んできた。外には黒い山肌と空が広がっていた。


「皆さん限界です! マグマが飛び出てきました!」


「ソフィー様! 扉が開きました! お急ぎをっ」


 フランさんが叫ぶと同時に全員扉の向こうへと跳び出した。

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