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第22話 『血に酔う』

 赤い世界が広がっている。途轍もない熱さだ。眼下にはグツグツと煮えたぎるマグマの川が流れ、眼前のマグマの滝はその飛沫を一粒でも浴びれば、骨まで焼くだろう。地面には何かの巨大な骨が横たわっている。


「ナツ大丈夫?」


「うん。兄ちゃんの水の呪術のおかげでなんとか」


 今僕は全員の身体を顔だけ出した状態にして水球で覆っていた。水の呪術は使い慣れないからかなり不格好だが、致し方ない。シェリルなら水の鎧の様にできただろう。


「アスピア辺境伯様は炎の魔法の使い手ではないのですか? なぜこんなに色んな種類の魔法を……すごいです」


「話せば長いのでまた今度でお願いします。それより戦闘時は名前で呼んでくださって結構ですよ。一瞬の判断が生死を分ける時にアスピア辺境伯は長いでしょう」


「そっそうですね。リ、リオンさん……」


 ナツも熱いだろうが我慢してマントを被ってもらった。霊気汚染対策だ。


「これは長居できんの。じゃがどっちに行けばよいのか。中々広大じゃ」


「霊気が濃いのは右だ。恐らくそっちに抜け穴がある」


「じゃあ早くそっちに―」


「ナツ! 下がれ! 左斜め前方。上から来るぞ」


 僕の言葉に全員が指さす方向を見ると、マグマの滝の影から蝙蝠の様な姿をした魔獣の群れが飛翔してきた。その顔は人そのもので、人間の顔面に翼が生えた様な姿としか説明しようがない。


「気を付けて下さい。あれの牙は毒があります」


「なら接近戦は避けたいか。バル・ロック」


 足に土の霊気を纏わせ地面を強く踏む。その刹那、地面が盛り上がり槍となって発射された。三本の岩槍が魔獣目掛けて飛んで行くが、蝙蝠達は敏感にそれを察知し避けていく。


 どうする奴らの身体を重くしマグマに堕とすか? しかし一匹ずつでは間に合わないな。数が多い。耳障りな羽音が大きくなってきた。


「どうする近づいてくるぞ」


 斧を握りしめ戦闘態勢に入るギムリに見習いナツも短刀を引き抜いた。


「フランさん。鳥は鳴いていますか?」


「いいえ」


「なら炎魔法は使ってはダメなんですよね?」


「止めた方がよいでしょう。どこに可燃性の瘴気が漂っているか分かりません。誘爆の可能性はあります」


「では走って逃げましょう。霊気が濃いのはあっちだ。僕が囮になります」


 その言葉を機に皆が駆け出した。僕は地面に手を突き岩盤に霊気を流し込む。


「バル・グランス・ロック」


 詠唱と共に地面に罅が入り大地が割れる。次の瞬間、地面を突き破って巨大な岩石が空中に浮かび上がった。岩の下部はマグマに浸かっていたのか赤銅色に染まっている。


「飛べ」


 灼熱の岩石砲が魔獣の群れ目掛け高速で発射される。だがこのままでは躱されるだろう。僕は岩が十分近づいたところで、拳を握りしめた。


「砕けろ」


 言葉と共に岩が砕け散り、石礫四方八方へと飛び散った。蝙蝠型の魔獣は予想外の石礫に体を打ち抜かれる。


 翼が破れた魔獣は空中で制御を失い、喉を潰された魔獣は血を噴いて落下した。死んだ魔獣から霧散していく霊気に反応し、複数の蝙蝠が死体に群がる。


 ああやって漏れ出る霊気を吸い取っているのだろう。


 岩の散弾を通り抜けた魔獣がこちらに向かってくる。どうするか。まだ何十匹も残っている。ちらりと後方を確認すると皆は十分遠くまで逃げられていた。引くか。


 撤退を決め振り返ったその時、魔獣の死骸から漂う芳醇な血の香りが僕の鼻孔をくすぐった。


 ……勿体ないな。


 自らを覆う水の魔法を解除する。少し暑いが動きやすくなった。両手の手袋を外して爪を伸ばす。


 魔獣の群れが眼前まで迫って来る。魔獣の羽音はもう耳障りなほど大きい。だが構わず僕は蝙蝠の群れに突っ込んだ。


 片っ端から切り捨てる。竜爪が無数の黒い軌跡を描いて魔獣達を切断した。大量の血飛沫が撒き散らされるも、殺戮が止むことはない。


「バル・グランス・ロック」


 僕が走り抜ける地面から幾本もの岩槍が飛び出しては、魔獣達を串刺しにする。生き残った魔獣達が槍の隙間を掻い潜り、牙を突き立てんと飛び掛かった。だがその牙が僕に届くことはない。


「ジガンテ・ブラキオン」


 身体を大きくしならせ一回転。漆黒の尾が突き出た槍ごと魔獣達の体を打ち砕く。肉と骨の砕ける感触を感じながら、次の獲物に狙いを定める。


「こっちに来い」


 背を向け飛び立とうする魔獣に焦点を合わせ、こちらに引き寄せる。訳も分からず体の制御を失った魔獣は黒爪により両断された。


 飛び散る死体に目もくれず魔獣の群れの中を、尾をうねらせながら泳ぐように移動する。前方の魔獣は爪で、左右は岩の槍に、後方は尾によって、魔獣達が無残に命を散らしていった。


 魔獣の血を浴びながら僕の霊気が歪んでいくのを感じる。素晴らしいじゃないか。


 やっと異変に気付いた魔獣達が一目散に逃げだした。あれほど沢山いたように見えた群れだったが、今はもう数えるほどしか残っていない。


 逃がさない。僕は逃げる魔獣目掛けて霊気を送り込む。


「フル―」


「リオン殿!!」


 伸ばした腕を何かが掴んだ。反射的にそれを斬り飛ばしかけたその時、腰に何かが抱き着いてくる感触を覚えた。


「兄ちゃん!」


「―ナツか。どうしたんだ。逃げろと言ったはずだよ」


「どうしたでは有りませぬぞ。なぜこんな危険な事を。どこか噛まれませんでしたか? フラン殿が仰っておりました。あれの牙には毒が」


「ギムリ……あっいや大丈夫だよ。掠り傷も追ってないから」


「全く心臓が飛び出る思いでしたぞ。たとえリオン殿でも独断行動はなりません。そうでなければ隊の全員が危険に晒されますぞ」


 鬼気迫るギムリと、涙をぬぐうナツの顔を見て、頭が冷えていくのを感じた。


「申し訳ない。ギムリの言う通りだ。もうしない」


「大丈夫ですか!? お怪我は」


 遅れて走り寄って来たフランさんとソフィー嬢。心配そうな顔をしたソフィー嬢とは対照的に、フランさんは化け物でも見るかのような眼差しを向けていた。


「本当に大丈夫だよ。ちょっとこの血を洗い流すから待ってて」


 僕は自分を水球に身を包み、血を洗い流した。


「さて行こうか。あっちだ」


 一行は再びメデュラモン火山のさらに奥地へと足を進めた。

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