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第13話 『作戦会議、そしてナズベル辺境伯家へ』

 気まずい空気の中、マリアの淹れてくれた紅茶を一口飲み、僕は話を切り出した。


「キュラン侯爵の娘はヨギル家の暗殺者たちの一人だった」


「なんだと!?」


「僕は彼女に結婚式の招待状を十枚渡すことにする」


「リオン殿、それはどういうことですかな」


 こちらの意図を汲み取ろうと怪訝な表情を浮かべながらも、ギムリが先頭を切って質問する。他の面々も気持ちは同じようだ。


「暗殺者のアジトは貧民街の地下墓地だった。一度行ったけどあそこは嫌な感じがする。あくまで直観に過ぎないが、あそこで戦闘するのは避けた方がいい」


「なるほど。敵を地の利があるアジトから、こちらに引きずり出すということですね」


 アイリーンが僕の意見を補足すると、マリアが声を挙げた。


「シェリル様は良いのですか? せっかくの式を罠にされるなんて」


「私の事は気にしないでいい。だがな、お前また一人で暗殺者と対峙したのか! 無茶はよせと」


「無茶ではないかと。ご当主様の戦闘能力から考えても合理的なご判断です。それより懸念点が二つ。まず招待客の中で暗殺者の十名はどのように特定しますか? またそもそもヨギル家は罠だと警戒し、乗って来ない可能性もあります」


 会議の進行に不要と冷徹にシェリルの怒りを切って捨てるアイリーン。思わずムッとした表情を浮かべるシェリルを気にせず、課題を整理していく。


「式の参加条件を貴族階級以上とした上で、奴らに配る招待状にだけ他の招待状とは僅かに異なる花の香りを焚きしめておく。当日、招待状を預かる際にナナに匂いで特定してもらう」


「なるほど。それなら暗殺者が誰か分かりますね。それにその暗殺者が貴族階級以上となれば、捕らえた後に身元も確実に特定できると」


「うん。大勢の招待客がいる中、ヨギル家と関係を持つ貴族を暗殺の現行犯として捕縛できれば、それを証拠にヨギル家を潰せる」


 そこまで聞いていたギムリがおもむろに口を開いた。


「しかしリオン殿。ヨギル家と全く無関係の貴族を暗殺者が襲い入れ替わることで、身分を詐称してきた場合はどうするのですかの?」


「結婚式だからね。基本的に僕かシェリルがお世話になっている貴族しか呼ばないから、顔が変わっていたら気づくと思う。どちらも知らない貴族から結婚式に参加したいと話があったら、事前に顔を確認するようにするよ」


 式の一月前には招待客が決まるだろうから、オーグかソレイに顔を見に行かせよう。


「確かにそれなら問題なさそうですな。ただ入れ替わった後に魔法で顔を変えて来ることも考えられるのでは?」


「姿を変える魔法を纏っていたら、僕が霊気で検知できるから大丈夫」


 そこでナツが純粋な疑問という表情で首を傾げた。


「本当の名前じゃなくて、てきと~に名前を書いてくることはないの?」


「流石にそんな杜撰なことはしてこないと思うけど、貴族の身分はね簡単には詐称できないんだ。帝都の結界部に問い合わせすればすぐに実在の貴族家か分かるんだよね」


 貴族は魔獣から領地を守る為に皇帝から結界水晶を拝領し、領主一族を水晶に登録する。それを代々貴族は自身の後継者に相続していくのだ。


 ゆえに結界水晶は貴族の継承権の象徴であり、それを管理する帝都の結界部は貴族の家の正統性を保障する機関となっている。当然架空の家名で貴族を騙れば直ぐに偽名だとばれると言う訳だ。


「なるほどね~」


 納得して頷くナツに対し、話に付いてこられなくなったナナがポカーンと窓の外を見ている。大丈夫か。


 一名を除き全員の理解が及んだところで、再びアイリーンが口を開いた。


「やはり罠を疑われるのでは? リオン様はヨギル家の暗殺者が式に来ると思われますか?」


「必ず乗ってくるようにする」


「どうやってですか?」


「ヨギル家に期限を切るのさ」


 その言葉で彼女は理解したらしく、赤い眼鏡を掛けなおしながら一枚の手紙を差し出した。


「承知しました。既にナズベル辺境伯との面会予約は取り付けております」


「ありがとう」


「どういうことですか?」


 マリアがキョトンとした表情で、僕を見つめてくる。そんな彼女に微笑みながら僕はお茶請けの菓子を手に取った。


「ナズベル伯と新交易路の開通を取りつけ、今度の四辺境伯筆頭執事会議で発表する。四辺境会議での内容は、帝国中の貴族達も注目している。交易路の話が広まれば、諸侯はヨギル家の衰退を予期し、さらに離れていくだろうね」


 カステラの優しい甘さが口に広がる。美味しい。さすがマリア。紅茶を一口飲み、再度口を開いた。


「そんな話をヨギル家に僕の馴染みの貴族からそれとなく流してもらう。ヨギル家は焦るだろう。何としてでも阻止したいはず。そのためには会議開催前に僕を暗殺する必要が出てくるわけさ」


 会議開催前に僕に正面から近づける機会は、結婚式しか用意しない。


 誰からヨギル家に情報を流そうか。近衛騎士団のヘレナなら適任かな。レーベン家は僕が近衛騎士に入る前はヨギル家にかなり取り入っていた。


 僕が騎士団の中でも仲のいいヘレナに情報を漏らし、彼女の父親からヨギル家という経路なら違和感ないだろう。


 そんなことを考えるとシェリルが覚悟を決めた目で僕の目を見つめた。


「つまり私とリオンの結婚式が、ヨギル家にとって最初で最後の暗殺の機会となる訳か」


「うん。シェリル……ごめん」


「気にするなと言っているだろう。むしろリオンが一人で戦わないだけ安心だ。式で戦闘するとなったら、私も魔獣討伐隊の皆も居るからな」


 そう言って彼女は微笑んだ。


 *


 翌朝、僕はシェリルとマリアに見送られながら馬車に乗り込んだ。ナツはギムリの訓練を受けており、アイリーンは会議の準備でここには居ない。


「それじゃあ行ってくる」


「うむ」


「行ってらっしゃいませ。リオン様」


 目的地はナズベル辺境伯の帝都別邸である。新交易路について話をしに行くのだ。


 馬車に揺られて暫く走ると、黄色い花をつけている街路樹の美しい通りに入った。舗装された石畳の道路に花びらが散り、花の絨毯の様になっている。


 やがて黄色い塀に囲われた屋敷の前で馬車が止まった。


 出迎えとして待機していたのは黒い執事服を纏った使用人だった。短く整えられたサラサラとした赤い髪に鋭い目つき、腰には刀を携えている。


 白い手袋で招待状を受け取ると、サッと中身を確認した。


「お待ちしておりました。アスピア辺境伯様。武器の類をお持ちでしたら、ここでお預かりいたします」


「武器は持っていません」


「承知いたしました」


 中性的な声で、聴いても男性か女性か分からない。執事の指示で守衛が黒い鉄製の扉を開く。


 庭に入ると誰かが大切に育てているのだろうか、黄色い可愛らしい花が植えられた花壇が並んでいた。屋敷の中に入ると見事な絨毯が敷かれていた。鉱山からトロッコで宝石を運ぶ様子が模様になっている。


「こちらにございます」


 応接室に入るとソファーにずっしりと腰をかけたナズベル・ド・マルセイが待っていた。いつもの大法官としての法服ではなく、ナズベル辺境伯としての黄色いローブを身に纏っている。


 白い髪に長い白髭を撫でながらジッとこちらを見つめる眼光。僕は穏やかな笑みを浮かべながら頭を下げた。


「本日は貴重なお時間を頂き」


「よい。お主も辺境伯。対等な立場だ。さっさと席にかけよ。改まった挨拶もいらん」


「では遠慮なく」


 ソファーに座らしてもらうと、ふかふかだった。尻尾が埋まってくれる。硬い奴だと浅く座らないといけなかったから助かった。


 一息ついてマルセイの方に向き直ろうとして、彼の後ろに立つ執事から鋭い視線を感じた。視線の先を見るに僕の尾を警戒しているらしい。


 確かにこれも武器だけど身体の一部なので勘弁してほしい。


「で、アスピア辺境伯が当家に何の用だ」


「ナズベル、アスピア、メテルブルクを結ぶ新しい交易路の開発についてご相談に来ました。ぜひ協力していただきたい」

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