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第20話 『農業革命』

 白い世界だ。辺り一面は海でどこまでも続いている。なぜか僕は水面に立っていた。


『カで蝗帶縺ァ雜を手に入れなさr謇九』


 背後を振り返ると白い女が立っていた。


 翌朝、目が覚めると赤茶けた天井が目に入った。藁の寝床に誰かが寝かせてくれていたのだろうか、乾燥した藁の匂いが鼻をくすぐる。


 なんか夢の中で変な女の声を聞いた気がしたが、全く覚えてない。疲れてたし、変な夢でも見たんだろう。


 昨日はひどい目に合った。あれだけ深手を負っていたダントンがシュナの治療を受けた瞬間に、急にバカ騒ぎしだして村の人たちと酒宴を開催したのだ。


 あの今にも死にそうな顔は演技だったのかと勘繰りそうになった。


 相方のヒューイはヒューイで黙ってミー酒を一人で飲み始め、誰もダントンに酒を飲まされそうになる僕の救助に動かなかった。彼曰く、傷を負っているのにこれ以上馬鹿どもの相手をしてたらホントに死にかねんとのことだった。


 シュナはもちろん暴走した。よりによってミー酒が本場の米所のヘルプストで、どこから取り出したのか麦から作るパム酒を取り出して布教活動を始めたのだ。


 そこからは泥沼の宗教戦争に陥り、どちらが美味しいか審判役を押し付けられそうになった。いよいよ覚悟を決めた時、ヒューイが審判役を買って出てくれたので九死に一生を得た。


 で、さらに色々あって目が覚めたら今に至る。ふと隣を見るとヒューイがぐるぐる巻きの包帯姿で寝ていた。どうやら彼が運んでくれたのか?


 そうならイケメン過ぎる。そんな事を考えながらぼーと土作りの天井を見上げていると急に、女の子の顔がひょこッと入ってきた。メリだ。目が合うと急ににっこり全開。


「おかーさん、リオンが起きた~」


「あら、何か朝食は食べれそうか聞いてみて」


「だって、何食べたい?」


「……メリたちと同じものでいいよ」


「分かった!」


 ドタバタと走り去っていく彼女を尻目に、ヒューイに声をかける。彼女の声で起きた気配を感じたのだ。


「ヒューイは何か食べます?」


「いや俺はもうちょっと寝てる。昼に帰還するまでにはなんか口に入れとくから気にしなくていい」


「傷は大丈夫そうですか」


「ああ、団長に治療してもらったからな」


 あれだけの傷を一日でここまで癒すのだから、ホントに凄まじいな。そんなことを考えながら顔を洗い、身支度を整えて朝食をいただいた。


「そう言えば、シュナさんは?」


「彼女なら昨日魔獣が現れた場所に向かいましたよ。調査ですって」


 この家の奥さんが洗い物をしながら答えてくれた。なるほど。僕も行くか。そう思って一機に米をかき込み立ち上がった所で、メリに捕まった。


「食べ終わった? なら遊びましょ?」


「……うん」


 その後の僕は彼女のなすがままだった。おままごと地獄が始まったのである。


「あらあなた帰ってきたの? 一か月ぶりね。何してたの?」


「王都での任務が忙しくてね……ほんとだよ」


「それはおつかれさまです。じゃあ、かせぎを見せてください」


「……はい」


 そういって木の実と小石をメリに見せる。するとみるみるプリプリした表情になって、手を振りかざした。


「あらその割にはかせぎが変わっていませんけど……何に使ったんですか」


「いやこれには事情が」


「また王都でよけいな物かったんでしょ! お酒!? まさか女じゃ」


「わぁー、ごめんごめん」


 どこでこんなこと覚えたんだ。まさかメリのご両親の実話じゃないだろうな。戦々恐々としながら、おままごとから脱出を図る。


「そうだメリ。ヘルプストは稲が有名な場所のはずなのに、なんであっちの畑では大豆を育てているの?」


「だってお米ばっかり育ててたら、次の年に育たなくなっちゃうじゃん。大豆を育てておけば牛さんもお腹いっぱいになれるし、うんちも肥料にできないじゃない」


 当然でしょ? そう言わんばかりの顔をメルは浮かべていたが、僕はとてつもない衝撃を受けていた。


 ムーンドールでは麦を育て収穫したら、冬の期間は家で副業を行うだけだ。空いた期間に別の作物を育てるなんて聞いたことない。


「同じ田畑で別の種類の作物を次々育てていくなんて大変じゃない? 土地も痩せないの?」


 僕の疑問にメルが困りだした。確かにこの子もそんなこと聞かれても困るだろう。でも元貴族として領地改革をしようとした身としては、気になってしょうがない。その時、村の村長が話しかけてきた。


「同じ田んぼで二年に渡り稲、麦、大豆、生育期間と収穫時期の異なる作物を順番に育てることで、できるかぎり収穫量を増やすことを重視しとるんじゃよ。それに大豆は土地を肥やす力もある。リオン殿は騎士様なのに農作業に興味がおありで?」


「ええとっても興味深いです。もっと詳しく教えていただいてもいいですか!」


 興奮が抑えきれない。どうやらフェルゼーンはムーンドールより農作技術はずっと進んでいるみたいだ。結界で広い土地を守れない分、少ない畑から効率よく作物を収穫する必要があったからだろう。


「儂たちヘルプストは稲、麦、大豆で輪作をしとるが、北のデロスでは小麦、タロ芋、大麦、クローバーの順で輪作をしとるの」


「なるほど。間に土地を回復させる作物を植えているわけですね」


 タロ芋は入手できたし、クローバーはムーンドールにも生えている。無事に帰れたらメテルブルクでも輪作ができるかもしれない。ただメテルブルクの土地は痩せてるからそこが懸念点だな。


「それってどんな土地でも可能ですか? 例えば砂っぽい土地だと厳しいですかね?」


「かなり大規模な土壌改良が必要になるじゃろうが可能だと思うの。それこそデロスでは地下を掘って泥灰土を大量に採掘して、耕地に散布したらしいぞ」


 その後はむくれだしたメルをあやしながら、家畜の排泄物からたい肥を作る方法や灰や骨粉を撒くことの重要性なんかを色々聞かせてもらった。


 そんなこんな色々と勉強させてもらっているとシュナが帰ってきた。厳しい表情を見るに良くないことが分かったんだろう。


「ダントンはどうしたんですか?」


「あいつは昨日の宴で酔いつぶれたまま村の広場に放置されてるわ。それよりそろそろ出立するわよ。リオンもすぐに準備して」


「了解です」


「もういっちゃうの?」


 メリが悲し気な表情でこちらを見つめてきた。若干心苦しかったが、帰らないわけにはいかない。


「僕たちは騎士団だから困っている人をまた助けに行かなきゃいけない。だけどまだ出発するまで時間はあるからギリギリまで遊ぼっか」


「うん!」


 こうしてヘルプストでの戦いは終わった。

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