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第11話 『呪術の修練』

 僕は今、王都の騎士団寮の前にいた。騎士団寮は何処を見ても突然の魔獣の襲来に浮ついており、皆が忙しく駆け回っている。


 その中で、僕、シュナ、ダントン、ヒューイの四人は深刻な表情で顔を突き合わせていた。


「リオン。あなたはダントンと一緒にしばらくこの騎士領に泊まっていなさい。ヒューイは私がいない間、ここの騎士達を纏めるように」


「団長! なぜこの一大事にこんな子供の面倒を見なければならないのですか! お供します」


「そうですぜ団長。この坊主は一見ちんちくりんだが、案外賢い。ダントンが面倒を見なくても、大丈夫でしょ」


 シュナの言葉にダントンが憤ったように反論し、ヒューイも冷静にそれをサポートする。そして僕自身も彼らの言葉に賛成だった。


 僕なんかの為に貴重な戦力を連れて行かないのは良くない。闘技場で魔獣を見た事があるだけに、僕にはどうしても一人で行くというシュナの考えが無謀に思えた。


「北西のデロスにも騎士団はいる。そちらと合流して魔獣に応戦するわ。それにあなた達じゃ私の速さについてこれないでしょ」


「グッ……」


 ダントンが拳を握りしめ顔を歪める。ヒューイは黙ってそれを聞いたのちに、口を開いた。


「確かに騎士団に団長の速さについて行ける奴はいねえ。ですが、先行した団長の後からでも俺らが援軍に向かった方がいいと思いますがね」


「一理あるわね。でも今回の魔獣の襲来は何かおかしい。本来ならデロスまで侵入される前に、狼煙での連絡や伝書鳩が飛ぶはず。それらが一切なく、魔獣の数も不明確となるとね……」


 それを聞いて二人がハッとした表情になる。なるほど、確かにそれは妙だ。結界のないフェルゼーンだ。防衛対策もかなり精密に練ってあるに違いない。


 それが機能していないということは……もしかするとこれは人為的に引き起こされた可能性がある。


「何者かの意識が介在しているなら、敵の狙いは一か所とは限らないわ。もしそうなったとき、全戦力を北に集中すると間に合わない。でもこの国の中心である王都からなら、ギリギリ間に合う。ダントンとヒューイは残った兵力を率いて万一に備えなさい」


 そう命令を下すや否やシュナは口笛を素早く鳴らした。すぐさま一匹の馬が馬車小屋から飛び出し高らかに嘶く。


 シュナはそれに飛び乗るなり、小さく詠唱した。風の呪術を使ったのか彼女の馬は少宙に浮かんでそのまま風の様に駆けて行った。


「こうなったら後は団長に任せるしかねえ。坊主、俺はさっきの命令を伝達しなきゃなんねえから、後はダントンに案内してもらってくれ」


「……」


「おい、ダントン」


「分かってる。おい、小僧。ついて来い」


「はいっ」


 ピリピリとした様子で大股で歩いていくダントンに大人しくついて行く。不機嫌だからか尻尾がピンと立っている。


 ……気まずい。気まずいのだが、特に会話も思いつかないので周りの様子を見ることにした。


 騎士団の詰所はどうやらロの字形に寮や訓練場が建てられているようだ。真ん中の中庭ではスペースの一角で模擬刀を振り回して訓練している集団もいれば、読書をしている者もいて自由に使われていた。


「ここが俺の部屋だ。今日からしばらくお前は俺と同部屋だ」


 部屋を見渡すと、無骨な部屋であった。唯一の癒しは何故か机の上で干からびてる青い花束くらいだ。後は二段ベッドに訓練用器具だけ。


「二段ベッドの下が俺だ。俺はまだ当直があるから、俺が返ってくるまでこの部屋で大人しくしている様に」


「分かりました」


 そういって閉めると軋んだ音のする木製のドアを閉じてダントンは去っていった。暇だな。彼が帰ってくるまで何してようか。と思った瞬間ドアがバンと音を立てて開いた。


「わっ!」


「絶対にベッドの下を見るなよ」


「み、見ませんよ」


 それだけ言って再びダントンは去っていった。一体なんなんだ。ベッドの下を覗いてやろうかと思ったが、止めておいた。


「……暇だ。そうだ、シュナさんもいないから呪術の練習でもするか」


 僕は二段ベッドの一段目に座って、目を閉じる。いきなり術の練習の入る前に、元の世界で持っていた知識とこっちの世界で得た呪術の知識の擦り合わせをするか。


「最近いろんなことがあって、そろそろ頭の整理がつかなくなりそうだし」


 まずもとから知っていたのは、呪術は空気中の霊気を利用して術を行使すること。


 しかしこちらの世界に来て初めて知ったのは、自らの血の中にある霊気を用いた場合の方が威力高いということだ。初めてシュナさんと会った時も、自分の血から集めた霊気の方が強い呪術が放てた。


 次にこれは書物で元から知っていたことだけど、この世には属性というものがあるらしい。属性には自然・愛・力・狂気・宙など様々な属性があり、呪術は主にその内の自然を統べる術のようだ。


 なぜ自然かというと、空気中の霊気の多くが自然の属性を持った霊気だからだそうだ。


 そして呪術では空気中の霊気以外を使ったり、自然以外の属性の呪術を用いたりする事を禁忌としていた。


 だけどシュナは指の怪我を呪術で治していた。治療の呪術は愛の属性に入るはず、あれはもろ禁忌違反じゃないのか?


「どうする? 空気中の霊気を操る練習をするか、僕の中の霊気を操る練習をするか」


 後者は禁忌らしい。やめておくか。そう思って空気中の霊気に集中しようと思った時に、魔獣の姿が脳裏によぎった。


 そうだ。僕はムーンドールに帰らないといけない。道中には魔獣もいるだろう。なら迷っている場合じゃないだろ。僕は瞳を閉じて手のひらに自分の霊気を集め始めた。

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