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第40話 『結婚式』

 こうして無事に式を終え招待客をお見送りした僕とシェリルが大広間に戻ると、疲れているだろうにテキパキと披露宴の後片付けをしているマリアが目に入った。


 正直、誘拐事件からの、ヨギル家の暗殺者との戦闘からの、超越者との死闘からの、直後に結婚式で慣れない主催をしたものだから、式の記憶があまりない……


 それでも覚えていることもある。神父の前で指輪を交換するときは緊張した。


 近衛騎士の部下達を代表したヘレナやクリスのスピーチや、サプライズでフィリップ殿下から預かった手紙を頂いたときは涙が出たし。


 ただやはり今日は本当に怒涛の展開で頭と感情が追い付かなかった…… 大なり小なりみんなそんな感じだったらしく、隣にいるシェリルの顔を黙って見たら苦笑を返された。


 アイリーンとかもワイングラス片手にテーブルに突っ伏している。途中から起きてきたナツだけがガツガツと残った料理をかきこんでいた。すっかり今日は店じまいそんな雰囲気が出ている中、僕は手をたたいてみんなの注意を集めた。


「さ、二次会しようかっ!」


 シェリルやナナやルルさんがきょとんとした表情でこちらを見た、マリアもびっくりした表情だったが、すぐに笑みを浮かべた。


「それはいいですね! すぐに準備を―」


 そういってマリアが厨房に行こうとするのを引き留める。


「大丈夫。実はアスピア本邸の方でもう準備してるんだ」


「しかし転移陣は壊れてしまったと聞いているが……」


 そう尋ねてくるシェリルに僕は不敵に笑った。


「ふっふっふ。問題ない。新しいのを回収したからね」


「あっ、私が連れ去られた転移陣ですね! たしかにあれならあのお屋敷に繋がっていますねっ」


 口を押えてその手があったかという表情を浮かべるマリアに笑いかけた。


「というわけで転移の間に行こう!」


 みんなでぞろぞろと転移の間に行き、僕が先に転移した。後からシェリルが転移してくる。彼女の目が驚きで見開かれた。


「ここは?」


 そこは小さな庭だった。キャンドルの灯がゆらゆらと揺れて辺りを優しく照らし、白や青のみずみずしい生花が可愛らしく庭を飾っている。


 完全に転移の間に出ると思い込んでいたシェリルにとって、想像もしなかった光景がの前に広がっていた。


 そんな彼女の手を引き、草花のアーチをくぐると眼下に月明りに照らされた湖が広がっていた。湖の向こう岸にはアスピアの町が明かりをつけて輝いている。


 そんな光景に魅入っている彼女の横に立って僕も同じ光景を眺めた。


「いつもはあっち側から湖を見るからさ。それはそれで湖の向こうに見えるガルディアン山脈は見事だけど、僕たちの町が見えるこっちからの景色も見せてあげたかったんだ」


「リオン、ここは?」


 こちらを見上げてくる彼女に微笑みながら僕は口を開いた。


「グルドンと、彼の亡くなった奥さんの家だった場所さ」


「グルドン!? 知らなかった……そうか、あいつはここに住んでいたのだな」


 そうこの家は元アスピア魔獣討伐隊の長グルドンとその妻アイナという方が住んでいた家だ。今はギムリが管理している。みんなにばれず身内だけの式場を用意したいとギムリに相談したところ、彼が教えてくれたのだ。


 遅れてきた皆もその景色に息をのんでいると、ルルさんが驚いた声でギムリを振り返った。


「お父さん。あいつの家を管理しているって聞いていたけど、アイナさんのお庭を手入れし直したの?」


「いやこの庭はアイナ殿が亡くなった後も、グルドンが大切に手入れしておった。儂はそれを引き継いだにすぎない」


「僕のわがままなんだ。僕とシェリルの結婚式はやっぱり仲間たちに祝ってほしいし、グルドンさんも魔獣討伐隊の仲間だったことには違いないだろうと思って」


 驚くルルさんの背中にギムリがそっと触れた。


「ルルよ。儂は、あやつから聞いたことがある。毎朝起きると街を眺める。そして仕事に向かうと。儂らと歩む道は異なったが、きっと目指したものは同じだったのじゃと儂は思う」


 そうギムリが静かに語りかけるとルルさんが涙を流して座り込んだ。ナナも泣きながら彼女に抱き着いた。


「ここから見る景色がこんなにも美しいのは、ここにいる皆とシェリルがこの領地と領民を思い大切に守ってきたからだと思う。僕はそんなシェリルを心から尊敬しています」


 そんな光景を見て目を潤ませるシェリルに僕は跪いき腕を差し出した。


「好きです。結婚してください」


 彼女は僕の手を黙って取った。その瞬間とてつもない幸福感が押し寄せ僕は思わず立ち上がって彼女を抱きしめた。


「なあリオン」


「うん?」


「これからも傍にいて」


「うん」


 囃し立てる周囲に気恥ずかしさを覚えていると、胸元で顔を赤く染めていたシェリルがこちらを見上げてきた。


「ほらリオン。わたしばっかり幸せな気分にさせていていいのか?」


「あっ、うん。でも」


「ほら、しょうがない奴め。いつも私が尻を蹴ってやらないと動けないんだから。ほら行ってこい」


 そう言った彼女の視線の先には目元をハンカチで拭うマリアの姿があった。僕は緊張した面持ちで彼女のもとに歩いていく。


 きょとんとした表情の彼女を前に僕は上ずった声で話を始めた。


「マ、マリア」


「どうしました?」


 不思議そうに見つめる彼女を前に、僕は緊張で口の中がぱさぱさになった。両手の拳を握って怖気づいてしまう自分を奮い立たせる。


「その、僕はダメなやつなんだ。魔法が使えないくらいで人生を諦めそうになるし、間違った選択をした時も後悔で死にたくなる。この先の進もうとする道にも自信がなくて尻込みしそうになるかもしれない」


「でもいつも君は一緒にいてくれた。こんな僕を支えてくれた。僕は君がいないと駄目なんだ。だからこれからも一緒に居て欲しい!!」


 驚いて口を押える彼女に、僕は跪いて胸元から小さな箱を取り出した。


「結婚してください!」


 心臓が飛び出るほど驚いたマリアはしばらく固まった後、ちらりとシェリルを見る。彼女が苦笑を浮かべてウインクしたのを見てマリアは静かに青年へと薬指を出しだした。


 僕は緊張と幸せで手が震えそうになるのを堪えながらダイヤの指輪をはめる。その瞬間、真上から麦酒が降りかかってきた。直後、ガハハという笑い声とともにギムリが僕の首を絞めてきた。


「まったくリオン殿はとんだ男ですな。同時に二人と式を挙げるなぞ聞いたことがないですぞ」


「まったく最低なの」


 ナナがジト目で僕の膝を蹴ってくる。ナツが僕の肩をゆびでつついてくる。


「兄ちゃん二人にちゅーしないの~?」


「子供がませたこと言うんじゃありません」


 そんなクソガキをアイリーンが強制連行していくと、ルルさんが次の酒樽を担いできた。


「おぉ! 娘よ。分かっておるではないか! ではいくぞ! 宴じゃあああーーーーーー!!」

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