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第30話 『告白』

 馬車に揺られながらマリアに渡された式の招待者名簿を確認していく。貴族の名前はなんで長い名ばかりなのだ。上下に揺れる馬車の中だと文字がぶれて読みにくい。


 何故かついてきたギムリは酒瓶を抱きしめながら眠っている。こいつが微妙に僕の腕を枕にしているせいで余計読みにくい。


「ねえシェリル。この西ムーンドールのポンティーパイン・ド・イーグリングランティーゾベッグってどなた?」


「西ムーンドールのイーグリングランティーゾナーグル家の奥様のポンティ―マロンさんの従姉妹だそうだ」


「そのポンティ―マロン・ド・イーグリングランティーゾナーグルさんはどなた?」


「その方は西ムーンドールのイーグリングランティーゾフレーフル家のポンティ―……なんだっけな。ポンティ―メロン、レモン……」


 頭を捻り始めたシェリル。ずっとポンティ―なんちゃらと呪文のようにぶつぶつ呟いている彼女の様子がおかしくて笑えてくる。


「この人達はヨギル家とは関係があるの?」


「それはない」


「ならいいや。それにしても半分以上顔も知らない人達だ」


「これも大貴族の務めということだ」


 つくづく貴族は面倒だ。肩を竦めて名簿の続きに目を通す。


「ねえシェリル」


「なんだ?」


「貴族の務めは置いといてさ、もし僕が地味婚派って言ったらどうする? 僕らに祝ってくれる家族は居ないけど、代わりに親しい友と仲間を呼んでさ」


「奇遇だな。私もだ……しかし―」


「いいじゃないですか! 二次会でやりましょう! メテルブルクは行きにくくてもアスピアなら出来ます!!」


「わっなんじゃあ敵襲か!」


 拳を握りしめて気合を入れるマリアに、敵襲と勘違いしたギムリが驚いて馬車から飛び降りていった。


 慌てて窓を開けて振り返ると、横道で倒れて眠っていた。そのままおいて行こうか一瞬迷ったが道端に放置したら人の迷惑になると思い、エンキの霊気でこちらに引き寄せ馬車の中に入れる。


 そんなこんなで式場装花を決めるために花屋をいくつか回った後、宝飾店に着いた。馬車を降りシェリルに手を差し伸べると、彼女が馬車の中を振り返った。


「マリア。馬悪いが車の中に残ってギムリを見ていてやってくれないか? 飲んだくれをお店には連れていけないし」


「承知しました。ギムリさんは任せて下さい」


「リオンもいいか?」


「そうだね……店の中でもヨギル家の刺客が近づいてきたら霊気で感知できるからいいよ。でも馬車の中からでないようにね」


 そう言って二人で店に入ると、事前に行くことを連絡していたので店主店員総出で出迎えられた。


「ア、アスピア辺境伯様お待ちしておりました。かの有名な白龍卿にご来店いただけるとは身に余る光栄でございます」


「こちらこそ今日はよろしく頼む。あまり気遣われるとこちらも息苦しい。さっそくだけど商品を見せてくれるかな」


 頭を下げたまま視線すら合わせようとしない店主をなんとか落ち着かせながら、接客室に案内された。


「本日お求めになっているのは結婚指輪でよろしいでしょうか?」


「うん」


「リングの素材とどの宝石にされるかはお決まりですか?」


 そこから色々なリングを見せてもらい、やはり王道のプラチナのリングとダイヤモンドの指輪で決まった。


「では宝石のサイズを決めましょう」


 そういって左から小さい順にダイヤが並べられた。一番大きくても小指の爪くらいの大きさで、一番小さいのがその半分ほどの大きさだった。


 真剣な表情で見比べているシェリルが可愛らしかったが、放っておくとずっと悩みそうなので僕は懐に手を入れた。


「実はダイヤはもう持っています。これを削ってくれませんか?」


「左様でございましたか。流石はアスピア辺境伯様。原石をお持ちとは」


 突然変な事を言い出した僕に、びっくりした表情のシェリルが慌てて耳元で囁いた。


「リ、リオン。当家にはそんなものはないぞ」


「まあ見てよ」


 僕が懐からそれを出すと店主の顔色が変わった。ハンカチを広げていき中身が本当にダイヤモンドの原石だと分かった瞬間、彼の口があんぐりと開かれた。


「と、とんでもない大きさだ。リ、リオン! こんなものどうしたんだ!」


「メデュラモン火山で見つけた」


「それで削って頂けますか?」


 そう言って店主を振り返ると気絶していた。店員が気絶した店主の肩をゆするが、起き上がる気配が無い。やがて直ぐに目覚めさせますと言って彼を運び出した。大丈夫だろうか。


 待っているの間シェリルに改めてダイヤの希望サイズを聞こうと横を向くと、彼女もこちらを見つめていた。


「じっと見つめてどうしたの?」


「リオン。私はお前を愛している」


 突然の告白に驚くも心が温かいもので満たされるのを感じる。彼女の空色の髪を撫でながら瞳で見つめ合う。


「僕もさ。まだ僕たちが小さい頃だったけど君と婚約した時に思ったんだ。こんな可愛い女の子が僕のお嫁さんになるんだって」


「だが彼女の事も愛しているのだろう?」


 その言葉は僕の深い所にすっと入り込み、身動きを取れなくさせた。色々な言葉が浮かんでは消えていく。どう取り繕うとしてもマリアへの気持ちを表現する言葉は他に見つからなかった。


「愛している。彼女が傍にいるだけで幸せを感じる」


 母親も居ない、父からは魔法が使えないと分かり切り捨てられた。そしてシェリルとの婚約も破棄となってからは一人だった。


 まだ幼い時だったからだろうか。彼女と出会った時の事はあまり覚えていない。でも彼女と出会って間違いなく僕の時は進み始めた。


 呪術の研究が上手く行かなかった時も、ドリス村の事で思い悩んでいる時も、彼女が居たから踏ん張れた。


「まったくひどい男だお前は」


 潤んだシェリルの瞳が揺れていた。咄嗟に何か声を掛けようとしたが言葉に詰まる。でも馬鹿な僕が絞り出せたのはごめんしかなかった。


「ごめん」 


「でも私もひどい女だからな。身を引く気は一切ないぞ」


「えっ」


「指輪は三つ作ろう。私とリオンと彼女の。それを握りしめて告白して来い。それでこっぴどく振られてしまえばいいんだ。どうだ私はひどい女だろう?」


 驚いて彼女の顔を見るといつもの不敵な笑みを浮かべていた。


「シェリル……」


「もしマリアが告白を受け入れたなら……帝都での式の後に、三人だけの式を挙げよう」


 そう言って彼女は僕の唇に口づけした。

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