第27話 『最後の一仕事』
「不思議な扉?」
「はい。途轍もない硬度でナツ少年が言うにはフェルゼーン語が書いてあったそうです」
ナツが目覚めるまで、別行動していた時の話を聞いていたのだが、想定外の出来事に思わず僕は聞き返した。
「詳しく教えてくれないですか?」
「はい」
フランさん曰くメデュラモン火山の中で魔獣から逃げている際に、不思議な坑道のような場所に迷い込んだらしい。そこは正方形にくりぬかれていて、壁も白く、天井には定期的に白い明かりがついていたらしい。
極めつけはフランさんでも切れない扉で、フェルゼーン語で扉の横の黒い板に手を合わせろと書いてあったので、触ってみると開いた様だ。
「それがこの扉ですか」
ドアノブが無い。見ると鋼鉄製のようで真中に線が入っている。横開きなのか。しかしナツが触れたという黒い板は見当たらないな。
それにこの扉はずっと前から溶岩の冷え固まった火山岩に覆われ、外からは隠れていたようだ。岩の表面には苔が生えている。そして扉には確かにフェルゼーン語が刻まれていた。
興味深そうに僕の左右に立ったソフィーさんとフランさんが刻まれた文字をのぞき込んでいる。
「なんと書いてあるのですか?」
「第3シェルター。A扉と書かれています」
「そのしぇるたー、とはどういう意味ですか?」
なんだったか。フェルゼーン語は独学だし、古い言葉のいくつかは意味が分からない者も多い。昔集めたフェルゼーン語の辞書を記憶の中で漁る。
「確か……避難所を意味する言葉だったはずです」
「避難所? 基地ではなく? 見たのは不思議な通路だけですが、その整備具合は尋常でないものを感じました。もしや中にフェルゼーン人が居て、次の戦争に向けて何か画策しているかもしれません。そうなればナズベル領内に敵基地がある事になります」
深刻な表情で話すフランさんに、想定外の事態に理解が追い付いていない様子のソフィーさんがおろおろとしだした。
「まずは扉を開きますか。二人とも下がっていてください」
手のひらに霊気を集め手を翳す。
「フレイム」
爆炎と共に爆風が吹き荒れ瓦礫が飛び散る。やがて黒煙が晴れると扉の真中に穴が開いていた。しかしその奥にもう一枚扉がある。
「フレイム」
同様に扉を破壊し、さらに現れた三枚目の扉も破壊すると今度は中からマグマが噴き出してきた。
「わっ」
とっさに空へ飛び回付すると扉にあけた穴からどばどばとマグマが溢れ出し止まる気配が無い。この様子だと中は完全に溶岩で潰れているな。諦めてギムリ達の元へ降り立ち方をすくめた。
「中の探索はできそうにないですね」
「では敵基地の懸念は晴れないということでしょうか……?」
戸惑った声でつぶやくソフィーさんに振り返る。
「調査は必要だと思いますが、個人的には基地の可能性は低いと思います」
「なぜですか?」
「一つは扉が苔に覆われるほどかなり前から火山岩に覆われていたこと。今も生きている敵基地なら扉の前が完全に塞がっているはずがない。後はやはり扉に刻まれた避難所という文字が理由ですかね」
本当はもう一つ理由がある。僕はフェルゼーンを見たことがあるが、王城ですらここまで堅牢な扉は無かった。
しかも扉に霊気は感じない。にもかかわらず扉が勝手に開いたということは、霊気とは別の未知の原理が扉を動かしていたということになる。
そんな技術力がフェルゼーンにあるとは思えない。そもそもこれはフェルゼーン王国の施設なのだろうか? いや別のフェルゼーンの技術でないのだとすると、扉に刻まれたフェルゼーン語の説明がつかない。
……駄目だ。完全に謎だな。
これ以上は埒が明かない雰囲気を感じたのかソフィーさんが明るい声で手を叩いた。
「恐ろしい魔獣は討伐できましたし、メデュラモン火山は引き続き当家で調査します。今は本来の目的を果たしましょう! リオンさん」
「ですね」
そう言って僕はアースレッドが出て来た大穴に目を向けた。ここから魔獣達が結界外から侵入してきたのだ。もしかしたらこの穴を通ればまだ探索可能かもしれないが、生憎僕にはそんな時間はない。
ヨギル家の刺客のこともある。あまり別邸を空けておいてシェリルに何かあったら大変だ。しかしその前に一つ確認しておかないと。
「その前に僕達は結界の外ですけど、ここを塞いでも帰れますか?」
「それはもちろんです。私は領主の娘なのでちゃんと鍵は持っています」
そう言ってソフィーさんが胸元から布製のタリスマンを取り出した。恐らく布の中に結界水晶の破片が入っているのだろう。それに僕達の血を一滴登録すれば、結界を通り抜けられる。
「分かりました。ではお願いします」
「ではやりますぞ」
ギムリとソフィーさんが大地に手を突くとみるみる地面が盛り上がり完全に穴をふさいだ。その後他に穴が無いか僕が空を飛び見回ったが、ここ以外には無かった。
個人的には扉に刻まれた第3シェルターA扉という文字から第1や第2みたいな別の避難所や、他の扉が複数ある気がして、探したがそれも見つからなかった。溶岩に埋もれたのだろうか。
それを聞いたソフィーさんがホッとした様に座り込んだ。
「皆さん本当に、本当にありがとうございました。私達遂にやったんですね!」
「ええ。お嬢様」
「ん、ん~。あれオレ寝ちゃってたの?」
「ナツよ! 目覚めたか!」
ギムリがナツの両頬を掴みガクガクと揺らした。目覚めた途端に頭を揺さぶられて吐きそうになったのか、たまらず叫び出した。
「や、やめろよ爺ちゃん~」
どうやら一回で正気に戻ったようだ。思わず息が漏れた。良かった。ああ良かった。
「無事なのですね! ナツくんもありがとう!!」
ソフィーさんが感極まった様子で抱き着き、その後ろでフランさんも微笑んでいる。僕もゆっくり彼の元へ歩き、しゃがみ込んで拳を突き出した。
「あの魔獣はナツが倒したよ。さすが狩猟協会の最初のメンバーだね。よくやった」
「へ、へへっ」
拳の先に伝わる感触の力に、ナツの成長を感じる。僕達の進む先にはきっと多くの困難があるだろう。だが彼やシェリルにマリア、ギムリ達が居ればきっと大丈夫だ。
「さあ帰ろう」
こうして僕達はメデュラモン火山を後にした。帰路ではナツは疲れたのかまた眠ってしまい、ギムリに背負われていた。
まだ急激に増え歪んだ霊気の負担が大きいのだろう。無理もない。道中は魔獣に襲われることもなく、僕達はナズベル辺境伯の本邸へと帰還した。




