第25話 『狩猟』
全員が転がり込むように扉を抜けると、再び扉が勝手にしまった。危ない……あとちょっと遅かったら、マグマでみんな焼け死んでいた。
「死ぬかと思いました……」
「私が居ながらお嬢様を何度も危険な目に合わせてしまい、大変申し訳ございません」
「謝るのは後じゃ……皆これを見よ」
爺ちゃんが指さした先には巨大な横穴が口を開けていた。どうやらオレたちは火山の外に出ちゃったらしい。
「ここは山の中腹の様ですね。扉を出た先が開けた場所で良かったです。崖だったら今頃どうなっていたか。でも私目がおかしくなってしまったのでしょうか? 夕日の光が橙色に見えます」
「ソフィー姉ちゃん、これが本当の夕日の色なんだよ。ここ結界の外だぜ」
その言葉に弾かれたようにソフィー姉ちゃんが空を見上げた。そこに薄青色の結界が無いのに気づくと、しばらく呆然と空を眺めた後に、急に周囲を見渡し始めた。
そんな彼女とは裏腹に、フランさんがゆっくりと爺ちゃんに歩み寄った。
「ギムリ様、ここが結界外だとするとあの横穴はもしや」
「うむ。あれがあの蚯蚓の魔獣が空けた穴じゃろう。あそこから結界外の魔獣がメデュラモン火山に侵入しているに違いない」
「ではあれを塞がなくては。お嬢様、ギムリ様、お願いできますか?」
「ええ! 私達そのために、ここまで来たんですものね。ギムリさんお手伝いお願いいたします」
「もちろんですぞ」
強く頷いた爺ちゃんが穴の前に立とうとした時、オレの背中を泡立つ様な悪寒が襲った。
「爺ちゃんっ!!」
とっさに背中を掴みこちらに引き寄せると、巨大な肉塊が目の前を爆速で通過した。血と腐臭が飛び散り、一瞬で辺りが汚染される。
「グゥゥゥゥゥゥガギャアアアアアアアアア!!!!」
「蚯蚓の魔獣! わしらを追って来たか」
体勢を整えた爺ちゃんが曲がった斧を構え、オレの前に立ち塞がり足を鳴らした。その途端、地面が盛り上がり網の様にアースレッドの体に絡みつき動きを止める。
でもとんでもない力で撒ばれる魔獣には、ほんの少ししか持たないように見えた。
「ですがこの魔獣……頭だけの様です」
「きっと体は兄ちゃんが吹き飛ばしたんだよ」
「その辺境伯様はどちらに?」
そうフランさんが疑問を口にしたその時、目を焼く様な閃光が頭上を走った。思わず上を見上げると、火口から信じられないくらい巨大な火炎が噴き出していた。
「また噴火したの!?」
「いや違う。噴火にしては地面が揺れていない。あれはリオン殿の魔法じゃ……」
思わず火口に目を向けると、爆風と共に巨大なうねる何かが空を舞うのが見えた。あれは……蚯蚓の魔獣だ! 刹那、赤と緑の閃光が煌めきと共に一瞬でその胴体がバラバラになる。
だが木っ端みじんになった傍から肉片が集合し復活していた。
「皆聞いてくれ! 今リオン殿が何度も奴を破壊しておるが、直ぐに復活しているように見える。恐らく本体を潰さんとあの魔獣は復活できるのじゃ。そしてその本体こそ」
「目の前のこいつという訳ですか」
「いかにも」
「なら最後の戦いといこうぜ!」
その言葉を皮切りに全員の目の色が変わった。みんな生きてこいつを倒す!
「ナツ! お主はあ奴の魔力を感じ取れるんじゃな!?」
「魔力じゃなくて霊気だって爺ちゃん」
「どちらでもよいわ! とにかくあの魔獣の魔力が怪しい動きを見せたらすぐ儂らに知らせよ。とにかく自分の身を守ることに集中せよ。これは命令じゃ」
「おう!」
「儂とフラン殿は前衛、ソフィー殿は後衛として援護を!」
ギムリがそう指示した途端、アースレッドの霊気が急激に膨れ上がった。黒く硬化したマグマの鎧の隙間から一気に霊気が漏れ出す。
「何かするっ! 壁を作って!」
「任せろ!」
「任せて下さい」
ギムリとソフィーが同時に地面に手を突いた。大地が盛り上がり前方に三枚の土壁がそそり立ち、一拍遅れて岩のドーム状に全員を囲い込む。直後に魔獣から漏れ出た霊気が爆ぜた。
凄まじい爆炎と衝撃波が立て続けに土壁を吹き飛ばし、瓦礫と爆風がドーム前方を激しく打ち付ける。
周囲は岩に覆われ視界が塞がっていた。暗闇の中で岩の守りで手いっぱいになる二人を見ながら、ナツは冷静に霊気の流れを追った。
兄ちゃんは魔獣の姿が見えなくても、どこに奴らが居るのかいつも分かってた。焦らず一個一個兄ちゃんに近づくんだ。
あれ、魔獣がさっきいた場所にいない!?
どこにいったんだ。ってバカじゃないの! オレは農民だぞ。みみずが消える場所なんて地面しかないじゃんか。てことは……
「あいつオレ達の真下に潜ってる!」
「ソフィー様! 天井を開けて我々を空に!」
ハッと振り返ったソフィーの代わりにギムリが地面に足を叩きつけた。突如四人の足場が浮き上がり上方へと打ち上げる。
慌ててソフィーが頭上に手を翳しドームの天井を開いたその刹那、真下から巨大な蚯蚓の口が飛び出した。
アースレッドの口からは火の粉が散っている。その奥に感じる膨大な霊気にナツは叫んだ。
「あいつ火を吐く!」
「ソフィー殿! 岩玉を射出します! 援護をッ」
「はっはい!」
ギムリが眼前に岩石球を生み出した。それめがけてソフィーも両手を突き出すと、無から数多の瓦礫が生成され、岩石球に集合しだす。
魔獣の口内の霊気が臨界に達するのと同時に、巨大な岩石球が発射された。
「ソフィー殿、ここが踏ん張りどころですぞぉ!」
「やあああああああ!」
空中の足場に両足で踏ん張り、魔獣の口蓋に巨岩を押し込まんとするギムリ。片膝をつきながらも懸命に喰らい付くソフィー。
だが火炎の勢いは増すばかりだった。岩で散らされた火花が激しく飛び散り、皮膚が焼けそうなほど熱い。
「おっ、押し込まれます」
どこか弱点はないのかよ! 焦る気持ちとあまりの熱に、頭が何も考えられない。その時、リオン兄ちゃんの言葉がよぎった。
『ナツ。最後に大切な事を教える。それは歪みだ。歪みこそが呪術の本質』
そうだ。霊気の流れを追うんだ。瞳を閉じて集中する。皮膚を焦がすほどの熱も目を焼くほどの眩しい火炎の光も忘れ、暗闇の中に身を沈める。
まず感じるのは目の前の岩を押し込もうとする爺ちゃんとソフィー姉ちゃんの霊気。次に感じるのは激しい火炎を吐くアースレッドの歪んだ霊気。
でもこんな雑な感じ方じゃだめだ。もっと良く観察するんだ。あの炎はどこでつくられているんだろう。口の奥深くへとゆっくりさかのぼる。
……みつけた! あいつの頭の後ろから中心に向かって霊気が集まっている。そこからあの炎が吐き出されているんだ。きっとあの霊気が集まっている場所が弱点に違いない。
「みんな! あいつの弱点をみつけた!」
「どこですか!」
真っ先に反応するフランに、ナツも声を張り上げた。
「えぇっと、あいつの頭の真中より少し後ろの方なんだけど、口じゃ説明できない!」
「ナツ! ならお前がやるのだ。フラン殿こやつの援護を!」
「分かりました。恐らく奴の背後はもともと肉の断面だったので、防御力も弱いはず」
そう言うや否やフランさんがオレの足場に飛び移って来た。
「背中におぶさってください。地上に飛び降りたら私が前に立ち、奴の傷を開きます。あなたは敵の弱点に攻撃を。火力は出さるのですか?」
「オレの霊気と、この短剣の水晶の霊気と、足りない分は周りの霊気を集めれば行けると思う」
そういいながらオレはフランさんの背中におぶさった。すごい緊張する。でも決めたんだ。オレは弟も村の皆も守れる男になるって。兄ちゃんを助けられるようになるって!
「了解です。では行きます」
フランが空中の足場から飛び降りた。霊気で二人の移動を感知したアースレッドは自分の胴体から無数の触手を生やし獲物を絡め取ろうとする。
「数だけ多くても!」
フランが腰の刀を抜き放った。一瞬で七つの剣閃が炎と共に走る。触手は二人の身体を捉えることなく切り捨てられた。魔獣の背後に着地した彼女の背中からナツが転げ落ちる。
「ぎゃっ」
「道を開きます」
そう言い放つや否や魔獣に目掛け駆け出したフラン。転がりながら何とか立ち上がったナツも銀獣の骨から作り出した短刀を抜き放ち追いかける。
その時ナツの全身を激しい悪寒が貫いた。筋肉で蠢く魔獣の背面の奥に激しい霊気を感じる。もしかしてあいつ!
「フランさん! あいつ後ろからも火を吐く気だ!」
「あなたは弱点への一撃ことだけを考えて下さい」
「でも!」
魔獣の霊気が急激に高まる。直後アースレッドの背面がばっくりと開かれた。汚臭と熱風が喉と鼻腔を襲う。
「言ったでしょう。道を開くと。私はナズベル家筆頭執事です」
目視できるほど凝縮された魔獣の霊気が赤く光り出した。それを前にただフランは呼吸を整え居合の姿勢を取る。
魔獣と彼女の間には圧倒的な霊力差があるようにナツは感じた。同時に彼女の霊気が刀へと一部の乱れも無く均一に流れていくのを感じる。
研ぎ澄まされていく……
見よう見まねでナツも目を閉じ銀獣の短刀に自身と周囲の霊気を集めていく。霊気の集め方はリオン兄ちゃんのフル・フレイムを見習って、刀への霊気の籠め方はフランさんを見習って。
そしてついに魔獣の霊気が全開放された。極太の業火の奔流が迫り来る。眼球が熱波に耐え切れず思わずナツは目を瞑った。
「不知火」
刹那、フランが神速の一閃を放った。斬撃が業火を断ち、魔獣の肉体を切り裂く。激しく噴き出す血飛沫。
「今です!」
彼女の声に弾かれてナツが駆け出した。立っていられず片膝をついたフランは、目の前を走る少年を黙って鼓舞した。
クソッ! 傷がもう塞がり始めてる。傷が治ったらきっとオレの力じゃ、あいつの弱点まで攻撃を届かせられない。
でもこのままじゃ。もっと早く! もっと!
ナツの脳裏に再び過ったのはリオンの姿。全身を炎に変え高速で突撃する様だった。でもだめだ。オレにはどうやっているのか分からない。そこまで霊気を使いこなせない。
だけどなんでもいいから全部やるんだッ
身体に流れている霊気を稲妻に変換する。髪の毛が逆立ち体にバチッと青い電機が走る。それはひどく不格好であり、リオンのそれとは別物であったが、ナツの身体能力の向上に繋がった。
加速した勢いのままに青白く発光する短刀の柄を両手で掴んで、思いっきり魔獣の背後に突き刺した。
血飛沫がナツの顔を濡らし霊気の急激な汚染が始まるも、止まらなかった。そしてその刺突は遂に魔獣の核へと達する。
「ギュギャアアアガアアアアアアアアアアアアアア」
鼓膜を裂くほどの断末魔と共にアースレッドの頭部が盛り上がり破裂した。
メデュラモン火山に巣食った大魔獣はここに討伐されたのであった。
【️御礼】
本作も100話目となりました。
ここまで読んでくださった読者の皆様、
リアクション、ブクマ、評価いただいた方ありがとうございます!!
物語はまだまだ続きますが、少しでも楽しいお話をお届けできたらと思います!




