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軽い浮遊感を感じる。
あの時と違うのは、蒼月が受け止めてくれたら。
再び降り立った場所は自宅の母屋。
あの日からどのくらいの月日が経過したのかわからないけれども、カーテンから差し込むのは茜色の光。
夕方だと、認識をする。
ひとまず自室に戻って着替えようと、涙を拭うと蒼月の腕から降りる。
この時間帯で、この静けさ。
みんなまだ帰宅してないのだろうか?
そんなことも考えてみたが、まずは着替えが必要だと、自室に戻る事にした。
部屋は私が儀式を受けた日と変わらず綺麗に整頓されており、毎日掃除をされているようだった。
クローゼットから、デニムとパーカー、ブラウスを着る。
着替えている間、鏡に映った自分の顔はひどく泣き腫らした顔をしていた。
〈雪華、桃と少し冷やしてくれる?〉
雪華は何も言わずに目元を冷やしてくれる。
そして琥珀が少し温めたタオルを持って来てくれた。
交互に繰り返し、泣き腫らした目は、多少マシになった。
目指すのは父さまのところ。
きっと仕事部屋にいらっしゃるはず。
階段を降りた所で、兄様たちと再会をした。
私の姿にひどく驚いた表情をされていた。
「「皐月!!」」
そう名前を呼ばれて。私は兄様方に抱きしめられた。
兄様方の声を聞いてリビングから出てきた母さまは、少し痩せたようにみえた。
「兄様、ちぃ兄様。ただいま戻りました。」
「皐月!」
「母さま!!」
母さまの姿を見ると、兄様達の腕の中から抜け出し母さまに抱きついた。
「よく、無事に。お父様にはお会いしましたか?」
「いえ、今から向かうところです。」
「そう、では行ってらしゃいな。」
「はい。」
軽い抱擁を交わし、私は当初の目的である父さまの仕事部屋へと向かった。
部屋の前に立つと、数回私は深呼吸をした。
扉をノックし、返事がある上でそのまま室内に入り、書類と睨めっこしている父の机の前に立つ。
「父さま、ただいま戻りました。」
兄様方と間違えたのだろう。
私の声を聞くなり、勢いよく顔を上げた。
その表情は複雑そうに、だけど再び合えた喜びからか、目尻は下がっていた。
「おかえり。皐月。」
椅子から立ち上がり、私を抱きしめた父様は「おかえり」そして「辛い決断をさせた。」と、囁いた。
その言葉を聞き、泣き止んだはずの涙腺は緩み、涙が再び溢れてきた。
「っぅ、う・・・・。辛いとか、苦しいとかそんなんじゃ言い表せない!どうして私だったの?なんで私は、玉依姫なの?!なんで?!なんで、心から突き動かされた、初めて好きになった人とっ!!!」
力が本当は強いと分かった時は、単純にうれしかった。
これで兄様や父さまの役に立てるようになるのだと思えたから。
だけど、私にこんなにも重い決断を強いられるなんて思いもよらなかった。
歴代の玉依姫はどうやってこの決断をしたのだろう?
「辛い決断をさせてしまってすまない・・・。」
父さまは泣きじゃくる私を強く抱きしめながら、何度も口にした。
幼い子供のように、感情のままに、せき止めていた心を吐き出す。
誰も悪くない。
だけど、‘仕方がない’で終わらせるにはとても重くて、苦しい。
当主の儀式を受けた人間にしかわからない辛さ。
だから、父さまの前では素直に泣けたのだと思う。
しばらく泣き続けた私は、疲れもあってかそのまま意識を失うように熱を出した。
空っぽにしたはずの力を、身体が、魂が回復しようとしているのだろうと、頭の片隅で思った。




