千年続く恋に落ちて。
舞が終えると、力が抜けたようにその場に座り込んだ。
肩で息をして、なんとか呼吸を整える。
蒼月が背中をゆっくり摩りつつ、少し神気を分けてくれる。
「菊華!!」
「妃殿下!」
春仁さまと章平さまの声が聞こえる。
「疲れた・・・・・。」
そう呟けば、蒼月と朱桜に『お疲れ』と言われ頭を撫でられた。
「大丈夫か?」
「大丈夫です。」
「痛いところとかないですか?」
「あ、大丈夫です。章平さま後でお願いをしたい、のですが・・・・。」
「聞くから、姫さんその枯渇状態で喋らなくていいって。」
〈孫。夜、都の状態を見て来てくれ。ひぃさまのお願いはそれだ。〉
「わかりました。青龍殿。」
姿を現した蒼月は、私を抱き上げる。
「親王、承香殿は相手いるのか?」
「えぇ、空いていますが。」
「そこで大事な話がある。」
「分かりました。」
「世話になったな、2代目。後は頼む。」
蒼月に声をかけられた、陰陽頭は一礼をして現場の指揮を取り始めた。
承香殿に移動して来たのは、私が舞を舞って結界を張った中心の場所だから。
ここを中心に大内裏内の結界は循環している。
室内に入った事で、クラクラとしていためまいは落ち着いたし、息も整った。
体の怠さはあるものの、そこまで深刻ではない。
蒼月について承香殿にやって来ると、春仁さまと敦成さま、晴明さまも一緒に到着した。
「菊華の君、大丈夫ですかな?」
晴明さまに問われ、素直にうなずく。
「御霊送りだと聞いておったが、あれほどとは思わなかった。」
「・・・?私は御霊送りであの舞を舞いました、そういえば途中から青龍に風を都に送るように言われて、霊力、神力ともに最大まであげましたが・・・・?」
「都にもたくさんの魂が縛りつけられていたからな。一気に送ってやるのがいいと思ったまで。それよりも白虎、いるのだろう?」
蒼月の一言に都の風を外へ追い出していた琥珀が姿を現した。
手には我が家に伝わる小太刀を持っていた。
それは光を纏いふよふよと宙に浮いていた。
その小太刀を琥珀から受け取った蒼月は、目の前に小太刀を見せてくれる。
その瞬間理解してしまった。
陰陽師の直感は外れない。
「・・・・・帰る時が来た。って事?」
私の呟きに、蒼月と琥珀は頷く。
宮さまたちが息を呑むのが気配で分かった。
「ただ、ひぃ様に選択をしてもらわないといけない。もちろん今すぐ帰ることも可能だが、鞘から小太刀を抜かなければ問題ない。ただし、この小太刀に触れられるのはひぃ様のみ。」
「選択というのは?」
「俺も最近知ったんだけれど、俺のお袋が姫さまの先代の玉依姫だった。」
「え?」
そう、伝えて来たのは朱桜。
衝撃的事実に驚く。
あぁ、そういえば安倍一族の玉依姫は神将の奥さんになるんだっけ。私の場合は蒼月に嫁ぐという話だったなぁ。なんて、自分自身の事も考えながら、思い出す。
ん?ならば、琥珀のお母様が初代さまって事?
つまり、どちらの時代を選択しても、死後神将に嫁いだということになる、
青龍へ嫁ぐのは、どちらを選択しても結果は変わらない、決められた事。
今求められている選択は、この時代に残るか、それとも元の時代に戻るか。
の二つだ。
「ひぃさま。我々はどちらを選択してもひぃさまの意向に従います。もし、戻らなかった場合、ひぃさまのご両親も兄君達も、友達も皆、ひぃさまが初めから存在しなかったという認識になります。戻った場合は逆です。以前話したかと思いますが、初代の玉依姫は元の時代に戻りました。朱雀の母君はその時代にとどまりました。」
衝撃的事実に頭痛がしてくる。
だけどそれは、どちらでも良いと神将達は言っている。
だから、儀式の時のお父様達の表情に納得がいく。
二度と会えない可能性もあると、覚悟していたのだ。
「私が始まりと、終わりを意味する玉依姫というのは?」
「安倍一族の初代殿に会われるという事は、安倍家の始まりであり、安倍一族が終わることを示しています。」
「それはどういう・・・・・。」
「簡単に言うと、俺たちは神界に戻るし、安倍一族は徐々に力を失っていく。力を持つものが稀に生まれても今までとは違う。とても弱くなる。」
「いつまで待てるの?」
「次の満月まで。」
「後、七日という事ですな。」
・・・七日。
余りにも重たい話に、流石の私でも処理が追いつかない。
七日目の夜に、答えを決めると蒼月に伝える。
よく見れば、蒼月も、琥珀も、朱桜も辛い表情をしている。
私にとてつもなく、そしてきつくて重い決断を迫っている事を理解しているのだろう。
私が逆の立場だったとしても、言葉は強気に放ったとしても、ポーカーフェイスは無理だ。
困ったような、泣き笑いのような表情を見せた私は、しばらく承香殿で体力などを回復させたのち、梨壺に戻った。




