結んでほどけて
春仁様への恋心を自覚したあの日から私は正直挙動不審に陥っている。
そしてその日から、毎日視ている夢がある。
綺麗な女の人が、静かに泣いている夢だ。
廂から外を眺め、ずっと静かに泣いている。
心に浮かぶのは愛おしい男性。
ーーーー真音さま、と。
静かに愛おしい男の名前を紡ぐ夢。
その夢に感化されて、何度か涙を流しながら起きた日もある。
純粋に会いたいと願う思いは痛いほど私に伝わる。
それほど、その人を愛していたのだろう。
事情がよくわからない私でさえ、そう思ってしまったのだ。
冷たい水で顔を洗い、夢現の状態から意識をしっかり戻す。
どうも最近夢に引きずられていて、あまりよろしくない。
じっと、水に移った自分の顔を眺めていたら、背後より声を掛けられた。
「菊華、ここに居たのか。」
「春仁さま、おはようございます。」
「おはよう。」
嬉しそうに笑みを浮かべると、抱き寄せられ頬にキスをされる。
そして、唇が重なり、再度触れようと近づいてくるので顔をそらす。
どうも、春仁さまとキスをすると心臓が必要以上に早鐘を打つ。
ドキドキしすぎて正直、朝から心臓に悪いと思うようになった。
自覚って大切だけれど、どう接したらいいかが分からなくなる。
キスができずに少し不満ですという雰囲気は伝わってくるが、それでも春仁さまはめげずに、首筋に唇を落とす。
「ひゃうっ。」
「本当に首、弱いな。」
「ど、どこで覚えてくるんですか?!」
「それは秘密だ。」
耳まで真っ赤な自覚はあるが、大真面目に‘秘密だ’と言われれば、深く追求するのを止める。
どうせ、男性陣からの情報だろう。
いくらドキドキしていても、やられっぱなしは悔しいので春仁さまの襟元を引き寄せ少しきつめに吸い上げて、跡をつける。
流石にこれは教えられていないだろう。
たまーに、朱桜たちに残されることはあるが、もれなく歯形付きだ。
あれはキスマークとは言わない。
ふふん。と、満足げに笑えば軽々と春仁さまに抱き上げられる。
最近、春仁さまは私を抱き上げるのがお気に入りのようで、なるべく私も袿姿の軽装で過ごすことが増えた。
ちょうどその時、珍しく足音が聞こえてきたのでそちらへ視線をやれば早歩きして来たのであろう、敦成さまが息を少し切らしながらやって来た。
「絢音が目を覚ましました。ただ・・・・・」
「何かあったのですか?」
異変を感じ、春仁さまの腕から隣に立つ。
「あぁと、絢音曰く、崖っから落ちて自分は死んだはずだと。言っております。」
「そう、ですか・・・。」
え?と驚く春仁さまの隣で可能性を考える。
そのような事を言うのであれば、ここ最近の行動など記憶がない可能性がある。
死因はなんだ?
考えられるのは、左鎖骨下に埋まっていた石。
あれが本来大きなもので、左胸に刺さったのが死因であるならば‘死’というものに触れた事により、なんらかの事象が発生した可能性がある。
〈蒼月。〉
〈はい。〉
〈真意を確かめに行く。さっきに琥珀の元へ行って。〉
〈わかった。〉
「春仁さま、敦成さま直接私が確認したいので、少し待っていただいてよろしいでしょうか?束帯に着替えます。」
「可能です。ご案内します。」
「ありがとうございます。少しお待ちください。」
状況を確認し、雪華を呼んで束帯に急いで着替えることにした。




