心は儚い、コワレモノ
春宮妃として入内をしてから、私の周りには様々な情報が集まるようになった。
何より、内裏にも無害な妖が住んでいて、人々と同じように噂が大好きなのである。
そして、そんな妖にとって私は天敵で、さらに神将たちまで傍にいつも居るものだから、私に慣れてくれるまで警戒心が強かった。
そもそも私が張った結界内で平気に活動しているあたり、こちらからは無害な存在と認識されているのに。
内心思う。
時平の時は内裏に住まう妖達と交流する暇なんてなかった。
何せ、ずっと宮様についてまわっていたし、私がどこか1人で行こうものなら逆に宮様が付いてくるという状態だったからだ。
それが、春宮妃として入内してから、自由時間ができたというより時平として動く時間が減ったせいかもしれない。
朝起きたら宮様と一緒に朝稽古、沐浴、朝餉、参内をするのは宮様で、宮様が参内している間は時平で動けるかと思ったら、皇后さまに呼ばれたり、二の君さまを筆頭に宮様の妹君達からお茶などの集まりに呼ばれたりして、私は私で日々弘徽殿に通うことになってしまったのだ。
そうして弘徽殿に日々通うに連れて弘徽殿近くに隠れ住んでいた妖とも仲良くなったのだ。
私も神将も、妖に遭遇すればすぐに退治。と脳筋みたいなことはしない。
無害な妖は共存していいと考えている。
人に害や災いを与えなければ、ある程度のイタズラなんて見てみぬふりだ。
度が過ぎている時は、やり返しているけれど。
それでもやはりこの時代の妖達も素直で大変よろしい。
『姫さん、最近美丈夫の文使がいるの知っている?』
「いいえ。知らないわ。」
っこ絵をかけてきたのは1番初めにこの内裏に来て、仲良くなった妖だ。
だるまみたいな体躯ではあるが、情報収集能力が非常に高く、好奇心旺盛で、耳がかなりいいのだと自慢していた。
『女房達には人気らしいんだが、男の嫉妬は女よりネチッコイからな。それのせいだと思うけど、変な場所ができているぞ。』
「結界内では違和感ないけど。」
『危ない感じはないけど、なかなか消えないから気をつけろよ?姫さんなら大丈夫だろうけど。』
「そうね。ついでに後でその変な場所について教えてくれる?うちの子達に話してもらても構わないけれど。」
『やだよ、おっかない。』
「じゃあ、梨壺に戻ったら詳しく聞くわ。」
『あぁ、じゃあ後でな。』
話を聞く約束をして、話をしていた妖は姿を消した。
昼間からある程度動けるのだから、朱桜、琥珀、蒼月に話すくらい平気な気がするが・・・・。
相反する存在だから、もっぱら私に内裏での異変を伝える。
私だって一応、陰陽師なんだけどなぁ。
要は、そのイケメンの文使いが女房達にモテるから、内裏に出仕している数少ない男性陣が嫉妬してついでに身分が高い連中が色々してるということねー。
〈蒼月、夜動くから同行をよろしくね。〉
〈分かった。〉
「雪華は準備を。」
「かしこまりました。」
「さて、今日は何の相手をすればいいのかしらね?」
渡殿を歩きつつ、待ち構えている姫君達の顔を思い浮かべながら弘徽殿に足を踏み入れた。
今上帝のお后様は3人。
内親王殿下達は、皆年齢が近い。
そしてお后様達も年齢が近いが、想像していたよりも良好な関係を築いているという。
まぁ、平和が1番だしね。
寵愛は皇后様だが、それでも藤壺にも梅壺にも同じように気にかけている。
今上帝の心遣いが上手ということなのか?
と思う。
弘徽殿の室内に入れば、皇后さまをはじめ、一の君から三の君まで揃っていた。
そして並べられているのは、筝に、和琴、琵琶に横笛。
今日は楽器の演奏でもするのだろうかと思い、まずは皇后様にご挨拶をする。
「おはようございます。皇后さま、ご機嫌いかがですか?」
「おはよう、春宮妃。とても良いですよ。今日は楽器の演奏をしてくれるということで楽しみにしておりますよ。」
うん、そんな話は聞いていない。
最近上の空で返事をしていた部分もあるから、その突起に返事をしたのだろうと一人納得をする。
1番得意なのは横笛なんだけれど、さてどうしようか。
一の君から三の君がそれぞれ得意な楽器を演奏し、皇后様に披露している間に私は先ほど聞いた妖の話を思い出しながら、順番が回ってくるのを待つ。
3人は横笛以外の楽器をそれぞれ使用して演奏を終え私の順番になった。
「お義姉様は、どの楽器をご使用されますか?」
「私は、横笛を演奏させていただきますわ。二の君さま」
にっこり笑みを浮かべ、横笛を手にとる。
霊力を指先に集中させる。
ゆっくりと深呼吸をして、音を奏でる。
その音に乗せて、内裏全体の空気を綺麗にするために霊力を広げていった。




