溢れ出した感情は君のもの
翌朝早朝に目を覚ました私はのそりと身体を起こして隣で眠っている春宮さまを起こさないように、茵から抜け出した。
塗籠から母屋に出てくれば、雪華が姿を表した。
「姫さま、おはようございます。」
「おはよう、雪華。」
単衣から狩衣に着替え、髪を高い位置で結ぶと水で顔を洗う。
梨壺の前面に広がる庭で、軽く身体を動かし少しずつ体に溜まった霊気を放っていく。
梨壺独自に張っている結界、内裏全体に張っている結界に綻びがないか確認しながら、少しずつ薄く結界を強化して行く。
〈皐月、おはよう。〉
そう言って姿を現したのは琥珀だった。
〈おはよう。今日は琥珀の番だった?〉
〈そう。〉
〈もう少し体をほぐせば良かった。でもちょうど体は鈍っていたからいいのかも。〉
思いっきり伸びをして、互いに一礼をした。
「「お願いいたします!!」」
じゃりっと、間合いをとりながら互いに見つめる。
地を先に蹴ったのは琥珀で、それを冷静に受け止め力を利用して流す。
体勢を崩した琥珀だったがすぐさま体勢を整えて勢いそのままで、さらに攻撃を仕掛けてくる。
「っ、」
上手く受け流すことができず後ろへ、弾かれるがなんとか体勢を保つと仕掛けてきた琥珀の腕を取り、地面へ倒すと膝を背中に回し押さえ込み体重をかける。
「あー、もう!!」
「力を抜くにしても、抜きすぎたね。」
鍛錬で張り詰めていた空気は、琥珀の悔しげな声で解かれた。
琥珀の上から身体をどかし、琥珀の腕を掴んで起き上がらせると木刀が飛んできた。
「皐月、次は俺とな?」
ニヤリと、笑みを浮かべ私たちの前に降り立ったのは朱桜。
「ちょ、まった!蒼月!審判!!必要ないけど、いい具合で止めてほしい!」
名前を呼ばれて姿を現した蒼月は庇の手すりに腰をおろした。
止める気は早々に無さそうだが、きちんと見極めはしてくれるみたいだ。
カァアアアン!!
木刀同士が撃ち合う音が響く。
そもそも代理の春宮さまの殿舎のまでこのように朝早くから音を立ててもいいものかと思うが、時平として住んでいた衣装女房たちは来なかったな。
と思い深く考えないようにする事にした。
そして何より、朱桜は本当器用なことをさせるなとつくづく思ってしまう。
何度か打ち込んでいるうちに、印を結ぶというより、踏んでいた。
「朱桜!!!」
「これくらい使ったって問題ない。」
「もう!!」
最後の印を踏むところで、思いっきり朱桜の木刀を弾き飛ばしたのと同時に地面が光を放ち対侵入者への罠を仕掛けることになった。
ゴロリと地面に転がれば、廂に寝起きの春宮さまが立っていた。
「はい。」
差し出された朱桜の手を取り引き起こされるとそのままハグをされた。
「うーん、もしかして具合悪かった??」
抱きしめられたままの状態で、朱桜のつぶやきに私は首を傾げる。
「そんな感じはしないけれど・・・・。」
「念の為今日は大人しくしておけよ?」
「大丈夫だと思うけど、宮さまのそばにいる。」
「それがいいだろうな。」
「玄武、湯浴みの準備をお願い。」
私の指示に皆が動き、琥珀は朝の鍛錬の片付けをし、朱桜と雪華は湯浴みと着替えの準備をしに行き、蒼月が私を抱き上げた。
「ひぃさま、これはちょっと熱が出るかもしれませんね。」
「あ。本当??」
廂に一度下ろしてもらう。
「宮さま、おはようございます。」
「おはよう、菊華。毎朝あのような事をしているのか?」
「えぇ。今日は武芸の方でしたけれど、色々毎朝する日課はございます。」
「明日から、俺も参加していいか?」
「構いません。」
室内には宮様と2人で戻って、湯浴みだと雪華に連れられていつの間に作ったのかわからないけど、梨壺の北舎に御湯殿ができていた。
ツッコミどころは色々あるけれど、お風呂大好きな私としては助かる。
湯浴みをそうして、禊を含め身体を綺麗にする。
「雪華、この湯殿宮さまにも使ってもらっていいかな?」
「・・・・・それは構いませんが、あまり沐浴する習慣がないですから・・・。」
「郷に入っては郷に従えなのだけれど、お風呂は入ろうよって、私は思うのよ。」
「あー、でしたら敦成殿に頼んでおきます。」
「それより、姫さま体調悪いですか?」
「それ、朱桜にも蒼月にも言われたわ。熱出すかもしれないって。そんなにおかしい??」
「おかしいというより、少し浮かれているような、酔っていらっしゃるような感じですね。」
雪華の事場に首を傾げながら、確かに昨日から少しふわふわした感覚なのは、何となくわかるけど、そんなに違和感あるかな?
と再度首を傾げた。




