第49話 休息、そして
あの後、ジーナスチームに負けたものの2位の座を得た俺たちは、ジーナスと同じ……ホテルの最上階の部屋をゲットすることができた。
アリシアたちには、今日は解散して各自しっかり休むように伝え、割り当てられた個室へと辿り着き――
「ふぅ……」
倒れ込むようにベッドにダイブする。
俺の自重を包み込むように……それでいてしっかりと支えるような寝心地に、思わずため息が出る。
「はぁ……なんだか、ドッと疲れたな」
思えば、転生してからバタバタとしすぎているような気がする。
森で転生してからすぐにアリシアと出会い、特訓が始まったかと思えば、フィルゼが魔人化……そして今回の合宿。
休日が無かったわけではないが、存外、疲れは溜まっていたのかもしれないな。
「……これも、転生の弊害か」
『弊害……ですか?』
俺の後に続いてベッドに乗り込み、足元で丸くなっていたリルが尋ねる。
ちなみに、リルは俺の使い魔扱いなので……いや、そもそも俺と離れたがらないので、相部屋となったのだ。
「ああ、まあ気づいてはいたんだがな……」
転生をしたとはいえ、この肉体は記憶が戻らない間は『ルーネス・キャネット』として生きていた。
魔法を得意とせず、特別に鍛えてはいない肉体。
その肉体で、前世の俺と同じように動こうとすると、どうしても『ガタ』がきてしまう。
今の俺が、無理にあの頃の動きを完全に再現しようとすると――考えるのも恐ろしいな。
少しずつ『慣らし』てはいるものの……まだまだ全盛期とは程遠いのが現状だ。
『なるほど……たしかに、ワタクシから申すのもなんですが、あの頃の主の全能感から遠いように感じますね』
「リルなら、今の俺になら勝てると思うぞ? 寝首でもかいてみるか?」
『ご冗談を。ワタクシが主に牙を剥くなど、あり得ません』
真っ直ぐにこちらを見つめ答えるリル。
まあ、俺も分かっていて言っている。リルとは付き合いが長い、そんなこと微塵も思っていないのは、よく知っている。
「フフ、冗談だ」
『またご戯れを……』
だが、実際考えてみると面白いものだ。
全盛期から程遠い今の俺相手であれば、この平和な現代を生きている者たちでも倒せる可能性もゼロではない。
フィルゼやジャック、アイツらは魔人化していたから判断しづらいが……うちに秘める信念は、歪んではいるが、熱いものはあった。
トリングス先輩のあの洗練された肉体と魔法の融合は、先の時代から見てもなかなかのモノだった……肉体強化魔法に絞れば、存外悪くないかもしれない。
レオナ先輩は……ほとんどミケが戦っているから、本人の力量は未知数だな……。
けれど、動きや魔力を見ると中々の強者であることは間違い無いだろう。
イリーナは、今はまだまだではあるが、死霊使いとしての潜在能力を解放していけば、あるいは……。
アリシアは――アリシアか……。
(目が覚めたあとはいつも通りのように振る舞ってはいたが……どこか考え事をしている素振りが多かった)
やはり、初日の暴走を気にしているんだろうな。
突発的な攻撃性、慢性的な好戦性。
今、間違いなくアリシアは擬似的な『狂戦士化』状態に陥っている。
通常の、自分の命が尽きるまで周りのものを破壊し尽くそうとする狂戦士化状態と違い、常時その状態では無い。
だが、擬似狂戦士化は、狂戦士化と違い、魔法による解除が難しい。
突発的な症状ゆえ、認知が遅れることも多いが……今回は早めに発見できただけ良かったともいえる。
「……リル。この千年で、擬似狂戦士化についての対処法は生まれたか?」
「いえ、そのような話は――ああ、あの生意気女ですか」
「気付いていたか」
「人間の機微を察するのは得意ではありませんが……最近、あの女が生意気だったり大人しかったりと、調子が狂わされることがありましたからね」
珍しくそっぽを向きながら話すリルだが……、こいつなりに心配はしているんだろう。
よく歪みあっている、喧嘩友達みたいなものだったからな。
「やはり、多少無茶をする必要があるか……」
好戦的になってフラストレーションが溜まってしまっている相手の対処法なんて、一つだ。
「一度、お灸をすえてやるか」




