第40話 抜き打ちテスト
その日の夜。
アーバロルの生徒たちは守りの中でバーベキューをしていた。
あのクラーケンの亡骸も、せっかくなのでバーベキューの食材の中に混ぜてもらった。
「クラーケンを食べるなんて……一応、上位獣なのよ?」
「なーに、千年前は子供のおやつにもなっていたぞ」
「どんな時代なのよ……」
ずっと戦争ばっかりしていたからな、食べれるものはなんでも食べる時代だった。
……にしても、やっぱり感覚が狂うな。
先日のゴブリンキングダムといい、クラーケンも大戦時代では、今の等級に習って言うなら零級……その辺にいくらでもいる雑魚モンスターだったんだかな。
あの頃の強敵たちはどうなっているんだろうな。
「師匠〜このクラーケンさん、美味しいでふよ〜」
「貴重な筋肉のもとを分けてもらって、園芸部一同感謝するぞっ!」
「押忍っ!! あざっす!!」
タンパク質に引きつられてか、いつの間にか園芸部の方々が集まってきていた。
「まあ気にするな。トリングス先輩も一緒に戦ってくれたしな」
「いいや、結局、トドメはブラザーが刺したんだ。俺はただ、力任せに振り回していただけさっ!」
「いや、本来力任せに振り回せるような相手じゃなかったんだけどな……」
俺たちが談笑をしていると、周りのガヤガヤが収まり始めた。
なんだ? と思って振り返ると、急速で作った台の上にマグナ教諭が立っていた。
手に持ってるのは……見たところ、声を拡大して伝える魔道具か。懐かしいな。
『えー、テステス。あー、みなさんお食事中申し訳ないね』
拡大された声は奥の方にいた俺たちの方までしっかり響いている。
まだ気づいてなかった者たちも、その声でマグナ教諭の方を見る。
『学生諸君! 夏合宿初日……楽しんでいるかね!』
「うぉぉぉぉ!!」
「クラーケンは出たけど、海は最高だぜぇぇ!!」
マグナ教諭の呼びかけに、学生たちはテンション高く応える。
よかった、クラーケンの件で意気消沈してる者もいるかと思ったが、そんなことはなかったらしい。
『さて、合宿初日! どんな場所に泊まるのか、気になっている者も多いんじゃないかな!』
「おぉぉぉ!!」
「どんな豪華なホテルなんだー!」
たしかに、それは俺も気になっていた。
ビーチにも、このバーベキュー会場にもそれらしき建物も無いように見えるが……ん?
(なんか、マグナ教諭がオフモードの時のイヤらしい笑い方になっているような……)
『君たちが泊まる場所……それは、ここだっ!!』
マグナ教諭が大きく手を振りかぶり指を指す。
差した方向に期待を向けて目をやると――何も無い。
正確に言うと、森しかない。
「……?」
「なんか、見えるか?」
「いや、なんも無いよな?」
「この森を抜けた先とかか……?」
周りの生徒たちも、違和感を感じてザワザワと騒がしくなり始める。
それを見て、おかしそうにニヤッと口角を上げるマグナ教諭。
……イヤな予感がする。
『何人かは気づき始めたようだが……君たちの宿泊する施設はこの森を抜けた先にある!』
「なんだよ、また移動か〜」
『移動ではあるが、ただの移動と思っていると――死ぬよ?』
マグナ教諭の目が鋭いモノとなる。
『この森は学院が用意したモンスターを大量に放っている』
「えぇぇぇ!!?」
「な、なんでそんな事を……!?」
『簡単な事だ……君たちには、強くなって貰わないと困る――まあ、抜き打ちの試験だと思えばいい』
強く……か。
『先日の集団幻覚騒ぎなど、今後『何が起こるかわからない』からね』
たしかに、あの事件には謎が多く残っている。
フィルゼに悪魔の力を渡したもの……悪魔本人なのか、また別の魔人なのかは分からないが、『魔人化』の技術を持っている犯人がまだ見つかっていない。
フィルゼのような被害者がまた出る可能性はある。
『そこで、学院として『合宿』を行うことになった、というわけだよ』
なるほど、最初から、ただの『旅行』ではなかったわけか。
『ま、それだけじゃツマラないだろうから……』
そう言い、パチンッと指を鳴らすマグナ教諭。
すると、生徒たちの体から何本かの半透明な糸が出始める、糸はドンドンと伸び、他の糸と結合し始める。
俺の体からも糸が伸び……アリシア、イリーナ――そして、生物部部長のレオナ先輩と結ばれた。
『それぞれ、何人かと結ばれたと思うが……それは、この試験に挑むための『チーム』だ』
チームか……ウィガール大森林での試験の時を思い出すな。
『学年やクラス、ブラックやレッド、ホワイトのような色も関係ない、ランダムなチームだ』
なるほど、それで学年が違うレオナ先輩もチームに組み込まれたわけか。
『ついでいうと、ホテルに辿りついた順番に応じて『ご褒美』もあるから、そこは楽しみにしておくといい』
ご褒美……ねえ。
まあ、何にしてもこんな試験なんて、さっさと終わらせるに限る。
まずはチームのメンバーと作戦を――
『あ、そうだ言い忘れてたけど、あと10秒でこの会場に張った魔除けの結界が解除されるから。モンスターが流れ込んでくるよ――それじゃ、私は先にゴールで待ってるよ』
そう言い、マグナ教諭は拡声魔道具を捨て、どこかへと走り去っていく。
よく見ると、いつの間にか他の教師陣も居ない……なるほど、事前に避難しているわけか。
クソ教師どもめ。




