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父のこと。⑧

 通夜式。

 ここでようやく、今回の弔事の参加者が一堂に会します。



 まず、母。

 父と同程度の認知症(直近のことが覚えられない)、去年転んで大腿骨を折ってしまったので、移動は車椅子という状態です。

 そんな訳もあり、この日まで彼女はこの弔事に関わることなく過ごしていました。

 通夜式で初めて彼女は葬儀社へ来て、父の遺体と対面することになります。


 ケアマネさんを含め多くの施設の職員さんが、車椅子の母の送迎を兼ねて急遽、通夜式に参加して下さることになりました。

 父の死の翌日、弟から母へ、父が亡くなったということを告げています。

 が、哀しいかな『直近のことが覚えられない』というこの手の病の特性上、記憶がすぐに曖昧になるらしく、あれから二~三日も経ってしまうとよくわからない状態になっている模様。

 父の不在は理解しているものの、今まで、たとえば白内障の手術で施設を離れて入院していたこともありますから、どうやら彼女は、連れ合いはそんな状況だとぼんやり解釈していたようです。

 そのよくわからない状態のまま、ケアマネさんや職員の人たちと一緒に式場へ訪れ……、そこで彼女は(主観的には初めて)自分の連れ合いの死を知ります。

 棺の中を覗き込み、


「そうか、じいさんアカンかったんか。そうか……」


 と言って涙ぐんでいました。

 そこまでのいきさつはわからないまま唐突に、棺の中で瞑目している連れ合いの顔を見て、彼女が何を感じたのか思ったのか、私にはわかりません。

 ただ、どうしようもないということはわかっているのか、涙ぐみつつも彼女は、静かにその場にいました。



 ウチの息子はもう高校生ですが、弟の息子(私の甥)はまだ小学校低学年です。

 身近な人の死に初めて接することになった彼は、かなり動揺しているようでした。

 お互いに住む場所(大阪と奈良でしたので)が、遠いとまでは言えないもののそう頻繁に行き来できる距離でもなかったので、接する機会自体は多くなかったかもしれませんが。

 甥は、じいちゃんが好きだったのだそうです。


 昔から、子供の面倒を嫌がらずにみるのが父ですから。

 『ガミガミ言い』が封印されていれば、彼は、親しみやすい、小さい子でも懐くいいお祖父ちゃんだったと思います。

(ウチの息子に対してもですが、孫には甘いじいさんでしたしね)

 そういえばウチの息子も小さい頃、実家へ遊びに行くと近所の公園へ連れて行ってもらい、遊びに付き合ってもらっていました。

 高校生のウチの息子は、年齢的なこともあるのかクールに振る舞って悲しみを表に出しませんが、甥は、素直に動揺や悲しみを出していました。

 泣いて、義妹や弟に抱っこされていることも多かったです。

 ショックを受けている幼い甥が、私は少し心配でした。


 しかし通夜式後、しばらくすると。

 いつもの彼らしいヤンチャな面が顔を出してきたので、そこでようやく私(伯母ちゃん)はホッとしました。



 さて。

 通夜式のある日は、打ち合わせや湯灌の儀もあったので、私と夫は午前中から葬儀社の方へ来ていましたが、息子は通夜式(夕刻)からの参加になります。

 路線や時刻表を確認して乗り継ぎ、スマホでマップを検索して葬儀社までの道を確認し、息子はひとりでしれッと、時間までにやって来ました。


 まあ、ヤツは『乗り鉄』の気があるしマップでの道の検索も得意なので、私はさほど心配していませんでしたが。

 夫は少々、気にしていたようです。

 複数の路線を使っての電車での移動、(割と近距離とはいえ)駅から葬儀社への道で迷わないか、口に出さないながらも心配だったようです。


 いや、アイツもう高校生だよ?

 そりゃ土地勘のない所へ、ほぼ初めてひとりで来るんだから全く心配ないとまでは言いませんが。

 そのくらい、出来るってば。


「アイツ、意外としっかりしてるんやな」


 などと後でこっそり、夫は私へ言いました。

(いや他のことはまだしも、この辺のことならアイツ、楽勝で出来るってば。心配性だねえ、おとーさんは)



 夫と父、さほど似ているとは思っていませんでしたが。

 こういう、我が子へのやや過剰な心配、ちょっと似てるなアと、私は思いました(笑)。

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― 新着の感想 ―
お父さんは心配症( ˘ω˘ )
おおう、息子さん、もう高校生! 時が経つのは早いものですね……
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