表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

父のこと。⑦

 葬儀前日。

 この日は、葬儀に向けての最終の打ち合わせ・湯灌の儀・通夜式が行われます。

 最終の打ち合わせや通夜式はともかく、『湯灌の儀』については私は今回、初めて立ち会いました。


 そもそも『湯灌の儀』とは何ぞや?

 故人の遺体を湯で洗い、綺麗にしてから死に装束に着替えさせ(簡単なヘアメイク・顔の髭剃り・保湿やファンデーションで顔色を整える……なども含む)、棺へ遺体を納める、一連の作業と儀式のことのようです。

 この仕事に携わる人を『納棺師』と呼ぶのだと、初めてきちんと認識もしました。


 『湯灌の儀』は基本の葬儀費用とは別料金のオプションでしたが、結果としてやって良かったと思いますね。

 病中ろくにお風呂に入れなかった故人を、せめてお湯でさっぱりしてもらってから見送りたいという、まあぶっちゃけ見送る側の気休めとか自己満足でしょうが、そんな気分を満たしてくれる儀式でした。


 今回お世話になった納棺師は、三十手前の女性と二十代前半らしい男性の二人。

 女性納棺師が先輩で、男性はその助手という風に見えました。

 トーンの低い穏やかな声で挨拶をし、しめやかに湯灌の儀は始まりました。


 関係ないですが。

 こういう、葬儀関係の仕事についている人は仕事柄、低くて穏やかなトーンの声で話すのがデフォルトですよね。

 追悼の場に甲高いキンキン声や元気いっぱいの声は場違いですから、それが当然です、が。

 滅茶苦茶ストレスたまりそうだなァ、と、丁寧に、手際よく?洗われてゆく父を見ながら私は思いました。


 毎日毎日『この度は……』と死者と遺族を悼み、黙々と仕事をする……それはそれなりに、いい意味で(も悪い意味でも)慣れてゆくでしょうけど。

 仕事が終わって家へ帰ると、お酒片手にバラエティ番組でも見ながら『ガッハッハ!』と(無理矢理でも)馬鹿笑いしなきゃ、やってらんないんじゃないかなあ?と思ったのです。

 でないと仕事に引っ張られ、自分も鬱っぽくなりそうだなと。


 この辺は、実際にその仕事についている方の話を聞いた訳ではないのでわかりませんが、『死』というのっぴきならない現場に常にいて、実際にご遺体に触れる仕事って、医療や介護の現場とはまた違う、すごく気を遣う、そして心身ともにぐったりするほどエネルギーを使う、そんな仕事だよなァ、と。

 お疲れさまです、と、目の前の納棺師の方を通じ、全国の納棺師の方へ頭を下げる気分でした。



 父の『湯灌の儀』に参加したのは、喪主の弟に私、夫の三人。

 死に装束に着替えた父を棺に納める時、弟と夫が、納棺師の方と一緒に父の遺体を運びました。


「湯灌、って、初めて立ち()うたけど、なかなかエエもんやな」


 『湯灌の儀』の後、夫は私へ言いました。


「そうやね。綺麗にして送ってあげられるし」


「じいさんが思ったより軽くて、びっくりした。でも遺体が軽い時は変な念が残ってない証拠やって話は聞いたことあるで。ウチのオトンは最初かついだ時、ぎょっとするほど重たかったんや」


 夫の父親(私の義父)は、元々心臓に病を抱えていましたが、発作が来て亡くなるまで、あっという間だったのです。


「急に発作きてあっという間に死んだから。本人も混乱して死に切れんかったんやないかと俺は思ったんや。まあ、四十九日過ぎたら諦めたっぽいけど」


 多少シックスセンスのあるっぽい夫は、義父が亡くなってしばらく、職場や自宅で、たまに義父らしい気配を感じたのだそう。


 ここまでは割とシリアスに話していたのですが、


「俺も死んだら『湯灌の儀』、やってもらおかな」


 と言い出してから、ちょっと風向きが変わってきます。


「別にエエんとちゃう? 遺言に残す?」


 冗談半分本気半分で私が言うと、夫はスケベっぽくニヤ、としつつ


「そうやな。納棺師は、若くてキレーなねーちゃん二人がエエな。男の納棺師やったら化けて出るデ」


 などと言い出し、呆れました(笑)。



 もちろん冗談ですし、そもそも本人は死んでるんだから何も感じないし出来ない(笑)し、ねーちゃんに洗ってもらおうがにーちゃんに洗ってもらおうが、関係ない話ですが。

 この辺、男性の感覚なのかなァと思いました。

 私は、たとえ死んでいても若いイケメン納棺師に身体を洗われるのって、『恥ずかしいから嫌!』(でも死んでるから諦めざるを得ない)って感覚です。

 どちらかといえば、同性の納棺師のお世話になりたいです。

 でも男性(というかウチの夫だけ?)は、『どーせならキレーなねーちゃんに洗ってほしい。デュフフ❤』という感覚なのでしょうか?

 たとえ死んでいても『オトコに身体、触ってほしくない!』みたいな。


 冗談だと言っても、まったく思っていないことは発想に出てこないでしょうから。

 本音がちらっと覗いたのだろうと、私は思いました。


 納棺師が男女のバディだったのは、たまたまだったのかもしれませんが。

 故人が男性でも女性でも、問題?が出にくい、取り合わせ……なのかもしれませんね(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
納棺師さんは、男性は力仕事で、女性がお化粧や清拭をしてあげることが多い、とマンガで読んだことがあります。たしかそのマンガでは、男性に触られることを拒否される場合は女性が遺体を運ぶんだとか…… 会社にも…
映画の『おくりびと』ですね( ˘ω˘ )
うふふ。 旦那様、楽しそう(笑 友人は「本人(父親)はきっと嫌がる」と言ってやらなかったそうですよ(^▽^) 故人を思っての事であれば、どちらでも喜ばれると思います。 余談ですが。 事故などで怪…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ