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父のこと。⑤

 父の鼓動と呼吸が止まったという連絡を弟から受けた時、そこへ至る簡単な経緯も聞きました。



 その日の夕刻以降に弟が病院に着くと、医師から


『これ以上、延命措置をしないのならば、痛みや苦しみを緩和する方向の医療へ切り替えた方がご本人も楽だろう』


 ただし、


『そうすると、お別れが早くなる』


 と、伝えられたのだそう。

 弟としては苦渋の決断だったでしょうが、


『緩和する方向へ』


 と、医師に伝えたのだそうです。


 必死に息をしている父の姿に、『正視に堪えない』思いをしたのは弟も同じだったと思います。

 難しい決断を下さざるを得なかった彼へ、私は、電話口でぼそぼそとねぎらいの言葉をかけました。

 私が彼であったとしても、同じ決断を下しただろうと思うとも伝えました。

 


 元から(まだしっかりしていた頃、本人も時々口にしていましたし)『延命の為の無理な医療処置はしない』という方針でしたから、咽喉を切開して栄養や酸素を送る……というような処置は、しない方向でお医者にお願いしていました。

 私が最後に面会した時には、父にとってもはや現状は、ただただ苦しいだけに見えました。

 口には出しませんでしたが、いっそ死んだ方が楽なんじゃないかと、心の隅で思いながら帰宅したものです。


 私はその場に居合わせませんでしたが、鼻から酸素を送られているのにもかかわらず必死で口呼吸してもなお息苦しそうにしていた父が、徐々に苦しみが和らぎ、静かに最期の時を迎えられたのならば。

 身内として、彼の娘として、少し安堵します。

 苦しいままで最期の時まで戦い続けていたとしたら、あまりにも父が気の毒だったろうと私は思うのです。

 ……正解はわかりません、が。

 永遠にわからないままでしょうから、これが正解だったと信じます。



 翌日。

 葬儀に関する打ち合わせを葬儀社でするというので、私たち一家は弟と一緒に葬儀社へ向かいました。

 香のにおいがする(線香や焼香のにおいが染みついているのでしょう、葬儀社の建物内部はどこも皆、香のにおいがしました)葬儀社の一室で、喪主である弟中心に打ち合わせが行われます。


 両親とも昔から『派手な葬式は必要ない』と言っていましたので、葬儀は家族葬でという方針は決まっていました。

 ただ、ひとくちに『家族葬』といっても、会場の規模(その葬儀社には3段階ほどありました。家族葬と言っても参列者の数は、故人の家族ごとに色々でしょうから)から始まって棺の種類・祭壇の種類・遺影について・宗派の確認(仏式の葬儀)やお坊さんの手配はどうする、あるいは、会場を飾る花や樒はどうするか……などなど、細かいことを決めなくてはなりません。

 十一時半から打ち合わせを始め、終わったのは十四時近くになっていましたね。

 みっちり二時間はかかった記憶があります。


 『こじんまりした家族葬』であっても、葬儀というものは色々と打ち合わせることが多いのだと改めて思いました。

 ただそばで話を聞き、時々弟の話の補完(弟は宗派を勘違いしていて、『浄土真宗』とあちらへ伝えていましたが、実は『浄土宗』だとか。遺影のバックに使う色――最近は白黒の遺影ではなく、『故人らしい』いい写真を遺影に使い、バックにも明るい色を使うことが多いそう――は、故人の好きな色を使うことが多いが何色がお好きかと問われ、詰まった時に『最近は知らないが比較的若い頃、父は鶯色が好きで、衣類に鶯色をよく使っていた、と言ったり)をしていただけで、結構疲れましたし、お腹もすきました。


 悲しくてもやるせなくても、腹は減るものです(笑)。

 特に、一緒に来たもののほとんど発言する機会も必要もない息子は、打ち合わせの席であくびをかみ殺しては身動ぎし、行儀の悪いことでした。

 ヤツが退屈し、空腹なのだろうことは見て取れます。

 注意する機会を逸してしまいましたが、叱ればよかったと今、思いますね。

 なんだか、そうする気力も摩耗していたようです。

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― 新着の感想 ―
お医者さんが 「自分が死ぬときは延命措置はしたくない」 とおっしゃってるのをたまに目にします。やはり 苦しいものなのでしょう。うちの母も延命措置はしませんでしたが、それで良かったのだと私も思ってます。
お疲れ様でございます。
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