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番外編・笑ってはいけない『湯灌の儀』

 これは私というより、弟が『りょうたまご(仮名)。Out~』宣告されそうだったエピソードになります。



 『湯灌の儀』が開始するという時刻に、私たち(喪主の弟・私と夫)は指定された部屋へ向かいます。

 霊安室から運ばれたであろう父の遺体が、ごく浅い浴槽を思わせる洗い場?に、すでに寝かされていました。

 首から上と足先だけは出ていましたが、遺体の大半は、厚みのある、黒地に桃色の蓮の花が大きく描かれたナイロンというかビニールというか、撥水性の高そうな布状のものでしっかり覆われています。

 遺体そのものがダイレクトに見えるのは、遺族にとってショックが強い場合を考慮してるんだろうなと察しましたが。

 (下品ではないものの)意外と派手なもので遺体を包むんだな、という印象を私は持ちました。

 きっと、黒一色では寂しくなりすぎるのかもしれませんね。


 納棺師の方々が、極力こちらからは遺体が見えないように気遣いながら、丁寧に父の身体を洗い、大判のバスタオル等で水気を拭き取ってくれているのを見ながら、ぽつぽつと父の思い出話をする我々。

 思い出話には、時に軽い笑いが含まれる、父の為人を懐かしさと共に振り返るエピソードが主になります。

 父は、前述のとおりガミガミ言いのマイルドジャイアンくんでありましたが、腹に余計なものは何もないという意味で、気持ちのいい男ではありました。

 なんだかんだ言っても彼は、どこか愛嬌のある、憎めない人でもあったのです。


 そんな話を、納棺師の方が手際よく、洗い、拭き取り、顔や手足に保湿剤を摺りこみ、お髭を剃ってファンデーションで顔色を整え……という作業を進めているのを眺めながら、我々はしていました。

 遺体を覆う黒いビニール?を完全に取ることなく(少なくとも、我々から遺体の様子がダイレクトに見えることなく)その作業を行う納棺師さん。

 さすがプロだな、と私は思っていました、が。

 弟は、別の見方をしていたようです。



「いや、不謹慎やとは思うんやけど……」


 『湯灌の儀』が終わって、しばらく経ったある時。

 弟は言いました。


「『湯灌の儀』の間、父の身体にずっと黒いモン(例の撥水性の高い、ビニール様のもののこと)、かかってたやろ?」


「そうやね。直接遺体が見えんようにって配慮やろうな」


 私が言うと、うんそれはわかってる、と弟は呟き、半笑いでこう言いました。


「ナンか……手品でも始まるような気がしてなァ」



 どうやら弟の耳には、『オリーブの首飾り』の『チャラララララ~ン』というメロディと共に


「さあ、これからお父様はピッカピカになりますよ! スリー・ツー・ワン……はい、この通り!」


「ピッカピカのお父様、一瞬にして死に装束を纏います! スリー・ツー・ワン……はい!」


 とでもいうような口上が、聞こえていたようです……。


 う、う~ん。

 言われてみればマジックショーっぽい、雰囲気だったかもしれません。

 中央にいる人物(父の遺体)には黒くて絶対透けない感じの布?が掛けられていましたし、納棺師の方の衣装(じゃなくて、この葬儀社のユニフォームですが)も、白いシャツに黒のベストとパンツ、という感じでしたし。

 胴体の切り分けとか、人間消失マジックの舞台装置を連想するかもしれません(笑)。


「さあ、これからが今世紀最大級のマジック! 『黄泉がえり』を行います! お父様が生き返れるよう、皆様、祈ってください!」


  ダララララララ……(ドラムロール)……ジャン!!


「大・成・功!」


 なーんてことを連想した私の方が、不謹慎かもしれませんね。

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