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父のこと。①

 2025年・如月。

 ほぼ月末と呼べる頃に、父が永眠しました。

 満年齢で86歳。

 俗に『歳に不足はない』と呼ばれるであろう、高齢者です。


 ここ一、二年、私としても、父からゆるゆると生気のようなものが失せ始めているのは感じていました。

 桜の老木の幹に苔が広がり、花をつける枝が目に見えて減り、全体に勢いのようなものがなくなってきたのを、花盛りの桜並木の中で見つけたような。

 父のたたずまいにそんな雰囲気は感じていましたが。

 それでもそんな老木も、少ないながら花をつけるように、父ももう少し、元気……とまではいかないまでも、穏かに過ごしてくれるのだろうと、漠然と思っていました。



 最初の知らせは、お世話になっている施設のケアマネさんから


『お父さんが発熱しました』


 という連絡です。

 施設に常備している解熱剤を飲ませ、安静にしてもらっている、と。


 父に微熱が出たり、あるいは『症状らしい症状はないですけど、コロナの陽性反応が出ましたので、安静にしてもらってます』という連絡は、頻繁ではないものの、たまにはありましたから、心配は心配ながらも『まあ、(いつもみたいに)そのうち治るでしょう』的な、油断しているというか軽く考えていたというか、そういう気分でした。


 しかし翌日になっても、熱がおさまらない、という連絡が。

 そういう状態は、施設でお世話になって初めてのこと。

 ただ、その日はちょうど金曜日。

 かかり付けの病院の先生が、両親の健康状態をチェックする必要(と、母の骨粗鬆症の治療の必要)から、週に一度、往診をしてくれる日です。

 お医者が来て、診察してくれれば適切な処置や薬が出て、父も良くなってゆくだろうと私は思っていました。


 診察され、コロナでもインフルエンザでもないということもはっきりわかり、抗生剤や解熱剤が出ました。

 しかしどうも、改善する様子がありません。

 むしろ悪化の傾向があるようです。

 熱も39℃を超え始めました。


 心配したケアマネさんが病院へ電話をして問い合わせ、場合によっては入院させてほしいと頼みますが、病院sideは『抗生剤を適切に患者へ飲ませ、効果が出てくるのをとにかく待て(効果が出てくるのに一日くらいかかる)』の一点張り。

 埒が明かないとケアマネさんが、『私たちよりも家族の方から強く言った方が、病院も話をきいてくれるかもしれません』と、私へ連絡がありました。


 正直に言って、ケアマネさんが真剣に訴えても木で鼻をくくったような返事しかしない(※あくまで個人の感想)病院sideが、家族とはいえ素人の言葉にほだされるとは思えませんでしたが。

 父の症状が、毎日そばで見ている人の目からも異常だという事実に、私は焦りを覚えました。

 私はすぐ病院へ電話し、ケアマネさんから聞いた話から考え、通常ではなく切羽詰まった症状のようだと訴えますが、応対に出た看護師さんは『これだから素人は…』というため息をかみ殺すように、『抗生剤を適切に患者へ飲ませ、効果が出てくるのを待て』という医師の方針を伝えてくる、のみ。

 こちらとしては引き下がるしかありませんでした。


 幸い、翌土曜日の朝には37℃台にまで熱が下がりました。

 抗生剤や解熱剤が効いてきたのでしょう。

 いったんホッとしましたが、薬の効果が切れてくるとすぐにまた熱が上がる状態のようなので、予断を許しません。

 水分は何とか摂取出来ているようですが、食欲はないとも聞き、心配になってきます。


 かかり付けの病院へ問い合わせても『引き続き様子を見てくれ』のみ。

 ついに半分キレたケアマネさんから『何といわれようとも救急車を呼んで、大きい病院へ連れて行く』(入院させるならまずはウチへ来てくれと、病院から言われていたようです。施設としても、近所にある比較的設備の整ったこの病院との関係が悪くなっては、という慮りもあったのではないかと、私としては思っています)と言われ、しぶしぶ(※あくまで個人の感想)病院は、父の入院を受け入れてくれました。



 この辺りのやり取り、どうしても感情的になるので、書くのにしばらく時間を取りました。

 病院側の対応をつい悪く書いてしまいますが、高齢の病人を何十人(ひょっとすると何百人?)と診てきている病院sideとしても、言いたいことはあるだろうと頭では理解しています。

 父の場合は対応が後手後手に回っている印象ですが、細菌性の風邪らしい高齢の患者の対処として『抗生剤を適切に患者へ飲ませ、効果が出てくるのを待て』が教科書通りの処置でしょうし、効果が現れ難いのも高齢者あるあるなんだから周りのシロ―トは黙ってろ、という気分だったのではないかとも思います。

 10のうち8までがそうだったのなら、お医者を責められないのも頭ではわかります。

 でも、そのレアケースの身内としては、仕方がないと思いつつもやっぱりモヤモヤが残ります。

 もっと出来ることがあったのかもしれないのに放っておかれた、という感じの軽い恨みは否めません。


 実は、土曜日に入院した後、週明け(天皇誕生日の振り替え休日がある週でした)まで、病院側は抗生剤・解熱剤・点滴くらいの対処療法で様子を見ていた模様。

(その時の父の病名は肺炎だとされていました)

 しかし、病状は一向に改善しないばかりか、むしろ悪化傾向。

 さすがに病院は手詰まりを感じたのか、大阪でも最新の設備が整った大阪警察病院へ、サッサと(※個人の感想)父を転院させました。


 どうせ転院させるのならば、もっと早く判断してほしかったものです。

 何故わざわざ、週明けまで待ったのでしょうか?


 もちろん受け入れ先の事情もあるでしょう。

 蚊帳の外の素人にはわからない、病院同士のややこしい事情もきっとあるのでしょう。

 でも、やはり思ってしまいますね。

 何故わざわざ、週明けまで待ったのでしょうか?

 少なくとも月曜日、可能なら日曜日に、もっと設備の整った病院へ父を転院させていれば。

 もう少し、何とかなったのではないのかと。


 父は高齢ですし、おそらくは肺炎球菌感染症の肺炎だったでしょうから、結果は変わらなかったかもしれません。

 それでもこの辺は、モヤモヤが残ります。

 

 言っても詮無い話ですが。

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― 新着の感想 ―
初めまして。 他のところでお名前を見かけて読みにきました。 私が求めている答えがあるかもしれない。 しっかり読ませていただきますね。
母の時に、父は病院がきちんとどう看病するべきか説明してくれなかったと恨みの手紙を書いていました。どれだけ手を尽くしても、尽くせなくても、モヤモヤはついて回りますね。辛いことです。 今度はその父89歳が…
やるせないですね……。
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