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第9話 取り調べ(エドガーの苦悩)

 「いい加減にしてくださいよ!」シモンズ子爵が応接間から退出した後、エドガーが私に言ってきた。

 「これは遊びじゃ無いんですよ。そりゃ、あなたは子どもだからで許されるかもしれない。だけど我々は一兵卒だ。何かあったら首が飛ぶかもしれない。だから色々と気を遣ってるのに・・・」

 「良いじゃん!私のおかげで子爵の本音も聞けたんだし。もう少し話を聴きたい」

 「いや、本音を引き出したのはモースだし。おい、モースお前からもなんとか言ってくれ」エドガーはどうしても私をここから追い出したいらしい。

 モースは苦笑しながら「まあ、上手いこと話の流れを持って行けたのは事実だけどな。お嬢ちゃん、だけどそろそろ見学は終わりで良いんじゃ無いかな?」ってモース、アンタまで!

 「嫌だ、もう少し居たい!」

 「そりゃ、お嬢ちゃんさえ良ければ良いんだが・・・」モースが言いよどむ。

 「何?」

 「次に話を聴くのはあのガストンだぜ?」

 次の瞬間、扉が開いて入ってきたのはあの黒いローブを身にまとった大男だった。

 「おお、麗しき乙女よ!またお目にかかれて恐悦至極!」

 ギャー!

 「サヨナラ! サヨナラ! サヨナラ!」私は大慌てで応接間を出た。


 くっそー、ムカつくなあいつら。この私をあんな手で部屋から追い出すなんて!

 しかし、もう少し話は聞きたい。ゾフィの無実もかかっている。どこかから話を聞けない物か、私は館の外に出て応接間近くまで行ってみた。しかし、部屋の外から話は全く聞こえない。どうした物か悩んでいるとすぐ側の茂みでガサガサ音がする。そちらを見ると、茂みの隙間にいる人物と眼が合った。DQNマシューだ。

 「アンタこんな所で何を・・・」DQNは人差し指を口の前で立てて静かにする様に合図すると、私を手招きする。何だ?と思って茂みの中に入っていくとDQNは部屋の床下に開けられた給気口らしき穴を指で示す。

 すると給気口から「ガストン様。貴重なお話をありがとうございました」と声が漏れ聞こえた。

 マジか! ここに居れば話が丸聞こえじゃない! 

 DQNマシューは私に静かにする様目配せする。私は頷いて給気口から漏れ聞こえてくる声に集中した。


 「お疲れの所申し訳ありません。私、王都守備隊南分隊の隊長エドガー・ウェンストン・・・」

 「そういうの良いから早くしてくれ。どうせ覚えられないから」横柄な態度の声が聞こえてきた。

 「失礼しました。えー、カール・シュターケン侯爵様ですね?」

 「そうだよ、だからそういうの良いから。要件だけ言ってくれ」隣に居るヤツと別の意味でムカつくヤツだな。

 「大変失礼しました。それでは、今日一日どの様にお過ごしだったか皆様に聞いておりまして、よろしければお聞かせ願えないでしょうか」エドガーが段々気の毒に思えてきた。

 「どの様にって、九時半頃ここに着いて、午前中は会議して昼食を摂った後は酒を飲みながら会議の内容を纏めていた。それだけだ」シモンズ子爵の言っていた事と内容は一緒だ。

 「一応お聞きしますが、会議の内容というのは・・・」

 「国家機密だ。言えるわけ無いだろう」

 「た、大変失礼しました・・・」もうエドガーは限界だよ。

 「失礼、その会議内容を纏めるのはシモンズ子爵と一緒でしたか?」ここでモースが聞いた。

 シュターケン侯爵はハァと溜め息をつき「そうだよ、それが何か重要か?」と聞いた。

 モースは「いえ、先に聞いたシモンズ子爵のお話とあってるかどうか確認したかったので。それと分かる範囲で良いので他の方はどの様にお過ごしだったかお聞きしたいのですが」と聞いた。

 するとシュターケン侯爵は「まるで今日居る客の中に怪しいヤツがいるとでも言いたげだな。言っておくが今日の会合で集まった客は、みんな国家の大事を話し合うために集まったんだ。それなりの身分に皆が居ると言う事を忘れているわけでは無いだろうな」

 「それはもちろん。しかし、こちらの館で人が二人も死んでいるんです。それなりの身分の方なら、その意味もお分かりでしょう? 案外その国家機密が絡んでいる事だったりする可能性も・・・」と付け加える。

 「――まさか! いや、そんなまさか!」するとかなり焦った様な声が給気口から聞こえてきた。

 「何かお心当たりでも?」モースが更に聞く。

 「い、いや。何でも無い。」シュターケン侯爵が答えるのが聞こえた。そこから少しの沈黙の後、シュターケン侯爵が「なぁ」と口を開く。

 「何か?」とモースが聞く。

 「怪しいヤツはいなかったかと言う事だよな」シュターケン侯爵が聞く。

 モースは「まあ、平たく言えばそういう事になりますね」と返した。

 すると、シュターケン侯爵の口から思わぬ人物の名前が出てきた。

 「クルス男爵なんだが、アイツ客の我々を置いて昼食後三十分程姿を消していた。どこに行っていたのか、ここの使用人も知らなかった」


 「大丈夫か?」モースがエドガーを気遣う声が、給気口から漏れ聞こえてきた。

 「何とかな・・・」消耗した感じの声がする。エドガーは相当参っている様子だった。

 「本来なら貴族がらみの事件は近衛騎士団が担当するのが筋なんだが、間の悪い事に近衛騎士団は国教の定めた休息日で働かないからな」モースが言う。

 「仕方ないさ。現地に最初に着いたのも我々だし、騎士団に引き継げるまでは我々でやらないと・・・」エドガーは気を取り直して言った。

 「そうだな。さて今の侯爵様の話を聞いてどう思った?」モースがエドガーに聞く。

 「国家機密っていうのが今回の事件に関係してると思うか?」エドガーはモースに尋ねる。

 「それについては、まだ何とも言えんな。ただ、侯爵があれだけ焦っていたって事は、機密情報が漏れていた事による焦りかもしくは犯人に心当たりがあるって事かあるいはその両方か」モースはそう答えた。

 「この件、俺たちの手に余るんじゃ無いか?」エドガーが弱音を吐く。

 「だとしても、やれるところまでやろうや。次はここの館の主に話を聞こうか。空白の三十分の事も気になるからな」モースは言った。


 「お疲れ様です。色々と大変では?」クルス男爵はエドガーの事を気遣って言った。

 「いや、大丈夫です。ありがとうございます・・・」尋問相手に気遣われるとは思わなかったのだろう、エドガーが若干戸惑った様子で答えるのが聞こえた。

 「皆さん、我々貴族の相手を直接する事は無いでしょうから、気を遣って大変でしょう。何かできる事があれば仰ってください」妹さんが死んでるというのにクルス男爵、人ができていすぎる。

 するとモースが「お構いなく、我々も仕事ですので。早速ですが、今日一日のあなたの動きをお聞きしたいのですが」

 「今日一日、というのはどこから・・・」

 「そうですね、できれば朝から」モースが今までの人達とは違う時間から聞いてきた。

 「朝からですか? そうですね朝食を食べた後、庭師親子が来たので庭の剪定をお願いし、メアリーと一緒に今日の会議の準備を始めました。十時からの予定だったので、大体九時過ぎには始めた感じです。広間の準備をしているとエレーナが来ました。ゾフィの面倒を見て貰う約束をしていたので最初にきました。そこでゾフィの世話を彼女に頼んで引き続き準備をしていると、今度はレギウス公爵が来られました。まだ広間の準備が整っていなかったので、応接間にお通しして待っていただいている間に広間の準備が整ったので広間に移っていただきました。それと前後する様にシュターケン公爵とシモンズ子爵、最後にレッドフォード様が来られました。しばらく広間で歓談した後で二階の書斎に場所を移して会議を始めました。」

 「シモンズ子爵はワトソン子爵夫人と会わなかった?」エドガーが尋ねる。

 「ええ、二人が顔を合わせたのは会議の後の昼食時です。二人ともお互いが来ている事を知らずに驚いていましたよ。昼食後、私は書斎を片付けるため、しばらく皆から離れました。十分程ではなかったかと思います。その後、広間に行こうとしたところでフォーサイス伯爵のご息女が来られたと庭師から伝えられたので応対に出たのです」

 「十分?」エドガーが重ねて聞いた。

 「いや、もう少し長かったかな? 二十分いや、三十分だったか・・・」クルス男爵が言いよどむ。

 「書斎の片付けにそんなに時間がかかるものですか?」エドガーが突っ込む。

 「――申し訳ない。この事については答えられない」クルス男爵は困った様子で言った。

 「国家機密ですか?」とモースが尋ねる。

 「それに絡む事なので・・・」と申し訳なさそうにクルス男爵が言った。

 ウーンとエドガーのうなる声が聞こえた。

 「分かりました。で、その後は・・・」モースが促す。

 「フォーサイス伯爵令嬢様がゾフィに会いたいというのでメアリーに呼んでくる様言ったところ、エレーナとゾフィの姿が見えないという事に気がついて屋敷中探しました。そして、地下室に閉じ込められていたゾフィとその横で死んでいるエレーナを発見した次第です」クルス男爵は少し声を震わせながら言った。

 「ウェンストン隊長。エレーナをあのような目に遭わせた人物を私は許せない。もちろんメアリーについても。もう誰が彼女らを殺したのか目星は付いたのですか?」

 「申し訳ありません。目下調査中としか今は答えられません」エドガーが困惑した声で答える。

 「外から賊が入った可能性は?」クルス男爵が重ねて聞いた。

 「その可能性も捨てきれませんが、最初に発見されたヒルズ子爵夫人の遺体が外からしか開かない部屋で発見されたと言う事がこの事件を困難な物にしています。失礼ですが、鍵の複製はありませんか?」モースが尋ねた。

 「いや、あの部屋の鍵は代々男爵家の主が持つ物で一本しかない。しかも、主が変わる際にその主の声にしか反応しない様に施術される。あの部屋の鍵を開ける事ができるのは私だけなのです」

 ウーンと今度はモースがうなる声が聞こえた。

 「分かりました。ありがとうございます。また後でお話を聞く事になるかと思いますので・・・」

 「分かりました。私にできる事ならいくらでも・・・」とクルス男爵は答えた。

 男爵がガチャと扉を開けて出ようとした瞬間、エドガーが「失礼、本日の会合までシモンズ子爵はヒルズ子爵夫人と会う事を本当に知らなかったんですね」と聞いた。  

 クルス男爵は「少なくとも私の目にはそう見えました」そう言って扉を閉めた。


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