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第7話 メアリーの死

 「メアリー、いるかい」モースが部屋の扉をノックして聞く。

 メアリーの部屋は二階の端、丁度リビングの真上にあった。中から弱々しい足音がした後、部屋の鍵が開いた。

 「どうぞ」そう言って、メアリーは私とモースを部屋の中に招き入れる。

 「大丈夫か」モースが尋ねると「申し訳ありません。先程から気分がどんどん悪くなって・・・」そう言うと部屋の隅に置かれたベッドに座り、ベッド脇の台の上に置かれた金属製の水差しからコップに水を入れて一口飲んだ。少し噎せた後「何でしょう?」とメアリーは聞いた。

 「いや、気分が悪いならまた出直してくるが、ってオイ!?」モースがメアリーに駆け寄る。メアリーが突然、体を痙攣させ胸を押さえて苦しみだしたのだ。

 「お嬢ちゃん! 悪いが急いで人を連れてきてくれ!」

 私は外に出ると「誰か来て! メアリーが大変なの!」と階下に向かって叫んだ。

 何事だ! という声と共に複数の足音が階段を駆け上がってくる。

 「ダメだ、死んでる」モースの力ない声が背後で聞こえた。


 「それで、何でお嬢様がここに?」エドガーが少し怒り気味な様子でモースに尋ねてくる。

 「いやあ、それが仕事を見たいって言うから断り切れなくってなあ」

 「そこは、断れよ。子どもがうろちょろして良い状況じゃないだろ」

 そう言うエドガーに「わがまま言ったのは私なのよ、許してやってよ。それより、二人も死んだのよ。どう見るの?」

 「いや、どうと言われましても・・・」と、エドガーは頼りない事を言う。コイツ大丈夫か?

 メアリーの部屋には、エドガー他数名の兵士とクルス男爵が入ってきていた。

 「メアリー・・・」男爵が憔悴した様子で呟く。

 「男爵、メアリーは持病か何か持っていましたか?」エドガーが男爵に尋ねた。

 「いや、彼女にそういった持病は無かったはず・・・」男爵が答えると、エドガーは首を捻る。

 「以前から何か兆候は?」

 「ねえ、これって毒殺じゃない?」私は思わず口にした。

 「・・・毒殺ねえ」エドガーは難しそうな顔をする。いや、そんな難しいことか?

 「だってエレーナ様も地下室で刺されて、その上メアリーも死んだって事は、どう考えても無関係って事はないでしょう。メアリーの死に方だって、毒で苦しんでいるみたいだったし・・・」

 「お嬢ちゃん、毒で死んだか判断するのは難しいんだよ」モースが私の言葉を遮った。

 「何で? 毒に反応して金属って色が変わるんでしょう? コップや水差しを調べれば・・・」

 「ヒ素の事ですね。確かに銀に反応して色が変わる。銀食器をメアリーが使っていたら分かるでしょうが」エドガーはメアリーのコップを手に取って眺める。

 「これは銀じゃないです、鉄ですね。変色もしていない。ついでに言うと、もしも毒殺だったとしてもヒ素が使われたとは限らない。その場合は銀食器であったとしても変色しない」え、そうなんだ。知らなかった。

 「それに仮に毒で死んだとしても、それを何時飲まされたか・・・」エドガーが続ける。

 「水差しの中に入れたんじゃ・・・」

 「毒っていうのはすぐに効くもんじゃないし、この水差しの水はほとんど減ってない様子です。水差しの中には、恐らく毒は入っていないでしょう」エドガーは険しい顔をする。

 「何にしても死因を特定するのは難しいですね」

 「お困りの様ですな」そこに、突然野太い声が部屋の入り口から響いた。その場にいた全員の顔が部屋の入り口の方を向く。そこには黒いローブを着た背の高い男がいた。

 「お初にお目にかかります、麗しき乙女よ。我が名はガストン・レッドフォード。ここアストレリア王国一の偉大なる宮廷魔道士です!」そう言って私の手を素早く取ってきた。私は思わず後退る。

 「ど、どうも、レッドフォード様。それで今日はどういった・・・」

 「ガストンとお呼びください、麗しき乙女よ。いや、本日男爵の会合に呼ばれてきたところ人が死んだというので、足止めを食らってましてな。そうしたら、もう一人死人が出たというので見に来たところ死因が分からないと皆様がお困りの様だったので、この私ガストン・レッドフォードがお力になれればとここに参上したわけです!」

 「いや、宮廷魔道士様でもさすがに死因を特定するのは・・・」モースがそう言いながら、ガストンと私の間に入ってガストンから私を引き離してくれた。

 ありがとうモース! この人なんか怖い!

 「それができるのです。私には神から与えられた特殊な能力があるのです。それは『鑑定スキル』! この世のありとあらゆる不可視の事象を可視化できるという、素晴らしい能力です。私はこの力で、今まで様々な魔道具を発掘して参りました。エメラール城地下倉庫から『5大元素の杖』を発見したときなどは、それはもう・・・」

 「それって毒で死んだかも見分けられるってこと?」

 ガストンはニヤリと笑って「もちろんできますとも、麗しき乙女よ。人に対する毒素を見分ける事など、『鑑定スキル』をもってすれば造作もないこと」

 「じゃあ、すぐやって!」私はモースの後ろに隠れながら言った。正直コイツにはあまり関わりたくない。本能がそう囁いている。

 「良いでしょう、では・・・」ガストンはベッド上のメアリーの遺体に近づくと両手を広げ「この世のあらゆる不可視の事象よ。我の前に真の姿を示したまえ!」と大袈裟に叫ぶ。すると、メアリーの身体が青白く光り始め、その身体中に紫色の筋が浮かび上がる。

 「死者の身体は生気を帯びていません。その為、この様に青白く光ります。更にこの紫色の筋・・・」ガストンがよく分からない説明をしてくる。

 「人体に害をなす毒素がこの様に現れるのです。このメアリーという方の身体に入った毒素を示します」

 「それって、メアリーが毒で死んだって事?」

 「そうなりますな」とガストンは答えた。

 するとモースが「申し訳ない。こっちの水差しとコップについても見てくれませんか?」

 「お安い御用です。この世の不可視の事象よ! 我の前に真の姿を現せ!」なんか少し呪文が違うな・・・。

 すると、今度はコップの方に紫の色が微かに現れた。水差しの方は何も反応しない。

 「毒は水差しの方に入っていないって事か。メアリーが何か悩んでいる様子は?」モースは男爵に聞いた。

 「イヤ、特に悩んでいる様子は・・・。自殺だというのですか? あり得ませんよ。昼食後に今日の会合が何時終わるか聞いてきたくらいです。後片付けの事など考えている様でしたし」

 「なんてこった・・・」ガストンの隣でエドガーが頭を抱えている。

 「死人が二人も出て、それが両方殺人だと? どうすりゃ良いんだ」

 続いてモースが男爵に「メアリーは今日、食事を何時摂ったんです?」と聞いた。

 「食事ですか? 確か昼は私達とは別に、エレーナとゾフィと一緒に摂ったはずです。」

 「その前は?」

 「朝は私とゾフィと一緒に」

 するとエドガーが「その際、お嬢様に不審な様子は?」と聞いた。

 「いや特に・・・。君はゾフィがメアリーの食事に毒を入れたと言うのか!」さすがの男爵も、エドガーに対してキレた。

 「申し訳ありません。これは、あくまでも可能性の話でして・・・」とエドガーは言い繕うが「いい加減にしろ! あの娘がメアリーにそんなことをする訳がないだろう! 私はこれ以上何もしゃべらんぞ!」と男爵は聞く耳を持たない。

 「失礼しました、男爵。お許しを。ただこれは捜査上どうしても必要な事でして」モースは謝罪すると「お嬢様のことでなく、メアリーのことでもう一つ。メアリーに身寄りは?」

 「城下町に母親と弟が居たはずです」

 「分かりました。そちらには、こちらで知らせます。ガストン様もありがとうございました」モースはガストンに礼を言う。

 「いやなに、お安い御用ですよ。それでは麗しき乙女よ、またの機会に・・・」いや、または無い。これっきりにして欲しい!

 「オイ」とモースが兵士の一人に声をかける。

 「悪いが遺体を詰め所に運んでくれ。それと、メアリーの家族に連絡を・・・」そしてエドガーに目配せして「で、良いか」と聞く。

 エドガーは「ああ。それで良い」そう言って「さて、どうした物か・・・」と悩み出した。

 「とりあえず今日この屋敷にいた全員に話を聞こう。話はそれからだ」

 「そうだな・・・」エドガーは暗い顔をして答えた。


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