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第5話 容疑者ゾフィ

 「それで、この遺体はエレーナ・ヒルズ子爵夫人で間違いないですね?」無慈悲で事務的な言葉が、守備隊の兵士から発せられる。

 「はい、私の妹エレーナで間違いありません」憔悴しきった表情でクルス男爵は答える。

 「わかりました。おい、死体を詰め所まで運べ。それと、ヒルズ子爵の家にも使いをやって遺体の確認をして貰うように連絡を。おい、モース兵長!」周りの数人の兵士にテキパキと指示を飛ばすと、その兵士は一人の兵士を呼んだ。名前を呼ばれた兵士が近づいてくる。

 「何です? エドガー隊長」口髭を蓄え、自分を呼んだエドガー隊長より一回り背の高い、茶髪のモース兵長がそう言いながらエドガーの側に近寄ってくる。

 「モース兵長、俺の事をファーストネームで言うのはそろそろやめてくれ。周りの者に示しがつかん」エドガー隊長と呼ばれた二十代前半位の金髪の短く刈り込んだ隊長は、自分より年上なのだろうモース兵長をたしなめる。

 「いや悪い、昔の癖でつい」

 「それで、何かわかったか?」エドガーがモースに聞く。

 「地下室で遺体を発見したのが、そこにいるお嬢さん達と男爵で、遺体があったのが鍵のかかった部屋の中。そして、その部屋に遺体と一緒にここのお嬢さんが閉じ込められていたって事ぐらいしかわかっていない」とモースは答えた。側で見ていると、エドガーはしきりに首をひねっている。

 「そのお嬢さんの身体に血はついていなかったのか?」エドガー隊長はモースに聞く。

 「刺し傷を見たらわかるだろう。ナイフで栓がされていてほとんど血が出ていない」モースはそう言って「ナイフを抜いたら噴水のように血が吹き出るぜ」と付け加えた。うわぁ、想像したくない。

 ソレスタは馬車を走らせて王城近くの守備隊の詰め所に連絡してくれた。その後十分程で一つの馬車に十数名程の兵士を満載にして、守備隊の兵士達が来た。その中で一番偉いのが、この若いエドガーらしい。現場の地下室を男爵の魔法の鍵で開けて男爵と一緒に入り、遺体だけを運び出してきた。現場検証とかしないんだ。

 「それで遺体に刺さっていたナイフは、どこにあった物なんだ?」エドガーがモースに聞くと横からクルス男爵が、「私の部屋にあった物です。先祖伝来の物で、大事に保管してあったのですが」と答えた。

 「鍵でもかけて保管してあったんですか?」

 「いや、壁に掛けてあったので持ち出そうとすれば誰でも持ち出せます」クルス男爵は申し訳なさそうに答えた。「実際、先程部屋を確認にいったところそのナイフが無かった」そして「こんな事になるなら、あなたの言うように鍵でもかけて保管しておけば良かった」と悔しそうに言った。

 「子どもでも持ち出せると?」エドガーは更に聞く。

 「おいちょっと待て」側で聞いていた私は、思わず声に出す。

 「何それ、まるでゾフィを疑っているみたいじゃない!」

 エドガーは、私の声を無視してクルス男爵に「どうなんです?」と聞く。

 「無視するんじゃないわよ! ゾフィにそんな事できるわけないじゃない!」私は声を荒らげて抗議する。

 するとエドガーはこちらを向いて「おい仕事の邪魔をするな。臭い飯を食いたいのか?」と言ってきた。

 「上等じゃない! やってみなさいよ! この私マーガレット・ブライアント・フォーサイスはそんな脅しに屈しないわよ!」あんまりやりたくないけど、ここでは身分マウントを使わせて貰う!

 「マーガレット・ブライアント・フォーサイス?」側で事の顛末を眺めていたモースが私の名前に思い当たったのか「おいエドガー、ブライアント・フォーサイスって言ったら確か伯爵家の・・・」

 「王都守備隊大隊大将、ルーカス・ブライアント・フォーサイス伯爵様のご息女、マーガレット・ブライアント・フォーサイス伯爵令嬢です」ロジーが付け加える。ロジー、ナイスアシスト!

 そうだよ! お前ら二人の上司の娘だよ!

 すると二人は『ゲェ!!』と驚いて言い、その場から少し離離れた。その後小声で少し相談すると、年長のモースが戻ってきて「マーガレットお嬢様でしたか。大変失礼しました。今日はどういった御用でこちらに?」と聞いてきた。

 「お友達のゾフィに会いに来たのよ。そしたらゾフィが見当たらないからって、探していたらこんな事に・・・」

 「いやぁそうでしたか、それは災難でしたねえ。でもご心配なく、お友達の事を疑っているわけではないんですよ。あくまで、可能性の一つって事でお話を聞くだけなんです。ひどい事はいたしません。お約束します」

 すると今度は若い方のエドガーが「フォーサイス伯爵令嬢でもここ王都で人が一人、しかも貴族のご婦人が亡くなっているんです。重要性はお分かりでしょう。たとえあなたのお友達であっても、ご協力をお願いします」とさっきとは態度をガラッと変えてきた。宮仕えってつらいわねー。

 「わかりました。ただしゾフィに話を聞くときは、あくまで父親であるクルス男爵と一緒に。それも男爵の許可が無い時には、話は聞かない。この条件なら許します。もしこれを破った場合には、父に報告します」そして、エドガーの顔に顔を近づけて小声で「ある事無い事付け加えてね」と言ってやった。

 エドガーは、顔をひきつらせながら「わ、わかりました」と言った。よし勝った。 

 「マーガレット様」ここで、今まで黙っていたゾフィが口を開いた。「かばってくださってありがとうございます」そしてエドガーに「エドガー様。私、エレーナ叔母様を殺してなんかいません。叔母様とお勉強をしていたら急に眠くなって、気付いたらあそこに居たんです」と言った。

 「エドガー・ウェンストンです、ゾフィ様」ファーストネームでゾフィに呼ばれたのが気に食わなかったのか、エドガーはモースを少し睨みながら自分の名前を付け加えた。

 「わかりました。ですが、もう少し詳しくお話をお聞きしなければならないので、お屋敷で少し待っていて頂けますか。それとクルス男爵」エドガーは、男爵の方に向き直り「今日、こちらに出入りした全ての人間に話を聞かなければいけません。お手数ですが、お屋敷に誰が来たかを教えてください」

 「今、館にいる人で全員です」クルス男爵は言った。

 「それは都合が良い。皆さんに屋敷から出ないように話してください。出入り口には兵士を配置しますが。よろしいですね」

 「わかりました」クルス男爵は答えた。

 「ねえエドガー隊長?」私はエドガーに声をかけた。

 「何でしょうかマーガレット様?」エドガーがすごい目付きで睨んでくる。良いのか? そんな態度をとって。

 「私たち、少しお腹が空きましたの。それとゾフィの服が埃まみれだから、お風呂に入れて服を着替えさせたいの」

 エドガーは「お屋敷から出なければご自由にお過ごしくださって構いませんよ。お風呂も使って頂いて良いですよ」と言った。目付きはともかく話がわかるようになったようだ。

 「じゃあメアリー、ゾフィをお風呂に・・・」

 「申し訳ありません。私、少し気分が悪くて。旦那様・・・」メアリーは目で男爵に訴える。

 「わかったよ、メアリー。少し部屋で休みなさい」

 弱ったな。ゾフィは埃まみれで悲惨な状態だ。誰かゾフィの世話をと思っていたらロジーと目が合った。

 「ロジー、お願いできる?」私がロジーに聞くと「お任せ下さい、お嬢様。クルス様、お風呂を使わせて頂いてもよろしいですか?」と嬉しそうに言う。

 「もちろん。こちらからもお願いします」

 ロジー、何で嬉しそうなの? あなた、私付きのメイドだよね、と心の中で思いつつも私はみんなと一緒に館の中に入った。次の事件が館で待ち受けているとは微塵も思わずに。


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